悪しき「慣行」を消せるか?

本日の日経の1面に、
厚生労働省が、男女雇用機会均等法の改正案をまとめた」という記事が載っている。


内容としては、

  1. 妊娠・出産を理由とした本人が希望しない配置転換、パートタイマーへの契約変更を強要するような処遇を禁じる。
  2. 妊娠と産後1年間の解雇を原則無効とする。
  3. 「間接差別」の禁止を新たに盛り込む
  4. 採用、昇進差別の範囲拡大


記事にもあるように、これから労使の激しい綱引きがあるだろうが*1
実現すれば極めて画期的なことである。


間接差別については、先日のエントリーでも触れたが、
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20051107/1131378471
今回の改正案では、差別にあたる具体例を省令で示すことで対応するようだ*2


一応は大企業である当社の場合、
正社員の女性が、妊娠、出産を理由に解雇されることはないし、
契約変更を強要されることもない。
だが、結果的に配置転換を余儀なくされたり、
昇進等で不利になっているケースは多々ある*3


個人的には、職場で“プロ”として仕事に臨む以上、
いかに出産・育児休暇が充実しているといっても、
そのために女性が長期間職場を離脱することが「当たり前」に
なってはいけないと思う*4


だが、長期離脱した者だけでなく、短期離脱しただけの者に対しても、
決して優しくはないのが、今の日本の会社の実態でもある。
そして、このあたりは、
今の日本の“一流企業”の人事担当者のマインドによるところが大きい。


どの会社の法務の人間に聞いても、
法務担当部署と人事担当部署は仲が悪いのが常であり、
このブログはあくまで一方当事者の感想を述べるものに過ぎないため、
そのあたりは割り引いていただいて結構なのだが*5
「人事担当部署」というのは、得てして、
感性ではなく“慣性”でのみ動くことが多く、
新しい考え方に対して冷淡かつ鈍感な、極めて保守的な思想の人間で
固められていることが多い*6


多くの企業で、未だに新卒採用と既卒採用を別枠で取っている
というのが好例であるし、
女性に対する扱い方にしても然りである。


時代が進み、女性を“保護すべき”対象として認識する人事担当者は増えたが、
男と同質の“戦力”として認識している人事担当者は、
驚くほど少ない。
いたとしても「女性らしさ」を存分に発揮して・・・などという、
見当違いな認識をお持ちの方も多い*7


“人を動かす”人々の認識がかくの如し、である以上、
雇均法を改正した程度で、急激に状況が変わるとは思えないが、
それでも、新しい“流れ”を作るきっかけの一つにはなると、期待したい。


あとは、いかにエンフォースメントが徹底されるか、にかかっている。
残念ながら、自分が企業法務の側の人間である以上、
“差別を受けた労働者”を救うことは極めて難しい*8
ここは、フリーな立場にいる“プロ”の皆さんのご活躍に、
期待するほかないのである。

*1:もっとも、典型的な男性集団である大手労組の動きは、お世辞にも褒められたものではない。前の均等法改正時には、「女性の職域拡大で、一家の生計を立てている俺達の仕事はどうなる!」と叫んだ組合員に対し、組合役員が「まぁ慌てるな、あくまで形だけの話だから・・・」と諭した例もあるという。嘆かわしい限りである。

*2:限定列挙形式をとる限り、その“隙”を狙い、形を変えて企業の実質的差別行為が継続する可能性があることも否定できないのだが・・・。

*3:出産、育児期間中、休職扱いとなるため、結果的にその期間の昇級、昇給、資格試験受験の機会が奪われることになる。そこで付いた“差”は、復帰後に倍の仕事をしたとしても、なかなか挽回できるものではない、というのが歯がゆいところである。

*4:女でも男でも、「子育て第一、家庭第一」の者が、「仕事第一」の者に比べて昇進や給与で割を食うのはある意味当たり前のことだと思う。もっとも、それを徹底するためには、「子育てより仕事を優先したい」と思う人をしっかりフォローするための社会環境の整備が急務なのだが。

*5:所詮は内輪のルールに過ぎない「就業規則」(それもあくまで人事担当部署の解釈の下での就業規則(笑))を遵守させることに関しては極めて厳格なのに、世のルールである労働法規その他の法令順守意識が希薄であること、訴訟に直面しているにもかかわらず、どうでも良い情報をあたかも神聖な秘密であるかのように囲い込んで出し惜しみする姿勢など、背景には様々な要因がある。

*6:そして、そんな“化石のような”人々が好む人材を、自らの権限を行使して、後継者として集めるもんだから、永遠に同種の人間が再生産される、という悪夢が生まれる。

*7:男性のキャラクターが人によって様々なのと同じで、女性にも様々なキャラクターの持ち主がいる。配属された箇所で“女性らしさ”を発揮するかどうかは、あくまで仕事上のTPOと、その社員の考え方次第なのであって、“女性らしさ”の発揮を前提として配属を決めるというのは、まさしく本末転倒の見解である。もっともそんな“女性らしさ”を利用することで、這い上がっていく女性がいるのも事実なので、問題は単純ではないのだが・・・。

*8:もちろん、「悲劇」を防ぐために、釘を刺すことはできるが、ひとたび不利益を受けた者を救済するまでの権限は、一法務の人間には、残念ながら与えられていない。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html