重なった春の椿事。

「無観客競馬」に突入してからめぐって来た5度目の週末。

先週末にはドバイWCデー中止、という衝撃的なニュースが飛び込んできたし、欧州、米国では開催自体不可能、という状況になって、今や世界広しといえども、まともに競馬を開催できているのは香港と豪州とこの日本だけ。

そして、決してもう安全ではない、”外出すら自粛”という状況になってきたにもかかわらず、ラジオでも、グリーンチャンネルでも、それまでと何ら変わらない音声と映像が流れてくる、というところに、現実から乖離したような何かを感じてしまうのは自分だけだろうか。

とはいえ、クラシックシーズンに向けて盛り上がる大事な時期にきちんと開催が消化されていくのは、ファンにとっても関係者にとってもありがたい話なのは間違いなく、そして、今週からは遂にGⅠも始まって、よりささやかな楽しみは増えた。

もちろん、こういう「非常時下」の状況だけに、”いつもと違う”ことは当然起きる。

まず先週からの流れでいうと、ドバイでの騎乗のために一足早く現地に飛んでしまっていたC・ルメール騎手と古川吉洋騎手が「2週間関係施設入構禁止」の要請により、今週と来週の開催日に騎乗できない、という悲惨な事態に・・・。

逆に、ギリギリまで出発を引っ張っていた、川田騎手、武豊騎手、M・デムーロ騎手と、一足先にキャンセルしていた福永騎手は、「乗れなかったはずの馬」に乗ることが叶い、見事なまでに明暗が分かれた。

さすがに大きなレースを除けば、先に決まっていた騎手の顔を立てたのか、いずれの騎手も騎乗機会は決して多くなかったのだが、そんな中川田騎手が土曜日の3鞍で2勝2着1回、武豊騎手も3勝を上積みした上に、土曜日の毎日杯を無敗の素質馬・サトノインプレッサで制する、という勝負強さを見せつけたのはさすが、というほかない*1

また、「椿事」といえば、「この時期にか!」と思わせる中山競馬場の「雪」

今年は暖冬で、ここ数年、どこかしらかは当たっていた「降雪中止」がないままここまで来ていて、自分の頭の中にも「感染拡大」以外の中止想定事由は存在していなかったのだが、よりによって春の入り口でこうなるとは・・・。

主力騎手が軒並み中京に集結している中で、勝ち鞍上積みを狙っていた関東の若手騎手たちには気の毒だが、あらゆるイベントが中止になっている今、数少ない”安全な娯楽”を楽しむ機会が一日でも増えた(31日に振替開催)、ということに今は感謝すべきなのかもしれない。

で、今週の「椿事」の極めつけと言えば、春のGⅠ第1弾・高松宮記念である。

いくら”ヴァーチャル開催”とはいえ、入場ファンファーレが下級条件戦並みの録音演奏、というのはちょっと寂しかったし、昨年覇者のミスターメロディが、ドバイに行って不在(そしてドバイでも・・・)というのは残念だったのだが、メンバー的にはマイル路線からステルヴィオ、グランアレグリア、モズアスコット、ノームコアといった多士済々のGⅠホルダーが参戦して異種格闘技戦の様相となり、人気も派手に割れた。

個人的には直前で騎手が二転三転した馬たち*2や、別路線から来た馬たちよりも、ここ目標にコンビを組んだ騎手で参戦してきた馬がこういう時は強いだろう、と思って、ダイアトニックから狙う、という作戦だったから、スタートがきれいに決まり、最後の直線も絶好のポジションから勢いよく追ってきたときは「よっしゃ!」と思ったのだが、ゴール前で進路を失って最後は外から差されあえなく4着。

1着入線したのは、忘れた頃に走る(しかも本職はマイル路線)15番人気の穴馬・クリノガウディ―、しかも鞍上は乗るはずだった馬の手綱を失った和田竜二騎手だったから、これですんなり決まっていれば、劇的なドラマになるはずだったのだが・・・

*1:それでも、「残留組」の松山騎手が6勝を挙げるなど、「穴」を埋める予定だった騎手たちの活躍が目立った週でもあったのだが・・・。

*2:ダノンスマッシュ(三浦騎手→川田騎手)、アイラブテーラー(和田騎手→武豊騎手)、タワーオブロンドン(ヒューイットソン騎手→福永騎手)

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今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月28日版

今週は平日の終盤でちょっと更新をさぼってしまったこの連載企画だが、そうこうしているうちに、日本国内の感染判明者数は100名超、200名超、と倍々ゲームで増えていき、東京都内の感染判明者数も60名超にまで達した。

小池都知事の強めの「外出自粛」パンチや、目に見える数字として出てくるようになったエビデンスが効いたのか、SNSやウェブメディア上では、ついこの前まで「経済を回せ」とか、「やり過ぎだ」と言っていたような人たちが一転して「出歩くな」派に鞍替えしている様子を見てとることができるし、今頃になって「ミラノでは・・・」とか「ニューヨークでは・・・」という話がいろいろと飛び交うようになり、一種浮足立ってきた雰囲気すらある*1

だが、「感染判明者」の詳細経緯等から推察すると、今「陽性」と明らかになった人たちが感染したのは、ほとんどが先週以前のことだろうと思われる。

その意味で「市中感染」のリスクが今さら出てきたわけではなく、むしろ、やれ「経済を回せ」*2とか、やれ「もう飽きたから花見でも」みたいなノリで危険な「密集」が作り出されてしまっていた先の三連休やその前の週末の方が、よほどリスクとしては高かった。

この一カ月くらい、極力人混みを避けて暮らしてきた*3自分のような人間にとっては、こわもての知事の一発が効いて、いつもより大幅に人が減った今日の街中のような状況が来週の平日になってもずっと続くようならありがたいことこの上ないし、その状況が続く限り、多数人でつるんで出歩くようなことでもしない限り、適度に外に出た方がよほど安全、という皮肉な状況になっているとさえいえる*4

