第1問で、Yにつき直接侵害が成立する、
という結論を導くための理由付けをどうすべきか、
少し引っかかっていたので、
『特許判例百選〔第3版〕』をめくっていたら、
No.72の解説にちょっとしたヒントが載っていることに気付いた。
東京地判平成13年9月20日(判時1764号112頁)*1。
この裁判例は、
「被着物上に電着画像を形成する」
方法の発明の構成要件の一部の工程を
被告Y(時計文字盤用電着画像販売業者)製品の購入先である
文字盤製造業者が行っていた場合に
Yの特許権侵害が認められるか、が争点になったもので、
東京地裁は、
「したがって、・・・Y製品の時計文字盤等への貼付という構成要件6に該当する工程については、Yが自らこれを実施していないが、Yは、この工程を、Y製品の購入者である文字盤製造業者を道具として実施しているものということができる。したがって、Y製品の時計文字盤等への貼付も含めた、本件各特許発明の全構成要件に該当する全工程がY自身により実施されている場合と同視して、本件特許権の侵害と評価すべきものである。」
と述べて、Yによる特許権侵害を肯定した。
緒方弁護士は、上記裁判例を
「実施」概念の拡大、と理解し、
間接侵害制度や刑事罰(間接正犯、共同正犯)の要件と
照らし合わせながら、拡大が認められるための要件について
論じられている。
そして、最後に、
「構成要件の一部を自ら行っていない者についても、実施者と評価することは可能であろうか。」
という問題を立て、
「この場合には、要求すべき主観的要件は上述したところと同等で良いものと思うが、実施概念が差止請求の外延確定機能を有していることに鑑みれば、差止めの債務名義が意味を有するための前提要件として行為分担者に対して指揮監督関係や使役等、その行為をコントロールし得る社会的関係の存在が必要であるといえよう。かかる場合には、使役等する者をして実施者と評価して良いものと思う。」(緒方・前掲151頁)*2
という結論を示されている。
今回の問題では、医師が「指示どおりに」使用していた、
ということが問題文中で強調されているから、
ここまで難しく考える必要はないと思われるのだが、
さりとて、あっさりと答えを出して良い話ではなかったようで、
このあたり、他の論点との兼ね合いで、
悩まされた受験生もいたのではあるまいか。