勝手に連動企画?(その2)

セミナー2日目。
本日も充実の一日。

柔軟な権利制限規定

このテーマに関しては、自分も本当に並々ならぬ思い入れがあって、それゆえに過去のエントリーもまぁまぁ過激である。

出発点はこのあたり*1

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平成21年改正前夜は、

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な感じで、その後、ちょっと離れている間に、

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といった流れが出てきて、平成24年改正に期待したものの、現実は、ため息混じり・・・。

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(どちらかと言えば次のお話に関連するが)平行してこんな話もあった。

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そこから先は、ずっと追いかけられ続けてやってきたような気がするし、立場的に、盛り上がっている最中には、「間接話法」で当たり障りのないエントリーしか乗せられなかったもどかしさはあったのだけど、いろんな人たちの思いが結実した平成30年改正は、どこからどうみても「偉業」だと、もと部分的な当事者としては思っている。

かすかに伝えたかったメッセージが残っていたのはこの辺のエントリーだろうか。

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あと「単純なフェアユース」には、結構前から懐疑的だったんだな自分、ということに気づいたエントリーがこちら。

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零細利用等、寛容的利用のあらゆる場面をカバーするにはまだ足りない、というご指摘も当然理解できるところで、今もなお複雑な条文構造も含めて「更なるリフォームを!」という声が出てくるのは決して不思議なことではないのだけれど、それをフォローできるだけの気力・体力を取り戻すのはそんなに容易なことではないな、と昔を思い出しながら思った次第。

海賊版対策の功罪

こちらは、どちらかと言えば離れたところから眺めていた話なので、過去のエントリー、といってもそれほどの熱量ではない。

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もっとも、「幻の間接侵害規定導入案」時代にバタバタしていた身としては、議論が成熟した「リーチサイト」と、それ以外、という区別の有り様は十分すぎるほど腑に落ちた、ということだけは、一応書き残しておくことにしたい。

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*1:タイトルの過激さは若気の至り、ということで何卒ご容赦を・・・

勝手に連動企画?(その1)

諸般の事情で出先でPCが使えない、という事態に陥ってしまったこともあり、昨晩からあまり長い文章が打てなくなっているのだが、これを奇貨として、といって良いのかどうか、今夏のセミナーで講義していただいているテーマに関して、自分今まで何を書いてたっけ?ということを振り返る機会に充てることにしたい。

著作権の保護範囲

いわゆる著作権の類否(類似性)判断の話で、江差追分最高裁判決の読み方から、その後の理論構成や判断手法の変遷まで非常に奥の深い分野なのだけど、振り返ると、このブログではほとんどこのテーマを正面から取り上げたことがなかった・・・。

(学者の先生も含めて)みんなこぞって取り上げるからそこで張り合っても仕方ない(?)と思っていたからなのか、いずれ社外某団体で取り上げる判例のコメントを先に残すことに気が引けたのか、あるいは感覚的な類否の印象を言語化するのに手を焼いたからか、そもそも純粋に分析する時間がなかっただけなのか、今となっては記憶も定かではないのだが、「釣りゲーム」事件ですら、第一審、控訴審ともさらっとしか振れていなかったことには反省しかない。

一応、当時の実務者としての素朴な感想を記したエントリーがあったので、それだけはリンクしておく。

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なお以下補足的に。

講義で取り上げられた横浜地裁平成23年6月1日判決は裁判所のHPにもアップされておらず、辛うじてTKCのデータベースに入っている程度(WestLawには入ってない)の事件なのだが、平成24年改正前夜に、いわゆる「写り込み」(というか「写し込み」)のケースでユーザーが勝った、という点では確かに価値ある事件ではある*1

