何が本当の「スタンダード」なのか分からなくなる今日この頃。

2年前の暮れから追いかけ続けてきた東証の市場区分見直しの話*1も、いよいよ12月末の選択手続き期限があと1か月ほどに迫り、今月の半ばくらいから連日、新市場選択に関する各社の適時開示資料が大量に公表されるようになってきている。

7月の上旬に東証から一通の通知が届いてから既に4カ月。ここ数週間で公表した会社の中には、会社の規模、業績的にどっからどう見ても「プライム」しかないだろう、という会社が、満を持してさりげなく公表した*2、というものも多いが、一方で、資料の節々から様々な悩みと逡巡が伝わってくるものも多い。

元々、この種の開示のパターンは大きく以下の4つに分けられる。

①現在の所属市場に対応する最上位の新市場*3の上場維持基準に適合している、という事実を示した上で、そのまま移行に向けた選択申請手続きを行う(行った)ことを宣言するもの。
②現在の所属市場に対応する最上位の新市場の上場維持基準に一部適合しない項目がある、ということを明かしつつ、あくまでその市場を目指して「上場維持基準の適合計画書」を提出予定であることを宣言するもの。
「上場維持基準の適合計画書」を公表し、現在の所属市場に対応する最上位の新市場の上場維持基準に適合に向けた取り組みを具体的に明らかにするもの(②の開示後に改めて実施するパターンもあれば、②とセットで行うパターンもある)
④現在の所属市場に対応する最上位市場ではない市場に移行することを宣言するもの*4

市場選択手続開始前の7~8月頃に先行していたのは②のパターンの開示(と、本来は行う必要のない「東証から合格通知もらったよ!」的な開示)だったのだが、9月以降は、もっぱら①と②、早いところで③、という状況がしばらく続いていた。

ところが、今月の後半に入って④のパターンが急増している

東証一部に上場しながら、「スタンダード」市場の選択を宣言した会社は、ここまでで既に100社を優に超えているのだが、その中でも11月2週目以降に公表した会社がその7割近く。

平行して、③のパターンの開示も相当数出てきてはいるものの、日によっては「計画書」を出してプライム”残留”の意思を表明する会社の数より、「スタンダード」選択を宣言する会社の数の方が多い日すらある。

自分とて、④のパターンの会社がある程度出てくる事態を予想していなかったわけではないのだが、さすがにここまでとは想定外だった。

振り返れば、東証の一次判定の通知以降、ジュリストの特集をはじめ、様々なところで「スタンダード市場を選択する方が企業価値向上にはプラスになる(こともある)」ということが言われ始めるようになっていたし*5、10月中旬に出された「プライム市場にも適合してるけど、我々はスタンダード市場を選ぶ」という中京圏のある会社の宣言*6が、背中を押したところもあるのだろう*7

だが、そうはいっても・・・というのが通常の企業経営者、実務者の感覚、というものだろう。

そして、既に70社近くから提出されている③の「計画書」の内容*8を見れば、東証から「経過措置」の適用を受けるために、そこまで高度な、具体性に満ちたものが求められているわけではない、ということがよく分かる。

適合していない基準項目が「株式比率」なら、オーナーや付き合いの深い大株主に売却の説得を続ければなんとかなる。「売買代金」ならIRに力を入れて個人投資家向けの注目銘柄として取り上げてもらうだけでもだいぶ変わってくる。

「流通時価総額」となると、株価を決めるのは”神の手”だけに、ハードルは格段に上がるが、それでも「計画書」の中に「業績向上」「企業価値向上」「コーポレート・ガバナンスにESG!」といったフレーズをとりあえずちりばめておけば、経過措置の適用は何とか受けられるし、各社の計画書を見ると、目標達成時期を「2026年」とか「2027年」に設定しているものも散見されるから、猶予期間はうまくいけば4年、5年、である。

それだけ時間をかけてもどうにもならなかったらあきらめも付くだろう、という話なわけで、結果的に「スタンダード」行きという結果になったとしても、4~5年「プライム上場」の看板を使えることの意味は大きい。

なので、合理的に考えれば、ここはやれるだけやってみればいいじゃないか、と思うところなのだけど・・・

*1:思えば最初に取り上げたのは「証券取引市場改革」は幻だったのか? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~のエントリーだったが、当時抱いた違和感は何一つ解消されないままここまで来ている感がある。

*2:そういう規模の会社ともなれば、社内の根回しと、「改訂CGコードにちゃんと対応できるんだろうな?」という天の声に答えるための諸々の資料作りに追われて2カ月、3カ月・・・というのは容易に想像が付くところである。

*3:東証一部なら「プライム」、東証二部・JASDAQスタンダードなら「スタンダード」、マザーズJASDAQグロースなら「グロース」等。

*4:端的に言ってしまえば、東証一部の会社が「スタンダード」市場の選択申請手続きをすることを明らかにする、というものである。

*5:理屈では語り切れない話だからこそ。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*6:プライムより、プレミア? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*7:その後も、「プライム適合だがスタンダード」ということを明示した開示は数件みられる。

*8:オフィシャルな適時開示資料である以上、当然これらの資料は、事前に東証とのすり合わせもなされている。

続きを読む

これが本当の「幕切れ」になることを願って~東芝ガバナンス強化委員会報告書より

”劇場型”の株主総会で株主提案を退けたのもつかの間、「議決権集計問題」に端を発した疑惑の火が「圧力問題」で燃え上がり、臨時株主総会で株主提案が一部可決、さらにそれに基づく会社法316条2項の調査者報告で明らかにされた事実を契機に定時株主総会を経てボードメンバーがガラリと変わり、業績は決して悪くないにもかかわらず、今まさに”ガバナンス発”で創業以来の危機を迎えつつあるのが、東芝、という会社である。

そして、「3分割」という衝撃的な事前報道が、会社側の会見で現実になったその日、まだ終わっていなかった「2020年7月31日開催の第181期定時株主総会」をめぐる「総括」ともいえる報告書が公表された*1

報告書を作成したのは、今年の夏、調査者報告を受けて設置されたガバナンス強化委員会*2

設置時のプレスで「圧力問題」に関する委嘱がなされた、と報じられた時は「おい、またやるのか!」的な反応も多かったのだが、報告書を見ると、「なるほど・・・」と、今回の委員会の報告の意義を感じさせるところが随所にあって、感心させられるところも多かった。

未だ「強くなりすぎた株主」を前に事態を収拾できていない状況がある中で、この報告書をもって、長引いた問題に完全に幕を引けるのかどうかはわからないが、以下、興味深く読ませていただいたポイントを取り上げてみることにしたい。

報告書作成の目的とそれに応えた”意図された淡泊さ”

6月に出された調査者報告が、圧力問題について「本定時株主総会が公正に運営されたものとはいえないと思料する」という結論を出した*3ことがガバナンス強化委員会の設置と、今回の報告書の端緒になっているのは言うまでもないことだが、”蒸し返し”という批判も意識してか、今回の報告書では「調査者報告書との違い」が以下のように説明されている。

