「模写」作品の著作物性

以前、「模写」作品の著作物性をめぐる
東京地判平成18年3月23日*1をご紹介したが、
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060410/1144690176
同じ原告が別の会社を相手取って提起した訴訟の判決が、
先月言い渡されている。


東京地判平成18年5月11日(第46部・設楽隆一裁判長)*2
大塚先生のブログ(&ML)でもかなり前に紹介されていた。
http://ootsuka.livedoor.biz/archives/2006-05.html#20060522


3月の判決と同じ合議体での判決だけに、
規範部分の判示は前回とほぼ同じなのだが、
差し止め、損害賠償を認めた前回の判決とは一転して、
本件では原告の請求が全面的に棄却されている。


本件の被告は、日本ビーンズ株式会社という豆腐の製造・販売会社で、
争われた絵画は「豆腐屋」の浮世絵。


前回も書いたように、実際の絵を見てみないことには、
結論の妥当性についてコメントすることは難しいのであるが、
一般論としては、
同じ作者の作品について、
かたや著作物性を肯定し、かたや著作物性を全面否定する、
というのはやや奇異な印象を受ける。


大塚先生は、

「原告研究家の氏名が商品パッケージに表示されたこともあるのでいくばくかの金員支払いで和解できればよかったのでしょうが、原告側の請求額が大きすぎて、折り合いがつかず結局著作物性の有無からの判断を余儀なくされてしまった。」

という分析を示されているが*3
仮に、そのような事情を踏まえて結論を出したのだとしても、
本件では、著作物性の有無ではなく、著作権侵害の成否の判断や、
その他の一般条項の解釈問題によって結論を出す途も
あったのではないかと思う。


なぜなら裁判所は、
「なお」書きとして、次のような判断を示しているからだ。

「被告は、被告各パッケージに江戸時代の豆腐屋を描いた絵を使用したかったに過ぎないのであり、被告が本件原画と原告絵画とを比較し、その細部における差異。すなわち、本訴において原告が主張するところの、本件原画にはない原告絵画の創作的表現というような部分が存在するが故に原告絵画を使用したわけではないことは、被告各パッケージにおいて、原告絵画の複製物が「おぼろ豆腐二丁盛り」などの商品名の背景画として使用され、3人の人物像の一部や絵の細部が不明瞭であることからも明らかであるといわざるを得ない。被告パッケージからは、原告が原告絵画を二次的著作物と主張する根拠となる表現部分を看取することも困難なのである。」

このような状態での使用だったのであれば、
一応の著作物性を認めた上で、侵害を否定する方が
スジがよかったようにも思われる*4


「著作物性」を否定することで、原告側の請求を全面的に棄却する、
という手法は、一見すると、
ユーザー側に安定的な使用の可否の判断材料を与えるもののように思わせるが、
少なくとも、この「模写」に対する一連の判断を見ていると、
裁判での“出たとこ勝負”になってしまっている感は否めない。


となれば、よりユーザー側にとって、
セーフティで安定的な判断準則となりうるものを求めたくなるのが心情、
というものである*5


ちなみに、最近巷を賑わせている某画伯*6
あれだけ似ているのなら、いっそのこと「あれは模写だ!」とでも
主張して開き直ってしまえば良いのではないか、
と思ったりもするのだが(笑)、
仮に、アルベルト・スギ氏から許諾を受けた会社が、
某画伯の作品を無断で使用したとしたら、
著作権侵害は成立するのだろうか?


使用する側にも勇気はいるが、
著作権侵害を主張して訴訟を提起するのは、
もっと勇気がいる(爆)ような気がするのであるが・・・。

*1:H17(ワ)第10790号・著作権侵害差止等請求事件

*2:H17(ワ)第26020号・損害賠償請求事件

*3:ちなみに原告は著作権著作者人格権侵害に基づく損害を2億7640万8264円と算定し、うち2000万円について一部請求する、という戦略をとっている。

*4:3月の事件は、出版社が原告絵画をそのまま掲載した事例だったから、実務的見地から言えば、結論に違いが出るのは当然のことだろうと思う。

*5:現実には、侵害判断の場面での一般準則を求める方がより難しいのは間違いないところだが。

*6:しょうこお姉さんではない・・・。

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