令和3年著作権法改正と見え始めた潮流。

金曜日の夜、ひょんなことからYou Tubeの生配信に出演することになり、旬のテーマでお話をさせていただくこと、ざっと1時間くらい。

その中のトピックの一つが、今週成立したばかりの著作権法の一部を改正する法律案」だった。

様々な事情があったのだろう、この法案が衆議院文部科学委員会に付託されたのは5月11日、その3日後の14日には委員会で可決され、5月18日には衆院本会議で可決。さらに参議院に送られて一週間も経たない5月25日には文教科学委員会で可決、翌26日に参院本会議で可決・・・。

政治的な争点のない法案だとこんなものなのかもしれないが、結果的に2週間であっという間に可決成立してしまったために、メディアでの報道も26日の成立後にちょっと出たくらいで、世の中の関心は決して高くない。

昨年の改正が「ダウンロード違法化」「リーチサイト処罰」といった数年越しの難題を扱ったもので、法案提出前から各所で盛り上がっていたことを考えれば大きな違いではある。

だが、自分は、今回の改正は、後で振り返った時に歴史の大きな転換点の中に位置づけられる可能性があるものといえるのではないかと思っている。

一言でまとめてしまえば、

「許諾権」から「報酬請求権」へ

という流れにさらに掉さしたのが今回の改正ではないか、というのが自分の雑駁な印象で、

1)図書館関係の権利制限規定の見直し
2)放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化

という大きな2つのトピック*1のいずれにもその萌芽が埋め込まれた、というのが注目すべきポイントである。

例えば、1)の「図書館関係の権利制限見直し」においては、これまで限定的ながら無許諾での公衆送信が認められていた「絶版等資料」*2に加えて、通常の「公表された著作物」についても、一定の要件の下でその全部又は一部についての無許諾での公衆送信が認められることとなった(新31条2項)。

新型コロナ禍下で、図書館資料にアクセスすることさえままならない、という特殊事情が後押ししたとはいえ、これまで多くの権利者団体が、権利者が関与しない著作物のデジタル化や公衆送信に大きな抵抗を示していたことを考えると、これは実に画期的な改正、ということができる。

そして、その代償として用意されたのが、「特定図書館等を設置する者」に対する「相当な額の補償金」の支払義務である。

また、2)でも、これまで放送事業者にしか認められていなかった無許諾での商業用レコード、レコード実演の利用や、放送等のための固定やそれを用いた「再放送」での映像実演の利用を「放送同時配信等事業者」にも認め、別途の報酬支払いにより処理することができるようになった。

昨年の審議会での議論過程で図書館資料の関係で書いたエントリーの中でもコメントした通り、この「報酬請求権化」の受け皿として準備されるのが「指定管理団体を通じた報酬配分」という枠組みであることについては、その実効性も含め懐疑的にならざるを得ないところはある。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

ただ、ここで大きいのは、「逐一許諾を得なくても使えるようになった」ということであり、こと様々なコンテンツの「公共財」としての性格を意識するならば、これまで権利者の所在不明、消息不明等、様々な場面で障害となることも多かった「許諾の壁」が、ほんのわずかな部分でも取り払われたということの意味は非常に大きいと思われる。

もちろん残された課題は「報酬を適切に分配する仕組みをどう作っていくか」ということになるわけで、ここがうまくいかないと、権利者側はもちろん、利用者側にとってもフラストレーションがたまることになりかねないし、某補償金制度のように最終的に瓦解を招くことにもなりかねないのだが、放送に関しては既に一定の枠組みが存在しているし、図書館資料に関しても、一足早く導入されている著作権法35条関係の補償金制度(「授業目的公衆送信補償金制度」)*3が順調に立ち上がりつつあることがポジティブな材料といえるだろうか。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/bunkakai/60/pdf/92807701_10.pdf

いずれは技術の進歩によって、仲介・配分役をかまさなくてもコンテンツの利用状況が即時に記録され、権利者に見える形で集計されて請求ボタンをクリックすればお金が入ってくる、という時代になると信じたいところだが*4、それまでの間、権利者の利益と利用者のニーズのバランスに配慮した公平な制度を築き上げ、守り続けていくことが、さらにその先にあるより大きなニーズへとこの仕組みを広げていけるかどうかのカギになると自分は思っている。

