営業秘密管理指針(案)

休みを利用して、経済産業省がさる9月8日に出した、
「営業秘密管理指針改定版(案)」を読んでいる。
http://www.meti.go.jp/press/20050908005/20050908005.html


この指針は、先の国会での不正競争防止法改正を受け、「企業の営業秘密の管理強化を促す」目的で改訂されるものであるが*1、2年前に出された前回の指針が不競法の条文の解説や判例の分析等、営業秘密保護に関する法的な制度解説に重点を置いていたのに対し、今回の指針では、むしろ「営業秘密を保護するための管理のあり方」に紙幅の多くを割いている*2


また、「コンタミネーション」(第三者の秘密情報の混入)の防止策について、重点を置いて解説しているのも、前回の指針にはなかった特徴であろう*3


ただ、いかに「管理のあり方」に重点が置かれたといっても、所詮は、「お役人の作ったマニュアル」の域は出ていない。


例えば、次のような記載があるが、これを遵守できる企業がどれだけあるだろうか。

「取引先から技術ノウハウの開示を受ける際、当該技術ノウハウと類似の自社技術を有し、それを用いて自社製品を開発しているような場合、他社技術と自社技術を扱う者を区別し、それぞれの部屋を分離して、それぞれの部屋には関係者以外は相互に入室できないようにする等、当該他社情報が自社の技術者・開発者がアクセスできないようにすることにより、コンタミネーション(情報の混入)を防ぐことが考えられる*4。」

そもそも、わざわざおカネを出してまでノウハウの提供を受けるのは、自社技術に他社のノウハウを取り込んで、より優れた技術を生み出すため、というのが通常だと思われるから、上記のような対策を企業に要求することは、本質的な矛盾をはらんでいる、ということになる。


その他の部分についても、コンサルが書店に並べているような「マニュアル本」に書かれていることの域を出るものとはとてもいえない。
「・・・することが望ましい」的な歯切れの悪さも目立つ*5


何より、今回実務担当者の頭を一番悩ましているのは、今年の春に導入したばかりの個人情報管理体制と、今回の営業秘密管理体制の平仄をどう合わせるか、ということなのだが、これに対する明確な指針は到底示されているとはいえない。

「個人情報と営業秘密はその保護範囲等も異なるため、従業者側の「納得感」の向上の観点からは、個人情報保護に関する契約と営業秘密に関する秘密保持契約は峻別する(別書面であるか否かを問わない)ことが望ましい*6。」

という記述があるかと思えば、

「高い秘密管理性を保った営業活動に有益な顧客名簿については営業秘密にも該当し得るため、個人情報保護法の各種ガイドライン等とも整合性をもって、秘密管理を進めていくことが重要である*7。」

という記述があって、しかも、これらの記述の具体的な実質は何ら示されていない。


この4月施行のいわゆる個人情報保護法をめぐっては、会社中、喧々バタバタ、右往左往しながら、ようやく規程をそろえ、管理者を決めて、管理をスタートさせたという苦い経緯がある。


この上さらに新たな情報管理体制を設けるなんてことになれば、現場サイドからの猛反発を食らうことは必至だが、こんな指針が出たとなると、上からは何かやるように、という指令が降ってくるのは目に見えているから悩ましい。


だからこそ、ここに法務担当者の腕の見せ所があるとも言えるのだが・・・。

*1:経済産業省「営業秘密管理指針改訂版(案)」4頁

*2:前掲注1)18頁以降

*3:先の改正で、転職者の秘密開示行為の一部が刑事罰の対象となり、その行為によって開示された秘密を取得した者(及びその使用者たる法人)も処罰対象となったことを意識しているものと思われる。

*4:前掲注1・25頁

*5:営業秘密としての要件を満たすかどうかを判断するのが裁判所である以上、仕方がない面はあるが。

*6:前掲注1・42頁

*7:前掲注1・60頁