「当委員会は、調査者報告書の事実認定を再調査することを意図するものでなく、基本的に同報告書「第3章 第4事実の概要」の事実認定については、関係者のヒアリングその他の調査の結果、委嘱事項について判断する上で必要であると考えられる新たな事実や同報告書の誤解等が明らかになった場合を除き、これを前提とするが同報告書第3章第5以下については、東芝の役員の善管注意義務違反の有無等を検討するという当委員会の責務に鑑み、当委員会が独自に上記検討の目的にそった分析・評価を行う必要がある。」
「調査者報告書は、その調査の目的に従い、2020年7月31日に開催された東芝の本定時株主総会が公正に運営されたものか否かについての結論を導き出すために必要な限度で事実の評価・分析を行ったものであり、東芝の役員の行為の違法性については、明確な判断を示すものではない。他方当委員会が上記委嘱事項に応えるためには、東芝の役員の行為に、それが違法であり、善管注意義務違反に当たると評価されるものがあるのか否かの検討が不可欠である。この点は、東芝の役員の法的責任に関わるものであるから、厳格な法的分析・検討の下に判断を行う必要がある。」(以上、要約版1頁、強調筆者、以下同じ)

総会決議に基づき株主が選任した調査者が行った調査の結果を、会社が設置した任意機関が安易にひっくり返すわけにはいかない、だが調査者報告書がその性質上明確にしなかった「取締役の法的責任」という観点から再度調査、報告を行うことは妨げられない、というのが今回の報告書の”言い分”で、それはそれで一つの理屈にはなっている。

「調査者報告書の事実認定を前提とする」ということに関しては、その言葉通り、今回の報告書では調査者報告書でも描かれた事実が描かれているだけ、それもドラマ仕立てのような生々しい発言の引用等が捨象された、あたかも判決文上の事実認定の記載のような淡泊さで書かれているだけで、そこからは、初めて調査者報告書を読んだ時のようなインパクトは全く湧いてこない。

だが、諸々の過剰な表現や証拠の引用をそぎ落として筆を進めた結果が以下の結論になる、と分かれば、また読み方も変わってくるのではないだろうか。

「判断の基礎となる事実(以下「基礎事実」という。)によれば、エフィッシモの株主提案を取り下げさせ、又はこれが否決されるようにするために、エフィッシモ、3D及びHMCに対して行われた働き掛けのうち違法性の有無の検討対象となる行為は、情報産業課のK1課長と経産省参与のM氏によって行われたものである。上記働き掛けを東芝の執行役による違法行為であると法的に評価するためには、①K1課長のエフィッシモ及び3Dに対する働き掛けやM氏のHMCに対する働き掛けが違法であったこと、及び東芝の執行役は、これらの違法行為をK1課長やM氏と共同して行ったものであり、法的に共同責任を負担すると評価することができることの2点が肯定されることが必要である。」
「一般に、行政庁の担当者は、一定の行政目的を持って、行政庁としての判断の下に行政事務を執行するものであり、何の行政目的もなく、また何の行政上の必要性もなく、一企業の利益を図るために行動することは、そのような行動をする特別の動機、理由がない限り考え難い。このことを本件における事実関係に即して検討すると、以下において詳述するとおり、東芝の事業全般を所管する情報産業課は、エフィッシモの株主提案が、東芝の取締役会の構成の変化をもたらし、事業の継続に影響を及ぼすなど、国の安全等に影響を与える可能性があり、また、共同議決権行使の可能性や誓約事項違反の可能性もあるとの行政判断の下に、取下げ等の働き掛けを行ったとみるのが相当であり、K1課長の行為が外為法の趣旨を逸脱して株主提案権又は議決権行使を制約することを目的とした違法行為に当たると評価することは困難であると言わざるを得ない。」
(31~32頁)

行政官の行為の適法性に関しては、この後にも”説示”が続くのだが、そこに書かれている内容も含め、本報告書の示した結論は、国賠訴訟での請求棄却判決を彷彿させるような「行政への信頼」に満ちたものとなっている。

そして、行政官の行為が適法とされた以上、東芝の執行役が法的責任を負うこともない、というのがこの報告書の理屈で、その結果、

「以上によれば、エフィッシモの株主提案を取り下げさせ、又はこれが否決されるようにするために情報産業課のK1課長がエフィッシモ及び3Dに対して行った働き掛けは、経済安全保障等の行政目的に基づき、外国投資家からの相談に応じ、これに対して助言を行っていたものとみることができるのであって、これが外為法の趣旨に反する目的の下にされた違法行為に当たるとはいえず、また、M氏のHMCに対する働き掛けについては、その具体的な内容を確定することができず、両者の行為は、いずれもこれを違法と評価することはできない。加えて、K1課長又はM氏と豊原氏又は加茂氏との間に、共同して責任を負担するような法的関係が成立していたことも認め難いものというほかはないのであって、当委員会は、K1課長又はM氏の行為が違法であることを前提として、東芝の執行役である豊原氏及び加茂氏が法的共同責任を負うとはいえないものと判断する。」(36頁)

とかなり強い表現で「法的責任なし」と言い切ったところに本報告書の最大のキモがあると言っても過言ではないだろう。

断片的な証拠(と言えるほどでもない事実)しかないM氏の方はともかく、K1課長の関与に関しては、調査者報告書でかなり生々しい会社とのメール等でのやり取りが明らかにされていたし、その動きが会社、経産省双方のファンドに対する働きかけと連動していたことをもって「不公正」とした調査者報告書の結論は決して飛躍したものではないと自分は思っているが、そういったエピソードに関しても、

東芝の執行役が、エフィッシモに対し、コンプライアンス有識者会議を設置し、エフィッシモの提案に係る取締役候補者のうち、杉山氏及び竹内氏をそのメンバーとして迎え入れることにより、円満に株主提案を取り下げてもらうための働き掛けを行ったことは、基礎事実に記載のとおりであるが、上記の働き掛けそれ自体は、正当な和解交渉ということができ、違法に株主提案権の行使を制約しようとするものと評価することができないことは明らかである。調査者報告書においては、上記働き掛けが情報産業課のエフィッシモに対する働き掛けと連携してされたことをもって問題を孕んでいるとみる考え方が示されているが、情報産業課のエフィッシモに対する働き掛けが違法と評価し難いことは以下に検討するとおりであり、そうであれば、東芝の執行役の上記働き掛けが違法となる余地はないものと考えられる。」(31~32頁脚注14)