同じことを皆が考えて秩序なく街に繰り出すようなことになれば、行政側の呼びかけが何の意味もなくなってしまうので、必然的に人が集まってしまう首都圏の中の大都市エリア(休日であれば、新宿、渋谷、池袋、秋葉原等々、平日であれば大手町、丸の内、新宿界隈と、そこにつながる人口密度の高い公共交通機関)は、「居住者以外立ち入り禁止」にするくらいでちょうど良いと思うのだが、それ以外の、さほど密度の高くない居住エリアの周辺で1人、2人で適度に買い物をして、食事をして、ということまで一律に止めるのは全く不合理だし、その辺は、個々人がきちんと自己責任でリスク判断した上で、他人に迷惑をかけない行動を取ればそれで足るはずである。

とはいえ・・・。

*1:ことの最初に「武漢」で何が起きたか、ということを一応追いかけてきた者にとっては、おとといの話もいいところなのだが、今そんなことを言っても仕方ない。

*2:繰り返しになってくどいようだけど、2月から3月にかけて世の中に求められていたのは、「3・11」後の時のような単なる心情的な”自粛”ではなく、現にひしひしと迫っていた「感染症」という脅威から身を守るための対応だったのだから、わざわざリスクのある賑やかしに乗っかるような消費行動と、その免罪符としての「経済を回せ」的な言説は、有害無益でしかなかったと自分は思っている(そして、今頃になってふと我に返ったところで、後の祭り感は半端ない)。

*3:三連休の間は、わざわざガラガラの電車に乗り、あえて桜も咲いてない、よほどのことがないと人が行かないような場所に逃げる、ということまで試みた。

*4:今となっては、家庭内での濃厚接触による感染伝播のリスクも十分高まっているのだから、狭い家の中に閉じこもっていれば安全、というわけではない。

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”阿吽の呼吸”の落とし穴~関電第三者委員会調査報告書より

最近のコロナ禍ですっかり影が薄くなってしまったが、昨年の秋頃、コンプライアンス業界界隈を賑わせていた話題といえば、「関電役員等金品受領問題」だった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

当時、自分も上記のようなエントリーを書いてそれなりの反響はいただいていたのだが、その後、第三者委員会が立ち上げられ、長きにわたる調査を経た末に、ようやく今月も半ばになって、関西電力株式会社宛てに提出された「調査報告書」が公表されている*1

この件に関するメディアの報道はや「外野」の人々のコメントには元々辛辣なものが多かったし、今回の第三者委員会の調査によって、新たに52名の役職者が金品を受領していた事実が明らかになったり

「森山氏が社会的儀礼の範囲をはるかに超える多額の金品を提供したのは、その見返りとして、関西電力の役職員に、自らの要求に応じて自分の関係する企業へ工事等の発注を行わせ、そのことによってそれらの企業から経済的利益を得る、という構造、仕組みを維持することが主たる目的であったとみるのが自然かつ合理的である。」(23頁、強調筆者、以下同じ)

として、「金品提供の意図・目的」に関して社内調査報告書の認定をバッサリ否定したことで、再び「ほら見たことか!」的なコメントも多く見られるようになってきている。

確かに、第三者委員会を構成する3名の委員+顧問(元日弁連会長の久保井一匡弁護士である)の弁護士陣に加え、森濱田松本法律事務所の20名超を超える弁護士たちの助力を得た詳細なヒアリング、資料分析と、PwCアドバイザリー合同会社の力を借りたデジタルフォレンジック調査の威力は抜群だったのだろうと思われるし*2、それによって得られた事実に基づく認定(とその見せ方)も、さすが検察組織の長を務められた方が率いる第三者委員会だな、と思わせるような”世論の期待”に応えるものとなっている。

ただ、一連の金品受領に関しては、第三者委員会自身も、「個別の発注要求や発注との対価関係が分かるような態様で金品を提供するのではな」かった、ということは認めているし(23頁)、この調査報告書に出てくる様々なエピソード(特に元高浜発電所長が社内幹部に宛てた“愚痴”メール(127頁)や、原子力事業本部の副本部長が森山氏の顔を立てるためにわざわざ”偽札”を業者に用意させて提供を受けたように装った(95頁)というくだり等)を読めば読むほど、金品を「受領」したと認定された関電の関係者たちが、いかにこの森山氏という人物の扱いに手を焼き、苦労していたか、ということがより伝わってくるのも事実である。

今回の調査報告書は、「自分の関係する企業への発注を要求し、時に恫喝をも行う森山氏という人物から多額の金品を受領し、そうした関係を継続することは、客観的に見れば明らかに不適切であって、およそ正常ではない」と述べた上で、

「それにもかかわらず、30年以上もの長期間にわたり、誰一人として森山氏と関西電力との間のこの異常な関係に対して声を上げる勇気を持てなかったことは、全くもって理解し難い。」(27頁)

と、関電側の対応をバッサリ断罪してしまっているのだが、自分はむしろ、この報告書で示された背景や、節々に出てくるエピソードを読めば読むほど、日本の典型的大企業の中にいた人々がこういう行動を取らざるを得なかった理由は非常によく理解できるわけで、これを単純に、関西電力の内向きの企業体質ゆえの問題」と片付けてしまうのは適切ではないと思っている。

そして、こういった公益的性格の強い会社に対して常にのしかかってくる「地元重視」という名のプレッシャー*3や、いつまでも一線を退こうとしない「名士」たちとの関係を維持しなければいけない苦悩*4に目を向けない限り、今の日本社会の真の病理を解き明かすことはおそらくできないだろう。

明確に「法令違反」と断じるのは難しい、という判断だったのか、本調査報告書の中では、「コンプラアンス」というフレーズがやたらと多く使われているのだが、この言葉は「企業」に対してのみ押し付けられるものではない、ということも、ここで付言しておきたい*5

発覚後の社内調査とその処理をめぐる問題点について

とはいえ、本件には、企業内法務にかかわってきた者として、これは他山の石としないといけないな、と思うところも当然ある。

特に調査報告書の中で「第6章 本件金品受領問題発覚後の関西電力の対応」(164頁以下)として記述されている箇所は、本件の特殊性を抜きにして、全ての法務・コンプライアンス関係者が目を通すべきところだと言えるだろう。