「写真著作物を機械的に複写する増製行為は,通常,写真著作物の複製権を侵害する行為であると解されるところ,本件縮小写真のパンフレットへの掲載は,増製の一形態であるから,原告が有する本件各写真部分の著作権(複製権)を侵害すると考えられなくもない。しかしながら,写真に法的保護の対象となるべき著作物性が備わるのは,被写体の構図,光のとらえ方,陰影の作り方,シャッター速度,露出,レンズ選択,被写体の一瞬の表情の相違,現像手法等の工夫により凝らされる撮影者の思想及び感情の創作的表現が当該写真から感得されるからであり,後行写真等著作物から,先行写真著作物の保護対象である上記表現内容を感得することができず,これを利用しているとはいえない場合には,形式的には,写真著作物の増製に該当するとしても,実質的には,著作権者が有する複製権の侵害があるとはいえないと考えられる。ところで,本件縮小写真が極めて小さく,殊に,そのうち2枚についてはその一部が他の写真部分に隠れていることは前記第2の2(2)のとおりであって,本件縮小写真自体からは,被写体の属性や構図の一部を除けば,原告が工夫を凝らした思想及び感情の創作的表現を感得することは著しく困難といわざるを得ず,むしろ,本件パンフレットを手にする者に,その創作的表現内容ではなく,村上市の自然や風物が被写体である写真絵はがきが「おもてなしプレゼント」の1つであることを認識させるにとどまるということができる。そうすると,本件縮小写真の掲載された本件パンフレットの頒布は,形式的には増製に該当するとしても,実質的には原告の本件各写真部分における上記創作的表現を利用するものではないというべきであって,その複製権を侵害する行為とは到底いうことができない。

あと、このテーマに関しては、ちょっと前に旬だった「金魚電話ボックス」をどう整理すべきか、という点がやはり気になるところ・・・

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実用品デザインの保護 & 応用美術の保護の可能性

一方、こちらのテーマに関しては、昔からかなり追いかけていた。

実用品デザインに関してはこちら。

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応用美術に関してはこちら。

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正直、昔のエントリーは筆が滑りすぎてて「若気の至りでした、申し訳ございません・・・」というお詫びしか出てこないのだが、時間が経って、「あの頃」のお話を聞けるのは本当に幸せなことだなぁ、とつくづく思う。

なお、「棲み分け」の話に関しては、「応用美術だって著作権で保護されるんだから意匠法の保護範囲広げる必要なんてないだろう!」という筋でやってきたのだが、某庁にはあまり聞く耳はもってもらえなかった、ということは一応書き残しておく・・・。

(翌日のエントリーに続く)

*1:原告側に代理人がいなかった、という事情はあるが。なお、世の中的には被告名もオープンになっていない事件だが、事案の概要から推して知るべし。

歴史は繰り返す。

今年2度目の米国発逆イールドの報道。
しかも、今回は投機筋のレベルを超えて、よりファンダメンタルなところで起きている話なので、いよいよ”再来”かな、という雰囲気になっている。

これまで自分は本当に運が良くて、会社組織の中で仕事をしている時は、一度も「減収」とか「減益」ってやつを経験したことがなかった

もちろんその間、会社として凹んだ時期はあって、ITバブルがはじけた後の不景気とか、リーマンショックとかによる業績悪化の時は、当然ダメージは受けていたのだけれど、それは、たまたま自分が会社を離れている時に、外の人間として「高見の見物」で眺めていた話*1

だからまぁ、今の状況も、高飛車に言うと、「また繰り返している歴史の一コマ」ということになるし、自分が凱旋復帰するまでは、「新規事業が止まって仕事なくなるし、ボーナスも減って何一ついいことないけど、まぁ頑張ってね」ということになるのかもしれないけど、自分とて、後ろ向きな世の訪れを期待しているわけでは決してないので、巫女として天に召されない程度に(笑)、ひそかに祈りをささげようかと思っている。

そして、嵐が過ぎるまでは、北の地で酩酊しながら”アンチパテント!”*2と唱え続けるのも悪くないかな、と。

www.jizakenomarushin.com

いつもの遠征の常で「美味い物漬け&お酒漬け」の状態になっていることは全く否定できないのだけれど、まずは、明日、朝、無事に起きて学び舎に足を運べることを願うのみである。

