原作と実写版の間

先日、「NANA」を映画館まで見に行った。
公開からだいぶ日が経っているはずなのだが、
相変わらず大した人気であった。


個人的には「ネタ作り」(笑)のための鑑賞で、
ほとんど中身には期待していなかったのだが、
どうして、思いっきり泣きのツボにはまってしまったようで、
不覚にも、瞬間的にウルウル状態になってしまった。


役者の演技自体は、評価できるレベルではないのだが*1
劇中に出てくる「トラネス」の曲が最高に良い。
そして、それをこの映画最大の泣きのツボにかぶせてくるとは・・・*2


完璧な盛り上がりシーンが一つあると、
下手な演技でも、かえって青春映画*3のような
爽やかさを醸し出しているような気がするから、不思議なものである。


それで、周りの人にここ何日か「NANAいいよ〜」と薦めてきたのだが、
今日、初めて原作を読んで、少し後悔した。


なぜなら、原作の方が、断然よかったからだ・・・(泣)。


自分が映画版を薦めた方の中には、原作の大ファンも何人か混じっていたので、
下手をすると恨まれるかもしれない・・・、と戦々恐々である。


確かに、一部でいわれているように、
原作の場面設定だとか、セリフだとかは比較的忠実に再現されている*4


しかし、テンポだとか、登場人物のキャラだとかに関して言えば、
映画版は明らかに原作とは違う。


ストーリーはドロドロでも、アップテンポなコミカルさでカバーできる原作に対し、
映画版は、今の設定のまま進むと、「火曜サスペンス」になってしまうのではないか、
と危惧したくなるほど違う。


おそらく食い違いの最大の原因は、
ナナ(中島美嘉)と蓮(松田龍平)の配役にある。


中島美嘉はドラマでもCMでもそうだが、無表情演技が多いから、
何かを「背負った」役になると、いっそう悲壮感が増す。
相方の「ハチ」(宮崎あおい)が、
憎ったらしいほどの「かわい娘」ぶりを発揮しているために、なおさら。


個人的には、映画版の「ハチ」のキャラクターに、
かなり「引く」ところがあって*5
その分、クールかつ尖ったナナの方に感情移入しやすかったというのはあるのだが、
原作の世界観とはだいぶ違う。


さらに問題なのは、蓮の鈍重さ・・・。
プロデューサーとしては、「ニヒルさ」でリンクさせたつもりなのだろうが、
何かが違う・・・。


映画版には映画版で、青春の郷愁を誘うような独自の良さがあるのは認めるが、
原作を読み始めてしまった今、明らかに予定されている「続編」を見ろ、
と言われると、ちょっとキツイかも知れない*6


コミックの原作が気にいっているのなら、実写版は見るものじゃない、
と昔から言われているし、自分も言い続けてきたことだが*7
今回もそれにたがわなかったというのが結論。


むしろ新しい教訓として、「映画が気に入ったのならコミックの原作は読むな」、
というのも残しておいた方が良いかもしれない。

*1:宮崎あおい成宮寛貴は悪くなかったのだが、それ以外の役者さんが・・・

*2:先日も書いたとおり、自分は上京シーンに弱い。さらにそれが真っ白な銀世界と来たら・・・。

*3:学生時代にはミニシアターでよく見たものだ。

*4:もっとも、上に書いた最大の山場シーンに関しては、映画向けの徹底的な演出が施されている。この点に関しては、映画版の勝利。

*5:もちろん、それだけのアンチ感情を与えてくれる宮崎あおいの演技が、この映画の中では別格だったということでもある。

*6:できれば、続きは実写じゃなくて、アニメーションで見たい。

*7:古くは一連の柴門ふみ作品(「東京ラブストーリー」「あすなろ白書」)、原秀則の「冬物語」「部屋においでよ」など、最近では「タッチ」もそうだし、たぶん「ハチミツとクローバー」がそのリストに入る日も近い・・・(涙)

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