「「当社株主総会(7月15日予定)に関する課題」と題する書面に記載された東芝の見解には、外為法の解釈上無理のある見解も含まれていたとの評価を免れないものの、同法の解釈について専門的知見を有する行政庁の判断を誤らせるような見解を示したものとまではいえず、他の情報提供については、執行役の業務執行において社会通念上許容される裁量の範囲を逸脱し、違法とすべき点は見当たらない。なお、以上のほか、5月28日、K1課長に対し、「反論メモ」と題する書面を送付しているが、これはK1課長からの求めに応じて送付したものである上、これを受領したK1課長から、TSC架空循環取引について東芝自身の非を認める内容に書き直すように指示を受けるなど、情報産業課の判断を誤らせるようなものであったとはいえない豊原氏及び加茂氏が株主対応に経産省に行政行為を利用する意図を有していたとしても、そのことによって、同氏らの行為が違法となるものではない。」(38頁)

と、一切”グレー”を匂わせる余地なく、清々しいまでに違法性を100%否定している。

会社と株主間の緊張関係が依然として続く中、あわよくばこの問題を使って株主代表訴訟を・・・という株主がいても不思議ではない状況で、これだけ明確に「法的責任」を否定した報告書が出されたことの意味は大きい。しかも、総会運営を「不公正」と断罪した調査者報告書と同じ基礎事実に基づいてこの結論を出した、ということが重要で、仮に今回の報告書の結論に不満を抱いた株主が再度裁判所に訴えてアクションを起こしたとしても、裁判所がこの報告書が描いた筋をひっくり返すことはおそらくないだろうな、ということは容易に想像が付く*4

かくして、このガバナンス強化委員会設置の目的は見事に果たされたのである。

”おまけ”としての残り20ページがえぐったもの。

さて、上記のように、「法的責任」論争に決着を付けるツール、としてこの報告書を見れば、その後の記述は”おまけ”でしかない。

報告書はそれでも、

「執行役の行為は違法でなければそれでよいというものではない。違法でない行為であっても、それが株主対応の公平性、透明性に疑義を抱かせ、投資家一般、更には株式市場の信頼を損なうなど、市場が求める企業倫理に反する行為と評価される場合には、執行役にはこうした行為を避ける義務があるというべきである。この義務に違反したからといって、執行役に直ちに法的責任が生じるものではないが、こうした行為は、市場ひいては社会一般の当該企業に対する信頼感を低下させ、企業の対外的、対内的活動に様々な面で悪影響を及ぼすおそれがあるからである。」(38頁)

として「企業倫理」を掲げ、担当執行役や前CEOの行為を「市場が求める企業倫理に反する」としているが、前CEOが既に会社を去り、関与した執行役も役職を外れてしまった今となっては、会社にとって新たなインパクトをもたらすようなものではないと思われる*5

個人的には、今回新たに、

東芝の前CEOである車谷氏は、アクティビストは健全な企業経営とは相容れない無理な要求をする存在であるとの認識の下にファンド系の投資家に対応しており、取締役会においても、そのような同氏の対応を是正することができていなかったものと考えられる。」
「すなわち、車谷氏が原案を示し、その確認を得て完成された「当社株主総会(7月15日予定)に関する課題」と題する書面には、アクティビストは、彼らの資金調達コストが年率20%~30%であることから、会社に自社株買いや事業売却を求めざるを得ず、影響力を及ぼせる社外取締役を多数選任させることで効率的に企業をコントロールしようとしている旨が記載されていることに加え、同氏は、当委員会のヒアリングにおいて、アクティビストは、ファンドに出資してくれている機関投資家等との関係性から、ファンドの投資先企業の株価を年間30%~40%上昇させることを目標としてあらゆる手法を利用して株価を上げることを要求してくる、それがファンドの仕事であるとの認識を示しており、これらのことからすると、同氏が、アクティビストは健全な企業経営とは相容れない無理な要求をする存在であるとの認識の下にファンド系の投資家に対応していたとみることができる。」(47頁)

と、車谷氏自身が”反ファンド”の風潮を社内で煽っていた、という事実が認定されたことは興味深かったし*6、それに合わせて、「東芝の役職員等の発言」として、

「車谷氏の外国投資ファンドに対する姿勢について、「アクティビストは経営のことは分かっておらず、株価を上げることしか考えていないとの考えを有しており、アクティビストから提案があっても真剣に改善しようとしなかった。」、「株主を小馬鹿にしている印象があった。」」(47頁脚注25)

という発言が紹介されているのも、ちょっとした驚きだった。

また、一連の行為の要因の一つとして、

「歴史的、伝統的な経産省との関わりを背景として、経産省との緊密な情報交換や相談をいわば当然のことと考え、それを頼りにするといった東芝の企業風土にも問題があったと考えるべきであろう。そして、2019年定時株主総会前のキングストリートの株主提案をめぐり和解に至った経緯などもあって、本定時株主総会前の時期においては、情報産業課との関わりは相当に緊密になっていたことが窺われる。企業活動は、自律的であるべきであり、過度に行政に依存する体質は改善する必要があるとの意識が必ずしも十分ではなかったことが、本件一連の行為の原因の一つとなったものといえよう。」(50頁)

という点に触れたところも、「よくぞ言ってくれた!」という感は強い*7

長く長く続いた政権の下で官邸の「民」に対する度を過ぎた「介入」が常態化し、今でも形を変えて「経済安全保障」の名の下にいらぬ干渉がなされる可能性は残っているような状況だからこそ、本報告書が「企業が行政に依存する」ことのリスクに警鐘を鳴らしてくれたことの意味は大きいと自分は思っている*8


皮肉なことに、元々多くの外国籍ファンドを株主に抱えて四苦八苦していた会社は、一連の「不公正な株主総会」を経て、ボードの構成上もファンド推薦の取締役が重要なポジションを占めるようになってしまった。

現時点で今後の展開を予測するのは不可能だが、どう転んでも、今の状態のまま「日本国の経済安全保障」を優先した経営判断を会社に求めるのは酷というものだし、それでもなお「日本企業」としてこの会社を抱え込みたいのであれば、官製ファンドで株式を全部買い取って実質国有化でもするしかないだろうが、今のところそんな気配もない*9

そういった現状に目を向けた時、この一連の問題で猛省を促されるべき”真の敗者”は、東芝ではなく経産省の方ではないか、と思わずにはいられないし、これ以上の真相究明の矛先を向けるべき相手も、もはや「会社」ではない。

傷つけられたブランドの下、所属する組織の行く末すらわからないまま不安定な状況に置かれている善良な社員の方々に、これ以上天上人絡みのノイズを聞かせないように、今回の報告書によって「対会社」という観点から一連の問題に幕が引かれることを今は願うのみである。

*1:東芝[6502]:ガバナンス強化委員会報告に関するお知らせ 2021年11月12日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞

*2:東芝[6502]:ガバナンス強化委員会の設置等に関するお知らせ 2021年8月6日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞

*3:東芝[6502]:会社法第316条第2項に定める株式会社の業務及び財産の状況を調査する者による調査報告書受領のお知らせ 2021年6月10日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞参照。本ブログのエントリーとしては瞠目すべき成果を生み出したのはフォレンジックの進化か、会社法316条2項の威力か、それとも・・・? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~がある。