*1:その意味で、自分は一種の”座敷童”みたいなものだったのかもしれない(笑)。

*2:というか、特許に限らず知財の「権利強化」の方向に対しては、この20年近く一貫してネガティブなスタンス。

香港の「自由」を守るために必要なもの。

以前、このブログでも取り上げた香港の抗議活動。
継続的な活動の結果、発端となった「逃亡犯条例改正案」の審査が「無期限延期」となり、これでヤマを越えたかと思いきや、翌日に「200万人集会」。

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そして、さらに2か月近く経っても収束の気配は見えず、当初は香港島の一部だけに限定されていた活動エリアも香港全域に広がり、ついには世界随一の香港国際空港が事実上マヒ状態に陥る事態にまで至っている。

「香港の航空当局は13日夕、香港国際空港のすべての搭乗手続きを停止したと発表した。「逃亡犯条例」改正案をきっかけとする抗議活動で数千人の若者らが出発ロビーに座り込み、13日の欠航は400便以上に達した。航空当局は12日夕以降の全便を欠航にし、13日朝に業務を再開したばかりだった。抗議活動が空港機能に深刻な影響を与えている。」(日本経済新聞2019年8月13日19時56分配信)

日本のメディアは、全般的に「デモのせいで空港機能(ちょっと前までは中心部の交通機関)が混乱して大変だ」的なトーンでこのニュースを報じることが多いし、日経紙などは「観光客の入り込みが減って経済的なダメージが云々」という話にすぐ持っていってしまうのだが、2か月前のエントリーにも書いたとおり、自分は中国「大陸」とは全く異なる「自由解放区・香港」をこよなく愛する人間。

川一つ隔てただけで(最近では西九龍駅の高鐵の改札をくぐっただけで)信じられないくらい”空気”が違う、という感覚も嫌というほど味わっただけに、「その『自由』が侵されるかもしれない」という恐怖感を抱いた人々がそのエネルギーを集団行動に向けたくなる、という気持ちも非常によく分かる*1

だから、自分たちのコミュニティを守るために体を張って頑張っている現地の人々に対して、「飛行機を止められて迷惑」とか、そんなことを言うつもりは毛頭ない。

ただ、遠く離れたところで一連の報道を見ているうちに分からなくなってきたのは、だんだんとエスカレートしていく抗議活動の中で、参加している彼/彼女たちが、今本当に求めているのは何なのか?ということだ。

6月に盛り上がっていた時は「条例改正案の完全撤回」や「逮捕者の釈放」といったところが争点で、行政府側のメンツもあるとはいえ、まだ香港の枠の中で解決しようと思えばできるレベルの話だったはずだが、それがだんだんとこれまで同様の包括的な「民主化」の話となり、今ではこれまで以上に強烈な、「反大陸政府」のうねりへと向かっているようにも見えてしまう。

そうなると、いくら抗議活動をして香港行政府に訴えたところでどうしても限界はあるだろう、参加者全員が「血を流してでも『独立』まで戦い抜こう」という気概を持っているのであればともかく(そこまで行けば名実ともに「革命」になる)、そこまで組織化されているわけではなく、全ての参加者が同じ方向を向いているわけでもないように思われる今の状況では、どこかで”政治的妥協”をしなければ物事を前に進めることはできないだろう、というのが、客観的に見た時の冷静な分析になってくる。

それにもかかわらず、主張も手段も先鋭化する一方で、誰が、どのレベルでこの活動を終結させようとしているのかすら分からなくなってきている、というのが今の状況ではないだろうか。

だとすると、今の状況は決して理想的なものとはいえない。

日本のSNS界隈だと、元々「中共」嫌いな人はたくさんいるし、それに加えて今回は「民主化闘争」や「香港市民の人権擁護」という側面もあるから、いつもなら罵り合うことも稀ではない”両翼”の意見も珍しく一致して、「香港加油!」一色になっている雰囲気すら感じられる。そして、現地から発信されるツイート(中には警察の”蛮行”を伝えるようなものも含まれている)がそんな風潮をさらに加速させているように思われる。

だが、こういう”異常事態発生時”において、SNSで流れてくる情報のどこまでが真実を示していて、どこからが曲解/誇張されたものか、ということを見分けるのは、物事が起きているエリアの中にいる者ですら(まさにその場にいた人を除けば)非常に難しい。ましてや「遠く」の他国にいるものであればなおさらだ。