総務室法務部門所属の3名の担当者からなる本件社内調査事務局を中心に」行った社内調査が不十分だった、という評価(174頁参照)は、後付けのものに過ぎないから読み飛ばしても良いと思うのだが*6、問題は、社内調査で結果が出た後の対応である。

本調査報告書では、常任監査役ヒアリングにおいて「本件問題の取締役会への報告の要否についての法的整理をするよう」に、という要請を受けて、事務局担当者が弁護士に相談に行った、というくだりが記されている。

この種の対応をする上では、当然不可欠なプロセスだし、この常任監査役の問題提起は実際に苦労して調査を行った事務局(法務部門)の担当者の問題意識にも沿うものだったはずだ。

しかし、ここに大きな落とし穴があった。

調査報告書によれば、その当時作成された「相談結果メモ」に、「取締役会に報告する代わりに個別に全ての取締役に説明することでも足りる」という助言を受けたという整理になっていたのに対し、今回の第三者委員会の調査では、当該弁護士が、

「2018年10月30日の面談の場が法律相談であったとの認識はなく上記のような取扱いをしたいとの断りに来られたとの認識で、社外取締役も含めた取締役全員に本件問題を丁寧に説明するのであれば、取締役会そのものにおいて報告しないという選択肢もあり得るとは述べた記憶があるが、各取締役に個別に報告することでも足りるとの積極的な法的意見を述べたと捉えられたのであれば真意とは異なる正面から問題ないかと問われていれば、問題はあると回答しているはずであって、そのような相談の仕方ではなかった」(169頁)

と、掌を返すような供述を行っている。

自分自身の経験に照らした憶測で述べるなら、おそらくこの日のやり取りは、「直球の法律相談」でも「単なる断り」でもない、「確認したい事項とともに、上司の意向や社内の空気感も伝えつつ繰り広げられる、とりとめもない会話を通じて”阿吽の呼吸”で生み出される穏当な落としどころを見つける作業」だったのではなかろうか。

なぜなら、相談を受けた弁護士は、関電が常設設置しているコンプライアンス委員会の社外委員であり、かつ、本件で社内調査委員会の委員まで務めた弁護士だったわけで、相談にいった事務局の担当者とも一定の感覚を共有している間柄だったと思われるから・・・。

そして、「取締役会への報告」という大事*7を回避する代わりに、「各取締役に個別に説明する」ことで実質的に報告義務を担保する、という発想は、ことが”些事”であれば、決して常道を逸脱したものとまではいえない。

だが、客観的に見れば相当な異常事象を取り扱う上で、しかも、最上層の幹部が「公表しない」という方針を内々に決めていた、という状況において、適切な対応を取る上では、この”ふわっとした”形での”ふわっとした”見解は、あまりにナイーブ過ぎた。

調査報告書によると、その後、この弁護士見解も踏まえて行われた常任監査役とのヒアリングで、社内調査の管掌役員らは「本件問題について取締役会に報告する法的義務及び社外取締役に報告する法的義務があるとまではいえないという示唆を受けた」との認識を持ち(169頁)*8、さらに八木会長、岩根社長への報告の際に「取締役会への報告は行わず、社外取締役を含む個々の取締役への報告も行わないとの判断」を伝えられることとなる(170頁)。

調査報告書の中では、

総務室法務部門の中では異論も生じたが、最終的に月山氏(筆者注:社内調査事務局の管掌役員)らは八木氏及び岩根氏らの判断に従わざるをえず、結局、その後、本件問題及び本件社内調査報告書の結果が執行部から取締役会ないし社外取締役を含む個々の取締役へ報告されることはなかった。」(170頁)

と、調査事務局の意に反する形で事が整理されてしまった、という体で事実が記されているのだが、元々最初の出発点で法務部門が手にしていた「武器」が、経営上層部の”隠蔽”願望に抗するにしてはあまりに弱すぎたのも事実だろう。

ラインに組み込まれた一部門に過ぎない「法務」部門が本来正しいと思われている行動を経営陣に取らせようと思ったら、「社外の弁護士」という強力な援軍の力を借りるか、あるいは、「監査役」や「社外取締役」といったガバナンス構造上は経営トップと互角に渡り合える立場の人々に積極的に行動させる、という手を使わなければならないのだが、そういう方向に持っていくには、そこまでの社外弁護士や監査役を巻き込むプロセスが、あまりに穏便に過ぎたように思えてならないのである。

本件が、社外取締役への報告やそれを経た上での公表の機会を逸したがゆえに、メディア等から大きなバッシングを浴びた上に、社内調査の上にさらに「第三者委員会」の調査まで重ねることを余儀なくされ、しかも結果的に「金品受領」の話以上に重い「ガバナンス不全」の烙印を押されてしまった、という事実は重い*9

だからこそ、日頃は”阿吽の呼吸”で一筋縄ではいかない厄介ごとを片付けている法務担当者*10であっても、「ここぞの場面での武器」を手に入れる方法は知っておくべきだし、(少々上役の機嫌を損ねようが)それが会社を救うただ一つの道なのだ、ということも、噛みしめておくべきではないのだかな、と思った次第である。

*1:https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2020/pdf/0314_2j_01.pdf

*2:森山氏が関与した地元の施工業者への発注をめぐるやり取りの生々しい資料やメールを入手して分析したことが、社内調査から一段と踏み込んだ認定に繋がっているのは間違いない。

*3:調査報告書では、一連の関電側の対応を「誤った『地元重視』」と切り捨ててしまっている(183頁)が、外向けにはきれいな「正論」に包まれて出てくることがほとんどの「地元の声」への向き合い方は極めて難しいのであり、後講釈だけで「良い地元対応」「悪い地元対応」といった評価をすることは決して望ましいことではないと自分は思っている。

*4:これは本件のような地元の顔役にとどまらず、引退した企業経営者や国会議員OB、さらには古くから付き合いのある顧問弁護士に至るまで、例を挙げればキリがなく存在する。いずれも共通するのは「昔、重要な案件で会社を助けてもらった」「会社の上の方とつながっている(らしい)」「昔、その人に嫌われて左遷された人がいる(とまことしやかに言われている)」といった伝説に覆われていることと、「今はもう正直、迷惑な存在でしかない」というところで、関電の対応を上から目線で批判するのは結構なのだけど、我が身を振り返ってどうなのか?という問いかけも(今はともかく、いずれは自分もそうなりかねないのだから・・・)常にしておく姿勢は必要ではないかと思われる。

