2016年10月6日のメモ

またしても台風が本州直撃か、ということでハラハラさせられたが、関東の住民にとっては思いのほか影響は小さく、過ぎた後には台風一過の秋空。
これで、本当に夏が終わったのかな、という気分になるが、さてどうなることか。

原発事故賠償ルールをめぐる落としどころの見えない議論

先日のエントリーでも少し紹介した、原子力損害賠償制度の見直しをめぐる議論が、「集中審議」の段階に入ったようである。

報道によると、

「事故を起こした電力会社の賠償責任を一定額で打ち切る案と今のまま無限にする案を比べた。無限ではリスクが大きすぎて事業を続けられないとする意見が出た一方、上限を設けると電力会社が安全投資をおろそかにするとの声もあった。」(日本経済新聞2016年10月4日付朝刊・第4面)

ということで。

論点のより詳細な内容は、原子力損害賠償制度専門部会のHPにアップされているのだが(http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo14/siryo14-1.pdf)、個人的には最終的に被害を受けた者の救済が図られるのであれば、責任を事業者に負わせるか、国(最終的には国民全体)に負わせるか、ということは、そんなに大きな違いではないと思っているし、

「福島事故の賠償の実態は無限責任(の現行制度)に合っていない」(同上)

という遠藤典子・慶大特任教授の指摘にも傾聴すべきところはあるように思う。

テクニカルな話として、いざ原子力災害が起きた場合に、事業者を窓口に補償交渉を進めさせるのが良いのか、それとも国を窓口に補償交渉を進めるのが良いのか、というのはあるような気がしていて、その辺は、理屈の問題とは別に、実際、行政補償の現場の仕事にかかわっておられる方々にもしっかり話を聞いておいた方が良いと思うのだけれど*1、事柄自体は、年を越すような話ではないような気もするところである。

韓国、「接待規制」の波紋

先月の終わりくらいから、韓国で「不正請託および金品など授受の禁止に関する法律」(キム・ヨンラン法)が施行されるらしい、内容的にはかなり厳しいものらしい、という話が日本でも話題になっていたのだが、いざ施行されてみると、やはり現地のインパクトは大きいようである。

高級料理店の売り上げや結婚式や葬式への花束の注文が激減したとか、ゴルフ場の客の入りが7割減ったとか・・・

日本でも官僚の不祥事やら、交際費規制の強化やらのアクションが起きるたびに時々伝えられるような類の話だが、この記事*2を丸々鵜呑みにするならば、日本ではなかなか見られないような強烈さであり、記事の最後にある「極端から極端に走る」という韓国社会への評価も、さもありなん、という気はしてくる*3

とはいえ、キム・ヨンラン法が目指している方向自体は、決して間違ったものではないし、個人的には、官民問わず、個人的な付き合いもないのに「他人の金で高級飲食娯楽の接待を受ける」とか「贈答品をもらう」という類の話は、はっきり言って気持ち悪い、と思ってしまう世代だし、オフィシャルなお金が落ちないとやっていけないような店や業界は、さっさと潰れてしまえば良いと思ってしまうクチなので、なおさら、この壮大な社会実験を見守ってみたいところはある。

“東アジアには贈答文化が根付いているから”という理由で、厳しいのか厳しくないのか良く分からないルール(というか慣習?)*4を日本がこのまま放置し続けていると、腐敗認識指数のランキングで韓国はおろか中国にも抜かれてしまうんじゃないか、という懸念はあるのだけど、緩んだ社会には、それっくらいの刺激がちょうど良いのかもしれない。

令状なきGPS捜査に対する判断が大法廷に。

高裁段階でも判断が分かれている「令状なきGPS捜査の違法性」に関し、最高裁が、大阪地裁・大阪高裁ルートで上がってきた窃盗被告事件の審理を大法廷に回付する、というニュース。

コアな法律雑誌の判例評釈等では頻繁に取り上げられてきた論点だけに、最高裁がどういう判断を示すのか、という点について、個人的な興味はある。
仮に、統一的判断が「違法」という結論になったとしても、本年6月の名古屋高裁のように「違法だか証拠排除しない」という判断はあり得るし、仮に証拠排除に至ったとしても、GPS捜査の結果だけが証拠として法廷に出てくる、ということはまずないだろうから、大勢に影響はない、といってしまえばそれまでなのだが*5、今は「プライバシー」というフレーズが徘徊する世の中。

メディアの取り上げ方いかんでは、単なる「強制処分性の有無」という問題の本質を超えて思わぬところに議論が飛び火する可能性もないとは言えないだけに、少し注目してみておきたいところではある。

大隅良典・東工大栄誉教授のノーベル生理学・医学賞受賞

細胞内の「オートファジー」の仕組みを解明した、として、東京工業大学大隅良典栄誉教授(71)にノーベル生理学・医学賞が贈られる、というニュースが飛び込んできた。

研究の内容自体にはコメントしたくても到底できるものではないのだが、栄誉を伝える日経紙の記事の中に、「研究を始めたのは1988年」とか、「1996年に東大助教授から岡崎共同研究機構基礎生物学研究所に移籍してから研究が花開いた」といったエピソードが載っていたのを見て、そんなに“最近”の研究成果だったのか、と驚かされる。

ノーベル賞なんて、“大昔”の研究の成果に贈られるものでしょ、という先入観が強かっただけに、自分が同じ空気を吸っていたキャンパスの中で、未来の栄誉の種がはぐくまれていたのかと思うと不思議な気分になる。

そして、自分が殺風景な大講堂に足を運ぶ道ではなく、ラボに出入りする道を選んでいたらどうなっていたんだろう、ということも、一瞬頭をよぎるのである。ホントに一瞬だけだけど。

お金は大事、ということをつくづく感じさせられるニュース

コアなファンには散々反対されながらも、「必要」として半ば強行導入されたJリーグの2ステージ制が、わずか2シーズンにして廃止、再び1ステージ制に戻る、ということになりそうである。

2ステージ制導入の際には、資金面以外の目的もいろいろと語られていたはずだが*6

「今夏、英国のスポーツコンテンツ配信大手、パフォームグループと10年で総額2100億円の放映権契約を結んだため、競技の公平性が高く、ファンにわかりやすい1ステージ制への回帰の道を探ってきた。」(日本経済新聞2016年10月5日付朝刊・第37面)

ということで、結局は運営資金面の話だけだったのか、ということが、今さらながら良く分かる話になってしまった。

大型の放映権契約をもぎ取ったJリーグ関係者のビジネスセンスはさすがだと思うし、2ステージ制移行を決めた際も、いろんな思いを抱えながら涙を呑んで・・・という関係者は多かったのだろうと勝手に推察しているのだが、プロ野球とは違って「降格」が存在するJリーグの場合、シーズン終盤の試合が“消化試合”になる可能性は決して高くないのだから、やっぱり2年前の時点で、もう少し筋の通った議論をしてほしかったな、とつくづく思う。

