とりあえず記録だけ。
ジュリスト1312号(2006.6.1)
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『探究・労働法の現代的課題』第9回。「採用拒否と不当労働行為」*1。
「不当労働行為制度と採用の自由との調整」がテーマとなる論点。
村中教授は、不当労働行為成立肯定説に親和的な見解を説かれるが、
「仮にこの違反があったとしても、侵害されるのは団結権であり、例えば賃金相当額が得べかりし利益として認められるわけではない。解雇が不当労働行為と認定された場合に契約関係が強制されるのとは根本的に異なるのである。」(村中孝史「労働法学の立場から」88頁。)
として、不当労働行為が成立するとしても、
労働委員会が採用命令を出すことについては
謙抑的な立場をとられるようであるから、
上記のような見解をとることで実際の紛争解決にどこまで資するのか、
という点については疑問が残る。
そもそも、組合加入の有無が採用に影響する場合、というのは
極めて特殊な事案*2に限られるのであって、
この争点を論じること自体、どこまで意味があることなのか疑わしい、
と個人的には思っている*3。
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その他、資料価値のあるものとして、
松本芳希「裁判員裁判と保釈の運用について」(128頁以下)*4。
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判例評釈としては、
最二小判平成15年12月9日(詐欺被告事件)の調査官解説*5、
『商事判例研究』の東京地判平成16年5月13日(株主総会決議取消請求事件)*6
などが興味深い。
NBL834号(2006.6.1)
野川教授が、「裁判所ではまったく通用しない」と断言する
「労働者が企業に就職する折の通常のイメージ」*8を
今の新入社員が昔と同じように思っているかは、
疑問なしとはしないのであるが、
「雇用に関する法的原則と現場でのイメージとのこのような乖離を埋めるべく」
「労働契約法」を検討する必要性を端的に示されている点で、
筆者としても非常に共感できるコメントであった。
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今号には、重要判決に対する評釈が目白押しである。
団体定期保険に関する最三小判平成18年4月11日に対しては、
東大の山下友信教授が*9、
問題の不当性を除去する手段として用いられてきた
「黙示の合意」という手法が最高裁の形式論によって無視されたことに対して、
不満を表明されているし*10、
不動産登記をめぐる表見法理の適用が問題になった
最一小判平成18年2月23日に対しては、
京大の佐久間毅教授が、判決中の「あえて放置」という表現に対し
厳しい指摘をしている。
他にも国立景観訴訟(最一小判平成18年3月30日)に対する
大塚直教授のコメント*11や、
キャバクラ嬢髪型訴訟(東京地判平成17年11月16日))に対する
“個人的な感想”まで*12、
なかなか読み応えのある号であった。
Lexis判例速報No.8(2006.6)
最高裁判決としては、
背信的悪意者の認定に関する最三小判平成18年1月17日、
貸金業法43条1項をめぐる最一小判平成18年1月19日、
買戻売買を譲渡担保契約と認定した最三小判平成18年2月7日、
落雷事故の予見義務違反が問われた最二小判平成18年3月13日、
レセプトの訂正請求の是非に関する最二小判平成18年3月10日、
国民健康保険料と憲法84条が問題になった最大判平成18年3月1日、
などが全文掲載。
知財関連では、
審決取消訴訟として、知財高判平成18年1月26日*13、
著作権等事件として、知財高判平成18年3月15日*14が
取り上げられているほか、
日立の光ディスク職務発明に関する高裁判決*15へのコメントが
掲載されているのが懐かしい。
そろそろ最高裁判決が出ても良い頃だろうが・・・。
*1:村中孝史=富田美栄子=福田護「採用拒否と不当労働行為」82頁以下。
*2:例えば、組合を嫌悪して別法人に営業譲渡するような場合など。
*3:検討の素材として上げられるJR採用差別事件自体、極めて特殊な事案であることに注意が必要だと思われる。
*4:勾留、保釈の現実の運用やその他の処遇状況について、いくつかのデータが示されている。
*5:多和田隆史「時の判例」156頁。いまさらという感もあるが・・・。
*6:得津晶「既知事項質問に対する取締役の説明義務と議長の議事運営−東京スタイル決議取消訴訟事件」164頁。村上ファンド側が質問を求めていたにもかかわらず、質問を一切受けることなく採決に入り議案を承認可決したことについて、説明義務違反の有無が問題になった事例(判旨疑問)。
*7:野川忍「雇用社会の新ルール−労働契約法」1頁。
*8:「会社には人事権があるので従業員はそれに従わなければならず、また就業規則という『決まり』を守らなければならない」といったもの(同・1頁)。
*9:山下友信「団体定期保険と保険金の帰趨」12頁以下。
*10:前掲16頁。
*12:加藤ひとみ「希望と異なる髪型にされたキャバクラ嬢による美容室への損害賠償請求が肯定された事例」47頁。
*13:ドイツ法人の子会社として設立された原告が、親会社の商標の出願・登録を行ったことが商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当する、とされた事例(「Kranzle」商標事件、南かおり弁護士)。