「最高裁判決法廷意見の分析」(第4回)

連載企画、サボってはいるが継続中。


最三小判平成18年1月24日・不当利得返還請求事件*1


本判決は、今年に入ってから相次いで出されていた、
貸金業法上の“グレーゾーン金利”をめぐる小法廷判決の最後を飾るもの、
と位置付けることができる*2


第一小法廷、第二小法廷が扱った事件は、債権者側が提起した貸金請求事件で、
「受取証書」の要件充当性や「支払の任意性」は債務者側の抗弁として
主張されたものだったのに対し*3
本判決は、債務者側が提起した不当利得返還請求事件で、
債権者(貸金業者)側が貸金業法43条1項を抗弁として主張している点で
違いはある。
しかし、実質的にはほぼ同じ争点に関して争われていることに違いはない。


これら一連の判決は、貸金業法43条1項の適用要件を厳格に解釈し、
債務者の“救済”に途を開いたもの、として評価されているようである。


第二小法廷は、
「受取証書」の法定記載事項の要件を緩和した内閣府令を無効としているし、
第一小法廷、第二小法廷ともに、
「期限の利益喪失条項が制限超過部分の支払を強制する限度において」無効とし、
その上で、このような特約の存在は、
「制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになる」として、
「支払の任意性」を否定している。


そして、第三小法廷による本判決でも、
「書面の記載内容の不明確性」や、
「更改により返済期間が100日未満となったこと」を捉えて
出資法所定の要件を充足していない、とし、
さらに、期限の利益喪失条項についても無効と解することによって、
同様に債務者側に有利な結論が導き出されている*4


これらの判決は、貸金業実務に大きな変革を迫るような
大胆なものであるにもかかわらず、
すべての小法廷において、全員一致での判決がなされており、
出資法適用要件の厳格な解釈を通じて、“債務者保護”を図ろうとする
最高裁の共通した“意思”をここに見ることができるように思える。


だが、本判決においては、
「期限の利益喪失条項」の違法性をめぐって、
田豊三裁判官(裁判官出身)による
“唯一”の法廷意見が書かれている点に特徴がある。


以下、順を追ってみていく。


まず、上田裁判官は、
貸金業法43条1項の「債務者が利息として任意に支払った」の意義を
最二小判平成2年1月22日判決を引いて説き起こす。


そして、次のように述べて、
期限の利益喪失条項があっても、支払の任意性は失われるものではない、
と説くのである。

「利息債務の弁済が強制執行や競売により実現される場合には,それは「債務者の意思による」支払とはいえないので,同法43条1項にいう任意性を否定すべきである。また,詐欺や強迫に基づいて利息債務の弁済が行われたり,あるいはその弁済が同法21条で禁止している債権者等の取立行為に起因する場合には,債務者の利息弁済の意思の形成には瑕疵があり,その弁済は債務者の「自由な」意思に基づく支払とはいえないので,同様に任意性を否定すべきである」
「これに対し,約定の元本のほかに約定の利息(それには制限超過部分が含まれている。)を支払わなければ元本についての期限の利益を失うという,期限の利益喪失条項がある場合において,債務者が約定利息を支払っても,そのことだけでその支払の任意性が否定されるものではないと解するのが相当である。このような場合に債務者が約定利息を支払う動機には様々なものがあり,約束をしたのでそれを守るという場合もあるであろうし,あるいは約定利息を支払わなければ期限の利益を失い,残元本全額と経過利息を直ちに一括して支払わなければならなくなると認識し,そのような不利益を回避するためにやむなく支払うという場合もあろうと思われる。前者の場合には,およそ約定利息の支払に対する心理的強制を債務者に及ぼしているとはいい難い。これに対し,後者の場合には,約定利息の支払に対する心理的強制を債務者に及ぼしていることは否定することができない。しかし,このような心理的強制は,詐欺や強迫あるいは同法21条で禁止している債権者等の取立行為と同視することのできる程度の違法不当な心理的圧迫を債務者に加え,あるいは違法不当に支払を強要するものとは評価することができず,なお債務者の「自由な」意思に基づく支払というべきである」(太字筆者)

