何度でも言うのだけれど・・・

東京地検がムキになって、大成建設への捜索を繰り返していたのを見た時点で、ここまでやってくることは十分想像がついていたのだけれど、やはりこうして記事になると憤りを隠せないのがこのニュース。

リニア中央新幹線の建設工事をめぐる入札談合事件で、東京地検特捜部は23日、大成建設と鹿島の幹部2人と、大林組清水建設を含む4社を独占禁止法違反(不当な取引制限)罪で起訴した。談合を認めた大林組清水建設の担当者は起訴猶予とした。事件では、高い技術力が必要な巨大事業を進めるため各社が受注調整をしていた実態が浮き彫りになった。」(日本経済新聞2018年3月24日付朝刊・第2面)

捜査のあり方、そして、ほぼ検察官の裁量の悪用と断言して良い個人に対する起訴のあり方など、訴追側の姿勢について言いたいことは山ほどあるのだけれど、それはクドイので繰り返さない。

それよりも問題なのは、「告発&起訴」に向けた動きが強まる過程で、メディアの論調が“推定有罪”に大きくシフトし、比較的冷静な論調だった日経紙ですら、受注調整の存在を前提に「原因」を探るような記事に走ってしまっている。

それだけ、公的な訴追機関の判断が与える影響は大きい、ということの証左なのだろうけど、事実以上にその法的評価が問題になってくると思われる本件のような問題で、現在の検察当局の逸脱した捜査・起訴過程を肯定するような記事を書くのは、後々の他の「経済犯罪」に関する捜査にも悪影響を及ぼす可能性があるし、事件そのものに目を移しても、「受注側の関係者が接触していたこと自体がいけない」というような論調の記事をかき立てることが、一体誰のためになるのか、ということは、もう少し冷静に考えた方が良いように思う*1

そうはいっても、日経紙が社会面で、

「過去には旧日本道路公団など発注の鋼鉄製橋梁工事をめぐる談合事件でも法人のみ起訴された企業はあった。だが関与の度合いに応じたもので、今回のように認否で対応が分かれるのは異例。逮捕と起訴の判断を一手に担う検察は強力な権限ゆえにストーリーありきの捜査を招くと何度も指摘されてきた。刑事事件を担当するベテラン弁護士は今回のようなアメとムチを使い分けて供述を迫るかのような捜査手法を批判する。」(日本経済新聞2018年3月24日付朝刊・第39面、強調筆者)

と、起訴裁量の濫用を批判し、さらに、

「「今回のような形で司法取引を使われたら虚偽供述を招きかねない」との懸念も出ている。」(同上)

と、今、良識ある人々が一番気にしているポイントを端的に突くなど、一応問題意識をもって取り上げてくれているのは救いだったりもする。

自分は、ここから始まる公判期日での攻防で、全てがひっくり返る余地はまだ残っていると信じているのだけれど、願わくば、まだ検察側立証も、弁護人の防御活動も表に出ていないような状況で、メディアが「受注調整/談合の問題点」などを論じるような浅はかなことはしないでほしい、と思わずにはいられない。

そして、こと、いわゆる「経済犯罪」に関しては、刑事訴訟法が改正されたからといって、検察に起訴権限の濫用を安易に許すような運用にしてはいけない*2、という教訓事例として本件を受け止めるのが、正しい理解の仕方なのではないかな・・・と。

*1:高度な技術力を持つ大手企業になればなるほど、技術者を囲い込む傾向があるこの国は、高度な経験・知識を持つ技術者がフリーのコンサルタントとして受注側と発注側の間を渡り歩く欧米社会とは全く違う構造で成り立っているから、特に欧州のような情報交換禁止ルールを入れた瞬間に、大規模かつ高度な工事になればなるほどまともな入札ができなくなる、という状況に陥りかねない。そして、そこまで掘り下げて分析して初めて、ことの善悪を議論する資格がある、と自分は思っている。

*2:今の制度の下では、それは弁護人の双肩にかかっている、といっても過言ではない。嫌疑を負わされた人々の中にもさまざまな人がいる以上、そう簡単に「安易な取引をするな」とは言いづらいところではあるのだが、それでも「真相解明を重視するからこそ」の抵抗は、弁護人がどこかで示佐ないといけない、と思うところである。

