先日もご紹介した、ろじゃあ氏のブログ。
新たなシリーズ(?)である
「帰ってきた法務部いろいろ」の記事が面白い。↓
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ここでは会社の営業部門と法務部員との
熾烈な駆け引きの有様が生々しく紹介されているのだが、
特に、「稼いでいるのは俺たちだ」①の、
「法務のくせしてでかい事をいうんじゃねえ。稼いでるのは俺たちだ。分かったような顔して俺たちの仕事をじゃますんじゃねえ。お前なんかいつでも飛ばせるんだからな」
という営業部門担当者のセリフや、
その続編「稼いでいるのは俺たちだ」②の
「私のような若手では役不足ということですね。すいません、気がつきませんで。統括部のシキタリと本社のシキタリをまだよくわきまえていないものですから。今、課長と部長を呼んできますので今のご趣旨で直接お話頂いた方がよろしいと思いますので・・・その旨今報告してまいります」
という切り返しの名文句は、
これから法務部門に行こうとする方であれば、
覚えておいて損はないだろう。
コメント欄の法務パーソンの方々の投稿と合わせて読めば、
より、興味深さは増してくる。
幸か不幸か、自分の会社は営業部門の力が極めて弱い。
営業部門のトップであっても、
他部門の人事は愚か、自分の足元の人事さえ押さえ切れていないのを
皆知っているから、
上のようなセリフを営業の担当者が吐いたりでもすれば、
失笑を買うのがオチである。
だが、自分自身、ろじゃあ氏と同じような経験をしたことは
少なからずある。
不幸なことに、
自分の会社は管理部門が極めて強い。
ゆえに、そのあたりのマターで見解が対立すると、
君、入社して何年になるのかな〜。
まだまだ先は長いよね〜。
将来あるんだから、君、分かってるよね。
などと、人事部門の実力者に耳元で囁かれたりすることになる(実話)。
現場上がりの営業マンに怒鳴りつけられるよりも、
紳士然とした“実力者”に囁かれるほうが、
ある意味、怖い。
彼らは、上司たる課長、部長の人事権も握っていたりするから、
そんな話を上に持って言って泣きついたところで、
「我慢しろ。」とひとこと言われるのがオチである*1。
上述のとおり、営業部門を相手にしている時は、
そこまでの圧力を受けることはない代わりに、
逆に、あまりに煮え切らない態度と、
スピード感の乏しい意思決定にいらつかされることが多い。
「今月中に契約してプレス発表したいから急いで!」
といわれて一夜で仕上げた契約書が、
先方の部内稟議で止まってしまい、
数週間後になって、全く違うコンセプトで
一からドラフトやり直し、という憂き目に何度あったことか。
上記エントリーに対して『サバイバル』のpopolu氏が
コメントを寄せられているが、
その中にある
「この契約のリスクを指摘してください。指摘するだけで直さなくていいです。営業責任でそのリスク飲みますから。」
なんてセリフが聞ければ、
まだ嬉しい*2。
自分はリスク大好き人間なので、
契約マターの場合、営業サイドの言い分はほとんど飲む。
エンフォースメントがしっかりしている強行法規に抵触するような場合であれば、
リスク回避を勧めざるを得ないが、
過去数十年、エンフォースメントがなされていないような「強行法規」や、
ビジネス上のリスクを一々気にするのは、
「石橋を叩いて渡らない」に等しい所業だと思うからだ。
杓子定規な法律の講釈をするだけなら、
法務部員などいらない。
ギリギリの線を突きつつ、リスクを最小限に抑えるのが、
法務担当者の腕の見せ所だと思っている。
だが、「リスクはゼロではないが90%セーフティです。」的なコメントにも
過敏に反応してしまう方はいるもので*3、
その結果「ビジネスリスクをゼロにしろ」という宿題付きで、
ドラフトが付き返されてくることも多い。
「ビジネスリスクゼロの取引」
どんな優秀な弁護士に起案を依頼しても、
そのようなスキームを作り上げるのは無理だ(笑)。
かくして、
「契約においてはリスクをとることも必要です」
と力説する法務担当者と、
「いや、うちの会社はこんなリスクはとれない」
と反論する営業部門の管理職が相対峙する、
という奇妙な構図が生まれることになる。
そのくせ、別の案件では、
見え見えのリスクを堂々と冒すスキームに
部長がこだわっていたりするから困ったものである(笑)*4。
担当者が気の毒というほかない。
そんなこんなで、確かにガックリさせられることも多い
法務部門のお仕事だが、それでも自分がこの仕事を嫌いになったことはない。
「ライン」と「スタッフ」という言葉について、
ろじゃあ氏の上記エントリー①の方で論じられているが、
批判を承知の上で、端的に偏見に基づく定義を行うならば、
「ライン」は、上から下へ仕事を流す人たち。
「スタッフ」は、会社を横断して仕事を動かす人たち。
なのではないかと思っている。
自分はろじゃあ氏と違って、
入社したての頃、「ライン」ポストの末席も経験した人間だが、
外から見ていた時は、会社の“基幹”を担うポジションとして、
いかにも格好よく見えた世界が、
実に退屈で融通の利かない場所であることに、