ということで、限られた時間の中でどこまで伝えられたかは分からないけれど、改めて文字として書き残しておく次第。

そして貴重な時間を割いてご視聴いただいた皆様には、改めてこの場にて御礼を申し上げたい。

www.youtube.com

*1:改正法の全体像については文化庁ウェブサイトに掲載されているhttps://www.mext.go.jp/content/20210305-mxt_000013222_1.pdfを参照されたい。

*2:なお、ここで公衆送信が認められる範囲も今回の改正で大幅に拡大されている。

*3:早期施行時のリリースは授業目的公衆送信補償金制度の早期施行について | 文化庁を参照。思えばこれも新型コロナ禍がもたらした数少ない良い効果の一つ、だった。

*4:もちろん、その場合でもシステム運営・管理者としての「著作権管理事業者」は必要になってくるだろうが、役割としてはそれで必要十分だろうと思うところである。

荒み切った世の落ち着きどころはどこにある?

先週とはうって変わって、今週は比較的天気が良い日が続き一気に夏のムードも増してきた。
本格的な夏の到来までには、もう一山、湿っぽい季節を超えないといけない、とはいえ、気分も仕事もヒートアップしていくそんな季節のはずなのに・・・。

ここ何週間か、特にGWが明けるくらいから、どのSNSを見ても、昨年以上に過激な言説が飛び交い、荒んだ空気が流れているような気がする

一番のスケープゴートは間もなく開催される予定(だった、になるかもしれないが・・・)東京五輪。次に来るのは現政権と自治体の「コロナ対策」。

どちらも温かく見守ってもらえるには程遠い状況なのは間違いなくて、特に前者に関しては、本来ならポジティブな推進役を担うはずのIOCや組織委の周辺から飛び出した”自爆”と言っても不思議ではないようなコメントが報じられ、さらに「敵」を増やしていく、という悪循環。

ほとんどのメディアを敵に回してしまっている以上、平時なら善解されるようなコメントでも、こういう時にはすべからく悪意をもって解釈され、加工して報じられる。だからこそオフィシャルなコメントも、関係者のプライベートな呟きにも最大限の注意が払われて然るべきなのに、そこで首を傾げたくないような”空気を読まない”発言、挙動がネットニュースの見出しを飾り、世論をさらなるカオスに陥れていく・・・。

五輪の歴史を引き継ぎ、愛すべき東京に「開催できなかった都市」という未来永劫消えないスティグマが押されることを避けたければ、何よりも優先すべきは、

「7月~9月の間に何が何でも競技会を挙行すること」

であって、ダラダラと聖火リレーを続けたり、それに合わせてスポンサーの車列を走らせるたり、VIPの迎え入れのために特別の取り計いをしたり・・・なんてことはどうでも良い。ましてや、大人数の観客を入れてどうのこうの、なんて話自体が論外だ*1

それなのに、物事の優先順位がまるで整理しきれていなくて、この期に及んで平時と同じオペレーションを維持することに色気があるように見えてしまうから、あちこちでハレーションが起きて「反五輪」の機運がより盛り上がってしまうことになる。

もし、今年の五輪が中止になったとしても、それを「新型コロナのせい」ということはできないな・・・というのが今の率直な思いである*2

あともう一つ気になっているのが、「ワクチン」の話。

最近では朝から晩までこの話題に事欠くことはない、という状況で、確かにワクチンの接種が進むことで一定のポジティブな効果があることは否定しないのだけど、そこに寄せられたあまりに過剰すぎる期待と、その裏返しとしての、やれこっちに順番が回って来ない、だの、抜け駆けで打ちやがってけしからん、みたいなニュースに接するとため息しか出てこない。

