仁義なき戦い〜製薬会社 vs. 健康食品会社(その2)

第2弾は少し軽めの審決取消請求事件。
先制パンチとカウンターの応酬の末、勝利したのは製薬会社。
何の脈絡もなく無効審判請求がなされることは考えにくいから、
水面下でここには出てこないトラブルがあったのだろう。

知財高判平成18年4月27日(第1部・篠原勝美裁判長)*1

〔当事者〕
原告・株式会社すこやか工房
被告・田辺製薬株式会社


原告は、指定商品を「ウコンを主原料とする・・・加工食品」(第29類)とする、
「源気ウコン」(第4788761号)という商標を保有する健康食品メーカー。
一方、被告は、指定商品を「薬剤」(第5類)とする、
「源気」(第4371626号)という商標を保有する製薬会社である。


本件被告は原告の商標に関して無効審判請求*2を行い、
(引用商標は被告商標)
平成17年9月21日に無効審決がなされた(第一事件)。
一方、本件原告は被告の審判請求の2日後に、無効審判請求*3を行い、
平成17年9月20日に無効審判不成立審決がなされた(第二事件)。


本件は、原告が上記2件の審決の取消しを求めて提起した審決取消訴訟である。

第一事件

「ウコン」がついているかどうか、という差異こそあれど、
「ウコン」は「当該商品の普通名称を表示するものと認識するのが通常」である以上、
原告としては極めて苦しい戦いだったといわざるを得ない。


原告側に“反論”する余地があるとすれば、
引用商標と原告商標の指定商品区分の違いくらいだったのだが、
裁判所は以下のように述べて、原告の主張を退けている。

「上記認定の事実によれば、遅くとも本件商標の登録査定時には、多数の有力な製薬会社が、健康食品の分野に進出し、それらの健康食品の多くが、薬局、薬店、ドラッグストア等で、ビタミン剤あるいは滋養強壮変質剤を含む医薬品と一緒に展示、販売されるようになっていたこと、そして、前者と後者は、その商品の内容、用途が類似しており、しかも、販売店舗ないし販売方法が類似していることから、一般の需要者にとってその区別が付きにくく、紛らわしい商品群になっていたことが認められる」(13頁)

原告は、引用商標(被告商標)そのものについても有効性が争われている、
という事実(第二事件の存在)を指摘し、
さらなる“反論”を試みたが、
これまた「引用商標が無効になるとするのは原告の希望的観測にすぎない」
として退けられている。

第二事件

一方、第二事件の方はどうなったか。


原告が無効審判請求を行ったタイミングからも分かるように、
元々、この審判請求は、被告が行った審判請求へのカウンターパンチとして
行われたものと推察される。


ここで原告が引用商標として持ち出したのは、指定商品を
「玄米を粉状にして酵素を培養して顆粒状あるいはミール状にした食料品」(旧32類)
とする「元気」という商標であったのだが、
「氷山印」の事件以降、単に称呼が類似しているだけでは
類似性を認めないのが裁判所の判断傾向として定着しているようであり*4
本件でも、

「商標の概観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎないから、外観、観念、称呼の三点のうち一点において一致あるいは類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、何ら商品の出所に誤認混同を生ずるおそれの認め難い事情があると認められるときには。類似商標に当たらないと解すべきである(上記最高裁判決参照)。」

という規範を定立したあとに、

①称呼がわずか2文字であって一見して把握しやすいものであり、外観及び観念において全く非類似である場合、取引者・需要者は両者について、異なった印象を抱くのが通常であること
②商標の称呼のみによって商品を特定する取引がされていることをうかがわせる証拠がないこと
③健康食品は、一般消費者にとって自己の健康にかかわる重要なものであり、特段の事情の認められない限り、現物を手にとって慎重に選ぶのが通常であること

という認定事実から、4条1項11号該当性を否定した。


本件で面白かったのは、
第一事件において、「薬剤」と「加工食品」の商品類似性を否定していた原告が、
「健康食品」と「滋養強壮剤」は類似の商品にあたる、と主張しているところにある*5


二枚舌批判を逃れるためか、
原告はあえて「加工食品」と「薬剤」とを比較するのではなく、
「「加工食品」に包含される「健康食品」」と、
「「薬剤」に包含される「滋養強壮剤」を比較する、という手法を用いているが、
やはり第一事件における原告の主張と見比べた時に、
“舌を噛みそうな”状況が生じていることは否めない。


原処分が別個のものである以上、
二つの取消訴訟も別々の事件として扱われるのが建前とはいえ、
同じ合議体で平行して審理が進められていたのだろうから、
この点、裁判所の心証は決して芳しいものではなかったと推察される。


なお、結論としては、審決同様、
裁判所は「指定商品の類否について検討するまでもなく・・・」
という判断を下しているのだが、
「玄米を粉状にして酵素を培養して顆粒状あるいはミール状にした食料品」
が果たして「食料品」なのか「健康食品」なのか、
個人的には関心があっただけにちと残念(笑)。
(どちらであっても、あまり関係ない話なのだが・・・)


ちなみに、第一事件の要部認定や「取引の実情」の認定等からすれば、
原告が本件商標をそのまま使用している限り、
本件被告が侵害訴訟を提起した場合に侵害が認められても不思議ではない。


被告側の商品名は「ナンパオ源気」ということだから、
どこまで本気になって「源気ウコン」を叩きにいくのか読みにくいところだが、
もしかすると、第二ラウンドで再び“仁義なき戦い”が見られるかもしれず、
そのあたり、少し期待している(笑)*6

*1:H17(行ケ)第10763号、H17(行ケ)第10764号

*2:無効2004−89090号事件

*3:無効2004−89128号事件

*4:この点、特許庁の審査レベルでは未だ称呼類似=拒絶査定、という慣行が残っているようだが、それでも最近は意見書を出せば査定を出してくれるケースが多くなっているように思う。

*5:引用商標が旧商品区分で登録されていたため、そもそも引用商標の商品区分に「健康食品」が含まれるのか、というのも問題になっており、被告は「食料品」に該当するものに過ぎない(そして、「食料品」と「薬剤」は非類似である)と反論している。

*6:参考までに、「すこやか工房」社のサイトをご紹介(http://www.sukoyaka.co.jp/menu.htm

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html