これが許されるやり方なのか?〜リニア談合疑惑をめぐる東京地検特捜部の暴挙

ちょうど一か月前、リニア談合疑惑に関し、被疑事実を否認している大成建設鹿島建設の両社に対して異例の「再捜索」が行われたことについて、自分は憤怒の気持ちを込めて一本のエントリーを上げた*1

それからしばらく静かに時が流れ、そろそろ落としどころも見えてくるのではないか、という期待もボチボチ抱き始めたところだったのだが・・・。
新聞の1面を飾ったのは、より深刻なニュースだった。

リニア中央新幹線の建設工事を巡る入札談合事件で、東京地検特捜部は2日、大手ゼネコン鹿島の土木営業本部専任部長、(氏名略)(60)と大成建設の顧問、(氏名略)(67)を独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で逮捕した。公正取引委員会と連携し、不正な受注調整の実態解明を目指す。逮捕容疑は、2014年ごろから15年ごろの間、大林組清水建設の関係者などと共謀して、JR東海が発注する品川駅(東京・港)と名古屋駅名古屋市)の新設工事の受注企業を事前に決定したほか、予定通り受注できるような価格の見積もりを行うことで合意。自由な価格競争を妨げた疑いがあるとされる。当時、大沢容疑者は土木営業本部の副本部長、大川容疑者は常務執行役員だった。関係者によるとこれまでの特捜部の事情聴取に対し2人は容疑を否認していたという。特捜部は家宅捜索した4社のうち、大林組清水建設の担当者の逮捕は見送った。課徴金減免(リーニエンシー)制度に基づき、違反を公取委に自主申告した点を考慮したとみられる。両社の担当者については引き続き任意で捜査するもよう。」(日本経済新聞2018年3月3日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

本格的な捜査に着手したのはもう3カ月も前のこと。大林組清水建設関係者の自白調書はもう山のようにとれているはずだし、被疑事実を否認している2社からも、しつこいまでの捜索差押で関係する証拠は(もしあるならば)洗いざらい持っていっているはず。

それにもかかわらず、ここで「逮捕」という原始的な身柄拘束という手法を用いる目的といえば、東京地検特捜部が描いたストーリーに迎合してくれない二社に対する「嫌がらせ」と、国家権力の名の下に行う「恫喝」、といったものしか考えられない。

この逮捕のニュースが流れた直後に、大成建設が、

「到底承服しかねる」
「(被疑事実である独占禁止法違反に関しては)違反に該当しないと考えており、今後の捜査の過程で当社の主張をしていく」

と改めて会社のスタンスを示し、さらに、

「(逮捕された顧問が)「25回、約3カ月にわたり任意で応じているにもかかわらず逮捕された」

と、この手のプレスコメントでは異例の捜査手法批判に至ったのも、容易に理解できるところである*2

思えば、数日前の日経紙では、以下のような不思議な記事が載っていた。

リニア中央新幹線の建設工事を巡る入札談合事件で、大手ゼネコン鹿島の担当者が駅工事の入札から撤退するとの情報を競合他社に伝達した疑いがあることが28日、捜査関係者への取材で分かった。東京地検特捜部はこの情報伝達が独占禁止法違反(不当な取引制限)に当たる可能性があるとみて、ゼネコン4社と担当者の刑事責任追及へ向けた捜査を続ける。関係者によると、大手ゼネコン4社のうち鹿島と大林組大成建設の各担当者は、JR東海のリニア工事計画が国に認可された2014年ごろから、JR東海との打ち合わせの後などに東京都内の飲食店で会合を開き、工法などの情報交換をしていたという。鹿島の担当者はこうした場で、工法が難しい品川駅(東京・港)や名古屋駅名古屋市)の工事について、採算面などを理由に受注する意思がないことを他社の担当者に伝えた疑いがある。特捜部の聴取に担当者は「うちは入札から撤退するかもしれないと他社に伝えた可能性がある」と供述しているという。鹿島の担当者は、社内で知り得た情報を他社に伝えたとみられるが、特捜部はこうした行為が独禁法が禁じる公正な競争を阻害する行為に当たるとみている。一方、別の鹿島の幹部は、この担当者が社内で工事への参加や不参加を決められる立場になかったなどとして、「工事を分け合ったことはなく、不当な受注調整に当たらない」としている。」(日本経済新聞2018年3月1日付朝刊・第46面)