*4:加えてこの報告書では、「エフィッシモは、当委員会との意見交換において、エフィッシモ自身は、この当時は、経産省とのやり取りに圧力は感じていたが、社会通念上許容される範囲のものであり、不当な圧力を受けたとは認識していなかった、後に調査者報告書で東芝の執行役と経産省とのやり取りを知って憤慨したと述べた。」(29頁注13)といった補充調査の内容もさりげなく書き込んでおり、より法的責任について争いにくくするための仕掛けが施されているように思われる。

*5:当然ながら、当事者は依然として「憤慨」されているようで、22日付の日経ビジネス電子版では、「極めて曖昧で恣意的な評価」、東芝の報告書に元役員2人が反旗:日経ビジネス電子版のような記事も掲載されているが、そこに書かれていることを読んでも自分の印象は全くと言ってよいほど変わらなかった。

*6:もちろん、「アクティビストファンド」=「胡散臭い存在」という印象は、エスタブリッシュな企業の経営陣の多くが抱いているもので、既に会社を離された車谷氏が報告書上も”スケープゴート”にされた面があることは否定できないと思われるが・・・。

*7:合わせて、41頁脚注19で「東芝の役職員の発言」として、「総会対策について、経産省に頼りすぎたことが問題であると思う。」「東芝経産省からヒアリングを受けるのはいいが、経産省が他の人のヒアリングした結果を聞くのはまずいんだろうなと思っていた。」「METIに行政指導に至らない会話をしてもらうことは、違法ではないが、妥当/不当でいえば、不当であったと思う。」「外為法を使うのは得策ではないと考えていた。(中略)そのような対応に加担していたと知れたら投資家からの信頼をひどく損ねる結果になるというリスクがとても大きい。」「だから、一番違和感あるのは、そんなこと(METIから「コンプライアンス委員会などを作らせたらどうか?」とエフィッシモに提案してもらうこと)をお役所に頼むの?という」といった証言が紹介されていることも、東芝という会社が真っ当な方々の集まりだ、ということを改めて感じさせてくれる良い記述だったと思う。問題は、なぜ皆そう思っていながら、止められなかったのか、ということにあるわけだが・・・。

*8:本報告書も「東芝の技術の海外流出を防止し、経営の安定を図ることは、日本の経済安全保障の観点から重要性を有するものであった」として、「経済安全保障」的観点から、「東芝が所管行政庁である情報産業課と良好な関係を保つ必要があることには、特段の異論はない」としているのだが(この辺はいかにも行政訴訟の請求棄却判決のテイスト、である)、既に多くのメーカーがグローバル化して、一部の事業の拠点を海外に移しているような状況もある中で、何を基準に「海外流出」と定義するのかがそもそも謎であるし、WHの子会社化に大失敗してドメスティック化してしまったがゆえにこの会社が「日本企業」として経産省との関係をより深めていたのだとしたら、産業政策とは一体何なのだ・・・と思わずにはいられない。

*9:報告書では立場上「会社の風土」が問題とされているが、その風土ができたのも「相手」あってのこと。本当に苦しい時に手を差し伸べることができないのであれば、細々とした干渉などすべきではないし、”期待”を持たせるような振る舞いもするな、ということは、長く「民」側で生きてきた者として声を大にして言いたいところである。

「牝馬こそ最強」時代の黄昏。

2年続けて阪神競馬場での開催となった第38回マイルチャンピオンシップ

それなりの豪華なメンバーが揃ってはいたが、主役がグランアレグリアただ1頭になる、ということは最初から分かっていた。

何といっても昨年はマイル、スプリント路線でGⅠ3勝を挙げ、文句なしに最優秀短距離馬のタイトルを獲得。
アーモンドアイ、クロノジェネシス、ラッキーライラックと並んで「牝馬こそ最強」時代の一角を支えた馬である。

今年も大阪杯天皇賞(秋)と距離の壁を越えた戦いに挑み、跳ね返されはしたものの、得意のマイル路線ではGⅠタイトルを1つ上乗せして、いよいよこれが現役ラストラン、とくれば、注目を浴びないはずがない。

個人的には、中距離路線にまで色気を出していた分、今年のグランアレグリアには”死角”もあるのではないかな、と思っていたところもあり、特に成長盛りの3歳牡馬・シュネルマイスターの今の充実ぶりを考えると、安田記念での半馬身差は(斤量が当時とは逆転していることを考慮しても)ひっくり返されても不思議ではないな、と思っていたところはある*1

さすがに”単”で順番をひっくり返す勇気はなかったし、三頭の組み合わせの中から完全に外す、という選択もしづらかったものの、先頭はシュネルマイスター、追い込んだグランアレグリアは一歩届かず、そしてその後に、このレースには滅法強い古豪・インディチャンプ、あるいはこの舞台でGⅠ勝ちのあるグレナディアガーズが残る。あわよくばアレグリアの一歩先へ・・・ リアリストに徹すれば、そういう予想が妥当なところではないかと思ったのだが・・・。

現実は、想像以上に「マイルの女王」に優しかった。

決して早くはないペースながら、前に行った馬は思いのほか踏ん張れず、外から回す”王道”ルートを走らせてきたルメール騎手が引き出したグランアレグリアの鬼脚になすすべもなく敗れ去っていった。

唯一追撃を試みたのは予想通りシュネルマイスターで、安田記念に続いて再びコンビを組んだ横山武史騎手も、前回以上の手ごたえを感じていたと思うが、追い出した時点での位置関係がアレグリアとほぼ変わらない、となると、さすがに勝ち目はない。

結果、上がり32秒7のグランアレグリアが優勝、32秒9のシュネルマイスターが2着、そして粘り込みを図った先行勢の中では切れ味が一枚上手だったダノンザキッドがインディチャンプをハナ差交わして3着、とGⅠタイトルホルダーたちが順当に上位を占める幕切れとなったのである・・・*2

勝ったグランアレグリアは、このレース連覇を飾り、これでGⅠ・6勝目。
獲得賞金額でもクロノジェネシスを逆転して、現役最高賞金獲得馬、となったところで引退を迎えることになる。

名伯楽・藤沢和雄調教師が育てた最後の大物が、こういう形できれいにターフの引き際を飾ることができた、ということは、予想の当たりはずれを超えてめでたいことだと思うし、後味の悪さを微塵も感じさせなかったレースぶりと合わせて、あっぱれというほかない。

ただ、去年とはうって変わって、「順当」な牡馬・牝馬のバランスになりつつある今年の競馬界で気を吐いてきたこの馬の引退は、(まもなく予定されているクロノジェネシスの引退と合わせて)ここ数年続いていた「牝馬の時代」の終幕も意味するわけで、そこにちょっとした寂しさはある。

フェブラリーステークス カフェファラオ 牡4
高松宮記念 ダノンスマッシュ 牡6
大阪杯 レイパパレ 牝4
天皇賞(春) ワールドプレミア 牡5
ヴィクトリアマイル グランアレグリア 牝5 ※牝馬限定
安田記念 ダノンキングリー 牡5
宝塚記念  クロノジェネシス 牝5
スプリンターズステークス ピクシーナイト 牡3
天皇賞(秋)  エフフォーリア 牡3
エリザベス女王杯 アカイイト 牝4 ※牝馬限定
マイルCS グランアレグリア 牝5
ジャパンC ?
チャンピオンズC ?
有馬記念 ?

