脱力した瞬間(その2)

新潟鉄工事件といえば、
資料やコンピュータプログラムの持ち出しについて、
業務上横領罪の成否が問題になったもので、
営業秘密の刑事的保護を考える上で、極めて有名な事件である。


また、職務著作の成否をめぐる争点について、
東大の中山信弘教授が証人に立たれたことでも知られている。


だが、調べものがあって、
そんな有名な事件の第一審判決*1を読んでいたら、
思わず脱力しそうな判旨が・・・。

「そこで検討するに、(証拠略)によれば、本件資料中には、CADシステムのハードウェアであるIGTに関し、被告人仲井等が開発した動画コントロール、文字と図形の映像信号の合成、拡大のコントロール等の発明に関する部分もあるところ、それらの発明についての特許を受ける権利は、就業規則の一部である職務発明取扱規則に基づいて、その都度、発明者である被告人仲井等から新潟鉄工に譲渡されたことが認められるのであるから、本件資料中の右発明に関する部分は著作物に該当せず、同被告人等に著作権が生じないことは明らかである。」(太線筆者)

コンピュータプログラムの場合、
職務発明と職務著作という異なる使用者・従業者間の調整規定が
併存しうる複雑さがあるのは確かだが、
だからといって、発明になり得る部分について
直ちに著作物性まで否定してしまうのは幾らなんでもおかしい。


昭和60年、という時代の認識や、
刑事部での判決だったことを考えると、
やむを得ないのかもしれないが、、
ちょっと脱力した瞬間であった・・・。


もちろん、高裁判決では
この点きちんとフォローされているのは言うまでもない*2

*1:東京地判昭和60年2月13日。

*2:東京高判昭和60年12月4日。

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