法律雑誌記事ダイジェスト(5月前半・続編)

NBL832号(2006.5.1)

正月の特集が好評だったのか、
『裁判所専門部における事件処理の実情』第2弾掲載*1
今回は大阪地裁の各専門部の紹介が掲載されている。


日本の場合、裁判官の運用も全国規模で行われているし、
最高裁の事務方がきっちりと手綱を占めている印象があるから、
「大阪」だからといって、
極端に独特な運用がなされているわけではなかろう。


特に、知的財産権部のように、
国策的に設けられた部署であればなおさら、ということで、
山田知司第26民事部総括判事によるコメントも*2
以前掲載された東京地裁の高部判事のコメントと比べて、
さほど代わり映えする中身ではないように思われる。


実際のところは、
個々の裁判官のパーソナリティによる違いは厳然と存在しているし、
手続き面でも細かいローカルルールが各地裁ごとに形成されていて*3
比べていくと興味深い“歴史的背景”も出てくるような気もするが、
それは、NBL誌上で論じるような中身ではないし、
そんなスペースも各コメンテーターには与えられていない・・・。


◆◆
ヒューマン・リソース(HR)と法‐労働法最前線』
第7回のお題は「公益通報者保護法内部告発*4
研究者サイドからのスタンダードな論稿、というべきだろうか。


「まとめ」においては、
内部告発の適法性を判断する上での「各諸要素の相互関連」と、
「内部通報制度の重要性」が強調されている*5


◆◆
中国ビジネス法最前線』
今回は「知的財産権紛争の実情」がテーマ*6


事前調査段階での調査会社の選択、取締り段階でのフォロー、
地方保護主義への対応、
そして行政取締りと司法によるエンフォースメントとの使い分け、
と語られている中身は、概ねスタンダードなもの。


ちなみに、知財に関しては後進国、と思われがちな中国だが、
既に法制度自体は、我が国と比べても決して遜色ないレベルに達している。


エンフォースメントに「実」が入ってない(特に地方の法院)とか、
商標関係の代理人に素性がいかがわしい者が多い*7とか、
いろいろと問題点も指摘されているのだが*8
実際、かの地の信頼できる代理人とやり取りをしていると、
アジアというよりは、
むしろ北米の代理人に近いような錯覚を覚えるのであって、
“世界標準”との距離がそんなに大きいとは思えない。


中国を語る時に常についてくる
「生産工場としての魅力」だとか、
「市場としての魅力」といった枕詞が過去のものとなり、
「脅威」と呼ぶことさえ憚られるほど水をあけられる日が、
いつ来ないとも限らない。


その時に、過度に強化された「知的財産権」が、
我が国の“零細事業者”の首を絞めることにならねば
良いのであるが・・・。
(以上、蛇足おわり。)

Lexis判例速報No.7(2006.5)

「民・商事判例」のコーナーでは、
何度か取り上げてきた「みなし弁済」の判例が全文掲載されている。
(最二小判平成18年1月13日)


その他、「民事手続」判例として、
“継ぎはぎ判決”の問題点を指摘した最一小判平成18年1月19日、
社内通達文書に対する文書提出命令の可否が争われた
最二小判平成18年2月17日、などが全文掲載。


また、「知的財産権判例のコーナーでは、
商標不使用審判不成立審決取消請求事件*9
特許無効審決取消請求事件*10の判旨が紹介されているが、
前者は、商標の「使用」の有無に関する判断に加えて、
「正当な理由」(50条2項但書)の解釈が争点になった事例であり、
後者は、無効審決取消訴訟における主張立証責任の配分について、

「無効理由の主張立証責任は、特許法123条1項各号の規定からは直接導き出すことができない」

という判断を示した点において注目される*11


なお、升田純弁護士は、「民・商事判例解説」の中で、
焼却炉をめぐる製造物責任が問題になった事例の判決を批判されており*12
同時期に出されたNBLでも、同様のコメントをされているのだが*13
個人的には「富山地裁」の判決にそこまで目くじら立てんでも・・・、
と思わなくもない(笑)*14

*1:40頁。

*2:大阪地方裁判所知的財産権部の実情と課題」60頁。

*3:支払督促だの即決和解だのの書面の書き方一つとっても、各簡裁ごとに微妙に書式が違ったりして(その差異について合理的な説明がなされることは決してないのであるが(笑))、なかなか面白かった記憶がある。

*4:野田進・81頁。

*5:85頁。

*6:野村高志「中国における知的財産権紛争の実務‐商標権、意匠権侵害を中心に」86頁。

*7:現地の商標業務は、日本のように国家資格を持つ者が独占して担当する仕組みになっていない(いなかった?)ということもあって、日本の代理人の先生方も提携先の選定には随分と苦労していたようである。

*8:ちなみに某弁護士のセミナーでは、侵害品摘発に際しては「現地事務所の人間を使うな!」という教訓が語られていた。土地によっては相手がマフィアだけに、顔が割れると・・・(以下自主規制)、ということらしい。未だ実現してはいないが、本社の人間が現地に出張する“名目”として活用するにはもってこいの“教訓”である(笑)。

*9:「PAPA JOHN’s」事件(知財高判平成17年12月20日)、南かおり弁護士・111頁。

*10:「緑化吹付け資材および緑化吹付け方法」事件(知財高判平成18年1月19日)、橋口尚幸弁護士・115頁。

*11:いずれも筆者は、最高裁のHP上では見落としていたものであった。

*12:49頁・富山地判平成17年12月20日

*13:升田純「焼却炉の指示・警告上の欠陥を肯定した事例と問題点」NBL832号10頁(2006年)。

*14:本件の問題点は、焼却炉にバックファイヤーが発生したことにつき、裁判所が担当従業員の取扱いに関する事情を十分に認定しないまま、「指示・警告」が欠けていたこと=「指示・警告上の欠陥あり」としたことにある、と指摘されている。当事者の主張と合わせて読まないと判断しかねる部分はあるが、確かにこのあたりは、被告に酷な面はあるかもしれない。