法律雑誌記事ダイジェスト(5月前半)

いつもながら、月末になってようやく・・・といったところである。

ジュリスト1311号(2006.5.1-15)

特集は「議会制民主主義の行方」。
毎年恒例の憲法記念日特集の一環だと思われるが、
特に今回は統治分野での特集、ということで、
解散権の根拠と制約、国民投票、二院制、選挙制度、と
お馴染みの論点が並ぶ。


昨年の“郵政解散”を契機に、
衆議院解散→総選挙の“プレビシット的機能”だとか*1
「強すぎる参議院の弊害」だとか*2
様々な側面にあらためて光が当てられているようで、
比較憲法論等とも合わせて、興味深く読ませていただいた。


自分自身、大学に入って間もない頃、
恥ずかしながら、無謀にも政治学系の研究の道に進みたい、という
夢を抱いていたことがある。
やがて、そんな妄想は必然的に雲散霧消してしまったのであるが、
大所高所から“国家のあり方”について論じるこのあたりの論文を読むと、
既に跡形もなくなりし某寮の裏手の夏草の匂いが、
ほんの少し甦ってくるような気がしている。


あと、もう一つ興味深いのが、
毛利教授の論文の中で語られる、
権力機構における「官僚制」の位置づけ*3と、
長谷部教授によって紹介されているアッカーマン教授の理論における
「官僚機構の存在意義」との対比*4


両者のベクトルは大きく異なるが、
いずれも、従来の古典的な統治機構論とは異なる方向性を示している、
という点では共通しているように思われる。


いずれにせよ、
今や俗物的な法解釈テクニックに馴染んでしまった脳髄には*5
刺激的な論稿であることは間違いない。


◆◆
内田貴教授の『民営化と契約‐制度的契約論の試み』*6は最終回。
ここまでの論旨の運びから推察されたとおり、
最後の最後に「労働契約を検討しておこう」と(笑)*7


内田教授のこの「制度的契約」の概念、
いかにして契約としての正当性が認められるのか、
筆者のような凡人の理解を超える部分は多々あるのだが、
もし、このような契約の理論的正当化が可能であるとするならば、
従来、労働法の先生方が頭を悩ませていた、
就業規則に関する法理だの労働協約に関する法理だのも、
明快に正当化されうることになるのは間違いない。


もっとも、内田教授が指摘されるように、
当の労働契約関係を支えてきた“団体性”そのものが揺らいでいる今、
既に時遅し、といった感がしないでもないのであるが*8


◆◆
『探究・労働法の現代的課題(第8回)』のお題は
「競業避止義務と営業秘密保持」*9


幸か不幸か、筆者はテーマを聞いただけで
脊髄反射的に土田道夫教授のお名前が思い浮かぶ・・・(苦笑)。
論文の中身よりも、
この数年の間にも随分と新しい裁判例が出ているのだなぁ・・・、
と妙な感銘を受けてしまうあたり、
筆者自身ほとんど病気としかいいようがない・・・(涙)*10


このテーマに関して言えば、
我が国においてこれまで争われてきた事案の筋がとにかく悪く、
ゆえに裁判例が蓄積されたとしても、
あくまで下級審の「事例判決」に止まるのが常であって、
理論的に整理するのはなかなか難しい、というのが現実である。


本稿での使用者側と労働者側それぞれの“言い分”を見ると、
実質的な対立点は、

「代償措置」を競業避止義務の不可欠の要件を見るか否か、

という点に尽きているように思われるのだが*11
櫻庭助教授が指摘されるように、
比較法的に見ても、

「同特約(注:競業避止特約)の有効要件に関して先進国に共通する普遍的な原理を導き出すことが難しいことは窺い知ることができよう。」(155-156頁)

というのが現実である以上、
最終的には立法政策による「決め」の問題として
片付けるしかないように思われる。


この手の紛争に付き物の
複雑な労使間の背景事情を結論に反映するためには、
“総合考慮”的な“ふんわりとした”規範を立てた方が
裁判所としてはやりやすいだろうし、
仮に「代償措置」を必須要件としたところで、
「10円払っていればOK」ということにはならないのであって、
結局は「代償措置にあたるかどうか」をめぐって、
他の要素も踏まえた堂々めぐりの議論をせざるを得ないのであるから、
いわゆる“土田説(代償不可欠要件説)”を採用したところで、
当事者にとっての予測可能性は、さほど増すとは思えない。


ゆえに立法担当者としても、
「研究会報告書」の立場*12に依らざるを得ないように思われるのだが、
果たしてどうなるのやら・・・。


(以下、明日以降に続く・・・。)

*1:糠塚康江「国民投票vs解散−シンボルとしての「国民投票」」18頁以下など参照。ドイツの連邦議会解散をめぐる議論の紹介もなかなか示唆的なものがある(高田篤「ドイツ議会制民主主義論における議会の位相−連邦議会の解散をめぐる論議を手懸かりとして」115頁以下。

*2:只野雅人「単一国家の二院制−参議院の存在意義をめぐって」27頁以下参照。

*3:毛利透「官僚制の位置と機能」64頁以下参照。

*4:長谷部恭男「民主主義の質の向上−ブルース・アッカーマンの挑戦」84頁以下参照。

*5:だからといって、それに不満があるわけではないが(笑)。

*6:142頁以下。

*7:147頁。

*8:内田教授はこの点、「制度的契約」概念は、契約への司法的・立法的コントロールのあり方を論じる上で、「検討を意識的に行うための理論枠組」として有用である、とするが・・・(147頁)。

*9:櫻庭涼子=徳住堅治=角山一俊「競業避止義務と営業秘密保持」150頁以下。

*10:ちなみに、櫻庭助教授のご担当箇所は、コンパクトな「まとめ」ながら、判例・論文を豊富に引かれているので、この分野をフォローするには有用であろう。

*11:その他に、信義則上の秘密保持義務、競業避止義務の範囲をどこまで認めるか、というあたりも論点にはなりうるが、不競法の営業秘密保護規定との関係ともあいまって、学説・裁判例ともに統一感のある見解を打ち出すには程遠い状況であり、「代償」をめぐる議論と同じく、モヤモヤした水掛け論に終始している感は否めない。その点、昨年秋に「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告書」が打ち出した「書面明示主義」は注目に値するが・・・。

*12:大雑把な規範的枠組に複数の考慮要素を兼ね備えた、まさに“ふんわりとした”規制が提唱されている。

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