だからこそ、今様々なルートで日本に入ってきている情報だけで、軽々に今起きていることへの賛否を表明するのは難しいな、と自分は思っているところ。

そして、これまでもたびたび修羅場をくぐってきたCarrie Lam行政長官が述べた以下のフレーズにこそ、(大陸政府の意を汲んでなされた可能性のあるコメントだ、ということは差し引いても)これからの香港の生きる道を考えていく上で欠かせない要素が含まれているような気もしている。

"Violence, no matter if it's using violence or condoning violence, will push Hong Kong down a path of no return, will plunge Hong Kong society into a very worrying and dangerous situation,"

※以下サイトのテキスト及び動画から引用。
www.channelnewsasia.com


繰り返しになるが、どんな時代、どんな場所でも、自ら体を張って大事なものを守ろうとする行動は非常に尊く、一定の支持と支援を集めて然るべき、というのが自分の考えであることに変わりはない。。

ただ同時に、これから先、未来ある人々が余計な血を流し、一種の”殉教者”まで作ってしまうのは決して誰もが望むことではないはずだから、対立が先鋭化している時こそ客観的、、かつ冷静に誰かが落としどころを探っていかないといけない

そして、本当に「民主的な社会」の実現を目指すのであれば、最後だけでも「集団的行動」ではなく賢明な「政治の力」で決着を付けるのがやはり筋だよね、と思うだけに、今抗議活動を行っている人々も、どこかのタイミングで路線を切り替えて問題解決に向かってくれればそれがベストだと自分は信じている。

ずっと今の「自由な空気のままの香港」であってほしいから。

*1:もちろん、中国大陸の人たちの中にもこれまで自分が親しくしてきた方は大勢いらっしゃるし、気質的には香港人よりも大陸の人たちの方が親しみやすいところがあるくらいなのだが、「人」と「社会の体制」が全く別物、ということは残念ながら多くの国で(そして中国自身の歴史の中でも)証明されてしまっている。

「不調和な結末」から考えさせられた「大事なものの順番」。

先月19日に公開され、封切り3週にして興行収入が60億円に迫る勢いとなっている新海誠監督の最新作、「天気の子」。
封切後の口コミとリピーター続出で250億円まで到達した「君の名は。」と比べるのはちょっと気の毒だが、この3連休の間も大規模シネコンで2スクリーン以上押さえて、各回満席、という状況だから、歴代ベスト10に入ってくるくらいのところまでは伸びてくるのだろう。

この映画に関しては、既に様々な角度からの論評が世に出されていて、純粋にエンタメとして楽しんだ、というものや、登場人物の心情に深く思いを馳せて共感を寄せる感想は今回も多く出ている一方で、結末のあまりの予定不調和ゆえに、その「逆」の感想や戸惑いの声が上がっているのも本作の特徴といえるだろうか*1

自分も、場面場面では爽快感を抱きつつも、見終わった後のモヤモヤ感をどうしても拭いきれないところがあったし、それ以上に「大ヒット後の新作」という猛烈なプレッシャーの下で作品を送り出さないといけなかった「作り手側の”迷い”も、どことなく伝わってくるような作品ではあったので、以下、これだけのスケールの大きな作品を封切りまで持ってきた新海誠監督の功績に敬意を表しつつ、思ったところを書き残しておくことにしたい。

※以下、ネタバレあり。

*1:このほか、前作同様、他の著名アニメーション映画等との比較の見地からの厳しい論評も見かけるのだが、それって「ボリウッドミュージカルにクラシックバレエの要素がない!」と怒るのに近いところがあって、そもそも勝負している土俵が違うでしょ、と思うところもあるので、識者の意見は尊重しつつ、あまり踏み込まずに済ませることにしたい。