いく月も立たないうちに気付いてしまった。
下っ端の人間は、上から降ってくる仕事を淡々とこなすだけ。
かといって、上の人間が自由に手腕を奮えるかといえば、
結局、彼らとて、下から上がってきた仕事に判を押すだけ。
まだ齢30に満たないスタッフ部門の若手社員が、
「専門の利」を生かし、一人前の“主役”として
堂々と仕事をしているのが
やたら眩しく見えたものだ。
「ライン」のポストは「スタッフ」のポストに比べて圧倒的に多い故、
「出世しやすい」「潰しがきく」などといわれることも多いが、
所詮、会社という小さな器の中の“椅子とりゲーム”の話でしかない。
それに、ポストが多い=経験している人が多い、ということで、
それは「代わりはいくらでもいる」ということの裏返しでもある。
上から何かを押し付けられるのが大嫌いなアンチ体育会気質、
かつ、肩書きより仕事の中身にこだわるのが自分のポリシー。
法務部門に行ったのは全くの偶然だったが、
ある意味、必然だったのだと思う。
「スタッフ」部門の難点は、
日々の会社の仕事の流れに入っていないがゆえに、
ともすれば、重要な案件でもスルーされるおそれがあること。
今でこそ、「コンプライアンス」の叫びの中で、
法務部門を通す暗黙の社内ルールが形成されてきてはいるものの、
かつては、自社内の「ライン」職担当者への日々の“営業活動”が、
新任法務部門担当者にとっては欠かせない作業であった。
地方の支店の担当者として着任した頃、
いつまでも増えない仕事に業を煮やして、
“スナック周り大作戦”を敢行したことすらある。
娯楽のない田舎町の狭い繁華街、
2、3件廻れば、営業部門なり管理部門なりのエライ人+付き人に行き当たる。
そこで、トクトクとお酒を注いで*5、
エライ人のご機嫌を伺いつつ、
“付き添い”の担当者との“ぶっちゃけトーク”に花を咲かす*6。
それを繰り返していくと、
「信頼」まではいかなくても一定の「信用」は得られる。
「今度アイツに聞いてみようかな」
そう思わせれば、仕事にとっては十分。
あとは、仕事の中で徐々に「信頼」を積み重ねて行けば良い。
初めて相談に来てくれる担当者には、
案件の大小を問わず、
誠意の限りを尽くして丁寧、かつ迅速に、答えを返す。
気になるところがあれば、その後も継続的にフォローする。
クレームだの警告だの、といった厄介な仕事が来た時は、
ボーナスステージみたいなものだ。
「こうして、ああして」と言うだけではなく、
自分から泥をかぶりに行って、
営業の担当者と一緒に3〜4時間罵声を浴び続けでもすれば、
もう、こっちのもの(笑)。
奇妙な連帯感は、得てして信頼につながるものなのだ。
持参した菓子折りをその場で捨てられるような経験の積み重ねが、
美味しい契約案件、という果実につながる。
こういったことをやり抜くのは容易なことではないし、
自分自身、完璧にできているなどとはとても言えない*7。
だが、ほんの少しの献身的な精神と誠意、
そして、自分自身の仕事と与えられたポジションへの熱意があれば、
やってできないことではない、
そう、思っている。
以上、ダラダラと書いてしまったが、
このあたりの話は、自社の社風によるところも大きいので、
一般化できる話ではないのは百も承知。
末席でも裁量をもって大きな仕事をさせてもらえる会社もあれば*8、
スタッフ部門でもガチガチの縦系列の仕事で縛られる会社も
きっと、あるだろう。
法務部員の未来がばら色ではない、という危機感も、
これまでのエントリーで散々煽ってきた書いてきたとおり。
だが、いつも「毒」を流している分、
たまには中和するようなエントリーも良いかと思い、
とりあえず、このエントリーを書いてみた次第である*9。
学生さんたちの就職活動もじき本格化することであるし、
現役法務パーソンがあまり弱気になってもいけない、
という自戒を込めて。
自分の願いはただ一つ。
次世代の“企業法務戦士”を少しでも多く世の中に迎え入れること、
これに尽きる。
もちろん、うちの会社は勧めないけど・・・(爆)。
↓当面のライバルは、『早稲田日記』さんです(笑)。
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*1:ある新法の導入時に、彼らに果敢に対峙した勇敢な中間管理職がいたが、次の春に彼の席はなくなっていた(これも実話)。怖い会社である(笑)。
*2:「もう相手と握っちゃったんで・・・」とか言われると、「どの面下げてうちに来た?」と言いたくもなるが。
*3:特に「コンプライアンス」がうるさく叫ばれるようになってから、その傾向は強い。
*4:単にリスクの存在に無自覚なだけなのだが・・・。
*5:「お前につがれるより、あっちのお姉さんについで貰ったほうが嬉しいんだけどなぁ〜」と赤ら顔でぼやかれつつ・・・。
*6:そして最後に一曲歌って「次ありますんで〜(笑)」。
*7:さすがに、朝から5件、6件重い打ち合わせが続いたりした日には・・・(涙)。
*8:もっとも、自分の会社の採用パンフレットを見ると、「若手でもこんなに大きな仕事ができる」的な“先輩の声”が紙面を飾っているのであるが(笑)。