「最高裁判決法廷意見の分析」(第2回)

今回は行政法分野の判決2件。
もっとも、行政法プロパーの分野については完全に素人だし、
他のブログにもコメント等が載っている判決なので
軽く流す。

最大判平成17年12月7日(小田急線連続立体交差事業認可処分取消等請求事件)

新聞でも大きく取り上げられた、
小田急線立体交差化事業認可をめぐる訴訟の上告審であり、
原告適格をめぐる争点だけが先行して大法廷で審理されたものである。


鉄道事業認可の取消しを認めた部分(破棄自判)については、
藤田宙靖裁判官(研究者)、町田顕裁判官(裁判官)の補足意見があるものの、
結論自体は全裁判官が一致しており、
本連載の趣旨から言えば、あえて取り上げるまでもない。


一方、付属街路事業認可の取消しに関しては、意見が分かれている。


多数意見は、

「上告人らは、・・・本件各付属街路事業に係る個々の事業の認可によって、自己のどのような権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれがあるかについて、具体的な主張をしていない。」
「そして,本件各付属街路事業に係る付属街路が,小田急小田原線の連続立体交差化に当たり,環境に配慮して日照への影響を軽減することを主たる目的として設置されるものであることに加え,これらの付属街路の規模等に照らせば,本件各付属街路事業の事業地内の不動産につき権利を有しない上告人らについて,本件各付属街路事業が実施されることにより健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあると認めることはできない。」

として、原告適格を否定した(上告棄却)。


これに対して、反対意見を表明しているのが、
横尾和子(行政官)、滝井繁男(弁護士)、泉徳治(裁判官)、
島田仁郎(裁判官)の4裁判官である。


反対意見は、

①本件各付属街路事業が鉄道事業を環境保全の面で支える性質を有し、連続立体交差化事業の一部を構成するものであることから、形式はともあれ、実体的には両者は一体の行政処分というべきであること
②上告人らが求めているのは、資金計画も含めた事業計画全体の見直しであること。
③原審判決においても、付属街路事業認可が鉄道事業認可に依存する処分であって、両者が実体的適法要件を共通にすることが認められていること

といった理由から、
付属街路事業認可の取消しについても原告適格を認めるべきと主張する*1


これに対し、藤田宙靖裁判官(研究者)、今井功裁判官(裁判官)は、
鉄道事業認可と付属街路事業認可が「法的に別物である」
という“正論”を前提に、多数意見の正当性を説いている。


藤田裁判官が指摘されるように、

「上告人らにおいて,本件各付属街路事業認可の取消訴訟は,実質的に,鉄道事業認可取消訴訟に加えて,上告人らの主張する権利利益を守るための固有の意味を持つものではなく,そこで主張されていることは,鉄道事業認可取消訴訟内において,充分主張することが可能な内容」

であるから、鉄道事業認可の取消しについて原告適格が認められさえすれば、
本件訴訟の入り口は突破できたといえる。


また、理論上判決の拘束力が及ばないからといって、
鉄道事業認可が取り消されても付属街路事業を推進する、
という政策判断がなされる可能性は乏しいから、
あえて法の理屈を曲げてまで、
上告人を“救済”する必要は乏しかったように思われる。


なお、本件はあくまで「入り口論」に過ぎず、
注目すべきは、今後なされる本案に関する判断であるということは
言うまでもない。

最一小判平成17年12月15日(違法公金支出金返還請求事件)

本件は、
市民オンブズマンが行った住民監査請求が
監査請求期間内に行われなかったことについて
「正当な理由」ありと言える場合にあたるかどうか、
が争われた事案である(地方自治法242条2項但書)。


原審が、「多くの事例を収集し、分析する必要」があることから、
「正当な理由」の存在を認めたのに対し、
最高裁は、認定された事実から「正当な理由」の存在を否定した。
(破棄自判)


ここで反対意見を書かれたのは、泉徳治裁判官(裁判官)であるが、
泉裁判官は、監査請求の前提として行われた情報公開に際して、

市側が、
①相手方出席者に係る情報を非開示とし、
②会合の名称や開催目的からも相手方出席者を表す表示を削除し、
③会合の内容等も抽象的で、具体的な内容を明らかにするものではなかった。

という点に本件の「特殊事情」があると指摘し、

「市は市民に対する説明責任を果たしていない」
それゆえ、
「監査委員としては、違法な情報非公開により損なわれた市の市民に対する説明責任を補完するため、その権限により各支出に係る文書を調査し、本件各支出に違法又は不当な点がないかを監査して市民に公表することが要請されるという局面にあった」

と論理を展開されている。


本件は、食糧費の支出状況をめぐる監査にかかわるもので、
市側としては、あまり深く突っ込まれたくない事案だったゆえに、
「監査請求期間経過」という理屈をつけて逃げたのであろう。


個人的には、やましいところがないのであれば、
門前払いを食らわすことなく監査請求を受理すればいいだろう、と思う。
そして、住民訴訟で支出の適法妥当性について争えば良い話である。


本件判決の当否については、事実認定の問題だけに何とも言えないが、
一般論としては、“門前払い”はなるべく避ける方向で、
法の解釈・適用を目指していくのが、
裁判所の姿勢としてあるべき姿なのではないか、と思う。
(この点、原告適格の問題とも共通する。)


もっとも、実体面に踏み込ませずに、入り口要件で切り捨てる、
という戦略が、リーガルディフェンスの常套手段であることは否定しないが。


※ 次回は、最一小判平成17年12月8日を取り上げる予定。

*1:個人的には、横尾裁判官が反対意見を書かれているというのが、新鮮に映る。