ろじゃあ氏のブログ*1から着想を得てこのタイトル。
以下は、憲法記念日を記念した、ちょっとした小噺である。
ろじゃあ氏は、ブログの中で、
「日ごろ、ビジネス法務の分野でお仕事をされている方々は業務との関係で憲法を常に念頭に置くなんてことはまずないと思います。」
とおっしゃられているのだが、
実のところ、法務の仕事の中で「憲法を意識する」かどうかは、
業界や担当フィールドによるところが多いのではないかと思われ、
ところ変われば、意外に意識させられることも多かったりする。
例えば、人事・労務関係法務においては、
常に14条だの28条だのを意識せざるを得ないし、
その他の分野でも、手ごわい国だの自治体だのが絡む場合には
29条や31条、そして条例に関する94条を意識せずには
やっていけない状況になりつつある*2。
知財法務の分野だって、
著作権等のライセンスに関連して21条1項を意識したり、
競業避止契約を結ぶ際に22条を意識するなど、
決して憲法に無縁、というわけではない*3。
もっとも、ろじゃあ氏も指摘されているように、
一般的な「企業法務」の世界で、
「憲法」を学ぶことの重要性が声高に叫ばれることは皆無といって良いし、
実務家向けの研修の中で、「憲法」の解説がなされることもほとんどない、
というのが実態である。
それはなぜか?
おそらく、一つの理由としては、
憲法上の規範が実務においてダイレクトに適用されることが少ない、
ということが挙げられるのだろう。
私人に過ぎない企業間の取引においては、
憲法条項の直接適用が問題になることはまずない、といって良いし*4、
対行政や、労働分野といった“公法関係”の問題が生じうる分野においても、
第一に参照され、解釈の対象となるのは、
憲法に基づいて制定された諸法規や条例であって、
憲法解釈は周到に用意されたそれらの諸法規の解釈論を補充するものではあっても、
“主役”として登場するものにはなりえない。
ゆえに、そうでなくても勉強しなければならないことが山ほどある企業法務担当者は、
抽象的な憲法規範を悠長に学ぶより、
より身近なところにある具体的な規範をマスターすることを優先することになる。
概ね、そんなところだろうか。
だが、自分はもう一つの理由として、
「単に実務家が関心を持っていないだけ」という理由も
あるのではないか、と思っている。
民事紛争においては、
「憲法条項に則った主張をするのは禁じ手」という風潮が根強く、
通常の企業間紛争の対策を練る際に、憲法の解釈論まで遡って考える、
なんて機会はまずないといって良い*5。
あくまで下位規範をベースに物事を考える習慣ができてしまえば、
制度スキームそのものをひっくり返すような“おおごと”にならない限り、
憲法解釈に思いを馳せることなどない、というのは容易に理解できる話である。
また、そもそも企業側の実務者の中には、
法学部出身者ではない人々も多く存在しているし、
法学部出身者、といっても私法系専攻の方が多いのが普通だから、
「憲法」に遡って考える、なんてことを言ってもピンと来ない、
というのが、実際のところなのではないかと思われる。
だからといって実務に支障がでるわけではない、
といってしまえばそれまでなのだが、
憲法上の原則論に立ち返ってスキームごとひっくり返すのが適切、
といえるような状況において、
それを法務部門が看過する、というのではいただけないし*6、
仮に“頭の体操”レベルに止まる中身だとしても、
少しはダイナミックな原理原則に立ち返って考える習慣をつけたほうが、
法律を扱う立場にある者としては健全であるように思われる*7。
・・・というわけで、
かつて、学生時代何を勉強していたかと聞かれて、
「強いて言えば、憲法、行政法と労働法あたりでしょうか・・・(汗)」と
苦し紛れに答えていた、一応公法系出身の筆者としては、
「企業法務にも憲法を!」と提唱する次第である*8。