平成15年特許法改正については、
181条2項の運用をめぐっていろいろと議論があるのは、
本ブログでもかねてからお伝えしているとおりであるが、
これと平行して、“訂正の機会を奪われた”権利者側の取扱いも
近年審決取消訴訟の争点として問題になることが多い。
知財高判平成18年7月31日(中野哲弘裁判長)*1も
そんな訴訟の一つといえるだろう。
判決によると、本件は、
平成4年12月14日 出願(特願平4−353965号)
平成10年4月17日 登録(特許第2769592号)
平成14年10月21日 無効審判請求
平成16年1月26日 第1次審決(不成立)
平成16年3月1日 審決取消訴訟提起
平成16年12月21日 第1次判決(第1次審決取消し)
平成17年9月8日 本件審決(無効)
という経緯を辿っているのだが、
原告である権利者(富田製薬)は、
審決における第1次判決の拘束力や進歩性判断の誤りを指摘するとともに、
「訂正についての裁量権の逸脱濫用の違法」をも争点にして、
争っている。
原告の主張は概ね次のようなものである。
すなわち、
①平成15年改正前の特許法126条1項本文によれば、第1次判決後直ちに、訂正審判請求の機会が付与されるはずであった。
②しかし、平成15年改正法附則2条13項によると、本件は平成15年改正法による訂正審判請求の時期的制限に服することになるため、原告は改正法126条2項により、第1次判決による差戻審の審決に対する審決取消訴訟が提起されるまで、訂正審判請求の機会が付与されないという極めて不利な状況にあった。
③第1次審決は、請求不成立審決であったため、その審決取消訴訟の提起に伴って訂正審判請求をする必然性も必要性も原告にはなかった。
④しかして、第1次審決に対する審決取消訴訟が平成15年改正法の施行(平成16年1月1日)直後に係属したという原告にとって関与不能の事由により、原告は平成15年改正前の特許法に基づく訂正審判請求の機会を奪われたのであり、この不利益を回避するための訂正請求の機会を付与する職権発動(153条2項、134条の2第1項)は、第1次判決後の審理において特許庁がなすべき覊束裁量行為であったというべきである。
そして、特許庁が適切な職権発動をなさず、
原告に訂正の機会を与えなかったことは違法である、
と主張するのである。
無効審判が成立し、
その後の取消訴訟の過程で訂正審判請求が突如認められない、
とされた場合とは異なり、
本件では、第一次判決後の審決が出た後(本件訴訟の提起後)に
訂正審判請求を行う機会があるのだから、
本件審決で訂正が認められなかったとしても大した問題ではない、
というべきだろう。
裁判所も、
「原告は、第1次判決による差戻し後の審決に対して審決取消訴訟を提起するまで、訂正審判請求ができなくなるが、これは、すべての特許権者が平成15年法改正に伴い甘受しなければならないやむを得ない結果である。したがって、原告が主張するように、原告が平成15年改正により置かれた立場や第1次判決が本件発明3、4については審判官を拘束する認定判断を示していないことを前提としたとしても、第1次判決後の特許庁の審理において、訂正請求の機会を付与する職権発動(153条2項、134条の2第1項)をなすことが、審判官の覊束裁量行為であったとまでいうことはできず、上記職権発動について、審判官が裁量権を逸脱濫用した違法があるということはできない。」
として、原告の主張をあっさりと退けている*2。
だが、以前取り上げたアルゼの事件(知財高判平成18年4月17日)
(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060426/1146070532#tb)
と同様に、
「法改正に伴う訂正機会の喪失」は一つの争点になりうるものであり、
「訂正機会の付与」の権利者にとっての意義*3
を考える上では、興味深い事案といえるのではないだろうか*4。