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「馬好き」は法務を救う?~『広告法律相談125問』より

連休だからと言って、連日競馬ネタは勘弁してくれ・・・という読者の方もいらっしゃるかもしれないが、今日は真面目な法律書の話。

プライバシー/名誉棄損/個人情報管理、といった分野で既に多くの著作を世に出されている、桃尾・松尾・難波法律事務所の松尾剛行弁護士が、最近また新しい書籍を公刊された。

題して「広告法律相談125問」。

広告法律相談 125 問

広告法律相談 125 問

一見すると、一般的なQ&A形式の解説本のようにも思えるこの本。
だが、「はしがき」から読み始めると、本書が実に興味深いコンセプトの下で執筆されたものであることが分かる。

「そもそもこの本は、『馬好き法務部員の一日』としてコラムを書いて下さっている、広島の広告会社の法務を担当されているAさん*1と、同じ馬好きの編集者であるBさん*2のご縁で出版に至ったものである。」
「私が留学から帰ってきた頃、Aさんは広告会社の一人法務部員になられ、私に、著作物の類似性や景品規制などありとあらゆる質問をしてくれるようになった。私も『教え子』*3が立派な法務部員になったということで、喜んで質問に答えていた。」
「このようなご縁に恵まれ、『広告という非常に幅の広い分野では、考慮すべき事項が多岐にわたるため、ルーキーからベテランに至るまで、それぞれ悩みが多い。だから、実務的な要素が多数ちりばめられていて、初心者でも分かりやすく読める広告法務の本はニーズが必ずあるはず!』というAさんとBさんの熱意によって、本書は誕生した。」(強調筆者、以下同じ。)

ここで注目すべきは「馬好き」というキーワード・・・ではない

名実ともに、会社の中で広告絡みの相談に「一人で」対応している担当者自身が書籍の執筆に関与され、「コラム」等を通じてその視点を至るところにちりばめた、という点に本書の大きな意義がある。

例えば最初に出てくるコラムの見出しは「1『大丈夫ですよね?』の怖さ」(11頁)。
経験者であれば、この見出しに接しただけで、様々な思い出が喚起されるだろう。

また、「9 嫌われない法務になるために」(173頁)に書かれていることは、「一人」の場面に限らず法務部門の担当者が心がけるべきエッセンスが、シンプルだが見事に凝縮されていて、個人的には実に心に染みる。

そして、本書の良いところは、コラムだけではなく、松尾弁護士が書かれたQ&A自体も、決して熟練していない担当者が藁にも頼る思いで頼ってくる場面を想定して、極めてシンプルに記されている、という点だろう。

例えば、「第4話 商標法」の章に出てくるQ25「新商品発売時にどのような対応をすべきですか?」という問いに対する回答は、

A 「商標調査をすべきです。」(62頁)

の一言(もちろん、その後にコンパクトな解説は付されている)。

一方、「第3話 著作権法」の章に出てくるQ13「撮影をしたところ、他社のキャラクターが全面に描かれている服を着た人が写り込んでいました。こういう場合には、必ずその部分を消さないと、著作権侵害ですか?」という問いなどでは、

A 「写り込みについての著作権制限規定が適用される可能性がありますが、そもそも、広告にある程度以上のサイズで他社のキャラクターが出現すること自体、広告主にとって望ましくない場合が多いように思われます。」(36頁)

と、法の原則に触れつつ、実務者にとって必要な情報をサラッと盛り込んでいる。

このタイプのQ&A本(特に分担執筆の場合)の場合、

・せっかくQ&A形式にしているのに、問いの立て方がおかしくて実用に耐えない(「執筆者の書きやすさ」に合わせて「問い」を作るとこうなる)。
・問いはまずまずの作りなのに、回答がそれにストレートに応えていない
・問いの掘り下げ感や、回答スタンスに関して、章ごとのばらつきが激しい

となってしまう残念なケースも時々見かけるのだが、本書は松尾弁護士の単独執筆。
「そもそも」や「ただし」書きの使い方も含めて回答スタンスは一貫しているし、解説で基本的な論点を網羅しつつ、「問い」そのものは極めて実践的な作りになっている、という点も高く評価できるところである。

