常識を超えた馬。

2018年後半のどうしようもない仕事の波とそれに伴うストレスは、それまで普通に味わえていた様々な感覚を消し去る効果があるようで、秋以降、例年なら絶対に欠かさなかった週末の競馬記事の更新すら飛び飛びになってしまっている。

だが、やはり今年の第38回ジャパンカップの衝撃だけは書き残しておかないと、という思いが強い。

道中2番手から最後の直線に飛び込むまで、逃げて十分に見せ場を作っていたキセキにただ一頭襲い掛かり、問答無用で交わしきった3歳牝馬・アーモンドアイ。

そして、掲示板に刻まれたタイムは、世界中どこを探してもこんなアホな数字は出てこないだろうな、と思わせるに十分な、「2分20秒6」という驚異的なものであった。

この日の東京コースは3レースの2歳未勝利から芝2000mの2歳レコードタイムが更新されていたし(ヴァンランディ、2分00秒3)、という話が出てきたし、8レースのオリエンタル賞でも芝1800の2歳レコードタイムに0.5差(サトノキングダム)、という快記録が出ていて、閉幕週とは思えないくらい馬場が良かったことは間違いないにしても、従来のレコードタイムを1秒5も更新するタイムで走れた、というのは、間違いなくこの馬の力なわけで、しかも、牝馬三冠の最後のタイトル取得時にかなり厳しい競馬を強いられ、休養の声さえ上がっていたのにこれだから、どれだけ強いんだよ・・・と思わずにはいられない。

また、世代間の競争に関して言えば、今回も上位にはキセキ、スワーヴリチャードという4歳勢が食い込み、逆に一部の「世代」の期待を一身に背負って出走したサトノダイヤモンドは「6着」という何とも残念な結果に。

既に4歳馬すら、今回勝った一頭の傑出した3歳馬に押しのけられてしまっている状況の中で、「4歳対5歳」などといったところでもはや何の意味もないのだが、秋の天皇賞に続く残酷な世代間格差を示す一例としては、このレースの結果も様々なところで使えそうだな、と思った次第である。

そしてまた、完膚なきまでに示された世代格差。

2018年に入って以降、明け4歳世代に押しまくられて存在感を失いつつあった「5歳」世代。

マカヒキが9ヵ月ぶり出走の札幌記念で2着に食い込んだり、京都大賞典サトノダイヤモンドが復活優勝を遂げた*1ことで、秋になってようやく見せ場を作れるか、と思えたのも一瞬のことに過ぎなかった。

春のG1を制したスワーヴリチャード、前哨戦を気持ちよく勝ったレイデオロに人気を譲ったものの、かつてダービーを制した世代の代表馬・マカヒキが3番人気に支持されたのを筆頭に、宝塚記念馬・ミッキーロケット、秋華賞&ドバイのタイトルを持つヴィブロス、と選りすぐりの5歳馬たちが秋の天皇賞に出走し、華麗なる逆襲を遂げるはずだったのだが・・・。

終わってみれば、勝ったのは先行差しの横綱相撲、1分56秒台の好タイムで快勝した4歳馬・レイデオロ
そして、2着にも上がり33秒4の脚が炸裂した同じ4歳馬のサングレーザーが入り、3着に残ったのも現4歳、菊花賞のタイトルを持つキセキ。

4着にもアルアイン、と去年の牡馬三冠が実績どおりに上位に食い込む中、5歳馬はミッキーロケットが5着に食い込むのが精いっぱい。

マカヒキは、上がり3ハロンのタイムこそそこそこ良かったものの道中の位置取りが悪すぎて7着が精いっぱい。
見せ場はスタート直後に、スワーヴリチャード(4歳)というこのレースでの世代間競争最大のライバルを潰したことくらいしかなかった。

過去の上位入着馬の一覧を見ても、本来はこのレースで最も強いのは「5歳馬」だったことが分かるし、それゆえに今の5歳陣にも、ここで一矢報いて競争を盛り上げてほしい、という思いがあったのだが、結果はあまりに残酷。

おそらく、今、史上最強と言われている現3歳世代が合流して来た時点で、逆襲の可能性はより低くなると思われ、個人的には、古馬のクラシックディスタンスのG1に関しては、今回が5歳馬勝利のラストチャンスだと思っていただけに、何とも残念な気持ちである。

豪快過ぎた「三冠」とそれゆえの不安。

桜花賞オークスと別次元の強さを見せて勝ち続けてきた今年の3歳牝馬の主役・アーモンドアイ。
好敵手だったリリーノーブルは故障で離脱、桜花賞までは主役だったラッキーライラックも夏の一頓挫が報じられる中、主役としての輝きは一層際立っていた。