おそらく、検察当局筋からのリークだと思われるのだが、「工事に関する情報交換をやっていたこと」については、既に大成、鹿島の2社も認めている話で、ここでの真新しい話としては「鹿島建設の担当者が一部の工事について受注する意思がないことを伝えたこと」くらいしかない。

確かに、事実上スーパーゼネコン4社しか受注できない工事でそのうちの1社が抜ける、というのは、決して小さな話ではないのだが、一方で残り3社の競争は依然として妨げられていないのだから、競争制限効果としてはそれほどでもない、という見方もできる。
そして何より、当初検察当局から流れていた「落札企業の割り振り」だとか「価格の調整」といった話に比べると、話のスケールがかなり小さくなった感があることは否めない。

そこから推測できることは、検察当局が「描かれたストーリーに載ることを拒む」二社の影響で、最初に描いていた絵を修正することを迫られていた可能性がある、ということ。

そのような状況で、「何が何でも描いた絵のとおりに立件する」という意思を示したのが今回の逮捕劇なのだとしたら、そこには本来検察官が果たすべき正義のかけらも見当たらない、ということになる。

個人的には、今回のようなケースで、客観的にみて両被疑者を勾留できるだけの要件は何一つ満たされていない、と思っていて、刑事司法が適正に機能しているのならば、勾留請求審査の段階で(あるいは遅くとも準抗告の段階では)勾留が却下されるはずだと信じているのだけれど、仮にこのままずるずると言ってしまうようなことになったとしても、既に「リーニエンシーを使わない」という肚を決めている大成、鹿島には、「被疑者の供述調書を取らせない」戦術を徹底する等して、会社としての意思を貫いてほしい、と思わずにはいられない。

残念なことに、今回の「逮捕」を契機に、あたかも4社の独禁法違反が確定的な出来事であるかのように報じ始めたメディアもあるし*3、東京都がこれを受けて大成、鹿島の2社のみを公共入札指名停止処分にする方針、という残念なニュースも流れている。

検察官の判断が常に正しいわけではなく、ましてや本件のように当事者が明確に被疑事実を争っている事案で「一方当事者の意思」だけが一人歩きするようなことになってしまえば、公正な刑事司法など到底実現できない、という危機感をもう少し社会全体で共有してほしいものだと思うのだけれど・・・。

本件は、事実認定の面でも、「許される情報交換の範囲」という規範的判断の面でも、いろいろと興味深い論点を含む事案だけに、一方的な圧力とストーリー仕立てによる解決ではなく、対等な立場での主張立証がきちんとなされた上で判断が下されることが何よりも大事。だからこそ、今回の“暴挙”が事をゆがめないことを、自分は願ってやまない。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20180203/1517760286

*2:以上は産経ニュース(web)。2018.3.2 19:16配信。一方、鹿島建設は、「誠に遺憾で、関係の皆さまに多大な心配を掛け、深くおわびする。引き続き捜査に全面的に協力する」というごくスタンダードなコメントしか出していない。

*3:特に、日経新聞の同日第2面の記事「リニア談合 赤字回避と実績狙う 建設需要 先細りに備え」という記事などは、経済紙にあるまじき軽さで、信じがたいものだと思っている。

国家権力と戦うということ。

年が明け、被疑事実を認めるかどうかについてのゼネコン各社の対応が鮮明に分かれ始めたことで、俄然興味深い展開になってきた「リニア談合」疑惑。
先月は、このブログでも、2度3度ならず4度まで取り上げてしまった。

■「鹿島建設の勇気ある決断」
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20180116/1516122857
■「「3対1」の構図の中で」
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20180117/1516207474
■「おいおい、どっちなんだか」
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20180118/1516293697
■「リーニエンシーの落とし穴」
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20180124/1516816603

で、天下の東京地検特捜部の書いた「絵」にこれだけ反旗を翻したら、おそらく何かしてくるだろうな、と思ったら案の定、まず2月1日に鹿島と大成に「再捜索」。

リニア中央新幹線を巡る入札談合事件で、東京地検特捜部が独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で鹿島と大成建設に家宅捜索に入ったことが1日、関係者の話で分かった。特捜部は2017年12月にも同法違反容疑で2社を捜索。2社は不当な受注調整を否定しており、特捜部は改めて入札関係の書類などの押収が必要と判断したとみられる。鹿島と大成建設は「捜査中につきコメントは控えたい」としている。」(日本経済新聞2018年2月2日付朝刊・第37面)