そして、10年後、放映権契約が切れたから、という理由で、再び「2ステージ制」に回帰するようなことにならないよう、リーグが今回の慈雨を最大限活用してくれることを願わずにはいられない。

イチロー選手、2500試合出場での終幕。

イチロー選手の2016年シーズンが終わった。

強力外野陣の中で果たして出番はあるのか?という心配をよそに、試合に出れば好調にヒットを積み重ね、数年前には無理かな、とも思われていたメジャー3000本安打を見事に達成*7。チームも中盤まではそこそこのポジションに付けていて、ワイルドカード争いに加わるような戦いぶりだっただけに、もう少し長く活躍を見られるかな、と思っていたのだが、終盤に来てチームもイチロー選手本人も失速し、いつもどおりの早目の終幕、ということになってしまった。

とはいえ、イチロー選手本人の成績に目を移せば、打率.291で、3割こそ逃したものの4年ぶりの好アベレージを記録。
出場試合数、打席数はともに減っているのに、安打数、得点、打点のいずれも昨年を上回った、というのは、不安定な起用に対応する難しさや、絶対的な年齢等も考慮すると、実に見事なことだと思う。

おそらく、イチロー選手本人は「100安打」の大台に少なからずこだわりを持っていたはずだし*8、クールに見えてチームの勝利に貢献したいという思いは人一倍強い選手だから、今年もワールドシリーズの舞台に立てなかった、というのはさぞ無念だろう、と思うのだけれど、来年あたり、いろんなものが噛み合って*9マーリンズがワールドチャンピオンになる日が訪れ、その歓喜に沸くチームの輪の真ん中にイチロー選手がいることを願ってやまない。

そして、できることなら日本の一般メディアも、「イチロー選手がヒットを打ったかどうか」だけではなく、せめて日本人が所属するリーグだけでも、チーム間の優勝争いがどうなっているのか、ということにもっとフォーカスして報道するようになってほしいものだ、と思わずにはいられないのである*10

*1:「3・11」に関しては、東電の交渉姿勢があまりに保守的だったために、これなら国が直接窓口になった方が早いんじゃないか、と思うこともたびたびあったのだが、本来なら民間の事業者が窓口になった方が柔軟かつ迅速な対応が可能になる、という面もあるはずなので、ここは今の実態だけ見て議論しない方が良い。

*2:日本経済新聞2016年10月6日付朝刊・第6面。

*3:さすがにコーヒー1杯差し出しただけで通報されてしまうような社会は、到底健全とは言えないだろう。

*4:公務員に対してはそれなりに厳しい規律が課されているとは思うのだが、民民レベルになるとまだまだ、というところはある。

*5:GPS捜査の結果を端緒として他の証拠を収集したような場合に、芋づる式に全ての証拠に違法性が承継され、証拠排除される、というようなことになれば影響は甚大だが、最高裁がそこまで極端な判断をするとは思えない。

*6:例えば、欧州とのシーズンの時期の違いゆえ、選手の移籍、獲得に支障が出る、とか、前半と後半でガラッとチームの陣容が変わってしまう、といったことも理由になっていたような気がする。

*7:“日米通算”の話はあえてしない。

*8:終盤に大きく失速してしまったこともあり、結局は「95」安打止まりとなってしまった。

*9:ホセ・フェルナンデス投手の弔いのシーズンにもなる。

*10:サッカーだと、欧州のリーグでもチームの動向を含めて取り上げられることが多いのに、なぜメジャーリーグになると、チームの勝敗度外視の報道になってしまうのだろう、というのは毎年つくづく思うことである。

2016年10月3日のメモ

週が変わって、やっぱり10月だなぁ・・・と思ってしまうエピソードが満載なのであるが、やるしかない。
体壊さない程度に。

JASRAC新理事長のインタビュー

最近、著作権業界の動きにはすっかり疎くなっていて、「6年ぶりにJASRACのトップが交代」というニュースも、今日の日経紙の法務面を見て初めて知った。

新理事長の浅石道夫氏といえば、常務理事時代、権利者側を代表して文化審議会著作権分科会の小委など、数々の著作権制度の議論の場に登場され、ユーザー側の委員とのバトルの矢面に立たれていた“論客”である。
そして、理事長就任以降も、今回のインタビュー関係でも言及されているように、幅広い分野のコンテンツの「拡大集中許諾制度」をあちこちで提唱されている、ということで、一部のユーザー側からは危惧する声も出ているようだ*1

個人的には、「権利関係が複雑な(あるいは良くわからない)ので、使いたくても使えない」著作物を世の中で有効に活用するためには、「拡大集中許諾制度」という制度設計も全くあり得ないわけではないと思っているし、今回のインタビュー記事で浅石氏が語っておられるような、

「著作物は使われてこそ意義があり、利便性を高めて利用を促進すれば使用料の徴収も増え、権利者に還元できる。」(日本経済新聞2016年10月3日付朝刊・第15面)

という発想には、自分も共感するところが多い。

現在のJASRACモデルがベストだとは思わないが、「利用者の窓口の一元化」自体は今後に向けた重要な課題だし、利用者側の立場から見ても、安易なフェアユース導入議論に乗っかるより*2、リスクとストレスを確実に減らせる手段だけに、そんなにおかしなことを言っているわけではないよね、と、思うところである。

なお、「著作権使用料の徴収方式を巡る排除措置命令で、審判請求を取り下げた理由は何ですか」という問いに対し、環境の変化やJASRACに対する損害賠償請求の取下げ、といった事情と共に、

「長年係争を続けてきた担当者にこぶしを下ろせというのも酷な話で、役員刷新も一つの契機となった」(同上、強調筆者)

というのを挙げられていたのを見て、どこの組織でも同じような話はあるんだな、と思ったことも付言しておきたい。

予測不能な世論の風

先日、立場によって評価は様々だなぁ、と呟いた*3米大統領選のテレビ討論会で、案の定トランプ候補の陣営が「勝利」を主張している、というニュースが取り上げられている*4

記事自体は、どちらかと言えばネットを通じた「トランプ優位」の投票結果に懐疑的な目を向ける方向で書かれているのだが、こと選挙に関して言えば、回答者が実際に投票に行くかどうかわからない「無作為抽出による統計的調査」と、熱狂的な回答者は確実に投票に行く「インターネット調査」のどちらが結果に直結するのか、何とも言えないところはあるような気がする。

インテリ層がトランプ候補の言動に眉を顰め、“旋風”に対して懐疑的な論調のコメントを発し続ければ続けるほど、大きな現実とのギャップが生まれる、というのがこれまでの展開だっただけに、現在一部のネットメディア上でみられるトランプ氏への“評価”もまた、今後の波乱を暗示しているように思えるのは自分だけだろうか。

セ・リーグ全日程終了

広島がぶっちぎり(結局17.5ゲーム差)で優勝を飾ったセ・リーグがリーグ戦の日程を終えた。

ヤクルトの山田哲人選手が「2年連続トリプル3」の偉業を達成していたり、ベイスターズ筒香嘉智選手が遂に本格開眼して本塁打、打点の2冠に輝いたり、と、個人タイトルに関してはいろいろと興味深いニュースもあるのだが、そんな中、優勝争いとも、個人タイトル争いともほぼ無縁だったタイガースが、終盤に来てスルスルと連勝を積み重ね、気が付けば4位でシーズンを終えている。

