「Buongiorno PRINCIPESSA!」

荒川静香選手が現地紙に
「氷上のプリンセス(PRINCIPESSA)」として大きく取り上げられた、
というニュースを聞いて、タイトルのセリフを思い出す。


明日、トリノの街で閉会式前に荒川選手に会えたら、
思わずかけてしまいたくなるような言葉であるが、
日本人である筆者には無理な芸当である(笑)。


ちなみにこのセリフは、
不朽の名作*1であるイタリア映画『ライフ・イズ・ビューティフル』で
ロベルト・ベニーニが連発していたもの。

ライフ・イズ・ビューティフル [DVD]

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五輪が始まる前に、DVDを見ようと思っていたのだが、
途中まで見たところで五輪が始まってしまったために、
いまだディスクはデッキの中に眠ったまま。


・・・何てことはこの際どうでも良い。
ここでしたかったのはフィギュアスケートの話。


とりあえず、続きは、
録画したフィギュア女子フリーとエキシビジョンのダイジェストを見てから
書くことにする。


華と毒薬

録画していたのは第三グループから。
以下、滑走順に(技術点、演技点、フリー、総合)。

ポイキオ(フィンランド)40.54 49.94(-1) 89.48  143.22点(13位)
安藤美姫(日本)    35.69 50.51(-2) 84.20  140.20点(15位)
ヒューズ(アメリカ)  53.82 50.97(-1)103.79⑦ 160.87点(7位)
マイヤー(スイス)   49.31 51.25   100.56⑧ 156.13点(8位)
ロシェット(カナダ)  55.29 56.13   111.42⑤ 167.27点(5位)
コストナー(イタリア) 43.84 55.89    99.73  153.50点(9位)  

2番手グループとはいえ、いい選手が揃っていた。
エミリー・ヒューズ選手は、さしづめ“アメリカン・アイスショー”、
といった感のあるキップの良い演技*2


ジャンプの失敗が響いてスコアこそ伸びてはいないが、
サラ・マイヤー選手とカロリーナ・コストナー選手の優雅さとスピードも見事*3


スコア的にはロシェット選手が一番。
結構ミスはしている。
だが、着氷の乱れを何とか根性で粘って転倒を防ぎ、
最終的には技術点でフリーの全選手中、荒川選手に次ぐ2位という
高い得点を出してきた*4


安藤美姫選手に足りなかったのはそこなんだろうな・・・と思う。


24日の夕刊に載っていた本人のコメント。

「降りられると思ったけど甘かった。4回転をやって力尽きた」*5

ここ数年、散々煽ってきた罪滅ぼしなのか、
それとも金メダルの祝賀ムードに水を差したくないからなのか、
メディアの論調は意外と優しい。


だが、本来、安藤選手は、
「4回転に挑戦しました。頑張りました。」で終わる選手ではないはず。
4年に一度しかない五輪だからこそ、
結果にこだわって欲しかった、と思っていたのは自分だけだろうか*6


昨年末の連戦で調子を崩し、負傷を抱えて選考会でも結果を出せず、
挙句の果てに曲目の変更、と、滑れただけで満足、
という状態だったのかもしれないが、
“格”がモノをいう世界だけに、
調子が悪い中でも、SPでコストナーやロシェットよりも上の順位に付けていた
ということの重みを本人も周囲ももっと意識すべきだったのでは、と思う。


もっとも、元はといえば、これは、
本来ジャンプだけでなく、優雅なスピンにも定評のあった安藤選手に
「4回転の・・・」という形容詞を付けてしまったメディアの責任でもあるのだが。


全日本フィギュアの後に↓のようなエントリーを書いていたのだが、
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20051225/1135524417
残念ながら、悪い予感は当たってしまいそうな気がする。

トリノオリンピックの女神は荒川静香にキスをしました!」

最終グループ。
始まる前の練習で、カメラがひたすら追っていたのがコーエン選手。
とにかくジャンプが決まらない。
この時点で、勝負は決していたのか・・・。

ゲデハニシビリ(グルジア)43.60 49.96    93.56  151.46点(10位)
コーエン(アメリカ)   55.22 62.41(-1)116.63② 183.36点(2位)  
荒川静香(日本)     62.32 63.00   125.32① 191.34点(1位)
村主章枝(日本)     54.23 59.25   113.48④ 175.23点(4位)
マイズナー(アメリカ)  52.77 53.54   106.31⑥ 165.71点(6位)
スルツカヤ(ロシア)   53.87 61.87   114.74③ 181.44点(3位)

楽しみにしていたゲデバニシビリ選手は、
最終グループの緊張感か、
途中からジャンプが全部すっぽ抜けになってしまったが、
年に似合わぬ演技力もあるし、4年後が怖い選手なのは間違いない。


同じく、アメリカの若いマイズナー選手も、まさに“正統派”のスケーティング。
刈屋アナも解説の佐藤有香さんも、しきりに絶賛していた“根性”で、
SPの順位をキープ*7


いくら浅田真央選手がいるからといって、
バンクーバーで日本勢が表彰台に上るのは楽なことではない。


上位陣では最初に滑ったサーシャ・コーエン選手。
やはり出だしで立て続けにコンビネーション含むジャンプを失敗したのが痛恨。
解説は「ケガの影響では?」と示唆していたが、
終盤になってきっちり3回転を決めてきたところを見ると、
やはり精神的なものが大きかったのでは、と思う。


荒川静香選手は、やっぱり何度見ても着氷の安定感が抜群。
さらに、ループジャンプが2回転になった後に、
イナバウアー → 3連続コンビネーションジャンプを決めた時点で勝負あり。
ノリに乗った状態で最後のステップとスピンに入っていくわけで、
余裕なく滑った他の上位に比べると、ここで格段の差が出た感がある。


