読むだけなら、面白い。

早々と法務省のサイトにアップされたということで、
新司法試験の論文式の問題を入手した。


解いてみた・・・とは言うまい。
あくまで、読んでみた、だけである。


率直な感想を言わせて貰えば、

「この問題の作り方って、面白い。」

これまで法律系の資格試験といえば、
とかく無味乾燥なもの、という印象が強かったのだが、
事例問題がこれだけよく作りこまれていると、
見る側としては、ワクワク感をかき立てられる。
例えて言えば、
ビジネス実務法務検定1級の問題を
数段グレードアップしたようなものだろうか。


サンプル問題だのプレテストの問題だのも、
チラッと見かけたことはあったのだが、
さすが本試験だけあって、
今回の方がより作り込みの度合いが激しくなったような気がする。


もちろん、実際に受験している方にとっては、
緊張感で問題文を楽しむ余裕などなかっただろうし、
いくつかの科目では、
面白すぎて、いざ答案を書くとなると卒倒してしまうだろう(苦笑)
と思われるものも見受けられたのであるが、
一行二行の問題で、天国と地獄を振り分けられることを考えれば、
冥土の土産ができただけ、まだマシというものである。


以下はちょっとしたコメント。


論文式試験問題集〔知的財産法〕より

これだけはガチで答案を書いてみたい、と思ったが、
さすがにそこまでの余裕はないし、恥をさらす度胸もない。


・・・っていうか、間違いなくこれは難問の部類に入ると思う。
今の法科大学院生がどの程度、選択科目を極めているかは
存じ上げないので、
これで簡単と言われてしまうと立つ瀬がないが・・・。


プレテストが相当マニアックな問題だったのに比べれば*1
本試験の問題は、2問ともスタンダードな論点からの出題といえる。
ただし、仕掛けられている“ひねり”が実に嫌らしい。
出題者の方の性格を伺い知ることができる“良問”といえるだろう。


◆〔第1問〕
Xが有する「注射液の調整方法についての発明」(X発明)と、
「Y注射器」(及び「Y注射器を用いた注射液の調整方法」)との
関係を中心に論じる問題*2

「Y注射器を用いた注射液の調整方法は、構成要件Aを除くX発明の他の構成要件のすべてを充足する」

といった記載が問題文にあることから、
ああ均等論か・・・
脊髄反射的に出てくるところまでは皆同じだろうが、
「設問1」の

「Yの行為は、どのような場合にX特許権の侵害となるか。」

で、一瞬、何を(どこまで)書けばいいの? 
という戸惑いが走ったことは容易に想像がつく。


問題文が、

「構成要件Aの技術的意義」

にあえて触れているところからして、
「均等論の要件」を充足するか否かに言及する、
というアイデアはすぐに出てくるのだが、
問題は、X発明が「方法の発明」であるのに対し、
Yは注射器の製造・販売メーカーである、ということにある。


Y注射器を用いた注射方法がX発明の均等侵害にあたるとしても、
その方法を実施しているのは、一次的にはYではなく医師であるし、
Yが注射器を製造販売する行為は、X発明の直接侵害にはあたらない。


したがって、
「Yの行為がX特許権の侵害になる」場合を論ずる際には、

①Y注射器に取扱説明書が付されており、医師が「この指示どおりに」Y注射器を使用していた*3
②Y注射器が特許法101条3号ないし4号(間接侵害)の要件を満たす*4

ということまで含めて論じないと、
出題者のリクエストに答えたことにはならないと思われる。


「設問2」は、
審査経過を踏まえた禁反言則が
均等侵害の成否にいかなる影響を与えるか、というもの。


①拒絶理由回避のための構成要件付加、なら「特段の事情」あり、
②①のような事情がなかった場合、なら「特段の事情」なし、
とするのが素直な書き方だろうか。


「設問3」は、
Yが注射器の使用者を通じて直接侵害している、
という構成にする限り、
使用者が①医師だろうが②患者本人だろうが、
侵害の成否の結論に違いはないような気がする。