ここまでは、ありがちな話だったのだが、異例だったのは、同日の夕刊に、以下のような記事が載ったことだ。

リニア中央新幹線を巡る入札談合事件で、東京地検特捜部から1日に独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で2回目の家宅捜索を受けた大成建設の弁護士が、特捜部に対して抗議文を提出していたことが2日、関係者の話で分かった。抗議文は1日の捜索の際、検事が同社の役職員を社長室に呼びつけ、「社長の前でも嘘をつくのか」「ふざけるな」などと威圧的な態度で供述を迫ったとして「黙秘権の侵害に当たる」と指摘。2017年12月の1回目の捜索以降に実施した役職員へのヒアリング記録や、同社の社内弁護士らのパソコンも押収されたとして「大成建設の弁護権、防御権を著しく侵害するものだ」と批判した。その上で、「(10年に発覚した)大阪地検特捜部による証拠改ざん事件があったにもかかわらず、検察の体質が変わっておらず容認できない」と非難した。」(日本経済新聞2018年2月2日付夕刊・第11面、強調筆者、以下同じ。)

「威圧的な態度」で供述を迫ったかどうか、ということを議論し始めると、どうしても主観的要素が混ざってしまうので、ここではあまり深く突っ込まないが、

「社内弁護士らのパソコンも押収」

というのが事実だとすれば、これは完全に国際的なスタンダードから逸脱した暴挙だと言えるだろう。

そもそも、事件に関する証拠は最初のガサ入れの時に一度総ざらいで持って行っているはずで、それをわざわざこの時期に捜索差押えを行ってパソコンまで持っていく、というのは、検索のストーリーに乗ってこない大成建設に対する嫌がらせ以外の何ものでもないと思うだが、ましてや対象が、社内「弁護士」のパソコン、ということになると、より次元が異なる問題になってくる。

秘匿特権が正面から認められているかどうかにかかわらず、弁護士が適法に職務を遂行している限り、そこには(表立っては)手を出さないのが現代の欧米先進国の暗黙のルール、というのは良く言われる話で、理由は簡単、そこに土足で踏み込まれてしまっては、依頼者の防御権もへったくれもなくなってしまうからである。
そして、社内弁護士だって、社外弁護士と同一の職務規程に服し、守秘義務をはじめとする厳格な義務と、高度な職業倫理を要求される立場なのだから、他の社員と同じようにパソコンを持って行ってよい、ということにはならないはず*1

だから、「抗議文」を出した大成建設弁護人の気持ちも非常に良く理解できるのであるが、それに対する東京地検の答えは、想像を絶するものであった。

リニア中央新幹線を巡る入札談合事件で、東京地検特捜部は2日夜、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で大成建設の本社を家宅捜索した。同社への捜索は2017年12月、今月1日に次ぐ3回目。同社の担当者らは特捜部の任意聴取に受注調整を否定している。」(日本経済新聞2018年2月3日付朝刊・第39面)

なんと、抗議文に対するあてつけのように2日連続での捜索。もはや常軌を逸しているというほかない。

地検特捜部としては、意地でも「4社による受注調整」というストーリーを維持したいから、昨年の強制捜索後に、社内で交わされたメールや面談録等の言葉尻を捉えて証拠隠滅等々の嫌疑を振りかざし、被疑事実を認めない「2」社の一角を崩しにかかろうとしているのだろう。

だが、「事件発覚後」のやり取りをいかに分析したところで、真相解明への寄与は極めて薄いにもかかわらず*2、今後の公判に備えた「証拠化」の作業まで妨害する捜索差押を一度ならず二度までも行うとは・・・。

検察官が大成建設の起訴を断念するようなことにならない限り、一連の捜索の意図とそこで得られた成果は、公判の場で示され、裁判官の面前で検証に晒されることになるはずだが、いかに弁護人がついているからといっても一民間企業に過ぎないこの会社が、それまで、度重なる国家権力の揺さぶり、プレッシャーに耐えることができるのか?