まだレイパパレがいるじゃないか、とか、休養中のデアリングタクトが戻ってきたら、とか、はたまた新星に期待を・・・等々、新たなスターが時代を引き継ぐ可能性はゼロではないのだけれど、今はリアリストに徹して、終わりゆく時代をもう少しだけ堪能したいと思っている。

*1:ピクシーナイト、エフフォーリアと3歳牡馬陣が秋の古馬混合GⅠで思いのほか力強さを見せていることもその背景にはあった。

*2:馬券的には、最後のハナ差が逆の結果だったら・・・というところはあったのだが、それは言っても詮なきこと・・・。

「2位・東急」の時代はいつまで続くのか。

先月の終わりから今月にかけて、3月期決算会社の中間決算が概ね出揃った。

全体的な傾向は前の四半期からそんなに変わっておらず、半導体関連は絶好調、資源系や国際物流系も需要増と価格高騰の恩恵を受け、自動車や工作機械、化学系等、製造業各社も前年の反動で大幅に増収増益、さらに短期的な貸付需要に応えた結果が業績に直結した金融機関も総じて上向き、となっている一方で、前年度好調だったスーパーやドラッグストアは反動でマイナスに転じ、一時期もてはやされたDX系も伸び悩み。さらに百貨店、飲食、旅行といった業態は、前年比では辛うじてプラスを保っているもののコロナ禍の長期化で業績予想を下方修正したところが多い。

現時点で好調の部類に入る業種でも、半導体の供給不足や資源価格の高騰等の影響で下期の予想は弱気・・・ということで、引き続き先行きの見通しが立てにくい状況になっているから、これから投資を考えている人にとってはそれなりに難易度が高い状況ではあると思うのだが、「新型コロナ」という外在的要因のインパクトがあまりに大きすぎて、会社ごとの経営戦略の巧拙による差異が顕在化しにくい状況が生まれている*1、それを前提に「ざっくりとした業界単位の傾向」で銘柄を取捨選択しても大やけどしにくい、という点では恵まれている、というべきなのかもしれない*2

で、そんな業種の中の「個」が見えにくい相場の中で、個性を反映した極めて強烈な濃淡が生まれているのが、鉄道業界である。

元々この業界には、よく言えば安定、ややネガティブに言えば序列固定化への安住傾向、という特徴があった。

全国各地のお金持ちが新しい路線を引きまくっていた明治~大正期や*3、各会社が沿線人口を大きく変動させるような開発を積極的に行うことができた高度成長期ならともかく、少なくとも平成に入って以降のこの業界は、路線のキロ数と走っているエリアの人口密度で輸送量が決まり、コアとなる運輸収入ベースでの序列が決まる、さらに会社ごとの比重の差はあれど、多くはそれに比例する形で関連する事業の収入のレベル感も固定化され、その序列が大きく変わることはない・・・。そんな状態が長らく続いていたように思う。

新型コロナの影響を受ける前の2019年3月期のJR上場4社と大手民鉄15社の売上高は、以下のようなものだった。

<2019年3月期連結売上高>
1.JR東日本 30,020億円
2.JR東海  18,781億円
3.JR西日本 15,293億円
4.近鉄GHD 12,369億円
5.東急   11,574億円
6.阪急阪神HD 7,914億円
7.名古屋鉄道 6,225億円
8.東武鉄道  6,175億円
9.西武HD   5,659億円
10.小田急電鉄 5,266億円
11.京王電鉄  4,475億円
12.JR九州   4,404億円
13.東京メトロ 4,348億円
14.西日本鉄道 3,968億円
15.京浜急行  3,392億円
16、京阪HD   3,261億円
17.京成電鉄  2,615億円
18.相鉄HD   2,605億円
19.南海電鉄  2,274億円

長距離輸送の飛び道具を持つJR3社が上位を占め、それに続くのが民鉄一の旅客営業キロと多くの系列会社を抱える近鉄、という序列は、ここ数年全く変わっていなかったし*4、それに続く序列にも大きな変動はなかったように思う。

元々、景気がよくても悪くても、売上高の変動は数パーセント。リーマンショックで景気が落ち込めばどこも減収になるし、インバウンド景気に沸けば皆揃って増収になる、そんな平和な業界だったのだ。

ところが、新型コロナはそんな業界地図を一変させた。

<2021年3月期連結売上高>
1.JR東日本 17,646億円
2.東急   9,359億円
3.JR西日本 8,982億円
4.JR東海  8,235億円
5.近鉄GHD 6,973億円
6.阪急阪神HD 5,689億円
7.東武鉄道 4,963億円
8.名古屋鉄道 4,816億円
9.小田急電鉄 3,860億円
10.西日本鉄道 3,461億円
11.西武HD  3,371億円
12.京王電鉄  3,154億円
13.東京メトロ 2,957億円
14.JR九州   2,939億円
15.京阪HD  2,534億円
16.京浜急行  2,350億円
17.相鉄HD  2,211億円
18.京成電鉄  2,078億円
19.南海電鉄  1,908億円

どの会社も世情を反映して、この業界ではかつてないほどの大幅減収を記録しているのだが、そんな中でもドル箱の長距離路線が不振で40~50%台の大幅減収にあえぐJR各社やレジャー系のグループ会社の壊滅的なダメージで40%前後の減収となった近鉄、西武といった会社と、減収幅を10%台に留めた会社とで明暗はくっきり。

そしてそれが、東急がJR本州3社に割って入り2位になる、という想像もできなかったような結果につながった。

もちろんこれは、最初の「緊急事態宣言」時の混乱等、様々な異常な要素が重なってのことで、常識的に考えれば同じことが2年も続くわけがない。各社が公表した2022年3月期の期初の予想を並べても、今期に関しては(民鉄内での順番の逆転はあるものの)所定の順番に収まるはずだった。

にもかかわらず、蓋を開けてみれば、第1四半期の時点で、東急はJR東日本、西日本に次ぐ3位。そして第2四半期の連結決算の時点で再び「2位」のポジションを取り戻している*5

<2022年3月期第2四半期連結売上高>
1.JR東日本 8,778億円
2.東急   4,431億円
3.JR西日本 4,368億円
4.JR東海  3,869億円
5.阪急阪神HD 3,108億円
6.近鉄GHD 2,917億円
7.東武鉄道 2,338億円
8.名古屋鉄道 2,243億円
9.西武HD  1,949億円
10.西日本鉄道 1,877億円
11.小田急電鉄 1,748億円
12.東京メトロ 1,482億円
13.JR九州   1,416億円
14.京王電鉄  1,379億円
15.京阪HD  1,186億円
16.京浜急行  1,062億円
17.相鉄HD  1,043億円
18.京成電鉄  1,042億円
19.南海電鉄  916億円

