「知的財産権判決速報」(最高裁HP)のサイトで、
面白い判決(というか主張)を見つけたのでアップしようと思ったら、
大塚先生が先に掲載されていた・・・。
(http://ootsuka.livedoor.biz/archives/50269265.html)
タイトルを付けるなら「宗教家講演等著作権事件」*1
とでも呼ぶことになるだろうか。
事案は単純で、
原告(GLA総合本部)の創始者(故人)が行った講演や論文を、
被告が無断でCD-ROMに録音、電子ブックに複製し、
インターネットオークションで販売したというものである。
被告が熱心な会員で、“善意余って”やってしまったのか、
それとも当該宗教法人内部での何らかの内紛があったのかは定かではないが、
非常に“ベタ”な著作権侵害事例であることは間違いない*2。
インターネットでの落札自体は、
そんなに盛況というわけではなかったようで、
裁判所の認定によれば、「4ヶ月に1部販売される程度」で、
「3年間の売上金額が36万6030円」に過ぎない*3。
結果として、認容された損害賠償額は約11万円。
差し止め請求が認められたことを差し引いても、明らかに費用倒れである*4。
もっとも、原告側としては“無法者にお灸をすえる”ことができれば
目的は達したといえるから、こんなものでも良いのだろう。
被告は権利制限事由(著作権法30条・私的複製)を主張しているが、
ネットオークションで公に向けて販売している時点で、
もはや失当というほかはない。
原告側の主張もあっさりしており、
損害額の主張にあたっては、特に条文を引用することもなく、
被告の利益額=損害賠償額とするなど*5、
被告側としても、他の“突っ込みどころ”はあったように思えるが、
代理人を立てていない以上、如何ともし難かったのであろう。
大塚先生もコメントされているように、
本判決の面白さは、本人訴訟ならではの“珍主張”にある。
被告側曰く、
「Bの講演記録は,世界の宝であり,一宗教法人が独断で封印すべきものではない。」
ということだが、
これが、「著作権は文化の発展に寄与するのか?*6」という
古くて新しい争点を踏まえてなされた主張なのだとしたら、
相当に奥深い問題提起であるといえよう*7。
残念ながら、裁判所は被告のこの主張に対し、
何ら応答することなく結論を導いている。
だが、そもそも宗教活動における“布教活動”の実質は、
“教祖”の講話の内容や執筆成果を世に広めていくことにあると考えられるから、
そこに「著作権」という網をかけることは、
そもそもの宗教活動の本質と矛盾するのではないか、
という問題意識は、どこかにあっても良いのではないかと思う*8。
本件が控訴されるのかどうかは、定かではないが、
一応、期待してみる。
なお、同日付、同じ東京地裁民事29部で、
由緒正しき天台宗関連の書籍をめぐる出版権等侵害事件の判決も言い渡されている。
(こちらについても大塚先生のブログをご参照のこと。結論としては請求棄却となっている。*9)
著作権侵害訴訟というと、
(相対的に)かなりの高確率で宗教法人がらみの事件に
ぶつかるように思えてならないのだが、
気のせいだろうか・・・・?*10
*1:東京地裁平成17年12月26日判決・http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/c617a99bb925a29449256795007fb7d1/625e13beec378e3d492570e400204dd9?OpenDocument
*2:結論としても、差止請求、損害賠償ともに認められている。
*3:オークションサイトの「出品者評価」の数から逆算して概ねの個数を算定しているあたりは興味深い。
*4:ネットオークションしか販売ルートがなかったのであれば、そもそも当該サイトに削除依頼を出せば済む話だったともいえるだろうし。
*5:裁判所は、「原告は,著作権法114条2項の規定に基づいて,被告が本件各複製物の販売により得た利益の額をもって原告の受けた損害額と推定されると主張しているものと解される」とわざわざ注釈をつけているあたり、とても親切である(笑)。
*6:ひいては、人々を幸せにするのか?問う問題。
*7:たぶん、そこまで深くはないだろうが(笑)。
*8:もし、被告が原告団体の一会員で、純粋に“創始者の教えを広める”目的で当該販売行為を行っていたのだとすれば、「黙示の許諾」等の構成で反論することも、一応は可能だったのではないかと思う。
*9:http://ootsuka.livedoor.biz/archives/50267320.html
*10:某学会絡みの事件も結構良くみかけるような気がする・・・。