*5:もちろん、今回の報告書は「関西電力株式会社」における問題点を解明するために作成されたもので、いうなれば「被告人=関電」という構図の下で起訴立証を行っているようなものだから、「世の中がこうだから・・・」みたいな弁解にわざわざ応答する必要はない、と言えばそれまでなのだが、結論まで読み終えた時に、談合、贈賄等の経済事犯にありがちな後味の悪さを感じたのは、自分だけではないと信じている。

*6:むしろ、たった3名の事務局で始めた調査にしては良くあそこまで調べた、というのが、自分の率直な感想である。

*7:これだけの大企業となると、取締役会に議案を付議する手続き自体が一大事だと思われるから・・・。

*8:この点は常任監査役側の認識とは異なっているが、そこを掘り下げても何も出てこないと思われるので、ここでは詳細は割愛する。

*9:何らかの損害を観念し得るかどうかはともかく、今後、各取締役に対する責任追及がなされる可能性も否定できないはずである。

*10:それができないと、今の日本企業の中で真の意味で「法務」の機能を全うすることは難しいと思う。

災い転じて福となるか? ~厳戒体制下の「株主総会2020」が気付かせてくれたもの。

様々なメディアが、新型コロナウイルス絡みの話題一色に塗りつぶされてきている状況で、どれもこれも決して心落ち着くようなニュースではないのだが、今日唯一ホッとしたのがこちらの話題である。

日華化学は26日、定時株主総会福井市内のハピリンホールで開催した。同社は社長が新型コロナウイルスに感染したことが明らかになり、現在も入院中。濃厚接触者のほか、感染者に接触した可能性のある役員は会場への出席を取りやめるなどの対策をとった。」
(中略)
「出席した株主は昨年より39人少ない45人だったが、新型コロナの影響に関する質問が相次ぎ、例年より長い1時間20分ほどで終了した。
日本経済新聞2020年3月26日18時46分配信、強調筆者、以下同じ。)*1

この会社が話題になったのは、ちょうど1週間前の19日のこと*2

役員、しかも会社のトップの新型コロナウイルス感染が判明した、ということだけでもかなりの重大インシデントなのに、それが「株主総会1週間前」という、どんな会社でもピリピリするような時期のことだったから、一体どうなってしまうのか、とハラハラしながら眺めていた。

だが、この会社では、連休中に

「定時株主総会における新型コロナウイルス感染防止の最新対応状況のお知らせ」
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4463/announcement/56951/00.pdf

というプレスリリースを発表して、総会開催・遂行への強い意思を示した。

そして、記事によると、

14人中7人の役員が出席し、5人が音声のみの参加。中国に駐在中の1人と社長本人は欠席した。会社側の役員やスタッフは全員がマスクを着用の上、出席株主同士の間隔を広くするため例年の5割増にあたる座席を用意し、例年は会場で手渡ししている手土産も後日の郵送に切り替えた。」

と、涙ぐましいまでの非常時体制で対処することにより、無事乗り切ることができたようである*3

首都圏の会社を中心に、この3月総会は、極めて異例づくめでの対応を余儀なくされている状況があり、これまでこのブログでもご紹介してきたとおり、「来場自粛」要請のトーンも、本番が近付くにつれて各社強めになってきていた印象はあるし、今週に入って、楽天が「決算報告や議案の具体的な説明を省略」する、という方針を公表するなど*4、これまでの「シナリオ」をさらに踏み込んで変えてくるような動きすら出てきている。

それでも、「トップが罹患して不在」という最大の異常事態の下で、株主総会を敢行したのは今のところこの会社くらいだから、準備にあたっておられた方々のご苦労を思うと、本当に何と申し上げたらよいか、適切な言葉が思い浮かばない・・・。


で、前記のような話自体は、ある種「プロジェクトX」的な美談、ということになるのだろうが、冷静に考えると、「なぜそこまでして、『総会』を『実開催』しなければならないのか」という素朴な疑問にぶち当たる。

もちろん、巷で議論されているような、「株主総会は『リアル』での開催が原則」という定説は重々承知しているし*5、「延期することはできるけど、基準日変更を伴うのでそれをやるなら相当の覚悟がいる」というのも、当ブログでこれまでにご紹介してきたとおりである。

ただ、定時株主総会が、いかに会社法上、招集することが義務付けられたものだからといって、いかなる状況下においてもそれを「オープンな」機会として設定しなければならない、という硬直的な解釈に固執することは、果たして合理性な思考と言えるのだろうか?

企業内で実務にかかわってきたものとしては、強い疑問を抱いている。

この点に関しては、川井信之弁護士が、ブログ上で既に解釈試論を展開しておられ(以下リンク参照)、新型コロナウイルス対応、という理由に限ったうえで」という限定を付しつつも、現行法下での踏み込んだ解釈の可能性を示されていることは、今後、6月総会に向けた議論を考えていく上でも非常に有益だと思われる。

blog.livedoor.jp


さらに、そんな中、実務の世界ではさらに踏み込んだところにまで進んでいて、㈱ガイナックスがこの日公表した「2020 年3月 27 日開催予定の当社第 22 回定時株主総会に関するお知らせ 」*6では、「Zoom」を利用したオンライン開催、取締役は当日会場には来ず、株主に対しては、「本総会の会場である渋谷サンスカイルーム会議室5A(住所:東京都渋谷区渋谷一丁目9番8号 朝日生命宮益坂ビル5階)にお越しいただいても参加は可能ですが、昨今の状況を踏まえてご来場を自粛いただき、オンラインにてご参加いただきますようよろしくお願い申し上げます。」とまで言い切ってしまっている*7

ぶっちゃけ身もふたもないことを言ってしまえば、いくら、大きなハコを借りて株主をたくさん集めたところで、厳格な「資本多数決」原則を採用している今の会社法の下、その場での説明や質疑・答弁によって、事前に行使された議決権に基づく議案の可決・否決の結論が変わるはずもない。