「国家権力と戦う」というフレーズは、一見かっこよいが、いざそれを貫こうとしたら多大なる苦難を伴うこともある。
それを身をもって示してくれているこの会社に、自分は心の底から喝采するとともに、この戦いの行方を最後まで見届けなくては、という使命感に駆られ始めたところである。

そして、常日頃「弁護士秘匿特権なんて、優先度の低い問題だから」と思っている自分ですら、こりゃ何とかしないといけないな・・・と思ってしまうようなきっかけを与えてくれた東京地検に対しては、とりあえず感謝の意を表しておくことにしたい*3

*1:仮に他の社員のパソコンと区別がつかずに持って行ってしまったのだとすれば、直ちに還付すべきだろう。

*2:なぜなら、ここ1カ月の間に作られた資料は、あくまで「おぼろげな過去の記憶を辿る」ものに過ぎないからで、最初の捜索時に差押絵を受けたと思われる、当時の「生」の資料に比べれば、遥かに証拠価値の低いものばかりだから。

*3:この筋の悪そうな案件に首を突っ込んだことで、「特捜部」そのものが瓦解するようなことにならなければよいのだけど、ということを、老婆心ながら思っていたりもする。

リーニエンシーの落とし穴

これまで、朝日新聞が一貫して「受注調整を認める方針」と報じる一方で*1、日経紙は「(受注調整を認めず)自主申告をしない方針を固めた」と報じていて*2、独禁業界の関心を一手に集めていた清水建設が、遂に動いた、ようである。

リニア中央新幹線の建設工事を巡る談合事件で、清水建設独占禁止法の課徴金減免(リーニエンシー)制度に基づき、22日の期限までに違反を公正取引委員会に自主申告したとみられることが分かった。」(日本経済新聞2018年1月24日付朝刊・第2面)

日経紙のみならず、他紙も一斉に報じているところからすると、相当堅いソースからの情報なのだろう、ということで、構図は「2対2」となった。

本件では、昨年末から後追い報道がそんなに絶えることなく続いていて、いつもなら命令が出るまではなかなか浮かび上がってこないような事実まで(真偽はともかく)ポロポロと漏れてきているとはいえ、今世に知られている情報だけでどちらの選択が正しいのか、ということを見極めるのはほぼ不可能である。

上記記事にも出てくる、

「担当者同士の会合や情報交換はしたが受注調整はしていない」

という主張とか、

「担当者が社内で工事への参加や不参加を決められる立場になかった」

といった主張は、過去の審決例でバッサリと否定されたこともあって*3、あまり筋の良い主張ではないのでは?という声も耳にするが、事情によっては「情報交換」と「受注調整」の結びつきを否定できる理屈も当然出てくるわけで、ましてや、「結果」が全てキレイにリンクしているわけではない、ということになってくると、「拘束合意をしたのは4社のうちの一部だけ」という事実認定もあり得、結果的に“認め損”ということになる可能性も否定はできない。

ということで、古くて新しい「課徴金減免制度」の本質的な問題に改めて気づかされた、というのが今の状況。

個人的には、「『クロ』の確証はないが、株主代表訴訟を恐れてリーニエンシー」というのは、会社の経営判断としてあるべき姿ではないし、その結果、真相の解明からかえって遠ざかるようなことになれば、制度自体の妥当性に疑いを抱かざるを得なくなるから*4、「違法事実の不存在」を信じる者は、中途半端に当局に迎合するのではなく、徹底して戦うことを通じて真相を抉り出してほしいものだ、と思わずにはいられない。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20180118/1516293697参照。

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20180117/1516207474参照。

*3:シャープの液晶カルテル事件など。http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h25/jul/13073101.files/13073101.pdf

*4:これも昔から言われていたことであるが、「減免」の効果が大きければ大きいほど、「虚偽自白」「共犯者巻き込み」のリスクも増すわけで、司法取引とも共通する問題は常にはらんでいる制度だと思っている。

おいおい、どっちなんだか。

今日は書くとしても違うネタにするつもりだったのだが、朝、ヤフーの速報を見て吹きそうになったこともあって、備忘的に、以下のニュースを残しておくことにする。

リニア中央新幹線の建設工事を巡り、大林組大成建設、鹿島、清水建設のゼネコン大手4社が談合した疑いがある事件で、法人としての清水建設が、捜査当局に対し、4社で受注調整していたことを認める方針を固めたことが関係者への取材でわかった。東京地検特捜部は独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで、4社のリニア担当幹部らから事情聴取を進めている。」(2018年1月18日3時16分配信、Yahoo!ニュース、ソースは朝日新聞Web、強調筆者)*1