今季急成長を遂げた岩貞投手が最終戦も勝って10勝目を挙げたり、辛抱強く使われ続けた高山選手が球団新人最多安打の記録を残したり、と、若手中心の選手起用が終盤に来て一応の結果につながった、ということは、新監督の数少ない功績として取り上げても良いのかもしれない。

ただ、下位チームのCS進出可能性が消えたのは結構前の話で、「4位」になったとは言っても借金は「12」。
モチベーションの低いチーム同士の順位争いの中でほんの少し抜け出したからといって、良いシーズンだったなどとは到底言えないだろう。

優勝の芽が消えた後に、台頭した若手が頑張って(個人レベルでは)そこそこの成績を残し、「来年はいけるかも・・・」と思ったのに翌シーズンの成績はさっぱりだった、というのは、“暗黒時代”にファンとして散々経験させられた苦い思い出だけに、今年の結果にも何となく既視感が漂っているのだけれど、今年コロコロ変わるオーダー表の穴埋めをした選手たちが一人でも二人でもコンスタントに結果を残せるようになれば、微かな希望の灯がともる可能性もあるわけで、そこに何とか願いを込めたいところである。

できることなら、監督にはもう少し忍耐強さを身に付けてほしいと思っているし、それが無理ならさっさともう少し辛抱強い監督を連れてきてくれ・・・というほかないのだけれど。

松坂選手は復活できるのか?

一昨年末に“日本球界復帰”を果たして以来、度々の故障もあってなかなか登板の機会がなかった松坂大輔投手が、ホークスの今季最終戦でようやく10年ぶりの復帰登板を果たした。
当然ファンの声援は凄かっただろうし、敵将・梨田監督も、松井稼頭央選手を代打起用する、という粋な計らいを見せたのだが、結果はデッドボール。

立ち上がりから4連続四死球、という規格外の乱調で、1回5失点・防御率18.00、という屈辱的な成績だけが残った。

メジャーで大きな故障に見舞われ、投げるフォームも放たれるボールも全盛期のものには程遠い。
同学年の和田毅投手が、今季、日本球界で華麗な復活を遂げたことを考えると、年齢を理由にするのはまだまだ早い気もするのだが、「自信が確信に変わった」時代を見てきた者としては、どうにもこうにも寂しいわけで。

現実は漫画ではないから、ここから松坂選手が再び勝ち星を重ねる姿を魅せてくれることを望むのは無謀なことなのかもしれないけれど、せめて、かつて漫画のストーリーを超えた世界にいたヒーローとして、今その立場にいる大谷選手と真っ向勝負するような機会が一度だけでも見られないか、と思わずにはいられない。

*1:http://buzzap.jp/news/20160806-jasrac-novel-picture/など参照。

*2:浅石氏といえば、JASRAC、というより全ての権利者を代表するような形で「フェアユース反対」の論陣を張っていたことでも有名だが、一方で「米国と同レベルの訴訟制度(懲罰的賠償等)が導入されるなら別ですよ」みたいな話もされていたのを耳にしたことがあって、そうなると迂闊に「フェアユース」などとは呟けないな、とその時思ったものである。

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20160928/1475281956

*4:日本経済新聞2016年10月3日付朝刊・第4面。

2016年10月1日のメモ

というわけで、新しい月の始まり。

カレンダー上、週の半ばで月が切り替わると、頭では分かっていても感覚が付いていかず、週末になってようやくカレンダーをめくる、ということも結構あるだけに、金曜日で月が終わって土曜日が「1日」というパターンは結構安心する。

タブーを打ち破り続ける都政に落としどころはあるのか?

2020年の東京オリンピックパラリンピックをめぐり、総費用が「当初の4倍に当たる3兆円超」に膨らむという試算をぶち上げ、調査チームに大胆なコストカット策を提言させたかと思えば、豊洲の“空洞”問題では「組織内の連携不足」をあぶり出す*1

小池百合子東京都知事の就任により、皆何となく胡散臭い、と思っていた事柄の裏側が、これだけの短期間で次々と白日の下に晒されることになるとは、選挙の時点で何となく1票を投じた都民も大方予想していなかったのではないだろうか。

一つの行政組織でありながら、部門ごとに全く別の“会社”になってしまっている「東京都」の異様性は、かかわったことのある人なら誰にでも分かることだし、一般市民の目から見ても、それぞれの部局ごとにホームページを立ち上げている様を見れば、何となく普通じゃない、ということに気付くはず。

その意味で、縦割り、蛸壺化が招いた意思決定構造にメスを入れ、あるべき姿を示すことには大きな意義はあると思う*2

ただ、豊洲にしても、五輪にしても、タイムリミットは明確に設定されているわけで、東京都と都民以外にも利害関係者が多数いる、という現実を考えると、理想を追うだけでは到底、合理的な解は導けない。

百戦錬磨の都知事のことだから、どれだけ風呂敷を広げたように見せても、最後にはそれなりの落としどころを考えているだろうとは思うのだが、ひとたび世論に火が付けば簡単には止められなくなる、ということも、他の地域ではよくある話だけに、しばらくはハラハラしながら見守り続けることになるのだろう。

「再雇用後」をめぐる名古屋高裁判決

定年退職後の再雇用に関し、名古屋高裁が比較的インパクトのある判決を出したようである。

トヨタ自動車で事務職だった元従業員の男性(63)が、定年退職後の再雇用の職種として清掃業務を提示されたのは不当として、事務職としての地位確認と賃金支払いを求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁藤山雅行裁判長)は28日、訴えを棄却した一審判決を一部変更し、約120万円の賠償を命じた。地位確認は認めなかった。」(日本経済新聞2016年9月29日付朝刊・第42面)

かつて「国敗れて・・・」と言わしめた藤山裁判長のコートだけであって、相手が地元随一のグローバル企業だろうが容赦ない、といったところだが、記事に引用されている、

「全く別の業務の提示は『継続雇用の実質を欠き、通常解雇と新規採用に当たる』」
「適格性を欠くなどの事情がない限り、別の業務の提示は高年齢者雇用安定法に反する」(同上)

といったくだりが一般的な規範として一人歩きしてしまうと、実務的にはそれなりの影響が出てしまいそうな気がする。

事務職→清掃業務、という配置転換が、一般的に見てかなりの不利益を伴うものであることは否定できないし、それゆえに導かれた結論自体は理解できるものなのだけれど*3

吉野家を改めて好きになった「私の履歴書

9月の日経紙朝刊に連載されていた「私の履歴書」。
主人公は、安部修仁・吉野家ホールディングス会長だったのだが、これが実に興味深いものだった。

音楽の世界で目が出ず、アルバイトで入った吉野家で正社員に取り立てられて・・・というエピソードも、通常の企業人の「履歴書」にはない展開でなかなか面白かったのだが、やはり今回の物語の最大のヤマ場は、創業者の下で急成長を遂げていた吉野家が80年前半に失速し、会社更生法の適用に至るまでの攻防と、その後セゾングループの傘下に入って復活を遂げるまでの道のりだろう*4