「医師による行為」ということで、
特許法69条3項の条文をどこかで引いた方が良いのか、
と思ったりもしたのだが、注射器は「医薬」ではないし、
あえて言及する必要はないのかもしれない*5


「均等論」や「間接侵害」と言った問題は、
学問的には、極めて華やかなりし分野ではあるが、
それだけ理解するのが難しいところでもある。


第1回の試験からこういった王道で攻めてくるあたり、
法務省あっぱれ、というほかない。


◆〔第2問〕
“出版社A”の依頼で“職業写真家甲”が撮影した、
文楽人形細工師乙”の創作に係る「文楽人形α」の写真(写真β)
をめぐる問題。
写真βの原版を利用して自社のカレンダーを作成した
会社丙に対し、著作権法上いかなる法的主張が可能か、
という問題である。


これまた問題は複雑だ。


丙は、複製権を侵害したのみならず、
「左右の2辺を一部削除」したことにより
同一性保持権も侵害している、とそこまでは良いのだが、
甲、乙がそれぞれいかなる主張をなしうる地位に立つか、
という話になるとなかなか難しい。


甲に関しては、出版社Aとの関係で
職務著作該当性と著作権譲渡合意の存在を否定できれば*6
あとは淡々と
写真の著作物の複製権侵害と
同一性保持権侵害を肯定すれば良いと思うが、
乙に関しては、
①そもそも写真の著作物の共同著作者になるのか*7
ということに加え、
文楽人形そのものの著作者として権利行使できるか、
という問題が出てくる*8


①の場合は、著作権法64条あたりも絡んできそうだし
②を論じるためには、工芸品の著作物性の論点に言及せざるを得ない。



いずれも、事例としては極めて実践的な問題であり(特に第2問)、
実務家登用試験として、
こういう出題傾向になるのは良いことだと思うが、
解かされる方の心情を考えると、いささか気の毒なのは確かである。


まぁ、来年受験される方は、消尽論と職務著作あたりにヤマを張って、
徹底的に過去の裁判例でも読み込んでおくのが
良いのではないだろうか。

その他の科目の“感想文”

◆〔公法系科目〕
もし愛煙家の自分が、第1問を受けていたとしたら、
設問1で気合入れてバシバシ書いて、
設問2で(心情的に)やる気をなくして、
設問3の頃には一服したくなったことだろう。


法案が違憲である、と主張する法律構成は容易に出てきそうだが、
「損害を回復するために」どのような訴えを起こすか、
と問われると、極めて勝算の乏しい国賠訴訟以外に思いつかない・・・。
(財産権侵害による損失補償?・・・ってことはないよね?)


◆〔民事系科目〕
会社法施行直後ということで予想されていたことではあるが、
第1問(会社法)で「営業譲渡」を出してくるとは渋いなぁ・・・(笑)。
こういう見慣れた契約書付きの問題は、
かつて法務にいた受験生にとっては、癒しになると思うけど。


第2問(民法)も、よりによって債権譲渡登記が絡む譲渡担保の問題で、
民訴系のサービス問題(設問2)を除けば、
結構解くのは辛いんじゃないかと思う。
(途中で投げ出したので、ホントのところは分からない)


◆[刑事系科目]
第1問。
40歳、妻に子供二人、
T株式会社の配送課長乙さんにつくづく同情する。
部下の仲裁するつもりが、人生棒に振っちまって・・・。


・・・といった感じで、
添付資料を読むのが極めて楽しい刑事系だが、
実際に聞かれているのは、あくまで甲と乙の「罪責」に過ぎず、
従来型の事例問題に“肉付け”されたものと考えれば、
他の科目と比べれば、そんなに苦にはならないのではないか。
(あくまで比較論なので、難しいことに変わりはないのだが)


論点も、
正当(過剰)防衛(侵害行為終了後の反撃、積極的加害意思)、
承継的共同正犯(否定説)→ 同時傷害(致死への適用)、など
概ねスタンダードなもののように思われる*9