前の日に「自主申告をしない方針」が報じられたにもかかわらず、何と忙しい話なことか。
そして、ニュースに接した読者としては、「おいおいどっちなんだよ」という突っ込みを入れずにはいられない。

ちなみに、朝日新聞は昨年末にも、「リニア談合、清水建設も認める 大林組に続き2社目」と豪快にかっ飛ばす記事を載せている。

リニア中央新幹線の建設工事を巡り、大林組大成建設、鹿島、清水建設のゼネコン大手4社が談合したとされる事件で、清水建設の元専務が捜査当局の調べに、4社での受注調整を認めていることが関係者への取材でわかった。」(2018年12月29日6時38分配信、朝日新聞Web)*2

いつもなら権力にうるさいはずの朝日新聞が、こういう時は易々と「(検察)関係者」と思われるソースに乗っかり、しかも現役ではない社員の供述なのに「清水建設」という社名を主語(見出し)にして報道してしまったのは何とも愛らしいのだが、年が明け、日経の「3社団結」記事に面目をつぶされた直後に、

「リニア談合、清水建設も認める方針 大林組に続き」

と、デジャブのような見出し(しかも出てくる順番もおかしい)で反撃を試みるのだから、そういうところはさすが反骨のジャーナリズム、とでもいうべきか(笑)。

個人的には、(大林組清水建設が)「捜査に協力することで実態解明が大きく進展することになる。」と、事業者が対等な当事者として防御権を有していることに微塵も配慮しないようなフレーズでまとめてしまっているところに、日本のメディアの残念な「人権意識」をかいま見ることができるし、そこまで当局を持ち上げないといけない何かがあるのか、と勘繰りたくなるような気分なのだが、いずれにしても遅かれ早かれ法廷(審判廷)で示されるであろう真実、を、これからとくと見届けないといけないな、と思った次第である。

「3対1」の構図の中で。

何で沈黙を保ってるんだろう、と呟いた数時間後に、こんな記事を持ってくるとはさすが日経、である。

リニア中央新幹線の建設工事を巡る入札談合事件で、鹿島、大成建設清水建設の大手ゼネコン3社が、独占禁止法の課徴金減免(リーニエンシー)制度に基づく違反の自主申告をしない方針を固めたことが16日、関係者への取材で分かった。不正な受注調整には関与していないと判断したもよう。申告期限の22日までに最終決定する。」(日本経済新聞2018年1月17日付朝刊・第35面、強調筆者)

昨年の時点では、大林組の自主申告等もあって勝負あったか、と思われたこの事件だが、鹿島建設に続き、大成、清水まで「受注調整には関与していないので自主申告しない」ということになると、形勢は一気に逆転する。

当然のことながら、「不当な取引制限」の行為要件(法2条6項)は、

「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行すること

ということで、現在、被疑事実として指摘されている“入札談合”は、一事業者単独では行うことはできない。
そして、大林組がいかに「受注調整した」と主張したところで、他の三社がそのような調整に応じていないのであれば、こと現在の筋での独禁法違反は成立しない、ということになる。

もっとも、現在関与を否定している3社も「担当者同士で会合を持って情報交換をしたことなどはあった」(同上)というところまでは認めているので、今回の選択が危うい橋を渡るものであることに変わりはない。

そして、諸説あるものの、間接事実の積み重ねによって、であっても、事業者間の「意思の連絡」を立証できてしまえば、前記行為要件に該当する、ということは可能だから、交換していた情報の内容や情報交換の時期、態様によっては、当事者がいかに関与を否定したところで、検察も公取委も着々と処分に向けて動いていく可能性は否定できない・・・*1

「3対1」といっても、「?」が検察・公取委のストーリーに乗っかった動きをしている以上、まだまだ事態は予断を許さない、というのが率直な感想になってくるのである。

果たして、公権力サイドは、被疑事業者が争うスタンスであることを承知で徹底的に攻め続けるのか、それとも、全面敗北のリスクを避けて、いったん振り上げた拳を降ろすタイミングを模索していくことになるのか。