挙句の果てには「打ち手が・・・!!」などと言って、日頃注射器を扱っていない薬剤師まで現場に駆り出そうとする発想は一体どこから出てくるのか

こんなことは言わずもがなだと思っているけど、ワクチンは万能ではないし、打ったところで罹患する人は罹患する。

ついでに言えば、ワクチンそれ自体(それ以前の注射時のミスに起因する事故だってある)が引き起こすリスクだって当然存在する。

ワクチンの接種回数を競うのが米欧を中心に世界の潮流になってしまっている中、日本だけ乗り遅れるわけにはいかない、といういかにも日本的発想は分からなくもないが、全てはあくまで他の対策とセットでやってこそ生きる話で、手段を目的化してしまうことの愚にも思いは馳せられるべきだろう。

*1:組織委の収入減を心配するのであれば、特例で会場からの映像を有料配信すればよいではないか・・・とも思ったりもする。加工されたテレビ映像とはまた異なるニーズはあって、市場を食い合う話でもなかろう、と思うので。

*2:新型コロナの蔓延に起因する話ではあるが、決定的な原因をそれに求めてしまっては、未来に遺せるものは何もなくなってしまう。おそらくこの国で五輪が開かれることはもう二度とないだろうけど、だからそれでよい、という話でもない。

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どんな色でも輝けばそれでいい。

時が経つのはあっという間で、早くも春のクラシック戦線は大詰め。巡ってきた第82回オークス

桜花賞の時は、「ぬいぐるみは勝っても馬券は買わない」というシビアなファンの目に晒されていたのがウソのように、距離不安を囁かれながらも断トツの1番人気となったのは奇跡の白毛馬・ソダシだった。

好敵手・サトノレイナス日本ダービーに回る、というイレギュラーな状況では「消去法」という面もあったのだろうが、1番人気馬が7年連続連対中、ここ5年間のレースはすべて勝っている、という鉄板・オークスでこの人気となれば*1、何を言われようが勝利は揺るがない・・・はずだった。

自分は桜花賞からの流れで、今回、国枝厩舎の看板を一頭で背負い、鞍上をルメール騎手に替えて臨んできたアカイトリノムスメを再び軸に据えてはみたものの、やはりソダシを完全に捨てることはできず、頭の中をよぎった

「最後は金子真人HDの一人紅白歌合戦!!」

というよく分からんキャッチコピーが現実になることを信じて、買い目を選択。

そして、”ああ見えて気性難”なソダシが、吉田隼人騎手に導かれてスタートを決めた瞬間、

「先行抜け出しのソダシと、それを猛追するアカイトリ、ゴール前の激しい攻防の末、晴天に映える「黒、青袖、黄鋸歯形」の勝負服が2頭並んで駆け抜ける

という妄想に頭の中は支配されてしまっていた。

だが・・・

そんな安易な予想は容赦なく裏切るのがリアルな競馬の世界である。

最初に飛び出した武豊騎手のクールキャットに、川田将雅騎手のステラリアが激しく競りかけ、さらに団子状態で数頭の先行馬たちが続く。
2400mの長丁場にしてはいつになく”前”に重心がかかったまま進んでいく不思議な展開の中、やや折り合いを欠くような仕草を見せながら突っ込んでいく白馬の姿を見たときに、自分は嫌な予感しかしなかった。

案の定被せてくる馬もいて、道中はかなり澱みのない展開に。

それでも最後の直線で、ソダシの前の進路がきれいに開けたときは、「このまま押し切れるか・・・!?」と一瞬夢を見たのだが、前にいた馬たちのペースがガクッと落ち、代わって、後方に待機していた馬たちが続々と直線の主役に躍り出てきた時、奇跡の白毛馬の二冠の夢は儚く消えた。

結局、最後に前に出たのは、先週降り続いた雨の影響で少し重さも残っていた馬場でも34秒台の脚を使った馬たちで、特に後方から徐々に良い位置まで押し上げてきていたユーバーレーベンの差しは見事なまでにハマった。