◆選択科目


倒産法だの租税法だの国際公法だの国際私法だのは、
見たところで論評する能力がないので省略。


経済法は、
「どのような民事裁判手続をとることができるか」
「だれに対して・・・独占禁止法違反を問うことができるか」
といったあたりの聞き方が結構嫌らしいように思う。
特に第2問の方は、どう構成すれば良いのか迷うところ。


労働法は、第1問見てぶったまげた(笑)。
自分が受験生だったら、
心の中で万歳して勝利を確信するであろうテーマ。

「競業避止義務違反による退職金不支給」

って、
何てマイナーなところから出すんだ・・・(爆)*10
労判とかにはコンスタントにこの手の裁判例は載っているので、
単に研究者の関心が向かっていないだけで、
論点としての重要性は高い、という判断なのかもしれないが、
花形論点を一生懸命勉強していた学生にとっては
気の毒な話である*11


あと、第2問でY社の行為が不当労働行為になるのか、は
個人的に興味があるので(笑)、
どなたかの解説を拝見したいところ。


◆◆
以上、ざっと眺めてきて、
いつまでネタが持つか、という気掛かりはあるが(笑)、
この手の作られ方が続く限り、
一端の予備校では対応しきれないだろう、と思われる。


もちろん、事例の把握や論点の抽出ができても、
実際に答案として構成できなければ何の意味もないから、
答案を書くための“トレーニングの場”はどこかに必要だろうし、
刑事系のように、
従来の旧試験型事例問題を膨らませたタイプの問題であれば、
メソッドそのものも活用できるかもしれないが、
その他の科目の問題などを見ていると、
論証パターンのインプット・アウトプットに時間を費やすよりは、
判例時報に掲載される下級審判例を毎号眺めている方が、
得点には結びつきやすいような気がしてならない*12


そのうちに、裁判例丸暗記用ツールなるものを
開発する予備校も登場してくるかもしれないが、
実務家を目指す方々を対象とする試験であることを考えれば、
それはそれで、健全なことだと言えなくもない(笑)。


いずれにせよ、
今回の試験のきちんとした解説が世に出されたら、
是非とも手に入れてみたいものだと思う。

*1:専用実施権登録、改良発明、映画の著作物の著作権って、オイオイ・・・。

*2:問題に出てくるクレームを見て「液体収納容器事件」(インクカートリッジ事件)を連想してしまったが、幸か不幸か、本問では消尽論そのものは論点になっていない。

*3:一種の道具理論的構成になるだろうか。

*4:問題文で挙げられている事情から、3号の「のみ」要件を満たすといってしまって良いのか確信は持てないが、4号については、Yが既にXから警告を受けていることからして、「知りながら」要件該当性を認めてしまって良いであろう。

*5:「産業上の利用可能性」の論点、とかもいらないよね・・・?

*6:元々雇用関係があるわけでもないから職務著作該当性はあっさり否定できるだろうし、写真原版を甲に返還する約束がなされていることなどからすれば、譲渡合意の存在も否定できるのではないかと思われる(「撮影者の表示をしない」という条件をどう理解するかも難しいところだが・・・)。

*7:乙自ら人形に飾り付けをしたり、ポーズをつけたりしている、という事実を踏まえると、該当するようにも思われる。

*8:文楽人形を撮影した写真を「二次的著作物」として位置付けることも可能かもしれないが、余計に複雑になりそうなので(著作権法28条など)、まだ「共同著作物」にしておいた方が良いような気がする。

*9:丁に対する傷害罪の成否は“喧嘩闘争”として論じるべきなのか?

*10:もしかして、プレテストでネタ切れ・・・?

*11:懲戒権の濫用の話とかも出てきそうな事例だから、多少は報われているのかもしれないが・・・。

*12:特に本試験の問題は、巷の最近の裁判例ベースで作られているものが多かったような気がする。