法学教室2005年10月号(No.301)

最近のエントリーが、ブログの本筋からだいぶ外れていたので、
少し方向を変えようかと・・・・(笑)。

巻頭言

高橋宏志教授の巻頭言には、いつも心服させられるのだが、
今回もそう。
少し長くなるが、引用する。

判例も時に、あるいはしばしば間違っている、盲信してはいけない。教科書も時に、あるいはしばしば間違いがある。ましてや、教壇で語る私の発言には、多くの誤りがある。教師を信じすぎてはいけない。法律学では、ひっきょう、最後に頼ることができるのは自分の能力と感性だけである。そして、それが最も信じられないところに底知れぬ絶望と窮極の希望がある、と*1

学生向けと言われるこの雑誌を自分が愛読しているのは、
学生向けに語られる大学の先生方の言葉の中に、
時に格調高く、時にウィットに富み、そして愛情のこもった言葉を
見ることができるからである*2


こういう教官に教えを受けることのできる東大の学生、ロー生は、
つくづく幸せな奴らだと思うが、
同時に「理想の教育」の下で育てられた彼・彼女達を待ち受けている現実を思う時、
羨望よりもむしろ同情の念に駆られざるを得ない*3

連載記事

今回の長谷部教授の連載は*4、まさに自作自演そのものだが*5
内容的には確かに核心を突いているので納得。


「社会的インパクト」論でしか反論できなくなったら、
9条改正違憲論者も終わりということですな・・・。
(あくまで研究者として、の話で、運動論としてはまた別論、ということになろうが)


佐伯教授は「故意論」の続き(因果関係の錯誤と抽象的事実の錯誤)を
解説されているが*6、切れ味の鋭さと読みやすさは変わらない。


因果経過の認識必要説を、理詰めで片付けたかと思えば、
「早すぎた構成要件の実現」の論点でも、うまく事例を持ち出して、
一番落ち着きのいい結論に落とし込む*7
山口説信者の後輩が、時々「遡及禁止!」と叫んで議論をふっかけてくるのだが、
この論点に関しては、佐伯先生の論理立てで返しておけば問題なさそうだ(笑)*8
教科書出せば受験の定番間違いなし!*9
という評価も、あながち嘘ではないだろう。


なお、原稿締め切りが夏期休暇にあたったせいか、
今回は連載お休みの先生が多かったようで、全体的に薄いのはご愛敬。

その他

今年の前半に出された、2件の大きな最高裁判例の解説が、
「時の判例」で取り上げられていた*10
これが出ると、次はジュリストに調査官解説が載る、
というのがいつものパターン。


NBLの速報コラム→法教の「時の判例」(若手研究者)
→ジュリストの「時の判例」(調査官)という辺りまでは、
自分の乏しい情報量でも追えるのだが、
その後の充実した議論になかなか触れることができないのがもどかしい*11

*1:高橋宏志「信ずる」法教301号1頁(2005年)

*2:それは、読者に迎合しがちな実務系雑誌では、決して見ることのできない言葉でもある。

*3:法科大学院生の目前に迫っている「試験」という観点からの「同情」がまず一つ(身につけた知識の高度さ、奥深さは必ずしも競争試験の結果には直結しない、というのは、現行試験の結果を見ても明らかだろう)。もう一つは、「奥深い議論」や「論理的な思考」よりも、「単純明快さ」が好まれる世の風潮とのギャップに否が応でも直面せざるを得ないことへの「同情」である(もちろんどの世界に進むかにもよるが)。

*4:長谷部恭男「Interactive憲法第16回・表立っていえない憲法解釈論」法教301号30頁

*5:憲法9条解釈をめぐる長谷部説への批判を「H先生」がぶったぎるというもの。

*6:佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方第15回・故意論(3)」法教301号37頁

*7:無理な仮想事例を立てることなく、論理的に読者を納得させることができるのが、「佐伯説」のすごさであり巧さである。裏返せば、そこに師の説の穴が隠されているのかもしれないが、それを指摘できるほどの能力を持ち合わせている人間は多くないはずだ。

*8:なお、いかに法務部といえども、このような会話が日常的になされる職場は稀だと思うので、就職を考えている司法受験組の皆さんは誤解なきよう・・・。

*9:褒め言葉なのかどうかは、やや疑問だが。

*10:動産売買先取特権に基づく物上代位と債権譲渡との優劣について判示した平成17年2月22日判決(中山知己教授)と、抵当権に基づき、抵当不動産占有者に対する妨害排除請求を認めた平成17年3月10日判決(田高寛貴助教授)。いずれも債権管理・回収実務に大きなインパクトを与える判決と理解されている。

*11:運が良ければNBLに再度詳しい記事が載ることもあるが、それがなければ、翌年の重判まで待たないといけない。

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