さらに言ってしまえば、多くの会社において、株主総会の「場」で繰り広げられる質疑応答は、単なる質問株主の”自己満足”の域を出ていないし、仮に核心を突くような”鋭い質問”が出たとしても、その場で何かを左右するような答弁がなされることはまず期待できない。

「質疑応答の機会を通じて議論して、会社の経営を左右するような重要な意思決定を『会議』の場で行う」という制度設計者の思想それ自体を否定するつもりはないが、特定のプロジェクト遂行のために設立された合弁会社のような組織体であればまだしも、不特定かつ超多数の株主、しかもその多くは経営参加を意図してではなく「投資」の一手段として基準日にたまたま株式を保有していたにすぎない、というのが一般的な公開会社において、そういった思想を貫徹するのは自分は不可能だと思っているし、全く合理的でもない、と思っている。

だから、少なくとも立法論としては、会社法上開催を義務付けられた「株主総会」に関しては、株主に対して事業報告と付議する議案に関する情報を提供し、一定の期日を定めて議決権行使の機会を与えさえすればよく、「実開催」するのは、一定の議決権を保有する株主が何らかの意図を達成したいと考えて招集を請求した場合に限る、とすることを前向きに検討すべきだし、(法改正以前であっても)仮に今後、ロックダウンがかかったような状況下で株主総会の日を迎えることになってしまった会社が、人の出入りを禁じられた会場内において株主総会を「行った」ことにして急場をしのごうとした場合であっても、株主ではない外野の人間が「総会決議不存在だ!」と騒ぐようなことはやめた方が良い*8

そして、こういう時に決まって出てくる「株主への説明責任を」だとか、「株主との対話の場を・・・」的な話に関しては、「意思決定」とは切り離された別の場*9を設けることによって対処する方が、よほど理にかなった形になると自分は思っている(純粋なIRの場として設定する限り、「説明義務の範囲内かどうか」みたいなしょうもないことを気にする必要はなくなるし*10、仮に会社側の説明が一部の株主の機嫌を損ねたとしても、それは単なる「当否」の問題であって、無関係の株主まで巻き込んでしまうような適法性の問題にはならないから、会社によっては今まで以上に思い切った”本音”を引き出せる機会になるかもしれない*11

ということで、今年、これまでの総会で、そして、おそらくこれからの総会でも流されるであろう企業の実務担当者たちの汗と涙が、長年、「分かっちゃいるけど建前論に阻まれて踏み込めなかった」様々な非効率を取り除く方向に向かってくれることを、今は心の底から願っている。

*1:日華化学、音声で株主総会参加 :日本経済新聞

*2:今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月19日版 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*3:前々から準備しているこの決議通知を無事アップできた瞬間が、一番ホッとする瞬間かもしれないな、と。https://ssl4.eir-parts.net/doc/4463/ir_material2/136794/00.pdf もちろん、その後もしばらくは、まだまだ対応が続くわけだけど・・・。

*4:楽天、株主総会への来場自粛を要請 新型コロナで :日本経済新聞の記事など参照。

*5:直近のものとして日経紙のコラム参照。コロナ危機下の株主総会、ネットのみは不可 :日本経済新聞。この中に登場する倉橋雄作弁護士の「(参加者の)安全の確保を最大限にとりつつ、株主総会は開催し、決議した方がいい」というコメントは、会社法界隈で生きておられる実務家の方々の、現時点における概ね共通した見解といっても差し支えないと思われる。

*6:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200326485280.pdf

*7:一応、会場に行けば参加できる、という点では法定要件を満たしている、ということはできるのだろうが、ここまでくると形式的に「会場」を用意することの意味自体が問われてくることになる。

*8:株主総会が適法に開催されたかどうか、というのは、あくまで株主と会社の間の問題なのだから。その意味で、株主総会決議無効確認や不存在確認の訴えの原告適格についても制限的にする方向に持っていく必要もあるだろう。

*9:例えば、上場規則で年4回、一般投資家向けのインタラクティブな説明会の場を設けることを義務付ける、とか。そっちの方が大変・・・と嘆くIR担当者は多いかもしれないが、だったらなおさらそうすべき(投資家目線でいえば、年に一度、限られた時間で粛々と進む総会の機会だけで投資家への説明責任を果たしている、と開き直られる方がよっぽどどうかしてる、と思うので)というのが、自分の意見である。

*10:もちろんインサイダー規制との関係の話は依然として残るから何を言っても良い、ということではないが。

*11:もちろん、そういうことになれば、業界的にはこれまで脈々と培われてきた「総会対応需要」が相当なスケールで消えてしまうことになるのだが、「危機対応」は依然として残るわけだし、そもそもそんな小さな話に汲々とするような人々は会社法界隈の世界にはいない、と自分は信じている。

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今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月25日版

今日はもうこれしかないだろう、ということで・・・。

「東京都は25日、新たに新型コロナウイルスの感染者41人を確認したと発表した。1日に判明した感染者数としては都道府県単位で最多となる。小池百合子都知事は同日夜に緊急の記者会見を開き、週末は不要不急の外出を自粛するよう都民に要請した。」(日本経済新聞電子版2020年3月25日17時42分配信)

当ブログをしばらくご覧いただいている方ならご存じのとおり、自分はまだ東京都がオリンピックを今年のうちにやる気満々だった頃から、そろそろ本格的に手を打たないと危ないぞ・・・とずっと思っていた。

特に、都内では先々週末の「高輪ゲートウェイ群衆殺到事件」から先の三連休の花見に至るまで、明らかにリスク意識おかしいだろ!!!というような事象も散見されるようになっていたから、行政が一段ギアを踏み込んだこと自体は、決して悪いことではないと思う*1

だが、自分は今日のこの一報に接した時、ただ困惑するしかなかった。

この期に及んでなぜ「自粛」にとどまっているのか・・・というのが一つ目の理由。にもかかわらず、対象が「外出」全般であまりに広すぎる、というのが二つ目。

今やるべきことは、リスク要因になりうる「密集空間」を徹底的に排除することなのだから、必要なところには強制力の行使も含めて徹底的な対策をしなければいけないはずなのに、傍から見ていると、「補償」の話が盛り上がることを恐れてか、未だにそこまで踏み込むことを避けているように見える。