自分も、ブログのプロフィール欄などに書いた通り、若い頃に知財周りの法務を一人でやっていた時があって、その頃は、「広告主」としての立場で社内のあちこちから飛んでくるゲラチェックや、「広告代理店から『権利処理』を求められる」立場で社外から飛んでくるゲラチェックに日々追われていた。
前者に関しては、景表法周りを所管していたのが当時の「法務部」だったので、そこだけ切り分けて相談を持っていくこともあったが(あるいは相談者の方で先回りして別々に相談を持っていってくれたこともあったが)、今一つすっきりしない答えしか得られないことも多かったし、「広告の中で最後までコロコロ変わるのは、商標とコンテンツ素材の使い方」*4ということもあって、最後まで相談に乗っている自分のところで「(権限を超えた)最終判断」を求められることは一度や二度ではなかった。

顧問弁理士の先生がまだ若くてフットワークも良く、一日に何通メールや電話で問い合わせても嫌な顔一つせず対応してくれた、というのが当時の救いではあったのだが*5、この種の話になると、最後は「直感」的な部分で、”えいや~”と判断せざるを得ないことも多いわけで。

そんなことを思い出しながら、拝読させていただいた。

なお、本書の中でも紹介されているように、広告法務周りの文献としては、電通法務マネジメント局から出ている「広告法」が無駄なくムラなく、だがクオリティも高い良書として既に存在しているから、どんな初心者であっても、そこまでは文献として活用してほしい、というのはあるし、特定の業界に関しては、さらに掘り下げて調べないといけないことは多々ある、というのももちろんのことである。

広告法

広告法

ただ、会社に入ってみたら「一人」法務で、しかもいきなり有象無象の広告宣伝物のチェックをしてくれ、と言われた人が最初に飛びつくための本としては、冒頭でご紹介した『125問』がとても良い本ではないかな、と思ったので、まずはお勧めする次第である。

(以下は、自分の細かいこだわりなので、興味のない方はスルーしてください・・・)

*1:実際のはしがきにはちゃんとお名前が入っていますが、ここでは仮名とさせていただきます。

*2:Aさんに同じ。

*3:松尾弁護士によると、学習院大学ロースクール時代の教え子だということである。

*4:この点に関して言うと、キャンペーンの枠組みは調整する箇所等も多いので結構早い段階で決まることが多いし、上の立場の人になればなるほど、細かい説明書きはスルーする一方で、「ビジュアル」とか「デザイン」に関しては、誰でも気軽に口を出せてしまうので、必然的にそうなる、というところはあるように思う。

*5:本書に登場する「馬好き法務部員」も、「誰か相談できる人を探すことが重要」ということを強調されているが(25頁参照)、この点に関しては本当にその通りだと思う(なお、この「馬好き法務部員」の方はこの点に限らず「相談することに関しては事前に会社の許可を得ている」という点を繰り返し強調しておられるが、個人的にはボランティアでの対応を求める限りにおいては、あまり固いことは気にしなくて良いと思うところ。チャージを支払って、というレベルになってくると、さすがに会社の正式な承認なしでは先に進めないのだけれど、その前段階でハードルを上げても仕方ないだろう、と)。

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そして、歴史的名馬がまた一頭、世を去った。

昔、「インパクトの大きい訃報は続けざまに来る」という話を聞いたことがあるが、まさにそれを地で行くような悲しいお知らせ。
今度は、2004年のダービー馬、キングカメハメハがこの世を去った

ディープインパクトの死に続き、競馬界にまたも悲しい出来事が起こった。キングカメハメハが9日、繋養先の北海道安平町の社台スタリオンステーションで死んだ。18歳だった。2003年に京都でデビュー、翌2004年にはNHKマイルC、ダービーで勝利し、変則2冠を達成。秋に復帰初戦の神戸新聞杯を快勝後、屈腱炎を発症したため引退した。」(キングカメハメハ死す 松田国調教師「夢の塊だった」(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュースより)

今年の春に”急変”したディープインパクトとは異なり、こちらは前々から体調を崩していて、とうとう今年は種付けもできないまま「引退」に追い込まれていたから、同じような馬齢でもちょっと「訃報」の意味は変わってくるのだが、それでも「功労馬」になって数か月でこの世を去る、というのは何とも気の毒というか、儚いというか。