現時点でも後半の回復まで見込んだ通期の予想では、依然としてJR3社が上位を占めることになっているのであるが、”再流行”の動向次第では、1年限りの”椿事”で終わらないかもしれない、というのが今の状況。さらに、もっと強烈なのは、JR各社や近鉄Gが依然として多額の赤字を計上している中で、東急や阪急阪神HD、東武鉄道、さらには上に挙げた中では最も規模が小さい南海電鉄に至るまで、民鉄8社が既に営業黒字に転じている、という事実である。

売上のトレンドで大勢に抗うのは難しいが、利益に関しては工夫次第でどうにかなるところはある。

大幅に営業収支を改善した会社の中には、活況を呈する国際物流系の会社をグループ内に抱えていたり、比較的傷が浅い不動産事業の収益貢献が大きかったり、といった”天の恵み”があった会社もあるにはあるが、事業構造が比較的似通っている本州のJR3社間で比較しても、営業赤字幅を前年同期比で3分の1以下にまで抑え込んだ会社と、依然としてコストコトロールと減損リスクの顕在化に四苦八苦しているように見える会社とでは、大きな差が付き始めている。

守りに徹しなければいけない場面で慣れないところに経営資源を分散させてかえって傷口を広げていないか、資産や事業の思い切った切り離しで将来に向けたリソースを確保しなければいけない場面で、上の目を気にしてズルズルと状況を悪化させていないか・・・。

おそらく、世の中が完全に「平時」に戻る頃には、どの会社の業績も遅かれ早かれ回復するだろうし、そうなった時には再びかつての「業界地図」が再現されることになるのかもしれないが、この2年間の経営の巧拙は、5年後、10年後のB/Sにブーメランのように跳ね返ってくるわけで、その時になって業界地図が激変することも十分予想される話。

だからこそ、「2位・東急」のインパクトと、その先に起きるかもしれないことに、世の中の関心がもっと向けられても良いのではないかな、と自分は思っている。そして、典型的な「コングロマリット」業態とされるこの業界で今起きている”明暗”は、「コングロマリット・ディスカウント」という安直な言葉では表現できないほど複合企業体の経営は奥が深い*6、ということを我々に思い知らせてくれる良い教材ではないのかな、と思う次第である。

*1:例えば、「何か物を作っている会社」であれば、今期に関してはよほどのことがない限り前年度のマイナス分を取り戻してお釣りがくるくらいの増収増益が期待でき、配当も復配・増配となるのは確実で、短期的にはそのトレンドが個々の会社の営業戦略や投資戦略の違いによって大きく変わってくることはないと思われる。

*2:当然ながら、今の東京市場の株価は、ここ数年では一番高い水準にあるから、中長期保有まで視野に置くのであれば、「今の株価が割安かどうか」という見極めだけは徹底することをお薦めするが・・・。

*3:結果的にその多くは過剰投資による経営不振に苦しむことになり、国策も相まって、やがて国有化の道を辿ることになった。

*4:大手旅行代理店の業績が通年で連結決算に取り込まれた2014年3月期以降、民鉄1位の座を不動のものとしていた。

*5:今期に関して言えば、収益認識基準採用の影響で、消化仕入の小売業を主力事業とする東急のP/L上の売上高は目減りする状況になっている・・・にもかかわらず。

*6:事業の組み合わせ如何によっては、今回のような危機の下で「複合」が吉と出ることもあるし、逆に負のスパイラルが生じることもある。今うまくいっている会社で全てが計算しつくされていたわけではないだろうが、危機に直面して複合的なリソースをうまく活用した会社が結果を出しているのは確かで、そうなると、企業価値が下がるのは「コングロマリットだから」ではなく「経営が下手だからだ」というところに結局行き着く、ということになりそうである。

「固定」し続けたことの意味。

最近では珍しくハラハラした展開が続いているサッカーのカタールW杯最終予選。

1勝2敗、と負け越したサウジ戦では、聞こえてくる声はみな罵声、というような状況だったが*1、その4日後にホームでオーストラリアを撃破して一息。さらに先週からの11月アウェー2連戦で、「1-0」の最少スコアながら、ベトナムオマーンも連破して3連勝、グループ内の順位も2位に浮上して年を越す、ということで、10月時点で想像していた可能性の中では一番ベストな展開、になっているはずなのだが・・・。

一夜明け、「勝つには勝ったけど・・・」という感じで、また”森保ジャパン”への恨み節があちこちから噴き出しているように見える。

今月の2試合に関しては、自分は試合の映像を全く見られておらず、「勝ち点6積み増し」という結果だけ見て満足していたから、「何でここまで言われているんだろう・・・」と最初いぶかしく思っていたのだが、この2試合の選手起用を見て、なるほど…と思ったところは確かにあった。

GKはベンチに川島、谷という新旧のリザーブ選手を入れながら権田修一選手を引き続きフル起用。
DFは、この2試合、ベテランの長友選手を下げて中山雄太選手を入れる、というパターンをこの4試合続けている*2
MFはオーストラリア戦以降、田中碧選手や伊東純也選手を先発起用して結果を出す等、比較的変えてきているポジションではあるのだが、それでも試合によって先発・リザーブが切り替わるのは柴崎岳選手くらいで、あとは先発とベンチの「役割」が固定されているように見える。

そしてFW。大迫選手先発、古橋選手を途中起用という展開がここ4試合続いていて、最後のオマーン戦では古橋選手を南野選手との交代にすることで早めに投入する、というオプションを繰り出してきたものの、MF登録の浅野拓磨選手と合わせて”序列”は依然として固定化しており、さらにこの11月の2連戦に関しては、五輪組の上田綺世、前田大然という今が旬の選手たちを連れて行ったにもかかわらず、DF登録の旗手怜央選手ともどもベンチメンバーとしても登録しなかった、ということが物議をかもすことになった。

勝ったとはいえ、結果をみれば「一歩間違えば・・・」の最少スコア差。DAZNに加入して夜な夜な張り付いて見ていたファンに爽快感を味合わせるような攻撃力を90分間発揮できていない上に、オマーン戦で活路を開いたのがしばらく出番のなかった五輪組の三苫薫選手だった、となれば、”采配”に疑問を呈する声は当然出てくる。加えて、ベンチにも入れなかった五輪組の3選手がいずれも「国内組」でJリーグから熱心に見ているファンにとっては思い入れの強い選手たちだった、ということも、コンディションの上がらない海外組(&海外出戻り組)が重用されているように見える今の代表の選手起用への不満に直結したところはあるのかもしれない*3

まあ分からんでもないね・・・というところではあるのだけれど・・・。

*1:W杯予選はこうでなくちゃ。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:ここ2試合に関しては、60分台前半に中山雄太選手を投入、ということで少しタイミングは早くなっているが。