唯一の不安材料を挙げるとしたら、オークス以降、夏場のレースにも、トライアルレースには一切出走せず本番に「直行」というローテーションだけだったのだが*1、オッズは単勝1.3番で断トツ1番人気。

誰もが彼女の「三冠」を信じて疑わない、という状況の中で始まったのが第23回秋華賞だった。

レース自体ば「完璧」には程遠いものだったと思う。
そうでなくても波乱が起きやすい京都内回りの2000mで、コース特性を熟知した川田騎手が夏の上がり馬・ミッキーチャームを操り、決して速くない絶妙のラップで逃げて、ほぼセーフティリードを保ったまま最後の直線に突っ込む。
かたや、アーモンドアイは激しいマークの中、インを付く余裕を与えられず、外々を回って、直線だけで10馬身以上を追いかけないといけない展開に。

結果的には、そこから次元の違う脚で10頭以上をごぼう抜きして、ルメール騎手を「ファンタスティック!」と喜ばせたものの、一歩間違えればルメール騎手がやらかしがちな“どっちらけ”の凡騎乗に陥ってしまう可能性すらあった。

もし、同じシルクの馬でも好位をしっかり追走できていたサラキアにムーア騎手が騎乗できていたら*2、とか、3着に入ったカンタービレがもう少しスムーズに馬群を捌いてくれていたら、とか、全てタラレバの話にはなってしまうが、ちょっとしたことで、ガラッと様相が変わる可能性があった“薄氷”の勝利だった、というのが自分の率直の印象である。

そして、こういうレースを見た後にいつも頭をよぎるのは、“ダンスインザダークの悪夢”。
幸いにも、レース直後に「故障」のニュースが飛び込んでくることはなかったが、ここまで強い馬なのだから、横綱相撲で勝たせてやってほしかったな、という思いは消えない。

とはいえ「秋華賞優勝」という確固たる結果を残したことで、アーモンドアイがジェンティルドンナ以来6年ぶりの「牝馬三冠」の栄誉に輝いた、というのは紛れもない事実。

新馬戦で喫した唯一の黒星(それでも2着)*3以外一点の曇りもない7戦6勝、という戦績を眺めるともはや溜息しか出てこないのだが*4、あまりに戦績が美しすぎるがゆえに今後のローテーションの組み方が気になるところでもある。

ジェンティルドンナの後を追ってジャパンC路線を目指すのか、それとも、有馬記念に向かって年度代表馬を取りに行くか。
そして、年が明けたらドバイか凱旋門賞か・・・と。

8年前にアパパネ、という偉大な3冠牝馬を輩出しながら、その後、大きいタイトルを取らせることができなかった国枝調教師が、今回更に一回りグレードアップした名牝でどういった歴史を作っていくのか、しかと見届けて行きたいと思っている。

*1:歴史を遡ればこのパターンで勝った馬もいないではないのだが、過去10年に限れば、このローテで3着以内に入線した馬はゼロ、というデータは一応あった。

*2:自分の一押しの馬だったこともあり、レース後はなおさらその思いが強かった・・・。

*3:この新馬戦で先行してアーモンドアイを見事に封じたニシノウララ、という馬は、骨折で春のクラシックを棒に振った後、今年の夏から戦線復帰しているのだが、どうも軌道に乗り切れていない。この日も、ちょうど秋華賞が終わった後の東京最終レース(神奈川新聞杯)に出走していたので思いっきり資金を投入してみたが、惜しい4着・・・といういかにも残念な結果だった。

*4:ジェンティルドンナは三冠達成までに2つ星を落としていたし、そのうちの1つはチューリップ賞4着、と複勝圏内すら外している。戦績がきれいな馬ということで思い出すのはダイワスカーレットだが、彼女も秋華賞が終わった時点で既に2度の2着があった。

遂に戻ってきた世代の星。

ターフの上で絶え間なく続く世代間闘争の中で、何となく影が薄くなっている現5歳世代。

スプリント2冠のファインニードルや、春の天皇賞を勝ったレインボーライン宝塚記念を勝ったミッキーロケットなど、今年に入ってからG1タイトルを奪った馬はそれなりにいるのだが、クラシックタイトルホルダーをはじめとする“一線級”の戦いになると、どうしても下の世代に食われ、上の世代に押しのけられ、という感が強い。