さらに続いたのが、4コーナー10番手のアカイトリノムスメ

3着、4着には、4コーナーを12番手以降で回った人気薄の馬たちが名を連ね、ひそかに注目していた、青き衣をまとったアールドヴィーヴルが辛うじて5着。

かくして1番人気は飛び、16番人気の馬が3着に飛び込む、といういつにない大波乱が演出されることになってしまったのである。

*1:しかもこの5年で単勝2倍を切ったのは、アーモンドアイと昨年のデアリングタクトの2頭だけで、結果は言わずもがな、である。

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走り続けてほしい。そこに大歓声が戻るまで。

誰が名付けたか、8文字の馬名、グランアレグリア

最初に耳にしたときから、随分華やかな名前だな、と思ったものだが、デビュー以来、その名に恥じぬ走りをずっと続けているのだから大したものだ。

2000mの距離に果敢に挑んだ前走・大阪杯では、年下のレイパパレに苦杯をなめたものの、一世代上のアーモンドアイがターフを去った今、マイル以下の距離に戻れば目下国内には敵なし。

今日のヴィクトリアマイルも、いいペースで先行して世代交代&下剋上を狙ったレシステンシアと、それを目標にゴール前で激しい競り合いを演じた有象無象の牝馬たちを軽くあしらうかのように、コースの外側でルメール騎手が追い出した瞬間に勝負は決まった。

上がり3ハロン、32秒6。

勝ちタイムは1分31秒0だから、ここ2年の「1分30秒台」の数字には見劣りするが、後続に付けた差は4馬身
奇しくも昨年のアーモンドアイの”復帰戦”の圧勝劇と並ぶことになったし、”一頭だけ雲の上”の勝ちっぷりも昨年の覇者のそれと同じ。そして鞍上はクリストフ・ルメール。インタビューでの「まだまだ勝てます」的な受け答えも、何となく去年のそれと似ていた。

前の年に「9冠」を取った超歴史的名牝が輩出された後だけに、どうしても数字には鈍感になってしまうのだが、グランアレグリアもこれでGⅠ5勝目。もはや歴史的名牝の域に達していると言ってもよい、堂々たる実績である。

タイトルの数字に関して言えば、2歳の暮れに朝日杯じゃなくて阪神JFに出ていたら、とか*1、前走で大阪杯ではなく高松宮記念を使っていたら、とか、いろいろ”たられば”は出てくる。

ただ、まだ未完成だった2~3歳時に果敢に牡馬混合戦に挑んできた歴史*2や、あれだけのマイル、スプリント適性を持ちながら大阪杯に”寄り道”してファンに期待を抱かせるところが、また彼女らしさだったりもするわけで・・・。

観客は戻ったものの、平時には戻っていない東京競馬場で、今日、豪快な勝ちっぷりを見せた彼女に注がれたのは、どこからともなく湧いてきた「拍手」だった。

それはそれで、風情があって良いではないか、といつもなら思う。

だが、やっぱり、彼女のあの弾けるような走りに注がれるのは、馬名そのままの「大歓声」であってほしい。

この先、彼女がマイル、スプリント路線で順当に2つ、3つタイトルを上乗せしてくるのか、それとも再び、自らの真価を問うべく、長い距離でのタイトルに果敢に挑むのか(そしてそこで散るのか、さらなる輝きを放つのか)、どうなるか分からないところはあるのだけれど、そう遠くないときに訪れるであろう彼女の花道が、コロナ禍を乗り越えた先に生まれる歓喜の大歓声で包まれることを信じて、あと半年ちょっとの無事是、を祈りたい。

*1:もっともあの年のダノンファンタジーも2歳時までは無敵の強さを誇っていたので、1冠上乗せできたかどうかは何とも言えないところではあるが・・・。

*2:彼女は、4歳の高松宮記念でモズスーパーフレアに先着を許すまで、牝馬には一度も負けていなかった。高松宮記念にしても、あれが最初から「優勝争い」だったなら、あのハナ差は逆転していたんじゃないか、と思う時はある(1着入線はクリノガウディーだったから、あれはもともと2,3着争いだった)。その後も彼女に先着した牝馬はレイパパレ一頭のみである。

