鉄は公取委よりも強い?

4日付の日経新聞の1面を飾った「新日鉄・住金合併」という一大ニュース。

合併により世界2位に躍り出る、というスケールの大きさもさることながら、自分が一番驚いたのが、これだけの規模の企業再編マターであるにもかかわらず、

公取委への相談一切なし」

という状況で、大胆にもプレス発表を行った、と報じられていること*1

もちろん他の大規模合併でも、公取委への相談前にメディアにすっぱ抜かれた、というケースは多々あるだろうし、プレス発表が先行していても、合併が現に行われるまでは「事前」相談であることに変わりはないから、今回スポットが当たった両社が、そんなに間違ったことをしている、というわけではない。

ただ、記事、コラム等で書かれている、

新日鉄は・・・様々な再編を模索し、公取委にも持ち込んだ。だが公取委は再三詳細な資料を要求し、事前相談は実質的な凍結が続いた」(日本経済新聞2011年2月5日付朝刊・第1面)

という背景を受けての今回の発表だとすれば、新日鉄・住金の今回の判断は、

「世論を喚起して合併を前へ進める賭けに出た」(同上)

という、ある種の「確信犯的所業」との推認が十分に働くところであり、それだけに半ば“挑発”を受けた形の公取委が、どういう反応を示すのか、非常に気になるところである*2

いくら国際的な競争が激しい業界だからといっても、単純な形での「合併」が許容されるはずもなく、どこかで何かを切らないことには話は進んでいかないと思うのだが、その辺の落とし所まで十分に検討を経た上での発表だったのかどうか。


ちょうど40年ほど前の八幡製鉄と富士製鉄の合併の際には、事業者側が政官界をバックに付け、合併に猛反対した公取委やそれを支持する経済学者たちを押し切って、今の新日鉄を作った、という歴史がある*3

その時のある種の“成功体験”が、新日鉄を強気にさせているのかもしれないが、40年前と今との状況の違いも当然ながらあるわけで*4、どこまで合併に向けて思い通りのストーリーを描いて行けるのか、予断を許さない状況であるように思われる。


まぁ、サントリーの時の話とは違って、少なくとも当事者の間で、際立った企業風土の違いはないように思えるだけに*5、独禁当局の壁さえ超えれば破談のリスクは少ないのだろうけど・・・。

*1:かつて産業界を牛耳っていた新日鉄のことだから、裏で密かに根回しはしているのかもしれないが、ここでは一応報道されている情報を前提に筆を進めておくことにする。

*2:少なくともここ数年の実務では、「大規模な合併を行おうとする際には、プレス発表より前に公取委に事前相談に行くべきだ」(「行っておいた方が良い」というトーンよりは強い)というのが、一般的な考え方になっていたように思うし、独禁法に強い弁護士の中にも、そのような持論をお持ちの方はそれなりに多かったのではないかと思う。そしてそれは、単に「発表後に公取委に止められて恥をかくのを防ぐ」という次元の話ではなく、その後の合併審査等における審査官への心理的影響等も考慮した考え方だと自分は理解していた。いくら中立的な公的機関だとは言っても、所詮は“人間の集まり”なのだから・・・。

*3:もちろん、その過程で公取委との激しい応酬を経た結果、事業の一部を切り捨てる選択も行ってはいるのだが。

*4:特に、今の公取委の権限・存在感と比べて、相対的に経産省+政治の力が落ちているのは否めないと思われるし、仮に日本の公取委を押し切ったとしても、その後に世界各国の独禁当局の審査が待ち構えている。

*5:そもそも「秩序」がきっちりと出来上がっている業界だけに、多少カラーの違いはあっても、収まるところに収まるのだろう、と。