中でも、3歳時に有馬記念まで制し、4歳の春までは、世代トップどころかこの国を代表する馬として君臨する気配を見せていたにもかかわらず、近走は「出るたびに負ける」を繰り返していたサトノダイヤモンドは、マカヒキと並んで“弱い5歳世代”の象徴のような存在になってしまった。

それが、遂に、京都大賞典で1年7カ月ぶりの復活優勝。

長らく主戦を務めていたルメール騎手がダートG1に乗りに行ってしまい、初騎乗だった川田騎手の手綱で勝つ、というあたりも、何とも不思議な巡り合わせだと思うのだが、いずれにしても、ちょうど1年前、凱旋門賞の大敗から狂い続けていた歯車がようやく噛み合う兆しを見せてきた、というのは何とも嬉しい話である。

自分は未だに、この「良血2億円超馬」が強かった頃の憎たらしいイメージが脳裏にこびりついているから、今に至っても馬券を買って応援、などという気にはなれないし、応援するなら断然、アドマイヤドン産駒のアルバート!という感じだったのではあるが*1、こと今年の秋の世代間の戦いを面白く見たい、という視点からは、4歳の上がり馬・レッドジェノヴァを貫禄で退けたこの日のサトノダイヤモンドの走りに、拍手を送らざるを得なかった。

残念ながら日曜日の毎日王冠では、5歳馬の出走自体がなかった上に、レースの方もアエロリットが圧巻の逃げきり勝ち、菊花賞以来存在感を消していたキセキも先行逃げ粘りの新境地を開いて3着、と相変わらず現4歳が圧倒的な存在感を示しているのだけれど、逆に3歳馬のステルヴィオが豪脚を発揮して2着*2、と下からの突き上げを見せている。

いよいよ迫りくる天皇賞(秋)、ジャパンC有馬記念、といった新旧混在の芝中長距離戦の中で世代間の勢力図がどの程度変わっていくのか、少し楽しみが増えた、そんな気がする。

*1:モレイラ騎手の見事な手綱さばきで、堂々の3着を勝ち取った。

*2:4着のステファノスも含めて、基本前が残る展開のレースだったから、その中で唯一後ろから襲いかかったステルヴィオは、思っていた以上に強い馬なのかもしれない。

最速スプリンターの影で健闘を続ける小さな牝馬。

台風接近で、2場開催の片方が早々と中止を決定。
そのおかげで、いつになく馬券検討に集中できたのがかえって裏目に出た感のあった日曜日の中山開催だったが、そんな結果にかかわらず、メインのスプリンターズSは、実にしびれるレースだった。

心配された馬場は、午前中思いのほか雨が降らなかったことで、メインレースの時間帯には「重」から「稍重」にまで回復。
それでも、やはりこういう時は、芝が荒れていてもパワーで押しきれそうな「デカい馬」が人気になる。

1番人気こそ実績重視で(しかも道悪実績もある)ファインニードルが奪ったものの、2番人気には520キロ牝馬のナックビーナス*1、4番人気にも490キロのレッツゴードンキが続き、510キロ・ムーンクエイクや、504キロ・セイウンコウセイを上位に推す人も多かった。

だが、走ってみたら、直線で先頭に立ったのは、出走16頭中一番体重が軽い3歳牝馬、ラブカンプーだった。

最後の最後に追いかけてきた真打・ファインニードルに差され、2着に甘んじたのは前哨戦のセントウルSと同じだが、着差は前回よりさらに縮めて「クビ」の差に。まだ3歳の牝馬(片や相手は歴戦の古馬)の上に、前回の斤量差6キロが今回4キロに縮まっていることを考えると、主役のお株を奪う活躍だったと言ってよい。

そして、何よりも大きい馬たちを後ろに従えて、荒れ目の馬場を難なく駆け抜けてきたタフさは、実に絵になるものだった。

冷静に考えれば、前走のセントウルSで、雨の中、明らかに水を含んだ重馬場を同じように2着で駆け抜けたのがこの馬だったわけで、11番人気、という評価はいくらなんでも低すぎた、ということなのだろう*2

紅梅S、葵Sといった同世代のオープン格のレースから、G3、G2、G1まで、同じような走りをして最後は2着、3着に甘んじる、というところが何ともじれったいところではあるのだが、気が付けば獲得賞金は既に1億円超。

むしろ馬場が荒れれば荒れるほど、サクラバクシンオーの血を引くこの馬のタフな逃げ脚が光る・・・そんな気持ちで、体のサイズと先入観にとらわれずに追いかけていきたい馬である。