見えてきた今年のトレンド。

毎度のことではあるが、この一週間も話題は「コロナ」であふれていた。

思えば1年ほど前の”マスク”に始まって、”アプリ”から目下の話題の”ワクチン”まで、「何でそうなるの・・・!!」という突っ込みを入れたくなるような、これまで世界屈指の先進国と思われていた国の出来事とは思えないような話が続いてげんなりしているのだが、今でこそ「成功例」のように言われている米国、英国にしても、今の状態に至るまでの間に、この国とは比較にならないほどの犠牲を払って、現地のメディアからは散々叩かれていたわけで、結局、

「現時点で対策に成功している、と言えるような民主主義国家は存在しない。」

というのが自分の認識で、

「対策に成功した、と慢心した次の瞬間には再び悲劇が訪れる」

というのが、今世界中で起きているこの悪賢いウイルスとの戦いの実相だったりもするから*1ワクチンが回ってくる順番など気にせず冷静に眺めているのが吉でしょう、と思っているところである*2

・・・で、そんな中、先月末から続いていた国内各社の3月期の決算発表が今日で一段落した。

これは1年前から言い続けていたことではあるのだが、決算発表の数字を見る限り、ほとんどの会社の業績はそこまで悪くない

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昨年の第一四半期決算あたりからチェックしている「2桁増収&増益」企業数は、年間を通じて400社を超えるくらいの水準(全上場企業の1割強)をキープしたままだったし、特に今年の1-3月期で、前年の凹み、期ズレを取り戻した会社が多かったこともあって、3月から4月にかけて上方修正のリリースを出してくる会社も実に多かった*3

昨春からずっと株式市場が活況を呈しているのを見て「何で今株価が上がっているか分からない」とぼやいていた人も時々見かけたが、終わってみれば、期初では弱気の予測を立てていた会社の中にも、ここにきて配当額を通年ベースに戻したり、さらに配当金をアップさせてきた会社も多いから、結果的には積極的に投資した者に先見の明があった、ということなのだと思っている。

もちろん、この勢いが未来永劫続く、なんてことはあり得ない。

この一週間の急激な株価の変動は専ら外在的要因によるところが大きいので大して気にする必要はないと思うのだが、ここにきて、この一年の間ずっと続いてきたトレンド*4がどう変わるかが見えにくくなってきているのが気になっていて、特に、ずっと好調だったスーパー、ドラッグストア等の月次の数字は前年割れ、半導体サプライチェーンが乱れて上流から下流までいろいろ影響が出てきている、DX系も需要が一巡してきたところで次の一手を打てずに頭打ちになりかけている会社が多い・・・ということで、次の牽引役が見えないのが一番の不安材料か。

冷静に振り返れば、「新型コロナ」以前から緩やかな下降曲線を辿っていたのが、この国の製造業であり、今大苦戦している各業種*5だったわけだから、そう簡単に牽引役が見つかるはずもないのだが、だとすると、この先、市場のトレンドもまた変わってきてしまうのかな、と思ったりもして。

こと資産運用の観点で言えば、世界の状況がめまぐるしく変わる中で、どこにどう効率的に資産を配分するか、気にしてもし過ぎることはないのだが、目の前の仕事に関して言えば、栄枯盛衰、諸行無常。どういう立場でかかわっていても、自分一人の力で大きなトレンドを変えることなどできないのだから、刹那的と言われようが、先のことなど考えず、今できる一つ一つのことに集中して淡々と片づけるしかないよね、というのが今の結論。

そして、そういう観点からいえば、今、多くの関係者にとって大事なのは、5年後、10年後に会社がどうなっているか、なんていう高尚な話ではなく、目の前に迫る6月総会とその先にある市場区分変更を無難に乗り切る、という話だったりもするわけで、その観点から今年の「株主総会2021」をプレビューするならば、ざっと以下のような感じだろうか。

会計監査人が交代する会社が今年はいつになく多い気がする*6

社外取締役設置完全義務化の影響か、監査等委員会設置会社に移行する会社も相変わらず多い

・会場は例年通り、という会社が多いが、規模の大きい会社では「最低でもLIVE中継(not 参加型)」がデフォルトになりつつある*7

・想定される質問のうち、一番聞かれる可能性が高く、かつ答弁が難しいのは「収益認識基準適用前後の収益数値の比較」のような気がする*8

あと、昨年ほどの混乱はないものの、ここにきて5月総会の会社で直前の会場変更のリリースがいくつか出てきているのも気がかりなところで*9、(昨年から完璧にシミュレーションしてるから問題ない、という会社も多いとは思うが)昨年同様、用心するにこしたことはないのでしょうね、と。