その上で、上田裁判官は、多数意見の解釈を

貸金業者が17条書面及び18条書面を交付する義務を遵守するほかに,「制限利息を超える約定利息につき,期限の利益喪失条項を締結していないこと」あるいは「元本及び制限利息の支払を怠った場合にのみ期限の利益を失う旨の条項を明記すること」という要件を,貸金業法43条1項のみなし弁済の規定を適用するための要件として要求するに等しい結果となり,同法の立法の趣旨を離れ,みなし弁済の範囲を狭くしすぎるのではないかと思われる」

と批判している。


書面が貸金業法所定の要件を満たさない、というだけであれば、
貸金業者の側で“完璧な書面”を作成するよう努めることによって、
貸金業法の適用を再び受けることが可能であろう*5


だが、期限の利益喪失条項は、
元々、貸金業者の貸し倒れリスク回避のためには
“必須”といって良いもののはずであり、
これを外すことは本来考えにくい。


だからこそ、結論としては多数意見と同じであったとしても、
「この論点に関しては反対」という意見が一つでも出されたことの意味は、
それなりに大きいように思われる。


自分は、現在の貸金業界の実態をこの目で見ているわけではない。
債務者サイドから上がってくる声が示しているように、
悪徳貸金業者が跳梁跋扈し、“救済”に値するだけの債務者が多数存在している、
という現実も、もしかしたら存在するのかもしれない。


だが、世の中はそんなに単純なものではないはずだ。
“不誠実な債務者”というのは確かに存在するし、
「高い利息を払ってでもお金を借りなければならない」というニーズが
存在するからこそ、貸金業者はどんなに叩かれても、
この世に生き残っている。


だから、自分としては、今回の最高裁の一連の判決に
若干の違和感を抱く。
「強い貸し手」「弱い借り手」というステレオタイプな物の見方が
その背後にあるのではないかと。


上田裁判官の意見において述べられた、以下のような考え方が、
この問題を考える上では、欠かせないもののように思えてならない。

「さらに,そもそも,債務者が貸金業者との間に制限利息を超える約定利息の支払を約し,その約定利息につき期限の利益喪失条項のある契約を締結するのは,そうするほかには金融を得る途がないので万やむを得ないといった心理的強制にかられて締結していることが多いのではないかと思われる。そのような心理的強制にかられて締結した契約も,債務者の自己の自由な意思に基づくもの,すなわち任意性を否定することはできないものではないかと思われる。そうである以上,このような契約に基づく約定利息の支払についても,債務者の自己の自由な意思に基づくもの,すなわち任意性を否定することはできないものではないかと思われる」(太字筆者)

*1:http://courtdomino2.courts.go.jp/judge.nsf/dc6df38c7aabdcb149256a6a00167303/10fd1aafb4bf2b6f49257100001fb301?OpenDocument

*2:澤重信「グレーゾーン金利にかかる利息支払の任意性」NBL826号4‐6頁(2006年)なども参照。

*3:最二小判平成18年1月13日・http://courtdomino2.courts.go.jp/judge.nsf/dc6df38c7aabdcb149256a6a00167303/2a8687cd5f626b38492570f500249c95?OpenDocument、最一小判平成18年1月19日・http://courtdomino2.courts.go.jp/judge.nsf/dc6df38c7aabdcb149256a6a00167303/af74b6ad7d20ea7b492570fb0021bc10?OpenDocument

*4:なお、一連の判決は、全て原審破棄差戻し判決となっている。

*5:個人的には、本判決において指摘されているような点は、単なる“あら探し”に過ぎず、本来法が規制を設けた意図を超えて、貸金業者に不利益を与えるものといえるから、結論の妥当性はともかく、法の解釈態度としてはあまり感心できるものではない。