北京五輪・敗者の掟(その3)

競技ごとの日本代表のポジションを考えるとやむを得ないこととはいえ、今回の五輪も、前半(競泳、体操、柔道など)で盛り上がり、後半(球技、陸上など)で静かになる、というお約束の展開であった。


とはいえ、ソフトボール女子日本代表チームの輝きは、前半のMVP・北島康介選手を超えるくらい素晴しいものだったし、メダルを死守したシンクロ、レスリング(男子)や、悲願のメダルを奪い取った4×100mリレー、メダルには及ばなかったものの執念を見せた女子サッカーなど、玄人好みの見せ場も少なからずあったのは事実。


結局、メダルの数は当初の目標に届かなかったものの、ソウル、バルセロナアトランタ、と“柔道以外は見せ場なし”という長い冬の時代を見てきた者にとっては、隔世の感ともいうべき結果になった。


いろいろ批判はあるかもしれないが、ここ数年“日本のスポーツ界の顔”として主役を張ってきた選手達が世代交代の端境期に差し掛かる微妙な時期に、然るべき結果を残せた、という点は素直に賞賛すべきではないだろうか。




・・・・で、ここまで持ち上げておきながらも、やっぱり競技によっては、落とさざるを得ないものも当然出てくる。


ちょうど先週の半ば頃までには、陸上(マラソン)がまさに“火だるま”目前の状態で*1、東京世界陸上の英雄、高野進氏がうなだれる姿が大変痛々しかったのだが、最後の最後でリレーの銅メダルに救われた。


シンクロにしても、先に紹介したNumber誌(709・710号)の予想(↓参照)の時点で、既に銅メダル1個がやっと、という評価になっているし、それ以外の競技にしたってそんなに前評判が高かったわけではないから、「敗者」のレッテルを貼るには忍びない。

<シンクロ>
チーム 日本(銅)
<トランポリン>
男子 上山容弘(銅)
レスリング>
女子48キロ級 伊調千春(銀)
女子55キロ級 吉田沙保里(金)
女子63キロ級 伊調馨(金)
<陸上>
女子マラソン 野口みずき(金)
男子ハンマー投げ 室伏広治(銅)
セーリング
女子470級 近藤愛・鎌田奈緒子(銀)
<野球>
日本(金)
ソフトボール
日本(銅)
<ホッケー>
女子 日本(銅)


・・・となれば、やはり血祭りに上がる競技は一つしかない。


そう、いうまでもなく「野球」である。



戦前は「金メダル確実」と煽りおだてていたメディアも、今回ばかりはさすがにかばう余地はないと思ったのか、準決勝で敗れて以降、悪口雑言の嵐である。


一つひとつを取り上げていくとキリがないので書かないが、

「采配が悪い」
「選手選考に問題があった」
「調整過程に問題があった」
「国際大会の経験不足」
「選手達に元気がない」
「選手達にまとまりがない」

と、あらゆるところに非難が向かっている。


男子のサッカーと同じく、

「五輪で勝たなくたって食っていける」

プロの選手達に向かって、「敗者」という言葉を投げつけるのは筋違いなのかもしれないが、こと野球に関しては、「最後の五輪」だの「史上最強」だのといった広告代理店の宣伝コピーが飛び交っていた上に、星野監督をはじめとするコーチ陣や選手達まで、“五輪に賭ける”的な強気のパフォーマンスを見せていたために、話がややこしくなった。


元々、日本のプロ野球は五輪に向けてスケジュールが組まれているわけでもないし、公式戦の中で国際試合対策が取られているわけでもない。


選手選考に際しては、昨年の予選からの“継続性”が重視されたようであるが、その予選のメンバーにしても、WBCや前の五輪からの継続性が疑わしい“寄せ集め”。


客観的に見れば、五輪はあくまでもペナントレースの“おまけ”的扱いに過ぎなかったのであって、それでも楽々金メダルが取れると思っていたのであれば、ちょっと発想が無謀だった、といわざるを得ないだろう。


野球という競技が置かれている環境や、参加する選手たちの「プロ」としての意地を尊重するなら、チマチマと勝負に徹するのではなく、“オールスター”的な、“今できる最高のプレーを見せる”という感覚で五輪に臨む、という手もあった。


だが、中途半端に勝負に徹しようとしたがために、選手は傷ついたあげく、結果も残せない、という最悪のパターン。

「得たものはなにもない」

という和田投手のコメントがぴったりはまってしまうような結末を、悲劇といわずになんと言おうか。



サッカーと違って、負けてもなお叩かれるところに、「野球」というスポーツに対する国民的関心の高さを感じるし、国内の競技環境が揺らぐことも当面ないのだろうけど、これからの残されたシーズンの中で、ケガや心のトラウマと戦っていかなければならないであろう選手達のことを考えると、もう少し“逃げ場”を用意できなかったものか、と思わざるを得ない。


もしこれが、近年メジャー志向の強い選手たちを国内市場に引き止めるための仕組まれた策略だったりするのであれば、実に見事な・・・(苦笑)ということになるのであるが。