「営業秘密管理指針」公表

さる10月12日に、経済産業省が「営業秘密管理指針」の改訂版を正式に公表した。
http://www.meti.go.jp/press/20051012002/20051012002.html


「営業秘密管理指針」(案)がパブリックコメントに付された時に、
このブログで雑駁な感想を書いたところ(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20050911/1126444984)、
駒沢公園行政書士事務所日記」というブログでもご紹介いただき(http://app.blog.livedoor.jp/hayabusa9999/tb.cgi/50072090)、
大変恐縮した記憶がある。


その後、社内で不競法改正への対応策を練り始めたこともあり、
フォローのために再び目を通してみたのだが、
前回の(案)から、大きく変わったところはなさそうだ。


合わせて公開されているパブコメの「意見に対する考え方」を見ても、
「改訂案の記載を維持することと致します」という記述が目立つ*1
やたら細かい「校正」に対しては、「従順に」(笑)対応しているのに、
内容の本質を突くような問いに対しては、あっさりと「維持」してしまうあたり、
やや腑に落ちない部分もないわけではない。


前回のエントリーでも触れた個人情報保護と営業秘密管理体制との関係については、
いくつか意見が出されたようであるが(案の定、同じようなところで指摘が出ている)、
それに対する回答は次のようなものになっている。

「ご指摘の42頁と60頁との関係は、本来、保護範囲等の異なる個人情報と営業秘密について、形式的に異なる管理体制を構築する必要はなく、統一的な管理体制でもそれぞれの情報を適切に管理されることが重要であるという趣旨です。しかし、個人情報の保護は法律上の要請に基づいたものであるのに対し、営業秘密の保護は企業と従業者が合意した契約に基づくものとなります。このため、企業と従業者との関係に鑑み、法律上の要請に基づく個人情報の保護に関する契約を締結する際に、秘密保持契約をあわせて行うことを推奨することは望ましくないことから、管理体制の形式にかかわらず、個人情報保護に関する契約と営業秘密に関する秘密保持契約は峻別した規定とすることが望ましいと考えております(No.58)。

コンタミネーション防止、という観点から見れば、
営業秘密の保護も「法律上の要請」に基づくものとはいえないのか?
という突っ込みはさておき、No,58の掲載された意見は、
「「峻別することが望ましい」という記述は、契約においてどのような規定を
することを念頭に置いたものなのか、具体的にお示しいただきたい」
というものなので、実はここでの回答は問いに完全に答えたものではない。


No.75でも同じような問いに対して、同様の回答が示されており、
結局、「それならどうすればいいの?」という担当者の疑問は解消されぬままとなった。


これはあくまで「指針」に過ぎないものであるから、
細かいところまで逐一示してもらおう、というのは虫が良すぎるのかもしれない。


だが、少なくとも実務上の慣行を超えるような指針を示した以上は、
例示でも良いから、責任をもって何らかの示唆を与えていただかないと、
宿題をもらう側にとって頭痛の種を増やすだけになってしまう。
個人情報保護法ガイドラインが出た時の悪夢を思い出す・・・)


他にも、企業団体等からと思われる、
「実務にそぐわないのでは?」的な指摘の中には、
ごもっとも、と思われるものが多いにもかかわらず、
結局「記載維持」にとどまっている(No.2、No.21、No.38、No.46、No.50、No.64など)
ものが多いのは残念である。


あともう一つ、「秘密管理性」に関して次のような回答がなされている(No.19)。

「不正使用・開示した情報が、その情報の創作者自身であったとしても処罰や差し止めの対象となりうることは、改訂案7頁12〜14行目で明確になっていると考えていますので、追加的な記載を行う必要はないものと考えます。」

これは、明らかに、現在の有力説*2や裁判例*3に反するのではないだろうか・・・?


自分は、指針(案)のこの箇所を読んだ時、
当然に創作者自身による使用・開示は含まれないのだろう、と思っていたのだが、
この点については、今後議論が出てくる余地がありそうだ。


いずれにせよ、これで今回の不競法改正を受けた立法担当者側の解釈は、
ほぼ出揃ったといえる(一応、『逐条解説』がまだ残っているが)。
社内での検討もそろそろピッチを上げていく必要がありそうだ。

*1:今回に限らず、パブコメを経てガイドライン等の内容が大幅に変更されることはまずありえないのであるが。

*2:田村善之『不正競争法概説〔第2版〕』344頁では、「従業者が在職中に自らの営業秘密で得た顧客情報を従業者が利用する行為に関しては、少なくとも(編注:不競法2条1項)7号違背は問えないということになる」という記述がある。

*3:いわゆる原価セール事件など

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html