NBL2005.9.1号(第816号)

いつもながらに中身は薄いが、
あさひ・狛法律事務所の伊従(いより)寛弁護士*1が書かれた論稿が、
今回の独禁法改正への痛烈な批判として、異彩を放っている*2


今回の独禁法改正では、
課徴金の引き上げやリーニエンシー制度の導入の陰に隠れて、
審判制度についても、事前審判制度と勧告制度の廃止と、
新たな排除措置命令、課徴金納付命令制度の導入がひっそりと図られているのだが*3
伊従弁護士は、

  1. 「審判制度の見直し」について改正過程での十分な議論が行われていないこと
  2. 迅速化・効率化のみが重視され、適正手続保障の観点への配慮が不十分であること
  3. 勧告制度が機能している等、わが国の現在の運用実態が軽視されていること

等を指摘して、今回の審判制度の改正を厳しく批判している*4


この点については、自分も以前ジュリスト掲載のいくつかの論稿を見て、
驚かされた部分である。


これまでのジュリストでは、この点について、
東大の宇賀教授と*5東海大の鈴木恭蔵教授*6の論稿が掲載されているが、
宇賀教授は、「事後手続への変更が手続的保障を弱めるものとはいえない」として、
改正の方向性について、ほぼ全面的な支持を表明されているのに対し*7
鈴木教授は、「事前の手続保障という面に限ればその保障が弱まったことも事実である」
として、やや懸念を示されているようにも読める*8


知財や租税の世界を思い浮かべるならば、
行政庁が先に処分を出して、それを審判で争うという形態にはさほど違和感はないが、
こと独禁法の世界に関して言えば、「処分」が出ることのハレーションが大きいため*9
伊従弁護士のような指摘が出るのも、もっともなことだと思う。


そもそも、以前のエントリーで書いたように、
自分には独禁法の規律を絶対視する風潮への抵抗感が強い。


独禁当局の方はもちろん、
独禁法研究者の多くは、競争制限行為=悪、という観念が強いようであるから*10
法改正の過程でも、
「処分をさっさと出して、文句があるなら審判の場で堂々と反論してもらえば良い」
的なムードが強かったのかもしれないが、
こと手続保障の側面に関しては、
もう少し慎重な対応がなされても良かったのかもしれない。

最後に、伊従弁護士の警句。

今回の事前審判制度と勧告制度の廃止は、先進国の独占禁止法における規制手続の基本構造の流れから逸脱し、発展途上国型の規制方法に向かっている*11

*1:あさひ・狛法律事務所サイトへのリンク:http://www.alo.jp/members/consultant_hi.html

*2:伊従寛「独禁法の事前審判制度と勧告制度の廃止の問題点」NBL816号17頁(2005年)

*3:命令に不服がある場合には、「事後的に」審判請求を行うことになる。

*4:伊従・前掲P21-25

*5:宇賀克也「特集・独禁法改正の方向をよむ/審判手続等の見直し」ジュリスト1270号53頁(2004年)

*6:「特集・独禁法改正/審判手続等の見直し」ジュリスト1294号34頁(2005年)

*7:宇賀・前掲57頁

*8:鈴木・前掲38頁。鈴木教授は同意審決制度の廃止についても、「より柔軟な手続の導入を検討すべき」という意見を述べられている(鈴木・前掲39頁)。なお、宇賀教授の論稿が書かれた時点では、同意審決は廃止ではなく「見直す」ものとされていた。

*9:課徴金の額も決して少なくはないし、排除措置命令によってもらたされる企業取引への影響は追徴課税処分を食らった場合の比ではない。

*10:以前、独禁法業界では名の通った某教授に、「そもそも競争を制限することは悪いことなのでしょうか、的な質問をしたところ、かなり冷たいリアクションが返ってきた記憶がある。

*11:伊従・前掲25頁

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