ということで、毎年のことではあるが、今は、各社のご担当者が心身を害することなく無事、爽やかな夏を迎えられることを心から願うばかりである。

*1:昨年の夏頃の欧州から年明け頃のインドまで、ハリウッドのサスペンス映画もびっくりのどんでん返しが起き続けている。そして今、完全に抑え込んでいたはずの台湾ですら危うい状況になりかけている、というところにこの問題の難しさがある。

*2:順番が回ってくる頃には、ウイルスが変異に変異を遂げて完全に”ただの風邪”的なものに戻っていても不思議ではないし、そうなったらもはや打つ意味などないのだが、それでもなお「証明書が・・・!!」と騒ぐ人々の意識が変わらないと、面倒な状況は続くのかな、と思ったり・・・。

*3:2021年12月期決算の会社の1Qの決算数値に限って言えば、増収増益でない会社を探す方が難しい状況だったりもする。

*4:一部の一般メディアが報じているような「製造業勝ち組、非製造業負け組」という分類はあまりに雑過ぎると思っていて、「製造業」でも半導体関連以外の機械製造系の会社は軒並み苦戦していたし、「非製造業」でもスーパー、ドラッグストア、ゲーム・コミック配信、DX支援等々、空前の好景気に沸いた業界は多かったのだが、いずれにしても、勝ち組と負け組を明確に分類しやすかったのがこの一年の状況だった。

*5:飲食、百貨店、旅客輸送、観光関連等々・・・。何でもかんでも”コロナのせい”にされがちだが、新型コロナで壊滅的な打撃を受けた業界には、それなりの、それ以前からの理由もある、と自分は思っている。

*6:特に大手のうち某T法人が絡むところでの交代がやたら目立つ。

*7:さすがに「バーチャルオンリー」に向けた定款変更までは時期尚早、という意見も有力だが、それでも既に確認できただけで3社は直近の総会に提案することを表明している。

*8:KAMとかESG関係の想定問答に力をかけすぎて、会計周りを手薄にしない方が良い、ということですかね。財務担当役員を答弁者で指名できる会社なら問題ないと思うけど。

*9:今週だけで4社ほど・・・。

20年ぶりの「マル外」勝利の凱歌と、頭をよぎった「たら、れば」。

気が付けばもう四半世紀を超えて今年が26回目になってしまったNHKマイルカップ

GⅠレースの中では、秋華賞とともに「第1回」から見続けている貴重なレース、ということもあって、このレースが回を重ねるたびに自分も歳をとったものだなぁ・・・と感じるのはいつものこと。

そして、長く見続けていることが勝負の巧さに直結するわけでもない、というのが、この世界のシビアなところでもあり、特にこのレースに関して言えば、未だに第1回のタイキフォーチュンの勝ちっぷりの鮮烈さが脳裏に焼き付いていたり、「マル外ダービー」と呼ばれていた時代の記憶が未だに冷凍保存されていることがかえって裏目に出ることが多く、たまに出走する外国産馬には騙されるし、内国産馬しか出ていないような年だとどこから勝負をかけたらよいのか分からなくなる・・・そんなことを毎年繰り返している。

近年での数少ない成功体験は、朝日杯FS組から指名したケイアイノーテックが豪快に差し切った3年前のレースだったりもするのだが*1、ダノンプレミアム以下、クラシックトライアルまでは「最強」と言われていたあの世代の朝日杯FS組とは異なり、今年の3歳世代の朝日杯組は、まさかのGⅢ戦(ファルコンS)でコケた、大将・グレナディアガーズを筆頭に今ひとつ安定感ないことこの上ない。

それでも皐月賞でステラヴェローチェ(朝日杯2着)が人気薄で3着に飛び込んだよなぁ・・・というのを思い出し、今回本命に指名したのが、浦河産のキズナ産駒、バスラットレオンだった。