あくまで本人視点で書かれているものだから、美化されたり、少々の脚色をされたりしているところはあるだろうけど、それでも、傾いた会社にありがちな経営の混乱だとか、会社更生の手続きに入ってからの弁護士との緊迫したやり取りといったところは、渦中で会社の屋台骨をギリギリのところで支えていた方だからこそ書ける、貴重な証言録だった*5

そして、その後のエピソードからも、いったん潰れた会社に踏みとどまって立て直す、というできることなら誰も味わいたくない苦労をしたからこそ、浮き沈みの激しい飲食業界でその後の30年を乗り切ってこられた、ということも随所に感じられて、企業人向けの“教科書”としては、極めて秀逸なものになっていたのではないかと思う。


ちなみに、「吉野家」には、学生時代から社会人になってしばらくの間、かなりのヘビーユーザーとしてお世話になっていたし、新幹線代をけちって使った夜行列車を降りて、まだ薄暗い早朝に駅前の吉野家で食べた朝定食(牛鮭定食)が胃袋に染み渡ったことも一度や二度ではない。

ここ数年は、足が遠のいていたのだが*6、毎朝、「履歴書」を読むたびに懐かしくなって、今月に入ってから久しぶりに何度か足を運ぶことになった、ということも一応ここで告白しておきたい。

朝ドラのラストシーンの難しさ

もう一つ、長く続いていたものの終わり、ということで、今年上半期の朝ドラ(連続テレビ小説)「とと姉ちゃん」が1日の放送をもって完結した。

いつもながら、最初から最後まですべてを視ることができたわけではないのだが*7、東京側の制作ということもあって、ここ数年の傾向どおり、戦争の不条理さや女性の社会進出の壁、といった問題を前面に出した“社会派”色がかなり強い内容だったし*8、主演の高畑充希のメリハリの利いた演技が冴えていて、非常に気持ちの良いテンポで進んでいくドラマだった、ということもあって、最後の一回までは概ね良い印象だったのだが・・・

制作側としては、始まって二週目から、専ら「写真」だけの登場になってしまった西島秀俊を最後の最後に登場させることで、“ファンサービス”したつもりだったのかもしれないが、あの最後の何分かで、それまでの引き締まったストーリーが一気に崩れてしまったことは否めない。

朝ドラに関しては、過去にも何度か似たような“ガッカリ”感を味わったことはあるのだが、今回はその前の花山伊佐次(唐沢寿明)の“遺言”のシーンが沁みるものだっただけに、なおさらそこでピシッと締めることができなかったのか、と。そして、こういう長編ドラマを綺麗に終わらせることがいかに難しいことなのか、ということを改めて感じさせられることになった次第である。

引退の秋

プロ野球のリーグ戦も間もなく日程終了、ということで、ここに来て「引退」のニュースが相次いでいる。

幸福にも“ラスト登板”“ラスト打席”の機会を与えられた選手も結構いたのだが、横浜DeNA三浦大輔投手などは、7回1死まで約120球を投げて8奪三振という力投を見せ、まだまだ現役を続けられたんじゃないかな、と思わせるラストだったし、タイガースの福原忍投手も、最終登板こそ「打者1人」に留まったものの、昨年61試合登板、2年連続ホールド王に輝いていたピッチャーだったことを考えると、“チーム事情”により引退を余儀なくされた、という感が強い。

球団の若返り方針等の様々な事情と、“まだできる”という思いとの間で折り合いを付けるのは容易なことではないと思うのだけど、今シーズン初めの松中信彦選手の苦闘などを見てしまうと、ファンとしても、“花道”を用意してもらえる間に辞めるのが華だよね・・・と思ってしまうところはあるわけで。

そして、しめやかに行われるセレモニーの陰で、かつて主力選手として活躍したにもかかわらず、“引退試合”はおろかシーズンを通して一軍での出場機会すら与えられずに球界を去っていく選手たちもいる、という事実に思いを向けずにはいられないのである。

*1:豊洲市場地下空間に関する特別調査チーム 自己検証報告書 http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/siryou/team/掲載。

*2:せっかく五輪で初めてのメダルを獲って勢いに乗っていたカヌーの競技会場(海の森水上競技場)、しかもメダリスト本人が切望していた人工コース付きの競技場の話が白紙に戻りそうな雰囲気になっているのは、何とも気の毒というほかないが。

*3:もっとも、判決文の事実関係もまだ見られていない状況なので、そこは何ともいえないが。

*4:9月14日から9月20日付の朝刊に連載されたエピソード。

*5:そして、最後まで経営の第一線から退場することを余儀なくされた創業者への敬意で満ちていた、というところも好印象だった。

*6:吉野家から、というより、和食系のファストフード全般から足が遠のいていたような気がする。

*7:平日の普通の放送時間帯に在宅していることはまずないので、週末の再放送でまとめて視ることが多いのだが、それすらままならないことも時々あったりするので。

*8:前作の「あさが来た」には、主人公があまりに恵まれた環境で活躍しすぎ、という感もあったため、今回の作品の方がリアル感は強かった。特に、小橋家一の才女で、唯一女子大まで卒業して活躍していた次女が結婚を機に退職してしまう、というくだりは、あまりにシュール過ぎて、個人的には全く喜べないシーンだった。

2016年9月28日のメモ

ここ数日、会う人会う人と、「9月ももう終わっちゃうよ〜」という会話しかしてないような気がして、それっくらい追い込まれている半期末。
まだほんのりと暑さが残っている間は、カレンダーのことは忘れて仕事をしたい気分ではあるのだけれど、我に返るとシビアな現実・・・である。

北海道日本ハム奇跡の逆転優勝

オールスター休みに差し掛かるくらいまでは、「もう決着ついたね」と皆思っていたパ・リーグで、北海道日本ハムが11.5ゲーム差をひっくり返して優勝を果たす、という大波乱が起きた。
“メーク・ミラクル”の屈辱から苦節20年でリーグ優勝したチームが出た年に、こういうドラマが起きる、というのは何とも不思議なことだとは思うが、後半戦の戦いぶりだけを見ていれば、ファイターズが優勝に最もふさわしいチームだったことに疑いはないだろうと思う*1

そして、最後の最後に「打」を封印して本気の全力投球をした大谷翔平選手の圧巻の完封劇。

“二刀流”に懐疑的な評論家は未だに多いし、自分も、大谷選手が打者に専念したら、どれだけ凄い選手になるんだろう(そういう意味で自分は「打者」派である)と思うときはあるが*2、それでも今日のようなピッチングを見てしまうと、「投手か打者のどっちか」だとやっぱりもったいないと思うわけで・・・。

「10勝、100安打、20本塁打」というギネスブック級の偉業を成し遂げてもなお、“二刀流”に懐疑的な目を向ける人が消えないようなら、来シーズンは「20勝、200安打(あるいは4割とか50本塁打とか)」で決めてやれ、という感じである。

何のための知的財産制度見直しか?

