とある研究会

都内某大学でやっている知財法関係の研究会に出てきた。
お目当ては、報告者の田村善之先生。


かなり前、別の研究会に出席されていた田村先生の“切れ味”に感嘆して、
師の著作や論文を読みふけった記憶があるが、
今日も、この手の研究会にしては異例の100人近い参加者を前に、
変わらない“タムラ節”を存分に発揮されていた。


田村先生の素晴しさは、
多様な説が交錯する領域を
自説の単純明快な規範でバッサリと整理していくところにある*1
“インセンティヴ理論”“競争法としての知財諸法の体系化”*2
といったあたりは有名だし、
最近では職務発明に関して独自のアプローチを展開されたりもしているが*3
それ以外の論点についても、いろいろと思い切った説を提唱されている。


今日のお題は、いわゆる「消尽(用尽)理論」であった。


社会的に注目を浴びている「インクボトル事件」(知財高裁大合議審理中)の
判決が直前に迫っていることもあり、そのあたりも念頭に置いた、
学説と裏話が入り混じったなかなか興味深いお話であったが、
詳細はここでは書かないでおく。


報告のベースとされていた論文は、既に公刊されていたものであるし、
自分があえてここで紹介するまでもない*4


本来対立的に用いられている「生産アプローチ」と「消尽アプローチ」、
そして「黙示のライセンス法理」を場面に応じて使い分ける構成は、
田村教授本人も言われていたようにかなり複雑だし*5
自分自身きちんと理解できている自信は(全く)ない。


特許製品の修理、部品取替えの場面で、消尽の成否を分けるのは、
修理、取替えされる部分が「本質的部分」か否かである、というのが
現在の裁判例の考え方だが*6
その「本質的部分」の解釈に、「経済的価値」という観点を盛り込む発想も、
おそらくは異端の部類に属する発想であろう*7


だが、“タムラ節”には、どんな少数説でも、
それがあたかも学界の多数説であるかのように錯覚させるだけの説得力がある*8


こんな先生に、学部レベルで知財法を教わることのできる
北大の学生さんが、つくづく羨ましい。


いずれにせよ、知財高裁の判決(&その後の評釈)が見ものである。

*1:論文で引用されている文献、判例の豊富さもさることながら・・・。

*2:田村善之『機能的知的財産法の理論』第1章など(1996年、信山社出版

*3:田村善之=山本敬三編『職務発明』第1章など(2005年、有斐閣

*4:田村善之「修理や部品の取替えと特許権侵害の成否」知的財産法政策学研究第6巻33頁(2005年)、同「用尽理論と方法特許への適用可能性について」特許研究第39巻5頁(2005年)。

*5:それぞれのアプローチ、及びその意義については、横山久芳「特許製品に対する変形行為と特許権侵害」特許判例百選〔第3版〕130頁(有斐閣、2004年)の説明が分かりやすい。

*6:使い捨てカメラに関する東京地判H12.8.31や、インクボトル事件の地裁判決(東京地判H16.12.8)など

*7:経済学的アプローチから特許権の意義を分析しようとする、師の最近の研究方向には非常に合致しているものであるが。

*8:“自分の説でメシを食う”学者としては当たり前のことなのかもしれないが、紙の上ではともかく、そのような姿勢を研究会の場でも貫かれている方は、案外少ないようにお見受けする。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html