2歳~3歳の初めまではクラシック王道路線を歩みつつも、皐月賞ではなくNHKマイルCに進み、10年近く破られていなかったタイキフォーチュンのレースレコードを更新する5馬身差圧勝。
その後、松田国英調教師が「ダービー挑戦」という、当時としては前代未聞なローテを発表して、当時の職場の人間と、Numberの特集記事を片手に「4ハロンも一気に距離延長して大丈夫か?」と熱く議論し、「長距離適性はない!」と強く主張した自分が大恥をかいた、ということも、昨日のことのように思い出すから、ディープの時と同様、「まだ若いのに・・・」というのが率直な感想である*1

キングカメハメハ自身がクラシックシーズンが終わる前に引退してしまったこともあるし、次の年に「無敗の三冠馬」が世に出てきてしまったことで、「競走馬」としての印象はどうしてもかすんでしまったところはあるが、同世代の他の馬とのレベルの比較で言うと、ハーツクライダイワメジャーといった好敵手がいたこの世代の方が、「ダービー馬」になったことの価値は高いともいえるわけで、松田(国)調教師や安藤勝己元騎手が「規格外」的なコメントを連発しているのも分かるような気がする*2

ちなみに、ディープインパクトが亡くなった翌週くらいから「パンチの利いた後継種牡馬不在」という話が出始めている。

確かに競走馬の「血統」というのは難しくて、結果が出なければすぐに淘汰されてしまうし、結果が出たら出たで気が付くと種牡馬繁殖牝馬のコミュニティの中でその血が濃くなりすぎて手詰まり気味になっているうちに、外来血統によって一瞬で淘汰されてしまう、ということもある*3

ディープインパクトは、かれこれ20年以上も日本の競馬界を牛耳ってきたHail to Reason ‐Halo-サンデーサイレンスのサイヤーラインの正統な後継者ではあるが、その産駒となると、サンデーサイレンスから数えて「3代目」。しかも母方にはこれまたメジャーなNorthern Dancerの血脈(しかも決してマイナーではないLyphard系)が入っているから、自身のような5世代遡ってもアウトブリード、という産駒を送り出すのは難しい。ノーザンファームは、地球の裏側や欧州の渋い血統の繁殖牝馬を連れてきて、何とか再び「血の爆発」を狙っているようだけど、それも必ずしも当たっているとはいえない、というのが実情のような気がする。

そうなると、Kingmamboの持ち込み馬で、産駒がまだ「2代目」のキングカメハメハ*4の子供たち(ルーラーシップロードカナロアドゥラメンテ)の方が、サンデーサイレンス繁殖牝馬との組み合わせで良い結果を出せる確率が上がってきて(今のところ最高傑作はアーモンドアイだが、柳の下のどじょうを狙う人たちは当然増えているだろうから続々と同パターンの配合で爆発的に活躍する馬が出てきても不思議ではない)、気づけばMr.Prospector系が日本の主流血統になる、ということも十分考えられるところ*5

その一方で、今の世界の潮流を見ると、いずれはBold Ruler 系の強力な種牡馬が米国から入ってきたり、はたまた歴史は繰り返して、Galileo-Frankelのラインから再びNorthern Dancer直系の血統が蘇る、というドラマが演じられる可能性もないとは言えない。

競馬が「遺伝力」を競う世界でもある以上、死んでもなお評価は固まらず、産駒に残した血を通じて世界中のライバルと競争し続けないといけない、というのはなかなか気の毒なところなのだけど、先々、血脈がどういう行方を辿るかにかかわらず、十年後、二十年後、世界のどこかで活躍する馬の血統表の中に、キングカメハメハディープインパクトの名前が残っていることを自分は切に願っている。

そして、仮に「血」が残らなかったとしても、2004年のダービーや、2005年から2006年にかけて自分が見守り続けたレースと、そこで主役を演じた馬たちの記憶が消えるわけではないので、自分が生きている限りは、それを語り継いでいかないといけないな、と、思いを新たにしたところである。