26日付け朝刊に、IoTデータを営業秘密として保護する云々、という記事が載っていたと思ったら、翌日には、経済産業省特許庁による検討会設置、というニュースまで出てきた。

経済産業省特許庁は26日、モノとインターネットをつなぐIoT技術や人工知能(AI)を活用する『第4次産業革命』に備え知的財産制度を見直すための検討会を設置すると発表した。」
「データやAIを特許や著作権で保護するのは難しいことから、経産省不正競争防止法に基づく『営業秘密』として扱い保護を強化する方針だ」
日本経済新聞2016年9月27日付朝刊・第5面)

特許や著作権でIoT関係のデータを保護するのが難しい、という点は分かるが、「営業秘密」として扱うためになぜ法改正が必要なのか、というところは、自分は未だに良く分かっていない。

不正競争防止法上、「営業秘密」として保護されるかどうかの要件は明確に定まっているわけで、IoTデータだって、一定の要件を充たせば現行法の下でも当然保護されて然るべき、ということになる。
それにもかかわらず、あえて法改正をしたい、というのは、既存の不競法の要件だけでは保護できない何かがある、ということなのだろうが、それが何なのか、ということが今一つピント来ない。

いずれ、本格的に議論が始まれば分かることなのかもしれないが、「第四次産業革命」というタイトルと合わせて、これら一連の動きが何となく謎めいて見えてしまうのは自分だけだろうか。

「法案文書 自動で作成」?

最初見出しをみたときは、日本のAI技術も立法ができるくらい進化したのか、とぶったまげたが、よく読めば、

「改正案に必要な単語などを電子システム上で入力すると、どの文言がどう改正されるかを示す『改め文』が自動的に作成される」(日本経済新聞2016年9月27日付朝刊・第5面)

というレベルの話で、なーんだ、という感じではある。

もちろん、ちょっとした用語の置き換えや表現の書き換えでも、積み重なれば膨大な作業量になることはあるわけで、作業量軽減、という点では非常に大きなインパクトがある話なのは理解できるところ*3

個人的には、「・・・に改める」的な、誰も読まない(まともに読めない)体裁の法案フォーマットは廃止してしまって、「現改比較表のみ」で対応した方が、よほど効率的、かつコスト削減にもつながるのではないか、と思うのだが、そこまで行くのはいつになることやら。

法科大学院、風前の灯

ここ数年の恒例となっている文部科学省の「法科大学院評価結果」が今年も出た。

かつてに比べると、リストに上がっている法科大学院の数も大きく減ってしまい、随分とコンパクトな感じになってしまっているのだが、それでも、最低ランク(補助金の基礎額ゼロ)となった法科大学院は7校もある。

「金沢大、北海学園大青山学院大、明治大、桐蔭横浜大、南山大、近畿大

これだけインパクトのある話なのに、どういう基準でこの評価をしたか、ということについて、個別の大学ごとの“講評”がどこにも見当たらないのだが、前年度までは「60%」の評価を受けていた明治大、青山学院大桐蔭横浜大といった関東の名の通ったローがここに入ってきてしまったのは何でなのか、とか、逆に西南学院大が0%→80%と躍進を遂げたのは何でなのか、などなど、いろいろと疑問は尽きない。

そして「合格率」を基準とする限り、こと「司法試験」という競争上は大きなハンデがある社会人向けの夜間法科大学院の評価が必然的に下がってしまう、ということも気になるわけで。

リストがコンパクトになっていく過程で、司法試験の受験者、さらには法科大学院の受験者自体も激減の一途を辿ってきた、という歴史が厳然と存在するだけに、安易な傾斜配分で裾野を狭めるような愚は犯さない方が良いのではないか、と思うのだけれど・・・。

米大統領選討論会の“印象”

アメリカの大統領選もいよいよ大詰め、ということで、第1回のテレビ討論会が行われた。

27日夜、CX系のユアタイムという番組でダイジェストを見たのだが、その時の編集は「ヒラリー圧勝」を強く印象づけるもので、コメンテーターの発言もそれに添ったもの。
合わせて報道されたCNNの世論調査でもヒラリー・クリントン候補の勝利、という意見が圧倒的多数を占めていた。

ところが、一夜明けて、日経紙を見たら、有識者のコメントも、現地メディアの世論調査の数字も、「思いのほか拮抗した討論会だった」という総括になっている。

今や、YouTubeに討論会の映像が字幕付きでアップされる時代なのだから、自分で見て判断しろよ、ということなのだと思うが、元々、候補者双方のキャラが強く、メディアの中にも有識者の中にもかなりの好き嫌いがある、ということで、何を信じればいいのか、なかなか判断が難しい戦いになってしまっているな、という印象はある*4

所詮、異国の地での出来事とはいえ、他山の石として考えさせられるところは多いような気がする。

千両役者の陰に隠れてしまった新体制の船出。

自身の国籍問題に加え、しばらく表舞台から遠ざかっていた野田前首相を幹事長に復帰させたことで*5、何となく微妙な評価になってしまっている民進党蓮舫代表。
そして、最初の大きな見せ場になるはずだった国会の代表質問も、明らかに日が悪かった。

プライムタイムの政治系ニュースは、千両役者・小池百合子東京都知事所信表明演説一色。

矢継ぎ早に打ち出す“ガラポン”的な見直しの指示がことごとく当たり、「これまでの都政」への不満をそのままのみ込んで支持率を上げていく、という手法はマネしたくてもそうそうできるものではないし、彼女の見えない影が、本来放逐されていても不思議ではなかった若狭勝衆院議員を党公認の“後釜”候補にまで押し上げた、という現実もある。

ただ、全国ニュースで国政よりも都政の方が盛り上がってしまっている状況は、やはり本来、あまり歓迎すべきことではないわけで、野党第一党には、頼むからもう少し存在感を高めてくれ・・・と思わずにはいられないのである。

*1:どちらも嫌いではないチームだけに、このまま日本シリーズでぶつかることになった場合にどちらを応援するか、というのが、悩ましい問題になってくるのだが・・・。

*2:現に、今年のファイターズの逆転劇が、大谷選手が投げられなくなってバッターとして毎試合出場したことで、打線の迫力が格段に増したことに起因する、というのは疑いない事実である。

*3:民法(債権法)の改正案なんかも、整備法案と合わせると改正法案それ自体のボリュームは、とてつもないものだった。

*4:そもそも、予備選の段階から米国メディアは読み違いを繰り返し、結果的に誰も予想しなかったトランプ候補がテレビ討論会の場に立っている、という現実もある。

*5:結果的に選挙での大敗を招いたとはいえ、消費税増税という大きな政治的決断をした野田首相には、歴史に名を刻む資格があると思っているし、まだまだ表舞台で活躍してほしい、と思っているだけに、個人的には朗報だったのだけど・・・。