*3:そもそも、今回のベンチ外3選手のうちFWの2選手、特に前田選手は、Jリーグでは驚異的なパフォーマンスを示しているにもかかわらず、五輪でも決してファンを満足させるような使われ方をしていた選手ではなかったがゆえに、なおさら・・・というところはあるのかもしれない。

続きを読む

その糸が繋いだ絆。

全馬ゴールした後、ラジオの音声からも場内騒然、という空気が漂ってくるのを感じながら、「そういえば、昔は”荒れるレース”の典型だったなぁ」と懐かしく思い出した今年の第46回エリザベス女王杯

かくいう自分も、1番人気・レイパパレは高野厩舎の仕上げの微妙さに加えちょっと距離が長いかな・・・ということで切り、2番人気・アカイトリノムスメも「秋華賞勝ち馬とこのレースの相性は良くない」というただ一点の理由で切り、先行勢のマリリン、キートスのウイン2頭に、差し脚自慢の8番人気のデゼルと11番人気のソフトフルートを絡めて”ちょい荒れ”狙いで備えは万全なはずだった。

だが、現実はそんな甘っちょろい想像の遥か上を行く。

コーナーを回って最後の直線、追い込んできたピンクの帽子と白袖赤輪の勝負服を見て胸躍ったのは一瞬の錯覚。

猛烈な脚でそのままゴールまでちぎったのは、一本輪ではなく「二本輪」の岡浩二氏の所有馬。アカイけど、それは鳥の娘ではなく10番人気だったイトの方。

2着に飛び込んできたのは、勝負服は同じだけどデゼルじゃなく*1、斎藤(崇)厩舎だけどソフトフルートではなかった7番人気のステラリア。さらに極めつけはレイパパレと同じクラブながら人気薄の9番人気、福島記念の出走が困難になってこっちに回ってきた、という奇想天外ローテのラヴェル

3連単の配当は優に300万円を超え、本命党はもちろん中穴党でも、ぐうの音もでない結果となってしまった*2

「赤い糸」といえば、恥ずかしげもなく思い出すのは、もう10年以上も前になる土曜ドラマの名作。

そして本来なら脳内に流れるはずのHYの「366日」がいつのまにか、

に変わるのも自分の中のお約束だ。

だから・・・という理由だけではないが、自分はこの馬をこの世代のクラシック有力候補、とにらんで、デビュー2戦目の未勝利戦からしばらく買い続けていた。

距離の伸びた阪神2000mで7番手から差し切って快勝。続く百日草特別もきっちり差して2着。ここまでは良縁。

だが、続く11頭立てのエリカ賞、上がりタイムは最速の33秒8なのに道中の位置取りが悪すぎて、馬券圏内には遠く及ばない8着。
さらに間隔を詰めて平場の1勝クラス、若竹賞と連戦し、いずれも最速上がりながら5着、4着と”当たり”からは見放されるレースが続いた時、自分とこの馬を結び付けていた「糸」も切れてしまったような気がする。

僅か1勝に終わった3歳の停滞期を超え、4歳になった今年は、ちょっと目を離しているうちに最初の半年だけで【2210】と大ブレイク。

前走の府中牝馬Sも、7着なれど復帰初戦で後方から上がり33秒4の脚で突っ込んできているから、この初めて挑むGⅠでいい脚を見せて4着、5着なら次からは再び・・・という展開もあり得たかもしれないのだけど、気づいた時にはいきなり壁を飛び越えてGⅠ制覇だから、これはもう縁がなかったというほかない。


ということで、登場人物の煮え切らなさにハラハラしたドラマと同様、すれ違ってすれ違った末に最後は悲劇(馬にとっては喜劇)な結末となってしまった運命のアカイイトだが、これまで3世代、数々の個性的な馬を世に送り出しながらもビッグタイトルとは縁がなかった父・キズナに初めてのGⅠタイトルをもたらした、という点で、まさに時代を繋ぐ役割を果たした、と言えるのではないかと思うところ。

凱旋門賞にまで挑んだディープボンドを筆頭に、マルターズディオサ、ビアンフェ。3歳にもソングライン、ファインルージュ、バスラットレオン・・・

どの馬も「あと一歩」と言われながら栄冠には届かず、年々激しさを増すディープインパクト後継種牡馬争いの中で、かつてのタヤスツヨシのように埋没してしまう懸念すらあったのだが、この大きな1勝がくすぶっていた血の爆発を呼び、父の後継種牡馬としての地位を確固たるものとしてくれると信じて、次走からはこの日唯一上位に絡めなかったシャムロックヒル*3をささやかに追いかけたいと思っている。

*1:この日、社台レースホースは珍しく4頭も所有馬を送り込んできていた。

*2:個人的には、「どうせ外れるんだたら、せめてより低人気のソフトフルートがクビの差4着の順位を1つ、2つ上げていてくれれば多少は爽快さもあったのに」という思いはあるが、この馬の奇跡の鬼脚はまた別の大舞台で炸裂すると信じて時を待つことにしたい。

*3:このレースは、1着・アカイイト、2着・ステラリアと、キズナ産駒がGⅠでワン、ツーという歴史的なレースだったのだが・・・。

急転直下の決着と、おぼろげながら見えてきたような気がするもの。

一昨年くらいから話題になり続けていた「オプジーボ」の特許使用料分配をめぐる小野薬品と京大・本庶佑特別教授との間の争いが、「和解」という形で決着したことが報じられた。

「がん免疫薬「オプジーボ」を巡り、ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学本庶佑特別教授が小野薬品工業に特許使用料の分配金約262億円の支払いを求めた訴訟は12日、大阪地裁で和解が成立した。小野薬品が本庶氏と京大に計280億円を支払う。これにより特許使用料を巡る一連の争いは決着する。」(日本経済新聞2021年11月13日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ)

提訴が報じられたのは昨年の6月のことだから、ここまでの月日は1年半にも満たず、提訴以前に当事者間でかなり激しい見解の相違が顕在化していたことを考えると、非常に早い決着だったといえる。

記事の中でも「発明の対価に関連する国内訴訟で支払われる金額としては過去最高」と報じられているとおり、会社側が支払ったとされる金額の数字は極めて大きい。

以前、提訴が報じられた時の金額は「約226億円」だったから*1、記事にある「約262億円」という本庶教授側の請求額の数字はそれよりも大きなものだったのだが*2、報じられた小野薬品の支払金額は請求額をさらに上回る数字となっている。

ただ、これについては、記事の中でも、

「小野薬品が本庶氏に解決金として50億円を支払い、京大に設立される「小野薬品・本庶記念研究基金」に230億円を寄付する。」(同上)