いずれにしても、なかなか見られない展開になっているだけに、「今後」には要注意だな、と思った次第である。

*1:当然ながら、課徴金減免制度の恩恵は、自ら申請しない限り受けられない。

鹿島建設の勇気ある判断

昨年末、泣く子も黙る特捜部が唐突に動いて世の中を騒がせた「リニア入札談合」に関し、週末、あっと驚くような記事が出た。

リニア中央新幹線の建設工事を巡る談合事件で、大手ゼネコン「鹿島建設」(東京)が社内調査の結果、会社として受注調整には関与していなかったとする見解に至ったことが、関係者の話でわかった。このため、課徴金減免(リーニエンシー)制度に基づく公正取引委員会への違反の自主申告は行わない方針という。」(2018年1月13日12時13分配信、Yahooニュース、ソースは読売新聞Web)*1

その後、少し間隔はあいたが、今日になって産経新聞Webでも似たような報道がなされた。

リニア中央新幹線建設工事をめぐるゼネコン大手4社による談合事件で、鹿島建設が社内調査の結果、不正な受注調整に関与していなかったと結論付け、独占禁止法の課徴金減免制度(リーニエンシー)に基づく違反の自主申告を行わない方針を固めたことが15日、関係者への取材で分かった。公正取引委員会への申告期限となる22日までに最終決定する。大手4社のうち大林組はすでに公取委に違反を申告しており、対応が分かれた形だ。」(2018年1月16日7時05分配信、産経ニュース)*2

大林組が早々と事実を認めて公取委に課徴金減免申請したことは昨年のうちに報じられているし、清水建設も、検察筋からのリークか、「元幹部が東京地検特捜部の任意聴取に対し、大手ゼネコン四社による受注調整を認める趣旨の説明をしている」とされている*3

そんなふうに着々と検察の筋書きどおりに事が進んでいる中で、突如として予定調和な決着への反旗を翻すかのような鹿島建設のスタンスは、「立入調査→事実を認めてリーニエンシー」というお定まりのコースに辟易していた者としては非常に新鮮だし、過去の度重なる談合摘発禍を経て、「絶対に受注調整には関与しない」という強い意思が社内に根付いていた自信があるからこその対応であるように思えて、どうしても応援したくなってしまう。

もちろん、敵は天下の特捜部、既に大林組が白旗を挙げている状況だけに、いかに関与を否定しても、「共犯者」の供述調書で外堀を埋められて受注調整に関与した事実が「立証」されてしまう可能性は十分にある。そして、そうなった場合に、課徴金減免の自主申告をしていなかったことが、甚大なダメージにつながる可能性は否定できない*4

検察・公取委がどこまで立件するかにもよるが、極めて大きな額が動いているプロジェクトだけに、課徴金のスケール(ひいては減免が適用される場合とそうでない場合とのギャップ)も一段と大きくなる可能性はある。そうなれば、世間の批判は免れ得ないだろうし、ともすれば株主代表訴訟のようなアクションを起こされても不思議ではない。

しかし、捜査、調査が入れば、直ちに“クロ”と決めつけるような報道が依然として主流のこの世の中において、「やってないことはやってない」と主張することは非常に難しいことでもあるわけで、そんな逆境をはねのけて、「やっていない」と言い続け、最終的に疑惑を晴らすことができたなら、実に素晴らしい先例になると自分は思っている。

残念ながら日本では、当局が付けた先鞭の上に乗っかっているだけの報道が未だに主流を占めているし、今回の話題も、なぜか日経新聞は一顧だにしていないのだけれど*5、そんな状況だからこそ、「勇気ある判断」によって戦うことの重みは一段と増す。

そして、こういう時こそ、オフィシャルサイドの情報の受け売りや垂れ流しではなく、企業サイドの、実務に携わる者の声なき声を捉えて客観的に報道できるメディアがあれば、と思えてならない。

産経の記事によると、そう遠くないうち(見出しでは「22日」)には会社としての公式見解も出る、とのこと。
平行して捜査の手がさらに伸びる可能性もあるから事態は予断を許さないが、「自社に理あり、憶測報道に真実なし」と信じるのであれば、最後の最後まであきらめずに戦ってほしいな、と思わずにはいられないのである。

*1:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180113-00050019-yom-soci、強調筆者・以下同じ

*2:http://www.sankei.com/affairs/news/180116/afr1801160005-n1.html

*3:東京新聞Web・2017年12月29日、http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201712/CK2017122902000106.html

*4:そもそも被疑者となっている会社は「4つ」しかないため、他の3社が減免申請をすれば、鹿島建設だけが100%制裁を受けることになってしまう、ということも十分考えられる。

*5:むしろ逆に、自主申告を行った大林組を持ち上げるような報道すらしている。