2016年9月25日のメモ

グダグダと仕事やら家事やらに追われているうちに、あっという間に飛び石連休も終わり、日が変われば仕事の負荷がますます増えてくる憂鬱なシーズンに突入してしまう。

立ち止まって考えることも、秋の夜長に本でも読みながら思索にふけることも、かれこれもう何年も果たせていない“夢”のまま変わりない状況だが、いつか、そう遠くないうちに、こんな時が懐かしくなる時もくるのだろう、と信じてやっている。

「解禁前に選考」の何が悪い。

全国の大学でつくる就職問題懇談会と内閣府が、今年度の就職活動について企業や学生を対象に実施した調査結果をまとめた、という記事が載ったのは22日の朝刊。
そして、翌23日、文部科学省のサイトに調査結果(速報版)がアップされた。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/09/1377496.htm

日経の記事では、就職活動「解禁」前に採用選考を開始した、という会社が56.7%と、5割を超えた、という点がやたら強調されているが*1、個人的には、4割以上の会社が「6月解禁」ルールを守っていたのか・・・ということの方が興味深かったわけで*2
そして調査結果を見ると、「内々定」を出したタイミングに関しては、「6月」という回答がさらに増えて単月で40.1%という数字になっている*3

これと、「就職活動が比較的短期間で済んだ」53.6%という学生の回答を合わせ読むと、浮かび上がってくるのは、5月に入った頃からそろりそろりと五月雨式に採用選考が始まり、6月に入ってヨーイドンと内々定祭りが始まる、という状況。

今年度に関しては、「就職・採用市場が売り手市場だった」と回答した会社が実に82.8%に上っているし*4、現場の実感もその感覚にかなり近い。

それゆえ、ちょっと出遅れたばっかりに、目を付けていた学生をごっそり他社にさらわれた、という企業も今年は決して少なくなかったはずで、来年以降はより「6・1」に近接した採用活動がなされることが想定されるのだけれど、そうなったときに律儀に「解禁日」を守って、1日、2日で採用活動を終わらせてしまう会社と、3月、4月くらいからじっくりと水面下で採用選考を進めていた会社とではどちらが学生フレンドリーか、と言えば、個人的には後者のような気もするわけで、「ルールを守れ」と唱え続けることが能じゃない、ということは、もう少し強調されて然るべきではないかと思う。

思わぬところで登場した元欧州委員会委員の名前

パナマ文書に続いて話題になりそうな「バハマ文書」。
良くまぁこれだけ立て続けに情報がリークされるものだと思うが、そんな中、新聞を賑わせているのが、かつて競争法の世界で“鬼”と恐れられた、欧州委員会のクルス元副委員長が「バハマ登録企業の役員として登録されていた」というニュースである。

バハマ設立企業の役員として登録されていた」という事実だけでは、いかなる色も付けようがないわけで、現時点で安易に評価を下すことはできないのだが、仮に悪い方のシナリオで考えるならば、

「あれだけ「公正競争」の旗を振り回していた方のお名前をこんなところで見かけることになるとは、欧州というのは何と懐の深いところなのだろう・・・」

ということになってしまいそうである。
もちろん、皮肉だが。

Bリーグ、はどこへ行く?

ここのところ1,2週間、広瀬アリス・すずの姉妹を前面に出して*5、かなり派手に前宣を展開していたバスケットボールの新リーグ。
何となくJリーグ開幕前のワクワクするような雰囲気も思い出したりもして、少々懐かしさに浸っていたりもしたものだが、始まってみると開幕戦の東京−琉球以外のカードは、ほとんどスポーツニュースでも省みられることがなかったし、テレビ中継とも無縁な状況になっているようである。

テレビ中継に関しては、1993年と今とでは、そもそも「テレビ」というものを取り巻く環境が大きく異なっており、サッカーはもちろんプロ野球ですらも「テレビ中継三昧」というパターンからは縁遠くなっているから、あまり言っても仕方ないのかもしれないが、そうであれば、せめて新聞のスポーツ面で報じられる時くらいは、もう少し目立つような取り上げられ方をされても良いのではないだろうか。

会場が熱狂的なファンでどんなに盛り上がっているのだとしても、その結果が、かつての「日本リーグ」と同レベル、J2の試合結果と同じレベルの小ささで扱われてしまっているとなると、コアな層以上にファン層を広げていくのはなかなか難しいような気がしてならない。

当世随一の仕掛け人、川渕チェアマン(古い・・・)が絡んでいる企画だけに、Jリーグの100年構想同様、中長期的視点でいろいろと手を打っているはずだし、だとすれば足元のメディア上での“不人気”など取るに足らないことなのかもしれないが、ちょっと火が付けばもっともっと盛り上がられるスポーツだと思うだけに、これからじわじわと人気が浸透していくことを今は願うのみである。

「○○年ぶり」というフレーズの懐かしさと切なさと。

先日、カープが25年ぶりの優勝を遂げた、というニュースに触発されたのかどうなのか、大相撲の秋場所では、大関豪栄道関が貴乃花以来20年ぶりの日本人全勝優勝という快挙を成し遂げ、東レテニスでは大坂なおみ選手が伊達公子選手以来21年ぶり、という決勝進出を成し遂げた。

自分にとってはどちらのエピソードも、“もうそんなに経ったの?”と言いたくなるような感じで、時の流れの速さを身に染みて感じているわけだが、こういうのが続く、というのも何かの巡りあわせなのだろう。

かつて伊達公子選手の体力を振り絞った戦いに一喜一憂し、時に涙した世代の人間としては、彼女に大坂選手並みの身体能力が備わっていたらどれほど凄い戦績を残せていただろう・・・と、思わずにはいられないのだけど。

君の名は。」遂に興行収入100億円突破。

封切りから1カ月。新海誠監督が生み出した史上最高のアニメーションが、とうとう興行収入でも大台を超えた。
日本映画としては3年ぶり。当初話題が先行していた「シン・ゴジラ」を遥かに凌駕する結果を残し、今もなお、スクリーンめがけて映画館に通う人波は途切れることがない。

映像表現の美しさと並んで、ストーリー展開の意外性(そして張り巡らされた伏線が最後の最後で一気に回収される爽快感)にこの作品の最大の魅力があるので、ネタバレになるようなことを今ここで書くわけにはいかないのだが*6、商業主義に毒された“ジブリ”ブランドに殺されかけた日本のアニメ、そして二次元だからこそ描ける良質のドラマの神髄を見事なまでに復活させてくれたこの作品を、自分は一日本人として誇りに思う。

そして、(少々のリスクはあろうとも)「クライマックスは映画館でしか見せない、教えない」というスタンスを徹底することがいかに大事か、ということも、(シン・ゴジラとの比較で)この映画が教えてくれたように思うのである*7

*1:日本経済新聞2016年9月22日付朝刊・第34面。

*2:アンケートには建前だけ書いた、という会社も何社かは混ざっているだろうが、それにしても、高い数字である。

*3:http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/09/23/1377501_4_1.pdf