コンビネーションジャンプの難易度を下げてでも、
全体の流れを重視した“作戦勝ち”の面はあるが、
2日間ノーミスで滑りきること自体、
狙ってもそうそうできることではない。


技術点、演技点ともに文句なしのトップ。
あの場内の歓声を聞けば、政治力がモノをいった(と言われている)
かつての順位点方式だったとしても、審判員は5.9〜6.0をつけざるを得ない。
文句なしの圧勝である。


続いて滑った村主章枝選手、
単発だが、ジャンプの安定感は荒川選手に次ぐできだったし、
「やるだけのことはやった」と本人が言うだけあって、
最終グループの中でも全く見劣りしなかった。
佐藤有香さんが、「スルツカヤより良かった」というだけあって*8
スコアには会場からもブーイング。


ただ、全日本の時と比べると、
最後の高速スピンまで、プログラムの盛り上がりが今ひとつだったように思う。
微妙に演技が曲とずれていたのかな・・・と思ったりもする*9
演技点が50点台に止まった理由はそのあたりにあったのではなかろうか。


最後のスルツカヤ選手は、ジャンプの尻もちが決定的だったが、
それまでにも結構ミスは出ていた。
コンビネーションスピンやステップの合間にジャンプを無理やり入れて、
かえってテンポが悪くなったのも確かで、
滑り終わった時の苦笑いが全てを表していた。


ただ、それでも銅メダルに踏みとどまったのは、
キレのいいステップとか、見事なまでの連続スピンがあるゆえ。


村主選手には気の毒な話だが、
コーエン選手とスルツカヤ選手を従えての金メダルだからこそ、
価値があるともいえるわけで、
個人的には、これで良かったのではないかと思う。


で、点数が出て、スルツカヤ選手が頭を抱えた瞬間に出たのが、
刈屋アナの冒頭の名セリフ。
今回もちゃんと用意していたんだなぁ・・・と(笑)。


もちろん、長年の取材と豊富な情報量に裏打ちされた解説があってこそ、
決め台詞も生きてくるのであるが。


あと、佐藤有香氏の名解説も忘れてはいけない。
こちらも、スルツカヤ選手のSPの際の「カンペキ!」とか、
村主選手のフリーの最後のジャンプでの「ヤッター!」と言った
ワンポイントフレーズが印象には残るが、
それ以上に数々の的確なコメントが素晴しかった。
あの喋りのテンポの良さは、民放の女子アナにも少し見習って欲しいもので。


荒川選手の金メダルは、いろいろ初物尽くしのようで、
「アジア勢初」、「史上最年長」などという言葉が踊っているが、
「アジア勢初」といっても、ミシェル・クワンや、クリスティ・ヤマグチなども
金メダルを取っているのだから、これは人種の問題というより政治力の問題。


「史上最年長」はちょっと意外な気もしたが、
ここ何回かたまたま“ポッと出”の選手が優勝していただけで、
今のフィギュアスケート界の選手層を考えると、
次の五輪ではさらに記録が塗り替えられるのでは・・・?と思えてならない。

おまけ

来月の世界選手権に関する荒川選手のコメント。

「帰国後のスケジュールも分からず、きっちりした練習ができるかどうか。(出場も)今はまだ分からない」

これは事実上“出ない”という意思表示ですな(笑)。
日本に帰ってから、メディアやスポンサーの皆様が、
荒川選手の練習時間に配慮してくれるとは思えないわけで・・・*10


村主選手のコメント。

「点数が出ないのは今後の課題。この結果を受け止めて次につなげたい」
「わたしはスケートから離れることはできない。バンクーバー五輪に向け、1年1年考えたい。」

この一途な“思い”が胸を打つ。
ほんと、いつまでも応援したくなる選手である。

*1:映画そのものの好き嫌いはあるだろうが、自分の中ではここ数年一押しの作品。あの辛口の松本人志ですら絶賛した作品なので、“不朽”といってもあながち間違いではないだろう。少なくともイタリア語のリスニング対策にはなる(それが役に立つ機会があるかどうかは知らんが・・・(笑))。

*2:姉妹とはいえ、サラ・ヒューズとは異質な感じの滑り。あと、お姉さんは逆回り(時計回り)のジャンプだったが、妹の方は普通に回ってた(笑)。自分が左利きなので、逆回りジャンプしているスケーターには親近感がわくのだが、今大会の上位陣ではコストナー選手くらいしか見当たらなかった。

*3:アルペン見ていても思ったことだが、地元の重圧に苦しむのは万国共通なのだな・・・と思った次第。

*4:次の五輪は地元バンクーバー。確実にメダル争いに入ってくるのではないかと思う。

*5:日経新聞2月24日付夕刊

*6:15位という順位は、長野五輪に出場した16歳の荒川静香選手よりも悪い。

*7:エミリー・ヒューズ、コーエン、マイズナーとこれだけキャラクターの違う選手を揃えてくるのだから、やっぱりフィギュア大国アメリカ、層が厚い・・・。

*8:母親(佐藤久美子氏)が荒川選手のコーチ、父親(佐藤信夫氏)が村主選手のコーチと、解説の佐藤さんも気が気でなかったのだろうが、村主選手の最後のトリプルループが決まった時に「ヤッター」と叫んだあたり、村主選手に対する思い入れの方が強かったのかな・・・とも思う。

*9:特に終盤のスパイラルの途中で曲のテンポが切り替わったりしたのは???と思った。最後のステップも少し余裕がなかったように見えた。

*10:ただ、3人枠死守、と言う目標があることを考えると、連盟も頭が痛いところだろうが。

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