と、「280億円」の全てが原告に対する支払いではないことが報じられているし、より詳細な小野薬品工業側のプレスリリース*3によると、

1.当社は、ライセンス契約で定められたロイヤルティ料率を変更することなく、今後も本庶氏にロイヤルティを支払います。
2.当社は、以下の趣旨で、本庶氏に対し50億円を支払います。
 1)ライセンス契約に係る紛争の全面解決に対する解決金
 2)3つの特許(特許第4409430号、特許第5159730号および特許第5885764号、以下「本特許」)及びこれに関連する国内外の特許の有効性を巡る対第三者訴訟において本庶氏が当社に協力したことに対する報奨金
 3)本特許を含むライセンス契約の対象特許における本庶氏以外の発明者に対する清算
3.当社は、国立大学法人京都大学(以下「京都大学」)における今後の教育研究環境の充実及び教育研究支援事業に対する経済的基盤を拡充し、我が国における産学連携の新たな形を示すために、かねてより社内にて検討してきたとおり、当社の自由な意思に基づいて、京都大学内に設立される基金「小野薬品・本庶 記念研究基金」に230億円の寄付を行います

と、当の「50億円」の内訳も、単に「解決金」と一括りするのが憚られるような細かい中身となっているから、これをもって「本庶氏の取り分が実質的に上乗せされた。」日本経済新聞2021年11月13日付朝刊・第7面)と評価するのが適切かと言えば、ちょっと首を傾げたくなるところもある*4


この問題に関しては、当ブログでもこれまで度々取り上げてきた。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

この過程では、企業実務にかかわってきた者として、発明が首尾よく製品化されて多額の利益を生み出すようになってから「ライセンス契約に基づく対価が低すぎる」として争われたのでは企業側はたまったものではない、という思いでずっとエントリーを書き続けてきたし、それは今となっても変わらない。

ただ、今回の和解の報道の中で、「そうだったのか…!!」と初めて気づかされたのは、

研究成果に関するライセンス契約は、当初は今回の訴訟の争点ではなかった。もともと争われたのは、小野薬品が米メルクとの特許侵害訴訟で得た和解金などの分配を巡る問題だった。」(日本経済新聞2021年11月13日付朝刊・第7面)

というくだりで、その後に、

「訴訟がこじれた原因は両者の契約の曖昧さにある。メルクとの訴訟の分配金に関し、文書の契約を交わしていなかった。」(同上)

とあるのを見て、「なぜ、これがこんなに深刻な争いになったのか」ということがようやく理解できた気がする。

日経紙の記事では、「訴訟により得た対価の分配ルールを決めていなかった」ことが”曖昧”と指弾されてしまっているのだが、通常の第三者からのロイヤリティ収入とは異なる、侵害訴訟が起きた時の賠償金・和解金、といった(発生するかどうかも分からない)イレギュラーな収入の分配まで開発、特許出願段階で詳細に定めている契約は、日本国内ではもちろん海外でも決して一般的ではないと思う*5

もちろん、実際に事が起きた時にどちらが対応するか、相手方はその時どうするか、といったことまでは契約書に書くとしても、訴訟、紛争は”生き物”。
解決に至るまでの間に矢面に立たない共同発明者がどの程度汗をかくか、もケースバイケースで、淡々と手続を進めることで勝てる案件もあれば、特許の有効性まで激しく争われ、共同発明者側で実施した様々な実験データ等も駆使してようやく・・・という案件もある。

だから、本件でも、最終的に「メルクに勝った。良かった!」となった時に、そこに至るまでの貢献度に応じて対価の分配方法を決める、というのは決しておかしなことではないし、「それでは曖昧だから」ということで一律に事前に一切の例外なき分配ルールなど定めようものなら、より深刻な対立を招きかねないように思われる。

以下はあくまで憶測にすぎないが、おそらく本件では、

・会社としても訴訟での本庶教授側の貢献は高く評価しており、「40%」支払っても惜しくないと思っていた。
・一方、本庶教授側は、従来のロイヤリティの配分率に不満を抱いており、”そもそも論”で、会社側の提案にすんなり応じなかった。
・そこで会社は、「訴訟の解決金もロイヤリティの一種だから・・・」*6ということで従来の配分率でひとまず処理せざるを得なかった。

ということだったのではなかろうか。

そして、こういう状況の下では、会社側には「本庶教授との契約の中で、訴訟の解決金の配分までは明確に定めていなかった」という弱みがあるし、一方の本庶教授側にも「あったのはあくまで『口頭の約束』だけ」という訴訟での立証を考慮すると致命的な弱みがあるから、裁判所としても、当事者双方に主張したいことを一通り主張させた上で、早々に和解勧試を行い、話し合いのテーブルに乗せる、ということは比較的行いやすかったのではないかと思われる。

記事では、

「裁判で両者の主張が大きく食い違って解決のらちがあかず、裁判所が和解を勧告。和解案に、対立の発端となったライセンス契約に関する「解決金」を盛り込み、なんとか両者が折り合ったというのが実態だ。」(同上)

とややネガティブにも思えるような書き方がされているのだが、会社にしてみれば、「メルク訴訟の解決金の配分だけでなく、長年の懸案だったロイヤリティ配分率や他の発明者への配分の問題まで解決することができた。しかも従来の契約の配分率を維持する形で。」という時点で大勝利だし、本庶教授側にとっても「280億円」というまとまった金額をここで得られる(しかも、今後も引き続きロイヤリティ収入を得ることができる)というのは、決して損な話ではない*7

(丸く、かどうかは分からないが)「双方のメンツを保って争いを収める」ことができた、という点では日本の裁判所の良さが発揮された決着だったのではないかと思われるし、今回の問題の根の深さを考えると、「訴訟で得た解決金の配分ルールを契約書で決めていなかった」ことが一気通貫的な解決につながったという見方すらできるわけで*8、”結果オーライ”的な面もあるとはいえ、これで良かったのではないか、と個人的には思っている。

*1:火蓋は切られてしまったが・・・。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:提訴後に請求の拡張がなされたのかもしれないが、詳細は定かではない。

*3:訴訟の和解成立に関するお知らせ | ONO CORPORATE

*4:そして、後述する本件の経緯を踏まえればなおさら・・・である。

*5:少なくとも自分は外国企業との契約の中でも、そこまで決めていたような契約はこれまで見たことがなかった。

*6:これもケースバイケースだが、訴訟で和解的解決をした場合、賠償金に相当する額を「ロイヤリティ」名目で支払う、というのは比較的よくある話である。

*7:どちらかと言えば会社側に有利な和解内容ではあるが、判決まで行けば本庶教授側の請求が全面的に棄却される可能性も皆無ではない事件だったから、この時点で280億円の支払が確定した、というだけで、本庶教授側にとってのメリットも大きかったと言えるのではないかと思われる。

*8:仮に契約書に「訴訟で得た解決金も1%しか教授側には分配しない」ということが明確に書かれていたとしたら、怒り心頭の教授側は、ありとあらゆる手を使って契約の有効性を争ってきた可能性もあり、その場合、これだけ短期間で決着させることができたかどうかも疑わしい。その意味で「契約の曖昧さ」を全ての元凶のように言うのは、本件に関しては決して適切ではないように思うところである。

続きを読む
google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html