*4:http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/09/23/1377501_4_1.pdf・5頁。

*5:どうでもいいが、この姉妹、特に広瀬すずの方は、この件に限らず、さすがに最近“出過ぎ”じゃないかと思うくらいテレビ画面に映り込んでいたこともあって、個人的には若干食傷気味ではあった。

*6:とりあえず、前宣で繰り返し流れていた映像は、この映画のほんの一部分にすぎない、ということだけは言っておこうか。

*7:これから、「そんな映画だったんだ」ということに気づいて映画館に足を運ぶ人はもっと増えるだろうから、200億円の大台に届くのも夢ではないと思っている。

2016年9月21日のメモ

シルバーウィークといっても、今年のカレンダーの休みは3日だけ。
谷間にも容赦なく重たい予定は入る、ということで、何の面白みもない状態で台風に脅えながら出勤、という事態になってしまっている。

それでも、通常の週に比べれば少しは負荷も減っている、と思いたいところではあるのだけれど。

リオ・パラリンピック、金メダルなき閉幕

リオ・パラリンピックが、無事、閉幕にこぎつけた。
このブログでも既に何度か書かせていただいた通り、今回は4年後を意識してか、NHKがかなりの時間を割いて各種目を取りあげていたし、注目競技の映像に触れる機会が増えたことで、(パラリンピックレベルの大会ですら)これまであまり日の当たることが少なかった身障者スポーツの魅力に気付かせてもらえた、というのは、凄く意味のあることだったのではないかと思っている。

もっとも、日本選手団の結果としては、史上初めて「金メダル0」ということになってしまった。
世界全体の競技レベルが上がった、ということは、あちこちのメディアで散々指摘されているし、メダルの数を見れば「銀10個、銅14個」とロンドンを上回る健闘を見せているのだから良いのではないか*1、ということことなのかもしれないが、これがオリンピックだったら、新聞の見出しも、テレビでのコメンテーターの論調も、こんな前向きなものにはならなかっただろうな、と思えてならない。

自分は「金メダルを持って帰らなければ参加する意味がない」などと言うつもりは毛頭ないし、それはパラリンピックに限らず、五輪でも同様だと思うのだが、「健常者アスリートには高いレベルの要求を突き付ける」メディアが、パラリンピックになると急にハードルを下げるような態度を示すのはやはり矛盾していると思うわけで・・・。

陸上でもテニスでもラグビーでも一戦一戦の勝負に賭ける選手たちの執念は、健常者のそれと、障害者のそれとで何ら変わりはないわけで、常人が容易に辿り着くことができない領域で闘っている、という点も何ら変わるものではないのだから、戦いのプロセスについても、結果についても、同じ基準で評価してあげないと失礼だろう、と考えてしまうのは自分だけだろうか。

会計監査人に対する株主代表訴訟、というチャレンジ

会計不祥事をめぐって、未だ株主のアクションが活発になされている東芝の関係だが、遂に個人株主が「会計監査を担当した新日本監査法人に対し、約105億円の賠償を求める」株主代表訴訟を提起した、というニュースが飛び込んできた*2

数日前に、「会社が株主からなされた会計監査人への提訴請求を蹴飛ばした」というニュースに接したときは、蹴飛ばした理由の方に目が行ってしまい*3、こうなる可能性にまで頭が行っていなかったのだが、会社法の規定上は、「会計監査人を相手取った株主代表訴訟も可能」ということになっているから、理屈の上では、今回のニュースも決しておかしな話、ということではない*4

既に会社の経営が破たんする可能性も上場廃止となる可能性もほぼ消滅している現状とはいえ、課徴金と追加の監査報酬だけで100億円を超えているとなれば、請求は十分に立つ。

会計監査人を訴訟当事者として巻き込むことで、先行して審理に入っている“対取締役訴訟”との関係でより有利な材料を引き出したい、という戦術も見え隠れするところではあるが、結果的にどう転がっていくことになるのか、興味の種は尽きないところである。

三浦大輔投手、引退表明

自分くらいの世代の人間だと、元々そんなに好きではなかったのに、長く現役を続けてくれているがゆえに、いつの間にか何となく親近感を抱くようになった、ということが良くある。
特に、ほとんど同世代の現役アスリートがいなくなってしまった近頃はその傾向が顕著なわけで、ベイスターズ三浦大輔投手も、まさにここ1、2年で好きになった選手だった。

それが、今年遂に引退。

なんたって全盛期には「虎キラー」と称されたような投手だから、応援する余地など一片もなかったはずなのだが、やっぱりこういうニュースを聞くと寂しい気持ちになるわけで。

今年、ベイスターズが大きく負け越している唯一の相手がタイガースで*5、それがなければ今頃、2位に付けていても不思議ではなかっただけに、そんな年に“キラー”が引退する、というのも何とも皮肉な印象を受けるが、個人的には、CSの第1ステージは、このチームに番狂わせを起こしてほしい、という思いも強いだけに、長年チームを引っ張ってきた選手の引退劇が、チームに最後のひと踏ん張りをする力を与えてくれるのではないか、と期待してやまないところである。

*1:もっともロシア選手団がドーピング問題で参加できなかったことを考えると、銀、銅のメダルの数を手放しで喜ぶことも本来はできない話だと思う。

*2:日本経済新聞2016年9月21日付朝刊・第38面。

*3:元経営陣が関与していることにより請求自体が否定される可能性と、過失相殺で賠償金が減額され費用倒れになる、という可能性が指摘されており、なるほどそれはそうだが、社内の調査委員会も責任追及の可能性を認めている本件で、それを理由に蹴飛ばせるのかな、と首を傾げながら見ていた。

*4:公認会計士協会が、会社法ができた平成18年に出したQ&AがHP上にアップされており、そこでも、今後会計監査人に対する代表訴訟が増える可能性が示唆されている(Q10のA参照)。もっとも、このQ&Aを作成した人も、まさか10年後にこれほどの大企業で最大手の監査法人が代表訴訟を食らう事態になることまでは想定していなかったのではなかろうか。http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/pdf/member/00807-002549.pdf

*5:三浦投手も先日9月16日に登板して、今季2敗目を喫している。

2016年9月18日のメモ

やっぱり仕事が始まって、休みの日も含めていろいろと予定が入ってくると、書きたいことも書けずにどんどんクリッピングしたネタだけがたまってくる、という状態になってくる。
元の木阿弥にならないように、とは思っているのだけれど、所詮は人間のやること。大目に見ていただければ幸い。

JASRAC排除措置命令取消審判の決着

気が付けばあっという間に時が過ぎてしまっていたが、ここ数年、知財、独禁の両業界にまたがって話題を振りまいてきたJASRAC事件が遂に終結した。

「テレビなどで使われる楽曲の著作権料徴収をめぐる日本音楽著作権協会JASRAC)の契約方法を巡り、独占禁止法違反(私的独占)に当たるか再審理していた公正取引委員会は14日、契約の見直しや再発防止を求めた排除措置命令が確定したと発表した。」「JASRACが審判請求を取り下げた。」(日本経済新聞2016年9月15日付朝刊・第38面)

