商標いろいろ(その4)

気分を変えて、話題も変えて、
久しぶりに知財ネタ。


以下に挙げるのは「商標不使用取消審判」に関する2件の裁判例


商標登録に際して使用実績ないし厳格な使用意思を要求しない
現行商標法の下では、
商標が「使用されずに堆積」していくことになるため、
それゆえ事後的に無駄になった登録商標を一掃する必要が生じ、
そのために設けられた制度が、商標不使用取消審判の制度である、
というのが一般的な理解である*1


もっとも現実には、
権利者から受けた侵害警告を「不当だ!」と感じたユーザー側が、
対抗手段としてこの制度を活用したり、
自己が使用を予定している名称を商標出願した際に、
邪魔になる“先行”商標を除去するために、
この制度を活用することが多い。


不使用取消審判を請求する側としては、
無駄な費用を払って、しかも“寝た子を起こす”ような真似は避けたい
と思うのが普通だから、
実際には、権利者側の使用状況についてある程度のリサーチをしてから
請求を起こすのが一般的で、
したがって、実際に審判が請求されたものの多くは、
権利者側の方が“通常予想されるような使用をしていない”ケースで
あると思われる*2


もっとも、権利者の側としても、
そうそうあっさりと権利を失うわけにはいかないから、
あの手この手で「使用」の実態を立証しようと試みる*3


ここに“名称の独占”状態の維持を図る権利者と、
ユーザー(ないし潜在的独占希望者)との間の攻防が
繰り広げられることになるのである。

「WHITE FLOWER」事件(不使用取消審判不成立審決取消訴訟

知財高判平成18年5月25日(H17(行ケ)第10817号・佐藤久夫裁判長)

【対象商標】
「WHITE FLOWER」(ホウハンパクフアヨウ マニュファクトリー Ltd.)
第2635064 号(平成6年3月31日登録)
第5類
「薬剤、医療用油紙、衛生マスク、オブラート、ガーゼ、カプセル、眼帯、耳帯・・・」など

【結論】請求認容、審決取消


本件は、小林製薬株式会社が提起した不使用取消し審判について
「請求不成立」とした審決の取消しが争われたものだが、
審決においては、

「日本の消費者の注文に対して、個人輸入の範囲に限り応じていたものであり・・・」

と認定されたため、
実質的な争点は、
日本の消費者が商品を個人輸入することが
商標法2条3項の「使用」にあたるか、という点に集約されている*4


裁判所は、以下のように述べて、原告の主張を認容した。

「商標法50条2項本文は、商標の不使用による登録取消しの審判請求があった場合、被請求人は、日本国内における登録商標の使用を証明しなければならないことを規定しているところ、商標法2条3項にいう「譲渡」が日本国内において行われたというためには、譲渡行為が日本国内で行われる必要があるというべきであって、日本国外に所在する者が日本国外に所在する商品について日本国内に所在する者との間で譲渡契約を締結し、当該商品を日本国外から日本国内に発送したとしても、それは日本国内に所在する者による「輸入」に該当しても、日本国外に所在する者による日本国内における譲渡に該当するものとはいえない。」(PDF10頁)

外国市場での商標の使用については
我が国の商標法の関知するところではないこと、
そして、「業として」生産、証明、譲渡するものが使用するものでない限り、
「商標の使用」には該当しないこと(2条1項1号)、
の2点から、上記判示の妥当性は肯定されるように思われる*5


もっとも個人輸入品の水際での取り締まりが強化されようとしている現在*6
外国の業者が“不当な差し止め”を受けないように、
日本国内で防護的な商標出願を行うニーズが今後出てくることも予想されるし、
インターネットを通じた個人輸入のように、
どの国で譲渡契約が締結されているのか、
という判断を明確に付けにくい場合も考えられるから、
上記の結論が常に正しい、とは言い切れない場合もあるだろう。


ちなみに、「結論と関係なく説示された部分」ではあるが、
本件に関しては、

厚生労働省の許可が下りていないため、『白花油/WHITE FLOWER』印の『薬用油』の日本での正式な販売が未だできないこと」

が、50条2項但書にいう
登録商標の使用をしていないことについて(の)正当な理由」にあたる、
という判断も審決において示されていた。


しかし、「医薬品輸入承認申請書」が提出されたのが
本件商標の設定登録から約9年6か月経過後、であることを鑑みると、
「正当な理由」を主張するにはやや苦しい状況であったことは否めず、
本判決においても、(傍論ながら)「正当な理由」の存在が否定されている。

CITIZEN」事件(不使用取消審決取消請求事件)

知財高判平成18年5月30日(H17(行ケ)第10826号・篠原勝美裁判長)

