「サイン」の不思議

外国と日本の契約風土の違いは、
いろんなところで指摘されていることであるが、
自分自身も、法務の実務に関わるようになってから、確かに、
と思う場面に何度か遭遇している*1


英米人が、世間で言われるほど契約にシビアだとは自分は思わない。
むしろ、コンプライアンス狂想曲が響き渡る今の日本の方が、
ちょっとした契約にも神経を尖らせているように思える。


市販のテキストに載っているような、ベタベタな契約フォームを
何のヒネリもなく送りつけられるのは日常茶飯事だし、
頭を悩ませながら丁寧に修正して返したら、
「良く分からんので言われたとおりにします〜」的な回答で
拍子抜けしたことは少なからずある。


それ以上に、いつも自分が疑問に思っているのは、
契約の内容にシビアといわれる英米人が、
スラスラと書いた署名一本で契約を成立させてしまうこと。


日本の会社では、契約書に一つ印鑑をもらうのにも、
煩雑な手続が必要だし、苦労することが多い*2
多当事者間の契約になると、ぐるぐる判子を押して回るだけでも、
結構な手間がかかる。


ところが、海の向こうと契約を取り交わす時は、
どんなに契約内容で激しいやり取りがあったとしても、
最後はサイン一つで決まってしまう。


あるパブリシティ素材の使用許諾申請フォームを送りつけた時などは、
30分も経たないうちに、FAXで署名付きの「申請書」が返ってきた。
はっきり言って、そこに記されたサインが代表者のものなのかどうか、
こちらは知るすべはない。
だから、いくらでも不正ができてしまうではないか・・・
と心配したくなるほど、あっさりしているのである。


比較法的に見れば、
日本で行われている手続の方が、特殊かつ異常なものなのかもしれないし、
それが意思決定の遅さ→日本企業の競争力欠如、につながっている、
と言われてしまえばそれまでなのだが。


いつか、日本企業どうしの契約書からも、
印鑑が消える日が来るのだろうか・・・。

*1:とはいっても、ドメスティックな自分の会社の中では、英米法文化の深淵に触れることなど望むべくもなく、ただ、さらっと一瞬の異国の風を感じる、という程度である・・・。

*2:このあたりは会社によっても違うところではあるだろうが

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