一方で、この先の長期戦を見据えると、「感染リスク」という点では極めて危険性が低い文化施設や個人向けのカフェ、定食屋といったところからも足を遠のかせるような網をかけることが得策だとは到底思えないのに、今日の各所での反応を見ていると、どうも政策目的とは無関係のところにまで影響が及んでしまうように思えてならない。

おそらく、この週末には、善良な老若男女がぴたりと外での消費活動を止めて家にこもる一方で、これまで散々リスクを作り出してきた無頼な連中が引き続き集団化してクラスタを作り出すという皮肉な光景、そして、ここぞとばかりに買い占めに走る愚かな人々が善良な人々と善良な飲食店を苦しめる、という、悪夢のような光景が少なからず出現してしまうことだろう。

そして、週が明け、より深刻な数の「発症者」と、著名人も含む不幸な運命をたどった人々のニュースが日々流れる状況になってきたところで、様々なプレッシャーを制御できなくなった官邸と自治体がやむなく23区を例外なきロックダウンで混乱に陥れる・・・という展開も、念頭に置いておくべき段階に差し掛かってきている、と自分は思っている。

*1:個人的には、今日判明した感染者だけで40名、日本全国でも100名近く。「対策」を打つタイミングとしては既に遅すぎる、と思っていたりもするが、何もしないよりはましだ。

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今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月24日版

昨日「4週間以内に」という報道に接した時は、「何を悠長なことを・・・!」という思いが頭をよぎったのだが、いざ動き出したら一晩で決着。実に早かった。

安倍晋三首相は24日夜、国際オリンピック委員会IOC)のバッハ会長と電話で協議し、夏の東京五輪パラリンピックを1年程度延期することで合意した。遅くても2021年夏までに開催すると確認した。新型コロナウイルス感染の収束が見通せず、選手らの準備期間なども踏まえて判断した。」(日本経済新聞電子版2020年3月24日21時13分配信、強調筆者、以下同じ)*1

これは実にグッジョブ!で、商業的に成功するあてもないままズルズルと「予定どおり開催」に持ち込まれたり、結論を先延ばしされていたりしていたら、確実に苦境に陥ったであろういくつかの会社が、当面の間「専守防衛」に徹することができるようになったということは非常に大きいし、完全な「中止」ではなく2021年に向けた開催の可能性が残ったことで、(ここ数か月さえしのぎ切れば)国内経済を再浮揚させるきっかけが生まれた、という意味でも、的確な判断ではないかと思う。

もちろん、今は(相対的には緩やかなスピードとはいえ)素人目にはどう見ても状況は悪化の一途を辿っていて*2、来月、三大首都圏で都市としての機能が発揮されているかどうかも個人的には怪しいと思っているので、ここから先の一年が、これまで誰も経験したことのなかったような険しいものになる可能性も否定できないのだが、オリンピック125年の歴史の中で、いまだかつてどの国も都市も経験したことのなかったイレギュラーな事態を乗り越えて開催にこぎつけることができるなら、それは「東京」に、そして「日本」に刻まれる新しいブランドになるわけで、ある意味、こんなにおいしい話はない

そして、昨日のエントリー*3でも触れたとおり、「非常時」だからこそ、これまで批判されていた様々なしがらみを少し解きほぐして、新しい方向性を模索していくことだってできるはずだ*4、と自分は思っているので*5、今は、結果的に「1年延ばしてよかった」と言えるような祭典になることを心の底から願うばかりである*6

ひと時の狂い咲き相場、というなかれ。

で、市場の方に目を移すと、今日は投機マネーの買戻しに加え、当面の悪材料出尽くしで挽回を狙う個人投資家が参入したのか、「根拠なき熱狂」ともいうべき上昇相場になり、日本を皮切りに中国から欧州まで、そしてこの時間には米国まで上昇一辺倒の展開になっている。

もちろん、今日も下方修正を出す会社、特損計上を公表する会社が多々ある状況で、決していい材料がたくさん出てきている、という状況ではなく*7、相場に関しては、いつ金の流れが逆流して、二番底、三番底で地獄を見ても不思議ではない状況ではある。

ただ、最近出始めた一部の「悲観論者」がいうほど、今起きていることの経済的な影響が後々まで尾を引くとは自分は思っていない*8

むしろ、今の状況は、F1レースが終盤に差し掛かってレースの勝敗が見えかけたところで、突如予期せざる大クラッシュが起きてセーフティカーが投入されたような状況で(一部のチームは強制ピットイン・・・)、エンジン性能の相対的劣化やピット戦術のまずさゆえに、優勝争いから引き離されかけていたチームにとっては、レース再開後の一瞬の攻防を制することで、息を吹き返すチャンスともいえる。

グローバル化」こそが経済発展のキモだ、と信じていた人々にとっては、今は悲観的になるしかない状況だろうし、打撃を受けている業種の中に目に付きやすい華やかな産業が多い*9ということもあって、何かとマイナスのイメージが刷り込まれやすいのは確かだが、こんな状況下でもたくましく稼いでいる事業者はいるし、むしろ「この状況こそ商機」と捉えて、食い込もうと意気込んでいる事業者だっているわけで、そういったところに目を向け、限りあるヒト・モノ・カネの資源を向かわせていくことができれば、今年の10-12月期くらいから一気に反転攻勢、という展開も、決して非現実的なものではないと自分は思っている*10

今日一番のリリース

さて、そうはいっても、今日一番の注目は、個別企業の業績よりも何よりも、東京証券取引所が出した以下のリリース*11だったのではないかと思われる。

「さて、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、法務省から、「定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。なお、会社法は、株式会社の定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項)、事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。」と示されております。」
「仮に3月期決算の上場会社が今期事業年度終了後3か月以内に定時株主総会を開催できないこととなり、配当金その他の権利の基準日を事業年度末日から変更することとなった場合、3月30日以降変更後の権利付最終日において当該銘柄を保有していない場合は、配当その他の権利が付与されないこととなります。」
「投資者の皆様におかれましては、上場会社の定時株主総会の開催日程等によっては、そうした事象が生じる可能性がある旨を御留意いただきますようお願い申し上げます。」(強調筆者、脚注略)