排除措置命令が出された平成21年2月からカウントしただけでも、実に7年半以上*1
最高裁判決(平成27年4月28日)が出されてからも、さらに1年以上続いていた審判が、ようやくここで幕を下ろすことになった。
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120615/1383589570#tb
この件については、これまで度々このブログでも取り上げてきたので*2、改めて詳細を論じるつもりはないが、既に「新しい徴収制度」の合意も成立しているような状況で、審判を継続する意義はない、と双方が判断した上でのことなので*3、まずはメデタシメデタシ、というべきなのだろう。

このまま“競争状態”が続いてこの審判が昔の笑い話として語られる日が来るのか、それとも、“やっぱり寡占時代のままだった”ということになってしまうのかは分からないが、排除措置命令から審決、そして裁判所での判決まで、当事者が精いっぱいの主張を行い、結論を二転三転させたこの戦いが時代の転換点にふさわしいものだった、ということは間違いない事実だと思っている。

御厨教授が語ったシン・ゴジラ

この休みの間眺めた読み物の中で一番面白かったのが、御厨貴青山学院大学特任教授(東大名誉教授)が、読売新聞に2ページにわたって掲載したコラムだった。

公開からだいぶ日が経ったからか、中身はネタバレ満載なので、「これから見に行きたい」と思っている方にはお勧めできないが(笑)、内容的にはさすが、と唸らされるところが多い。

特にツボだったのは、

「人材は育てられるものではない。その社会がどれだけ異端者を抱え込むゆとりを持っているか否か、そのノリシロの大きさこそが必要なのだと分かる。」(読売新聞2016年9月18日付・第1面)

のくだりで、日頃“人材育成”と呪文のように唱えている連中に、この部分だけでもコピーを貼り付けてやりたい衝動に思わず駆られた(苦笑)。

それはともかく、矢口蘭堂赤坂秀樹、といった官邸周りの登場人物の視点だけで描かれているのがこの映画だから、政治学者や行政学者がそこに関心を持つ、というのはごく自然なことだし、分析が的確、かつ好意的なものになるのも至極当然といえば当然なのだろうと思う*4

自分は、これまで、ああいう場面*5で常に“機能しない官”を補完する役回りを果たして生きた「民」が、映画の中であまりに描かれなさ過ぎていたことにひどく失望したし、最後のシーンで、「法律作ったから、化学プラントも無人列車もガンガン徴用できるようになったんだ凄いだろ俺たち」的な、“上から目線”を強く感じたことで、かの映画に対する印象が非常に悪くなってしまっているのであるが*6、見方を変えればもう少し楽しめたかもしれない。

「共謀」罪法案、扱いに苦慮するくらいなら・・・

民法(債権法)、商法(運送法制)と滞留した基本法の改正をどう進めるか、という状況の中で、刑法改正を伴う「共謀罪」法案の提出が話題になってしまうのは、個人的にはいかがなものかと思う。

9月14日付の日経紙の記事によれば、

2020年の東京五輪に向け、テロ対策の取り組みをアピールするため共謀罪を早期に創設したい考えだが、与党に慎重論がある。」(日本経済新聞2016年9月14日付朝刊・第4面、強調筆者)

ということだが、「テロ対策」という観点から策を講じようと考えるのであれば、射程の広い「共謀」罪を持ち出さなくても、現行法の規定だけで何とかなるわけで、なぜわざわざこのタイミングで対決法案を上げようとしているのか、理解に苦しむところ。

常に引き合いに出される「国際組織犯罪防止条約*7との関係でも、本当に外務、法務官僚が唱える“不整合”があるのかどうか、もう少ししっかり検討した方が良いのではないか、と思わずにはいられない*8

本来は、「条約に調印した責任」を問うのか、それとも・・・という話なのではないか思うし、日本という小国には、この先も未来永劫付いて回る問題だけに・・・。

イギリス国民の寛容さに感謝。

英国のEU離脱に関し、日本政府のタスクフォースが「要望書」を出したことが、英国内で話題になっている、とのこと。
おそらく「英国及びEUへの日本からのメッセージ」ということで、官邸のホームページにも掲載されている(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/euridatsu_taskforce/pdf/message.pdf)ものを指しているのだろうが・・・。

確かに経済活動において「不確実性」が脅威となることは否定できないし、

「英・EU関係に空白や停滞が生じないように,英・EUが共同して,必要に応じ英・EU間の暫定取決めを適用する延長可能な暫定期間の設定を含め離脱に向けた継ぎ目の無いプロセスを構築し,既に英国・EU域内に投資を行っている企業への悪影響を排除する措置を早期に明らかにするなど,その全貌を可能な限り早期に世界に向けて示すことを強く望む。」

というメッセージの骨子の中身については、そんなに問題視するような部分はないと思うのだが、民間の有識者団体ならともかく、政府の公式なタスクフォースから一国の政策に対してこういう声明を出す、というのが、相手国の立場で歓迎されるべきことなのか、しかも、状況としてはかなり落ち着いてきたタイミングだけに、いろいろと考えさせられるところはある。

おそらく一部の“自由貿易至上主義者”(及び一部の業界団体)の影響が色濃く反映されているのだろうが、英国民が今ここで「EU離脱」という判断をした背景には当地が抱える様々な事情があるわけで、そこにわざわざ首を突っ込んでいく必要があるのか、そして首を突っ込むに当たって、相手国の事情をどれだけ緻密に考慮しているのか、大いに疑問を抱くところである。

自分がイギリス国民だったら、“国論を二分する問題に土足で踏み込むなんて何てけしからん連中だ”と不満たらたらになるだろうけど、そこは歴史と伝統のある国だけに、賛否両論の枠の中に収めていただけているようなのが唯一の救いといえようか。その寛容さに感謝するほかない。

*1:実際にはその前段から調査は行われているし、事実認定の対象となっていたのは平成18年の話だから、まさに“10年戦争”というべき状況だった。

*2:一番詳細な検討をしたのは、審決の時のエントリーだろうか(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120615/1383589570)。その後の逆転判決についても、いろいろと問題提起したいところはあったのだが、結局、尻切れトンボ的な感じで終わってしまったような気がする。

*3:公取委の発表によると、JASRACの取下げに先立ち、イーライセンスも手続への参加を取り下げていたことが分かる(http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/sep/160914_2.html)。

*4:その前提の下でも、御厨先生ほどの切れる評論が書ける方はなかなかいらっしゃらないとは思うが。

*5:といっても、我々は未だかつてゴジラほどの災厄に直面したことがあるわけではないので、あくまで他の大災害との比較なのだが・・・。

*6:もう一つ、ゴジラがいるのは「東京」というピンポイントの地点に過ぎないのに、首都圏以外の都市の表情がほとんど描かれていない、という重大な問題もある。

*7:正式名称は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約

*8:政府の見解については、http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji34.htmlに掲載されているのだけれど、何だかなぁ、という感じである。

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