【対象商標】
CITIZEN」(個人X)
第497847号の1(昭和32年3月8日登録)
旧第36類
「被服、手巾、釦紐及び装身用『ピン』の類、但し、帯止、釦紐及び装身用ピンを除く」

【結論】請求棄却、審決維持


不使用取消審判を提起したのは
もちろんシチズン時計株式会社。


原審決では、請求人(本件被告)の目論みどおり『被服』の区分について
登録が取り消されたのであるが、
原告は、自ら使用許諾を行った“熊野莫大小株式会社”を介して
本件商標を使用していた、と主張して取消訴訟を提起したものである。


本件においては、原告側が試みた商標使用事実の証明が、
悉く「使用したことを認めるに足りない」と退けられており、
この時点でジ・エンド、となっているのだが*7
裁判所は傍論として、以下のように述べている。

「本件においては、本件ダンボール箱を使用した事実の証明が成功したと仮定しても、そもそも熊野莫大小による本件ダンボール箱の使用が同法2条3項1、2号による商標の「使用」に当たらない疑念があるので、事案にかんがみ、念のため検討しておく。」
「本件ダンボール箱は、被服商品の製造会社が発注者に注文品を納品するためだけに使用されており、そのダンボール箱には、中身が何であるかを示す表示が存在せず、収納されている商品自体にはネームを付すことが禁じられ、これを入れる蓋付小ケースも無地の箱であるというのであって、このような事情の下では、本件ダンボール箱に「CITIZEN」の標章があっても、収納されている商品との結びつきが著しく希薄であり、収納されている商品について商標として付されたと解するのは困難である。」

そして、裁判所は、ダンボール箱に「CITIZEN」商標を付すことが、
2条3項1号、2号に該当しないとしたのである。


なお、ダンボール箱に付した標章と「商標としての使用」の関係については、
「巨峰事件」*8が有名だが、
同事件では、ダンボールに付された標章が
“包装用容器の出所”を表すものかどうかが問題になったのに対し、
本件では、ダンボールに付された標章が、
“収納されている商品の出所”を表すものとして使われていたかどうか、
が問題にされている点で、状況は大きく異なる。


また、原告は「ハイ・ミー」事件*9を引用して、
ダンボール箱に本件商標を付して商取引を行っている以上、
本件商標をその指定商品について使用しているというべき、
という主張を行っているのだが、
裁判所は、

「上記最高裁決定は、指定商品の包装に登録商標を付したものを販売する目的で所持する場合に、商標法37条2号、78条の罪が問われた刑事事件の上告審であり・・・・(略)・・・・、本件においては、商標法2条3項にいう商標の「使用」に当たるかが問題となるものであるから、上記判例とは事案を異にするものである。」

として、原告の主張を退けている。


37条(侵害とみなす行為)該当性判断と、
2条3項該当性判断との間に「事案を異にする」といえるまでの違いがあるか、
については若干の疑問が残るが、
事実関係そのものについては、確かに上記最高裁決定の事案と
本件とでは大いに様相を異にするから、
結論としては支持しうるように思われる*10


「正当な理由」の存在に関する主張も含め、
全面的に主張が退けられてしまった本件原告。


これがシチズン時計に対する“侵害警告”の帰結なのだとしたら、
少々悪戯が過ぎた、というべきではなかろうか。

*1:田村善之『商標法概説〔第2版〕』25頁以下(弘文堂、2000年)。

*2:もっとも、侵害訴訟において攻撃をしかけようとしている者が、相手の手持ち証拠を押さえるために、使用されているのを承知の上で、自己の商標に抵触しうる類似商標(本来、こういった商標は登録されないはずであるが、登録審査基準が必ずしも侵害成否の基準と一致していないために登録されることも実際ありうるのだ)の不使用取り消し審判を仕掛けることもあるようである。

*3:元々取り消されてもいいや、と思って広めに権利を押さえておくこともあるから、一概には言えないが・・・。

*4:具体的には、2条3項2号の「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」に該当するか、が争われている。

*5:以上、田村・前掲144-145頁。

*6:『知的財産推進計画2006』61頁。同計画については機会があれば追って言及したい。

*7:「熊野莫大小」という会社自体が原告と密接に関連する会社のようで、それゆえ多くの“証拠”(納品書等)について“でっち上げ”の疑惑が働いたように思われる。

*8:福岡地飯塚支判昭和46年9月17日

*9:最三小決昭和46年7月20日

*10:「ハイ・ミー」事件は、ダンボールに付された商標が収納されている商品の内容を表示するものであることが明確であった(ただし、包装した業者が商標権者=商品の製造業者とは全く無関係の者であった)ものだったのに対し、本件ではそもそも包装されている内容とダンボールに付された商標との結びつきに疑義が投げかけられているのだから、上記最高裁決定を本件で引用してもあまり意味はないといえる。