以前から本ブログで粘着(笑)し続けている、
無効審決取消訴訟係属中の訂正審決の問題だが*1、
ここに来て苦戦を強いられていたかに見えた大渕教授に
心強い援軍が現れた。
斬新な法律構成で近年注目を浴びている
「塚原コート」こと、知財高裁第4部である。
原告:メディノールリミテッド
被告:テルモ株式会社
発明の名称:「柔軟性拡張スタンド」(特許3236623号)
この事件、判決に至るまでの経緯は次のようなもの。
平成14年7月30日 被告が特許無効審判請求(無効2002−35136号)
平成15年2月24日 原告が明細書の訂正請求
平成17年1月7日 特許庁が訂正を認めた上で無効審決
平成17年5月13日 原告が無効審決取消訴訟を提起
平成17年6月22日 原告が訂正審判請求(訂正2005−39105号)
平成17年10月6日 原告が明細書補正
平成18年3月2日 特許庁が訂正認容審決、確定
原告は、この2度目の訂正が認められたことに基づいて、
無効審決の取消しを主張したのであるが、
これに対し、裁判所は下記のような判断を示した。
1 第2の事実によれば、本件審決が確定し、明細書の特許請求の範囲の記載が前記第2の2(3)のとおりに訂正されたところ、この訂正が特許請求の範囲の減縮に当たることは明らかである。
2 本件は、平成15年法律第47号による改正後の特許法の施行前に請求された特許無効審判の審決に対する訴えであり、改正後の特許法181条の規定が適用されない(同法の附則2条10項)から、その係属中に、当該特許について特許出願の願書に添付された明細書を訂正すべき旨の審決が確定し、特許請求の範囲が減縮された場合には、個別的な事情を考慮することなく、特許を無効にすべき旨の審決を取り消さなければならないものである(最高裁平成7年(行ツ)第204号同11年3月9日第三小法廷判決・民集53巻3号303頁、最高裁平成10年(行ツ)第81号同11年4月22日第一小法廷判決・裁判集民事193号231頁、最高裁平成17年(行ヒ)第106号同年10月18日第三小法廷判決・最高裁HP参照)。
3 そうであれば、原告主張の審決取消事由は理由がある。
結論としては、本判決も従来の平成11年最判に従ったものに過ぎない。
だが、この判決の最大の特徴は、
当然取消しの法理が及ぶ理由付けとして、
「改正後の特許法181条の規定が適用されない」という表現を
用いていることにある*3。
裏返せば、181条の規定が適用される場合であれば、
当然取消し法理の見直しもありうる、ということが、
この表現において示唆されているように思われる。
実際、知財高裁第4部は、
181条2項の運用も結構大胆に行うことで有名であり、
「訂正審判請求して上申書を出したのに審決取消決定を出さなかった」
という噂も聞くところなのであるが*4、
それだけ、裁判所の「裁量」を果敢に行使していこうとする
姿勢がそこに表れているともいえる。
以上、やや先読みしすぎた感もあるが、
期待を込めて取り上げてみた。
次の針がどっちに触れるか、
興味は尽きない。
*1: http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060107/1136727486、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060211/1139662549の過去エントリーなど参照のこと。こんなところに粘着しているブログ人は、ネット界広しと言えども自分くらいだろう(笑)。
*2:H17(行ケ)第10475号・審決取消請求事件
*3:実務担当者を名乗りながら、筆者がこの附則の存在をしっかり認識していなかったのは、誠に恥ずべきことである・・・(本年1月7日付エントリーにおけるH18最判へのコメント参照)。
*4:もちろん条文上は可能なのだが、実際の運用として原則差戻し、というルールになっている中、差戻さないという運用を行うのは結構思い切ったことだと言えるだろう。