今や押しも押されもせぬNo.1トレーナーになった矢作厩舎所属で、鞍上はケイアイノーテック以来のGⅠ勝利を狙う藤岡祐介騎手。

飛びぬけた逃げ馬がいないメンバー構成を考えると、先行してそのまま押し切れるこの馬の粘り強さは魅力的だったし*2、それでいてパドックでの気配もかなり良い、というレポートを聞けば、もう他の選択肢は考えられない・・・

満を持して当てに行った馬券の組み合わせを頭の中で反芻しながら発走を待ち、ゲートが開いたその瞬間までは、実に幸福な時間だった。

だが・・・

その次の瞬間、実況アナウンサーが伝えたのは「落馬」という悲報。

主役となるはずの先導役を失った残りの17頭は、押し出された逃げ切れない逃げ馬、ピクシーナイトを先頭に淡々と隊列を組んで進んでいき、最後の直線で”案の定”もたついたグレナディアガーズを横目に、前方に控えていたソングラインが鋭く抜け出す展開に。

そしてゴール手前、久々の牝馬V&池添騎手大金星か~ と思った瞬間、差してきたのがルメール騎手が操る「マル外」シュネルマイスター・・・。

結果、ハナ差の大逆転劇となり、クロフネ以来、実に20年ぶりの外国産馬優勝」という見出しがネットニュースに踊ることになった。

ドイツ産の「外国産馬」と言っても、生産者名の欄にあるのは「Northern Farm」で馬主もサンデーレーシング

先月発売の優駿80周年記念号には、吉川良氏が書かれた、

この馬の一口馬主*3の方が石和までわざわざ『紙の馬券』を買いに行った、というエピソード

なども載っていたりしたから、どちらかと言えば内国産馬的な雰囲気もある馬なのだが、血統表を埋め尽くすアルファベットを見ると、ああ「マル外」だなぁ・・・としみじみ思う*4

優駿 2021年 05 月号 [雑誌]

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*1:やはり強かった「朝日杯」組。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:何といっても、デビューして間もない古川奈穂騎手の手綱で影も踏ませずに逃げ切ってしまった2勝目のレースのインパクトが自分には強く残っていた。

*3:といっても、サンデーレーシングの場合「40分の1」口だから、その辺のクラブとは一口の重みが違うわけだが・・・。

*4:実のところ「マル外」全盛期と言われた20世紀後半から21世紀初頭の時代は、ジャパンマネーが仔馬だけでなく「種牡馬」「繁殖牝馬」まで買いまくっていた時代だったから、「マル外でも血統表にはカタカナ混じり」という馬が結構多くて、これだけきれいな「マル外血統」を見るのは随分久しぶりな気がした。

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WTOがまだ生きている、ということに気付かされたことへの感慨。

昨年、COVID-19の世界的流行が始まって以来くすぶっていた問題が、米国バイデン政権の衝撃的な政策転換によって、今まさに世界的論争へと発展している。

「バイデン米政権は5日、新型コロナウイルスワクチンの国際的な供給を増やすため、特許権の一時放棄を支持すると表明した。ワクチンが足りない途上国が世界貿易機関WTO)で要請していた。製薬会社は反対しており、交渉の先行きは不透明だ。」
「米通商代表部(USTR)のタイ代表は声明で、WTO加盟国がワクチンの特許権を保護する規定を適用除外とする案を支持すると表明した。「コロナのパンデミック(世界的な大流行)という特別な状況では特別な政策が必要だ」と指摘した。」
日本経済新聞2021年5月6日付夕刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

既に多くの識者が指摘しているように、原語の「waiver」を「放棄」と訳してしまうと、本来のニュアンスからはズレてしまうように思われるし*1、医薬品に関してTRIPS協定上の義務をwaiverする、という政策自体は、TRIPS協定ができて間もない20年近く昔から存在する考え方で*2、それ自体はそこまで斬新、というわけではない。

