読み応えのある判決

昨日最高裁で言い渡された、
在外邦人の選挙権をめぐる大法廷判決について、
詳細な検討を書いていたのだが、
ほぼ書き終えたところで、パソコンに反乱を起こされた・・・。


なので、以下簡略に感想を*1


今回の判決のポイントを挙げるとすれば、

  1. 原告が「投票をすることができる地位にあることの確認」について、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」として、確認の利益を認めたこと
  2. 立法不作為による国家賠償請求を認めたこと

の2点ということになるだろう。


前者については不勉強なので割愛するが*2
いちいち選挙の無効確認を起こさなくても、
原告側が目的を達成できる手段があることが明確になったのは大きい*3


後者については、
在宅投票制度をめぐる最高裁の昭和60年判決*4で示された

「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けない」

という規範が、
実質的に変更(緩和)されている点に大きな意義があると思う。

以下、引用。

「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。*5


これまで、立法不作為が争われた多くの事例では、
昭和60年判決をカーボンコピーして、原告の請求を棄却していたものが多かった*6


今回の判決で打ち出された規範にも、
「明白」だとか「必要不可欠」といった文言は含まれているので、
解釈如何によっては、従来どおり原告の請求をことごとく退ける結果となることは
十分考えられるのであるが、
それでも、下級審レベルでは、従来よりも思い切った判決が書けるように
なるのではないだろうか。


予想通り、今回も横尾和子、上田豊三両裁判官は、立法裁量重視の姿勢*7
ただし、立法事実から比較的丁寧に結論を導こうとしている姿勢は感じられ、
立法府の裁量」というマジックワードに全面的に依存するような安易さは、
薄れているのではないかと思われる。


その他、本件のような事案には金銭賠償はなじまない、
とする泉徳治判事の反対意見や*8
福田博判事の補足意見の末尾に付された以下のような「感想」が合わさって、
なかなか見ごたえのある判決であった。

代表民主主義体制の国であるはずの我が国が,住所が国外にあるという理由で,一般的な形で国民の選挙権を制限できるという考えは,もう止めにした方が良いというのが私の感想である*9

*1:判決全文は最高裁ウェブサイトより入手可能。

*2:ちなみに、本判決で認められたのは予備的請求の方で、主位的請求である「公職選挙法の違法確認」は却下されている。

*3:選挙のたびに問題となる投票価値の平等をめぐる訴訟にも応用が利きそうである。一票の格差是正には、法技術的な問題も潜んでいる分、今回の判決のようにすんなりとはいかないだろうが。

*4:最一小判昭和60年11月21日・民集39巻7号1512頁

*5:なお、この後で、昭和60年判決は「以上と異なる趣旨をいうものではない」というフォローがなされているが、文言上は判例変更により基準が緩和された、と考えるのが妥当だろう。

*6:ハンセン病患者を救済した熊本地裁判決のような例外もあるが、同判決は、国が控訴を「断念」したために、あくまで下級審における一事例にとどまっている。

*7:今回は「反対意見」となった点で大きく異なるのだが

*8:問題提起としては、結構新鮮なのではないかと思う。単に自分が勉強不足だっただけなのかもしれないが。

*9:堅苦しい判決文の中では、こういう一文があるだけでも和む・・・(笑)。

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