日本経済新聞社「企業法務・弁護士アンケート」

日商事法務=経営法友会の調査結果を紹介したが、
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20051219/1135095946#tb
今度は日経新聞社によるアンケートである*1


この調査が、経営法友会の調査と違うところは、
法務担当者の調査対象が「主要287社」に限定されていることで、
それが、後ほど紹介する数字に“先端的な風潮”が反映されている原因となっている。


さて、調査の概要だが、
まず、「1.関係を強化したい弁護士の得意な業務」。

見出しにもあるとおり、
敵対的買収への対応」が55%でトップ。
続いて「知的財産権の保護」51%、
独占禁止法違反の防止」40% が続く。

もっとも、本当に「敵対的買収」を脅威に感じている会社がそれだけあるのか、
といえば、微妙なところだと思う。


アンケートをとった時期(11月)に世の中を騒がせていたニュースの
影響によるところも大きいだろうし、
選択肢の設定自体に“誘導尋問”的な香りがしないでもない*2


「2.過去1年に弁護士に支払った費用総額」

1億円以上が30%。10億円以上とした企業も3社。

3億円で驚いている場合ではなさそうである・・・。


「3.弁護士に期待する能力」

「経営戦略に応じた法的解決手段の提案能力」70%
「専門分野の法律知識」63%
「訴訟対応能力」39%

この点に関しても、個人的には疑問がある。
上位2つは法務担当者に求められる能力ではあっても、
あえて社外の“弁護士”に求める能力ではない、と思う。


弁護士に期待すべきは、弁護士という資格(ないしステータス)を
持たなければできない仕事なのであって、
「訴訟対応能力」や「経営者への説得能力」*3がもっと高く評価されて良いはずだ*4


「4.今後の起用について」

「顧問弁護士を増やす」が15%だったのに対し、
「案件ごとの契約を増やす」が29%に。

弁護士との付き合い方は、確かに変わってきている。
顧問の先生(事務所)を持ち上げておだてて、
末永くお付き合い・・・という時代はまもなく去り*5
案件に応じて四大渉外+ブティック型事務所を使い分ける、
というドライな時代に突入してくるのだろう。


弁護士にとって競争が激しくなるのは勿論だが、
企業の法務担当者の側にも、いっそうの“相馬眼”が求められることになる。


「5.企業に弁護士資格を持つ社員がいるか」

「いる」と回答した会社が30%。5人以上雇用する企業も8%。

恐れ入りました・・・。
自分の会社の貧弱な体制を見ると、
あたかも自社が中小企業であるかのような錯覚に陥ってしまう。


ちなみに、このアンケートのもう一つの目玉は、
「弁護士が選ぶ05年弁護士ランキング」
「企業が選ぶ05年弁護士ランキング」
である。


この手の企画の性質上、
ある程度メディア等で脚光を浴びている方々のための人気投票、
といった感は否めないのだが、
弁護士が選んだランキングと、企業が選んだランキングとで、
見事なまでの乖離が生じているところを見ると、
業界内の“評判”とアマチュア内のミーハーな“評価”とでは、
違いがあるといって良いのかもしれない*6


参考までに抜粋する。

弁護士が選ぶランキング
1.藤縄憲一氏 長島・大野・常松法律事務所
2.木村明子氏 アンダーソン・毛利・友常法律事務所
3.石田英遠氏 アンダーソン・毛利・友常法律事務所
4.岩倉正和氏 西村ときわ法律事務所
5.森脇 章氏 アンダーソン・毛利・友常法律事務所
5.原 寿 氏 長島・大野・常松法律事務所

上位は大手事務所を代表するパートナーの方々だが、
注目すべきは、5位に若干35歳の森脇弁護士が入っていることか。
中国法の分野で取り上げられることが多い先生である。

企業が選ぶランキング
1.武井一浩氏  西村ときわ法律事務所
2.中村直人氏  中村・角田・松本法律事務所
3.岡村久道氏  弁護士法人英知法律事務所
3.久保利英明氏 日比谷パーク法律事務所
3.鳥飼重和氏  鳥飼総合法律事務所
3.中島 茂氏  中島経営法律事務所
3.長谷川俊明氏 長谷川俊明法律事務所

買収防衛策に関して華々しい活躍を見せているとはいえ、
武井先生がトップというのは、何とも意外な気がする。


何より、企業を何より愛する久保利先生がこの順位というのは・・・
さぞかしご不満なことであろう(笑)。

*1:平成17年12月22日付朝刊第1面、29面

*2:敵対的買収への対応」という肢設定は、他の項目と比べて妙に具体的である。

*3:実のところこれが一番大事かもしれない(笑)

*4:日経紙は、「企業の弁護士に対する期待が質的に変化しているとみられる」とコメントしているが、裏返せば、それは「法務担当者の自覚の低下」につながるものでもある。

*5:ただし、賢い企業なら、いざという時に備えて1つ2つはそういう事務所を残しておくだろうが。

*6:業界内のランキングは大手法律事務所のパートナーを対象としたものだから、「組織票」も少なからずあるだろうし、「格」も重視されているように思われる。これに対し、企業側の評価は純粋にメディアへの登場回数(報道のみならず、出版や講演等も含まれる)に比例しているといえようか。

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