「ユーザー」サイドの反乱

NBLの10月15日号の新判例紹介のコーナーに、
CS放送の同時再送信をめぐって、
JASRACと千葉県内の3ケーブルテレビ会社が争った事件の評釈が載っている。
知財高判平成17年8月20日*1


東京地裁ではJASRACの請求が棄却されたのに対し(東京地判平成16年5月21日)、
知財高裁では、JASRACの損害賠償請求が認められたことで、
新聞でも取り上げられた事件である*2


本件のポイントは、
JASRACを含む5団体と各ケーブル会社が締結していた「5団体契約」の解釈、
すなわち、使用許諾された対象に「CS放送の同時再送信」が含まれるか、
という点にある。


地裁判決と高裁判決の「事実認定アプローチ」の違いは、
本記事で分析されているとおりであり*3
地裁判決が「有線テレビジョン放送法」の文言解釈から、
結論を導こうとしているのに対し、
高裁判決が、5団体契約制定後の「業界慣習」*4の分析に重きをおいたために、
結論をたがえることになった、というところかと思われる。


BSデジタル放送の再送信については、5団体契約の対象となっていることから、
それとの対照では、CS放送の再送信も使用許諾対象となっている、
と考えることはできたように思えるのだが*5
CS放送BS放送の違いについて、深く理解しているわけではないため、
この点についてはコメントできない。


評釈者は、本件が事実認定判決であることを強調して、
「いかなる状況下においてもこのことが普遍性を持ちうるとは思えない」
と述べられているが*6
実務上は、このような先例が一度認められてしまえば、
「5団体契約」をどの時期に結んだか、
といった契約解釈の微細に立ち入ることなく、
JASRAC側の主張が一方的にまかりとおる可能性が高いのもまた事実である。
(裁判所に行かなくても、任意交渉で押し切ることが予想されよう。)


なお、ケーブルテレビ会社の団体は分裂状態にあるようで、
今回の被控訴人(被告)側に立つ日本ケーブルテレビ事業協同組合(JCBC)が、
以下のような見解を出している。
http://ns5.jctv.ne.jp/~jcbc/genkyo.htm


本件で被告側の代理人になっている中田祐児、島尾大次の両弁護士が、
日本ケーブルテレビ連盟に対して共闘を呼びかけた
「通知書」も掲載されているが、
http://ns5.jctv.ne.jp/~jcbc/iraituchi.htm
徳島県弁護士会所属の両弁護士の奮闘もむなしく、
その試みは実らなかったようである。


JASRACのような強大な権利者団体の「パワープレー」に
通常のユーザーが対抗するのは容易なことではない。
残念ながら本件もそれを裏付ける結果に終わっている。


だが、強大すぎる「力」が制度自体を歪める可能性を否定できない以上、
本件のような訴訟の積み重ねが、
既成秩序にほんの少しでも穴を開けることに期待したくなるのも、
また事実である。

*1:鮫島正洋「音楽著作権使用契約における「同時再送信」の範囲」NBL819号5頁

*2:詳細は判例速報等を参照されたい。

*3:鮫島・前掲7頁

*4:具体的には、「日本ケーブルテレビ連盟」とJASRACとの交渉経緯等に基づいて分析している。

*5:事実、地裁はこの点を重視している。

*6:鮫島・前掲8頁

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