*1:もちろん、鞍上がモレイラ騎手だったことが人気を押し上げた側面もあるだろうけど・・・。

*2:自分は基本データ重視なので、「セントウルS組」のこの馬もファインニードルともども切って捨ててしまったのだが、やはり大事なのはその年年のレースレベルなのだな、ということをつくづく感じさせられた。

「ダービー馬」が輝き出す季節

日曜日の東西メインレース。
西の神戸新聞杯では、1番人気の皐月賞馬・エポカドーロがスタートで出遅れてチグハグな競馬で4着に沈んだのを尻目に、ダービー以来の出走となったワグネリアンが堂々の差し切り勝ち。

ダービーでの勝ちっぷりより、皐月賞の負けっぷりの方が依然としてファンの記憶に染みついている馬でもあるし、主戦の福永騎手が落馬、頭がい骨骨折というアクシデントに見舞われたためにこの日の鞍上が藤岡康太騎手だった、ということも人気を下げた原因だったのだろうが、馬の状態はもちろん、乗り方も文句なし。むしろ福永騎手の方が芝中長距離で不安定な騎乗が目立っていることを考えると、このまま主戦交代で良いのでは・・・?という印象さえ与えるレースだった*1

一方、東でも、危険な人気馬かな?、と自分は半信半疑だったレイデオロが、アルアインとの壮絶な叩き合いを制してオールカマーで約1年ぶりの勝利。レイデオロが前に勝ったレースは、ちょうど1年前の神戸新聞杯、そしてこの日のレースの最大の強敵は同世代の皐月賞馬(アルアイン)と、いろんな意味で東西が符合する開催日だった。

東京優駿」という仰々しい名前が付いたレースだからといって、何かと「最高峰」と煽られているからといって、ダービーだけがG1ではない、というのはあえて説明するまでもないことだし、過去のダービー馬の中に、夏を越してもなお輝きを保ち続けられた馬は決して多くなかった、という事実もある。

ただ、やっぱり、「ダービー馬」という看板を持つ馬が秋のG1トライアルで主役を演じ、さらにそのままG1戦線であいまみえる、という展開は、常に“世代間競争”を意識して競馬というスポーツを見ているものにとっては、何とも言えない快感でもあるわけで・・・。

昨年のレイデオロ同様、今年のダービー馬も、菊花賞をパスして古馬混合の中距離G1路線に回る、ということだから、早ければ秋の天皇賞で3歳対4歳のガチンコ対決が見られることになるのだろう。

今年の3歳世代は、去年「最強」と感じた4歳世代*2を上回る勢いで夏を乗り切っているだけに、「2代続けての黄金世代」間での決着が楽しみで仕方ないのだけれど、欲を言えば、ようやく復活の兆しを見せた一昨年のダービー馬(マカヒキ)にも、天皇賞・秋、JCだけは皆勤していただいて、「5歳」が一矢報いる場面を作ってほしいところかな・・・というのが、一ファンとしてのささやかな願いである。

*1:500勝、という節目の勝利をダービー馬で飾る、という運も持っている騎手だけになおさら・・・というところはある。もっとも、このまま主戦を交代するのであれば、同じ友道厩舎のエタリオウ(2着)に乗っていたM・デムーロ騎手をこっちに持ってくる、という可能性の方が高いような気もするが。

*2:この日のオールカマーでも1着〜3着は4歳馬。その次は7歳まで飛んで、5歳馬はどこへやら…という感じである。

結果だけ見れば「順当」だが・・・。

自民党20日投開票の総裁選で、安倍晋三首相(64)を総裁に選出した。首相は党員・党友による地方票と国会議員票の合計553票をとって石破茂元幹事長(61)を破り、連続3選を果たした。石破氏は計254票だった。」(日本経済新聞Web/2018/9/20 21:00)

結果は始まる前から分かっていたから唯一の関心事は「得票数」だけだったのだが、それがまさかの250票越え。地方票だけを比べたら40票ちょっとしか違わない、というのは、現職総理としては「惨敗」といっても過言ではない。

自民党Webサイトの速報によると、各都道府県のうち石破茂候補が勝ったのは僅か10県だが、現職総理陣営の強烈な締め上げの中、実質的に地元の鳥取・島根以外にも8県が「造反」した事実は重いわけで、“終わりの始まり”を予感させるには十分な結果だと思う。

ここで看板を替えておかなかったことが、この先1年でじわじわと組織をむしばみ、やがて再びの下野につながる。
繰り返す歴史から学んでおくべきことを学ばなかった、それを後悔した頃には既に時遅し。そんな気がしている。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html