確かに、気が付けば3月期決算会社の配当取りのタイミングが間近に迫っている時期。

手慣れた投資家なら、一日にして一銘柄数十万は平気で吹っ飛ぶこの時期に、「配当目当て」で資金を投入するような愚かなことは避けるだろうが、それでも、年度末を挟んで相場の上昇基調が続くようなら、損益と配当の両方ををにらんだ投資戦略を考えたくなるところではある。

だが、そんな感覚が染みついた素人たちに冷や水を浴びせ、現実に立ち返らせてくれたのがこのリリースなわけで・・・。

今までなら「何が起きようと、予定されていた基準日を変更してまで定時総会の時期をずらすなんてありえない」というのが常識。

でも、随所で”サバイバルゲーム”のような光景が続出している3月総会の流れはおそらく6月まで続く可能性が高いし、そもそも、今の状況がより長期化するリスクを考えると、3月末時点の帳簿上の配当原資だけを見て配当を決めたくない、という感覚に襲われる会社が出てきても全く不思議ではない*12

それゆえ(結果的に杞憂に終わる可能性は十分自覚しつつも)、この先1か月くらいは、「基準日を信じるな!」という東証の警句を忘れずに過ごさねばな、と思った次第である。

*1:東京五輪、21年夏に延期 首相がIOC会長と合意 :日本経済新聞

*2:24日中に判明した感染者の数字も、これまででは最高レベルに達していて、週が変わる頃には100人/日を超えるペースになることは避けられないように思われる。

*3:今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月23日版 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*4:最近の開催国の中で、唯一といって良いほど「反対運動」を社会的に盛り上げきれなかった日本で、こういうイレギュラーな事態が起きたのは何とも皮肉なことというほかないのだが・・・。

*5:もちろん、今の騒動が収束して、米国、欧州が「平時」に戻ってしまった瞬間に、あらゆる柔軟な思考を巡らす機運は失われ、これまでどおりIOC既得権益の「壁」として立ちはだかることになってしまうのは目に見えているのだが、それまでの間は、ホスト国としてのアイデアを打ち込めるチャンスは十分にあるのではないかと思っている。

*6:1年「程度」というバッファーをフルに生かして、全国の桜がまだ散り切らないくらいの季節に開催時期を移すことができるなら、なお言うことはない。

*7:特に、前回発表予想を大幅に下方修正して赤字転落見込みを公表したKNT-CT ホールディングス㈱の数字のインパクトは大きかったし(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200323482497.pdf)、それをそのまま引き取ってさらに増幅させた印象のある親会社近鉄グループホールディングス㈱の下方修正(営業収益550億円下方修正、各利益も200億円台のマイナス着地を予測)(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200228471431.pdf)も状況の深刻さをうかがわせるには十分すぎるものではあった。もちろん大手旅行代理店に関していえば、ここ最近はOTAに食われ、ドル箱だった韓国ツアーも不振で「コロナ」がなくても決して芳しい状況ではなかったのであるが・・・。

*8:もちろん、この後の状況がどこまで悪化するかにもよるわけで、生産年齢人口の何分の一かが失われるような事態になれば、より深刻な事態になることもありうるが。

*9:サービス分野でいえば、空運、陸運、旅行、飲食、宿泊、高額品小売、イベント主催等々、製造業でいえば自動車や大型機械&その関連産業など。もっとも、前者に関していえば、これまでも注目度に比べれば経済に与えるインパクトは大きくなかったし、後者に関していえば、リーマンショックの頃と比べると、今や日本の産業の中での製造業のインパクトは決して大きくない、ということにも留意する必要があると思っている。

*10:そもそも、景気なんて相対的な「山」と「谷」の関係で、良い悪いが決まってくるものだから、1-3月期から4-6月期までの落ち込みが大きければ大きいほど、その後のリバウンドも大きくなる(ように錯覚する)わけで、その意味でも来年春くらいの「五輪開催」というのは、面白い選択肢ではないかな、と思うところ。

*11:2020年3月期末の配当その他の権利落ちについて | 日本取引所グループ

*12:急に「総会を延期せよ、基準日を設定し直せ」と言われるとかなり大変なことになるが、最初から「6月にはやらない」と腹を括ってしまえば、それはそれでオペレーションとしては充分回る気はする。

今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月23日版

ドバイWCデー中止の報に呆然となってから半日も経たないうちに、今度はいよいよ「オリンピック延期」に向けた動きが本格化し始めた。

国際オリンピック委員会IOC)は22日夜(日本時間23日未明)、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年東京五輪の延期を含めた検討に入ると発表した。大会組織委員会などと協議し、4週間以内に結論を出す方針で、中止の可能性は否定した。各国や競技団体から延期を求める声が相次ぐなか、開催について決定権を持つIOCの最終判断が注目される。」(日本経済新聞2020年3月23日付夕刊・第1面、強調筆者)

自分は今月の初めくらいから、「これはもう絶対延期しか選択肢はない」と思っていたし*1IOC会長のコメントも安倍総理のコメントも、どうせ腹芸の一つだろう、くらいにしか思っていなかったので、逆に、今の今まで予定どおりオリンピックが行われると信じ込んでいた人たちが結構な数いた、ということに驚いているのだが、何はともあれ、「中止」という最悪の結論ではなく、「延期」という方向に向かっていることに今は安堵している

もちろん、いざ「延期」するとなれば、当然様々な問題は出てくる。

「失われる経済効果○○円」といった類の言説は、元々全くといって良いほど根拠のない話*2だし、よく言われる「他の国際競技団体のイベントとの兼ね合い」といった問題も、そこまで調整に手間取るとは考えにくい*3

ただ、以下の点に関しては、真面目に考えないと、後々大変なことになるだろうな、ということは容易に想像が付く。

1)延期することで、2021年に予定していた施設の利用が叶わなくなってしまう日本国内の他のイベント主催団体への配慮。
2)既に代表内定しているアスリート、「2020」を人生の節目にしようと考えていたアスリートたちにとっての「1年」の重み。
3)大会組織委員会の運営経費、暫定利用施設の維持経費等をどうするのか、問題。

