「うぷします」事件をめぐる議論−NBLより

「ファンブックの対談とかうぷしてほしいという人が多ければうぷしますよ〜。」

という“親切な”名無しさんが、
小学館を激怒させた(?)ことに端を発する著作権侵害事件。


第一審:東京地判平成16年3月11日。
控訴審:東京高判平成17年3月3日。


インターネット上の匿名電子掲示板に無断掲載された著作物につき、
削除要請に応じなかった掲示板管理者の責任が争われたこの事件に関し、
裁判所の判断は真っ二つに分かれている。


掲示板管理者の削除義務を否定した第一審判決に対し、
削除義務を認め、掲示板管理者に著作権侵害責任を負わせた控訴審


それまでの法理と大きく異なるプロセスを経て侵害主体性を認めた控訴審判決は、
渋谷達紀教授に、

「本件は特異な判決といえ、述べられている解釈が踏襲されることはないと思われる」

と評されるなど*1
理を重んじる人々にはあまり評判がよろしくないようであるが、
その一方で、「結論の妥当性」を重視して肯定的に評価する声も、
実務界には少なくない*2


地裁判決と高裁判決のいずれを支持するかは、
論者の拠って立つポジションに自ずから関連するのであって、
コンテンツホルダーの側から見れば、高裁判決が妥当、ということになるだろうし、
それ以外の者から見れば、高裁判決けしからん、となることは容易に予想される。


ゆえに、結論の妥当性のみを取り上げて議論しても
収拾が付くことはないだろうし、それは不毛な作業となろう。


ここで重要なのは、一連の判決を
それまでの間接侵害に関する議論の中でどのように位置付けるか、
そして、本判決の射程の限界をどこで画するか、
ということである。


その意味で、NBL829号に掲載されていた
森亮二弁護士による上記判決の評釈には、なかなか興味深いものがあった*3


森弁護士は、これまでの掲示板管理者の削除義務に関する判決を

(A)削除義務を広く認める立場
(B)これを制限的にしか認めない立場

に分類し、
両基準の差異を「掲示板管理者等の違法情報に対する関与の仕方の違い」
によって説明しようとされている*4


そして、某巨大掲示板の管理者によって掲載された説明文に着目して、

「匿名性を保証して違法な書き込みを奨励したこと」

が削除義務を広く認める基準を採用する根拠となった、と指摘する一方で、

「匿名性を保証して違法な書き込みを奨励する態度がなければ、広範囲の削除義務を認めるべきではない」


として削除義務を制限的にしか認めない上記(B)の態度をも
(A)と整合的に説明することを試みている。


そして、本判決が
著作権侵害であることが極めて明白なとき」に削除義務が認められる
としている点を指摘して、

「本判決は、制限的な基準を採用する前記(B)の立場に属するものとして分類することができる。(森・前掲39頁)

と一定の評価を与えた上で、
「「匿名性」といった二次的で不明確な要素」ではなく、

「むしろ端的に、違法情報に対する積極的関与の有無および程度を問題にすべきであった」(森・前掲42頁)

として高裁判決を批判している点に特徴がある*5


森弁護士も指摘されるように、
「匿名性」を前面に出して責任の根拠としてしまうとなると、
あまりに射程が広がりすぎる懸念があるから*6
同じ結論に至るとしても、
上記のようなアプローチを用いることで、
その射程を狭めようと試みることには、一定の意義が認められるのであろう。


また、他の論者からも指摘される点ではあるが、
プロバイダ責任制限法との関係についても、
上記論文の中で指摘がなされている(前掲・40頁)。


個人的には、小学館大人げない・・・と思うこの事件であるが、
「うぷ」した人間にアプローチしようがない権利者としては、
掲示板の管理人を訴えるしかないというのも事実で、
どこでバランスをとるか、ということを考えた時、
上記論文で挙げられているような要素が重要になるのは間違いない。


その意味で、上記論文は一読に値するもののように思われるのである。



なお、本ブログの管理人は不親切ゆえ、
どんなに素晴しい論文でも丸々「うぷ」することはない。
その点、ご了承いただければ幸いである・・・。


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*1:渋谷達紀ほか編『I.P.Annual Report2005』63頁(商事法務、2005年)。

*2:例えば、草地邦晴「電子掲示板上の著作権侵害発言と掲示板運営者の責任」知財管理55巻13号2007頁(2005年)など。

*3:森亮二「著作権者からの削除要請に応じなかった掲示板管理者の民事責任」NBL829号35頁(2006年)。森弁護士は、弁護士法人英知法律事務所の所属だが、この事務所、http://www.law.co.jp/というなかなかカッコいいウェブアドレスを持っている(笑)。

*4:森・前掲36-37頁。

*5:具体的には、「被控訴人がIPアドレスを保存する運用に変更した点について」、「運用の変更により従来の違法情報を奨励・促進する関係が払拭されたかどうかを検討すべきであった」と述べられる(前掲・42頁)。

*6:森弁護士は、本判決の「匿名掲示板」の定義による限り、現存するほとんどの掲示板や、ブログのコメント欄など、多くの場合が「匿名掲示板」にあたってしまう、ということを指摘されている(前掲・41頁)。

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