追記

自分もサイヤーラインをまじまじと眺めたのは久しぶり(ディープの後継がどうこう、という話題が出てきたせいで、急に気になってしまった)で、寝ても覚めても攻略本片手にダビスタをやっていた時代から、系統名が1世代、2世代繰り下がっていることに隔世の感を抱いていたりもするのだけれど、興味がある方はさしあたり、以下の書籍でもご参照いただければ、と。

パーフェクト種牡馬辞典2019-2020 (競馬主義別冊)

パーフェクト種牡馬辞典2019-2020 (競馬主義別冊)

あと、相次いでなくなった両馬の偉大さを改めて知る、という観点から、今年の本日時点での種牡馬リーディングを残しておくことにする。
サンデーサイレンス系の血統が飽和状態であることを改めて実感するデータでもあるのだが・・・)

1 ディープインパクトサンデーサイレンス系)1,144戦150勝(内重賞15勝)賞金449,567.2万円 
2 ハーツクライサンデーサイレンス系)982戦87勝(内重賞3勝)賞金194,836.5万円
3 ステイゴールドサンデーサイレンス系)456戦48勝(内重賞9勝)賞金184,391.0万円
4 ロードカナロアキングマンボ系、キングカメハメハ直仔)837戦93勝(内重賞5勝)賞金180,881.9万円
5 ルーラーシップキングマンボ系、キングカメハメハ直仔)735戦75勝(内重賞6勝)賞金151,423.3万円
6 ダイワメジャーサンデーサイレンス系)683戦54勝(内重賞1勝)賞金138,960.2万円
7 キングカメハメハキングマンボ系)573戦56勝(内重賞5勝)賞金138,309.4万円
8 ハービンジャー(ディンヒル系)741戦55勝(内重賞3勝)賞金114,751.6万円
9 ゴールドアリュールサンデーサイレンス系)623戦54勝 賞金 91,185.6万円
10 マンハッタンカフェサンデーサイレンス系)395戦30勝(内重賞5勝)賞金88,554.0万円

*1:もっとも、冷静に考えると、「15年前のダービー馬」なんて、今JRAのCMに乗せられて競馬場に来ている世代にしてみれば、自分が20歳の頃のアンバーシャダイとかサクラユタカオーみたいな馬なわけで、その頃仮に彼らの「訃報」が報じられていたとしても、「若いのに気の毒」とは絶対思わなかっただろうから、純粋に自分が歳を取って、時間の感覚がおかしくなっているだけ、という見方もできるところではある(アンバーシャダイサクラユタカオー種牡馬としてそこまで酷使されなかったおかげ(?)か30歳くらいまで長生きしたので、それとの比較では「若くして」という感覚もあながち間違いではないのだが・・・)。

*2:なお、キングカメハメハの競走馬時代の馬主はディープインパクトと同じ金子真人氏だが、ディープの訃報に際しては「涙が止まりません」というコメントをいち早く発した金子氏が、今回はどのメディアを見回してもまだコメントを出していないように見えるのは、単にご本人が休暇等で捕まらないだけなのか、それともディープに最上級の惜別の辞を寄せてからわずか10日たらずで再びコメントを発することを躊躇したのか。改めて説明するまでもなく、金子氏にとっての「初めてのダービー馬」はこの馬なので、実のところディープ以上の思い入れを持っていても不思議ではないと思うのだが・・・。

*3:かつて日本国内で猛威を振るったNorthern Dancer系(特にノーザンテースト系)の血筋も、父系の血脈として見かけることは残念ながらほとんどなくなってしまった。

*4:キングカメハメハ自身にはNorthern Dancerの4×4のクロスが入っているが、それぞれNureyev、トライマイベストという日本ではマイナーな血筋なので、孫世代になると血は極めて薄くなる。

*5:個人的にはエンドスウィープの血を引き、Northern Dancer色の薄いアドマイヤムーンの産駒あたりがもっと走ってくれれば、よりミスプロ系の血が広がるのにな、と期待しているところあり。

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