ただ、自分が知る限り、ここ数年、医薬品の保護に関してはTRIPS協定に「上乗せ」する発想はあっても*3、その逆を提唱するような提案はついぞしてこなかった米国がこれを言った、ということは大きいし、それにもかかわらず、予想された製薬会社はもちろんのこと、欧州連合からも反対の声が上がった、というところに状況の複雑さを感じざるを得ない。

今求められているのが、「未だに一部の国・地域で続いているCOVID-19(変異種)の拡大を食い止めるため、いかに迅速にワクチンを世界中に供給するか」という”スピード勝負”のミッションであることを考えると、特許権云々の話をする前に、他にやるべきことがあるんじゃないか?」というのは自分もこのニュースを最初に聞いた時に思ったことで、強制実施権の下で後発薬メーカーにワクチンを作らせる、といった危うい戦略をとるくらいなら、既に開発に成功しているメーカーに積極的な輸出やライセンス供与を促す方が、格段に効果は上がるはず。

”waiver”ルールの適用を激しく主張している国々にしても、それを分かった上で、主要先進国の製薬メーカーに低廉な価格での販売、ライセンス供与を自主的に行わせるための交渉材料としてこれを持ち出しているのだろう*4

とはいえ、これまで、先進国側と新興国側が、それぞれのポジショントークを声高に唱えるだけで、そこから現実的な施策に発展する気配がなかなか見えなかったTRIPS協定の枠組みの下での論争が、米国の政策転換によるバランスのシフトを契機に合理的な施策へと結びついていくのであれば、実に大きな話なわけで、ここしばらく「機能不全」を指摘されて久しかったWTOを舞台にこうした動きが出てくる、ということにも、政権交代を契機とした時代の大きなうねりを感じずにはいられない*5

奇しくも、この話題が世界中で報じられるようになったタイミングで、ファイザーと独ビオンテックがIOCにワクチンをdonateする、というニュースも飛び込んできて、「政治に長けた人たちのやることは違うな・・・」と変なところで感心してしまったのもまた事実ではあるが*6、そういった様々な政治的駆け引きを経て、どういったところでこの話が落ち着くのか・・・。

いずれにしても、今世紀の初めに先人たちが世界中の叡智を集めて作った多国間知財権行使の枠組みが、この人類追い込まれた状況の下で日の目をみようとしていることに敬意を表しつつ、この問題の行方を見守ることとしたい。

*1:経産省の資料などを見ると「一時免除」という訳語が使われており、waiverの前提としてTRIPS協定上の強制実施権発動に伴う諸々の義務があることを考えると、「義務免除」とか「適用除外」という日本語を使う方が正確なのだろうと思われる。

*2:WTO | intellectual property (TRIPS) - Implementation of paragraph 6 of the Doha Declaration on the TRIPS Agreement and public health参照。この2003年8月の理事会決定の内容は、その後のTRIPS協定のAmendmentにも取り込まれている。

*3:同じ民主党オバマ政権下ですら、TPPでアジア新興国相手に米国が激しいバトルを繰り広げたのはまだ記憶に新しいところである。

*4:インドくらいの国になれば、自力でファイザーやモデルナと同レベルの製品を市場に供給することもできるのかもしれないが、それにしても自国だけでの取り組みでは自ずから限界がある。

*5:もちろん、あくまでこれは、これまでも機能してきたTRIPS Agreementの世界での話に過ぎず、WTOが本来果たすべき全ての機能を取り戻せた、ということにはならないのだが・・・。

*6:製薬会社としては、これも自分たちの立場の正当性を全世界にアピールするためのうってつけの材料になると思われ、何とも言えないしたたかさを感じる。こと開催国においては、ちょうど緊急事態宣言の延長や五輪の開催可否をめぐって世論が尖り始めた時期と重なってしまったこともあって、「最悪手」に近いリリースになってしまったところはあるが(これは日本に限った話ではないが、特にこの国では「特権階級」を生み出すかのように見える施策への評判は極めて芳しくない)、製薬会社側にしてみれば、アピールしたい相手は「日本」ではなく、もっと広いところに目を向けているはずだから、このような「寄付」も戦略としては合理的、ということになるのだと思われる。

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