1)は、「オリンピックだけで世界が回っているわけではない」ということから出てくる問題だし、逆に2)は、「オリンピックに人生の全てを賭けてきた」人たちがいるからこそ出てくる問題だったりする*4

そして、何よりも一番懸念されるのが、3)で、果たして大会組織委が「+1」年を乗り切る予算を確保できるのかどうか。そうでなくても景気が落ち込んで、これまでに支払った協賛金を返してほしいと思っているスポンサーもいる中で、追加の資金拠出を求めるのも無理があるわけで、なかなか苦しい話になりそうだな、と思わずにはいられない。

こうなったら、いっそのこと、この非常事態を奇貨として、「一業種一社」みたいなせせこましいルールをぶち破り、幅広く運営をサポートしてくれる支援企業を募る、その代わりに”アンブッシュ・マーケティング規制”みたいな囲い込み施策はやめて、「オリンピックシンボル」をはじめとするコンテンツを広く開放し、「みんなのオリンピック」にしてしまったらどうか、などと夢のようなことを考えてみたりもするのだが、果たしてどうなるか。

今は、良い意味で「瓢箪から駒」になることを願うばかりである。

今日の適時開示より

さて、3月決算期末を控え、TDNet上でも、いよいよ「新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響」に関する開示が本格的に出るようになってきた。

2020年2月期の業績予想を大幅に下方修正した㈱イオンファンタジー*5や、2020年11月期まで見越して収益・分配金ともに大幅減の下方修正を行った大江戸温泉リート投資法人*6、そして、2020年12月期の業績予想を「未定」とした上で、

「現時点で3月催行の予約数は前年同月比で40%減、4月催行の予約数も需要が大きく減少している状況であります。」
「当社としましては、この情勢の見通しが困難な現時点においては、営業収益の早期回復を見越した楽観的な観測を前提としない事といたします内部留保の維持に全力で努め、緊急事態策としての資金の確保を行うとともに、10億円以上のコスト圧縮を図り、さらに大幅な削減策を実施いたします。」
「また、これを機に収益力向上につながる事業再編を徹底し、結果として感染拡大が収束し旅行需要が回復を見越した際には、シェア拡大における施策を早期に遂行できる状態を作るとともに、当期中の財務基盤を強固かつ安定させるだけでなく、市場回復時の収益率を大幅に向上させる所存です。」
(強調筆者)

と攻めの強気を見せつつも、悲壮感漂うベルトラ㈱*7など、旅行、宿泊、娯楽系は相変わらずの状況だし、製造業でも、今はフィリピンの工場の操業停止だったり、欧州の製造ラインの停止だったり、と、なかなか深刻な影響が伝わってくる。

そんな中、早くも3月の月次を出した㈱西松屋チェーンは、「当月は、紙おむつやウェットナップなど消耗品の需要が増加したほか、子供玩具など室内で使用する商品の売上高が好調でした」とまさに時流を生かして、既存店売上高前年比121.3%のクリーンヒット*8

さらに、「新型コロナウイルス感染拡大の影響についてのお知らせ」と題しつつ、海外のEC事業が「マスクの需要が急速に高まり、その後、消毒等の抗菌・除菌用品まで広がって」絶好調、国内事業も堅調とし、さらには中小企業支援に特化した自社サービスの宣伝まで堂々と展開する会社*9も登場している。

どんな非常時でも、それを商機として生かす、というのがビジネスをする上では欠かせない資質だと思うし、「経済停滞」のイメージばかりが先行している今、明るいニュースを提供してくれる会社がありがたい、というのは間違いないのだが、そういうグッドニュースを持っている会社に限って、開示資料の書き出しに、

「この度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患された皆様及び感染拡大により困難な生活環境におられる皆様に、心よりお見舞い申し上げます。」

的な”お見舞い文言”を付ける傾向があるのは、ちょっとどうかな、と思うところ。

「3・11」の時も、その後の震災や、台風で大きな被害が発生した時もそうだったのだけど、この種のお見舞い文言って、一見誰かをいたわっているように見えて、「自分は別の世界にいる」ということをアピールするようなもので、実際に大きな被害を受けた人ほど嫌がる傾向もある。

ましてや、今回は局地的な災害でもなく、誰もが罹患し、当事者となり得る疫病なのだから、開示にもプレスにも過剰な修飾文言は付さずに、グッドニュースでもバッドニュースでも、シンプルに必要なことを伝えてくれればいいよ・・・と思わずにはいられないのである。

*1:k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*2:大体、この手の数字は上澄みの消費額の増加分だとか、雇用者の増加分だとかを単純合算した上に謎の”シナジー(?)”的なものを盛っただけの代物でイベントの開催に伴う負の外部効果を全く計算に入れていない、という点で、意味のある数字ではないと自分は思っている。

*3:なぜなら、世界陸上世界水泳がメジャーコンテンツたりうるのも、4年に一度の「オリンピック」に彩られたストーリーを活用しているからで、自分たちのエゴで五輪を中止に追い込むとか、開催時期をさらに後ずらしさせる、ということをしたところで、彼らが得ることのできるものはほとんどないからだ。

*4:五輪種目の中には、その時々の勢いで大きく勢力図が変わってしまう競技もあるし、伸び盛りの選手、競技生活の終盤に差し掛かっている選手のいずれにとっても「1年」というのは非常に長い時間だけに、既に「内定」を得ている選手をどう処遇するのか、まだ「内定」を出していない競技では選考を1年延ばす、とか、「内定」を出した競技でも再度選考をやり直す、といったことをするのかどうか、どの競技団体も非常に悩ましい選択を迫られることになるのではないかと思う(特に国際ランキングで出場選手を決める方式の競技だと、日本の競技団体の意向にかかわらず、今後のワールドツアー等の日程次第では、「選考やり直し」を余儀なくされる可能性だってある)。

*5:[2月までの時点で売上高5.8%、純損失も赤字転落。https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200323482833.pdf]

*6:分配金は15.8%減予想。https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200323482687.pdf

*7:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200323482262.pdf

*8:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200323482613.pdf

*9:ラクーンHD、https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200323482624.pdf

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