外に出る用事があって、
会社のエスカレータを降りていたら、
神妙な顔をして、上りエスカレータに乗ってきた女子学生に気づく。
「はて、どこかで見たことあるな・・・あ!」
お互い気づいたのはほぼ同時。
その次の瞬間には、エスカレータの真ん中ですれ違い、
振り返ることもなく過ぎ去る。
でも、すれ違いざま一瞬目で挨拶した彼女の顔は、
ほんの少し、微笑んでいたように見えた。
何のことはない。
数日前、自分が採用面接を担当した学生だったのだ。
短い会話の中で、非凡なるセンスを見せたその学生に、
自分はその日の最高評価をつけて、次のステップに送り出した。
そして、それから幾度かの関門を経て、
今日会社の中で行われているのが、
役員を交えた形だけの最終面接であることを、
自分は知っていたし、彼女も何となく気づいていたのだろう。
所詮会社の中では「一若手社員」に過ぎない自分が、
面接でいかに高い評価をつけたところで、
次のステップでもその評価が尊重される保証はまったくない*1。
だが、彼女は度重なるトラップにもめげず、
理不尽な短期決戦を潜り抜けた勝者となったのだ。
自分の会社は、内定をもらったからといって、
みな喜び勇んで入るような会社ではないし*2、
もし、彼女が来年の春にこの会社に足を踏み入れたとしても、
自分がここに残っている可能性は決して高くはない。
だが、次の面接で落とされてしまえば
二度と顔をあわせることもなかったであろう学生と、
再び幸運な再会を果たせたこと自体、
自分にとっては、十分に嬉しいことであった。
以前にも書いたように、
採用の季節は、自分の心を鬱にさせる厄介な代物である。
だが、リクルーターとして、あるいは面接官として、
たくさんの学生と顔をあわせる度に、
そんな厄介な代物が、“一期一会”という言葉の意味を、
ふと思い知らせてくれたりもする。
ともすれば、平板で、無味乾燥な日々の繰り返しになりがちな
会社という空間において、
それは時に、心につかの間の潤いを与える、
ミストのようなエピソード、になったりもするのである・・・。