とんだとばっちり。

以前どこかで書いたように、
筆者は他人と同じ時に休む、というのが大嫌いな人種である。


ゆえに、“祝日三連休化”という
「お前ら仕事休んでレジャーでも行け、ゴルァ」的な
国家的謀略に対しては、不愉快極まりない感情を抱いている*1


だが、今回取り上げる判決を見ると、
「祝日三連休化」による被害を受けているのは、
わが日本国に居住する者だけではないらしい。


東京地判平成18年8月4日(第40部・市川正巳裁判長)*2


この事件は、原告が行った国際特許出願の審査請求に対し、
特許庁長官が「期間経過後にされた不適法な請求である」という理由で
手続却下処分をし、行政不服審査法に基づく異議申立ても棄却したため、
原告が異議決定の取消し及び却下処分の無効確認を求めた、
という事案である。


個人的には、知財判例速報のコーナーで、
「裁決の取消しの訴え」だとか「裁決固有の違法」だとかいう単語を
お見かけするとは思わなかったのであるが(笑)、
いずれにせよ異色な事案であることは間違いない。


そもそも、通常であれば“ただのチョンボ”で片付けられるはずの
期間徒過に対して原告が粘着しているのは、
本件で問題になっている特許の審査請求期間の末日が
「平成15年10月10日」だったことによる。


本件特許の国際出願がなされた時点(平成8年10月10日)では、
祝日法が改正されていなかったから、
平成15年10月10日*3は「体育の日」であり、休日であった。
そしてカレンダーによると同年の10月11日は土曜日、
12日が日曜日であるために、
特許法3条2項により、審査請求期間の末日は、
10月13日になるはずだったのである*4


ところが、平成10年の祝日法改正法により、
「体育の日」が10月の第2月曜日に変更され、
平成12年より施行されたことで、原告の運命は暗転する。


祝日法改正後のカレンダーでは、
10月10日は通常の平日金曜日、
ゆえに同日までに審査請求を行わない限り、
期限徒過として請求は却下されることになってしまう。


本件において原告の担当者が日本国内の特許管理人に対し
ファクシミリで出願審査請求を要請したのは、
現地時間10月10日の午前11時40分ごろ、
到達したのは日本時間同日午後6時40分ごろ、である。


通常であれば、審査請求の可否の確認は
代理人サイドからもっと早い段階で行うべきはずのもので、
時差も考慮せず、
こんなタイミングになるまで確認がなされていなかった点については、
何らかの行き違いがあったのではないか、
という疑惑も否定し得ないのであるが*5
それでも出願時のカレンダーどおりであれば、
間に合っていたはずだ、ということで、これが争点になった。


まぁ、よくよく考えるまでもなく、
厳格な特許に関する手続きの世界で、こんな理屈が通るはずはない。


原告側は、

①平成11年特許法改正法附則2条4項の「従前の例による」との規定は、期間の計算方法も含めて一切が従来どおりとするものと解すべきである。
②審査請求期間を徒過したと解すると、再出願が不可能となり、原告にとって極めて苛酷な結果となる。

などと主張したが、
裁判所はそれぞれ

①同附則2条4項の文言からも趣旨からも、そのように解することは到底できない。
②原告主張の結果は、特許法に規定された期間を遵守しなかったことにより当然発生する結果にすぎず、上記解釈を何ら左右するものではない。

とあっさり切り捨てた。


また、原告は「適正手続違反等による違法性」として、
「行政手続法1条の趣旨違反」や、「国際協調の観点からの違法」も
主張しているが、

「①特許法3条2項の適用上、末日が休日であるか否かはその時点の法律によって判断されるものと解されること(上記(1)イ)、②平成10年祝日法改正法は、平成10年10月21日に公布され、平成12年1月1日から施行されたものであって(前提事実(3)イ)、施行までに十分な準備期間があり、本件出願審査請求期間の末日までには更に3年近くあったこと、③原告主張の個別の通知等を義務付ける法令の根拠はないことに照らすと、原告主張の措置を執らなかったことが行政手続法1条の趣旨に違反するものとは到底認められない。」

「国際特許出願であっても、出願後の手続が我が国の法令に従って行われる以上、出願人自らが我が国の法令に精通するか、適切な特許管理人に委任するなどの方法で対応すべきで(ママ)ことは当然であるし、原告主張の通知等をすることを義務づける法令はもちろん、条理上そのような通知等すべきことを基礎付ける事情も認められないから、原告の上記主張は採用できない。」

と散々な結果に終わっている。
ここは、ご愁傷さまというほかない*6


だが、筆者は今でも「10月10日」と聞けば「体育の日」を連想する。
それゆえ、本件原告に対しても同情を禁じえない。


このような悲劇を二度と招かないためにも、
やはり祝日三連休化を推し進める、現在の祝日法は、
直ちに葬り去られるべきではないのか!


以上、どこまで本気か良く分からない叫びの余韻を残しつつ、
本エントリーのまとめとしたい。


(追記)
最近、どうでも良い判決のコメントばかり書いている。
「まねきTV」だの「肖像権訴訟」だのの判決はもちろん、
雑誌論文なども含めてネタはたまっているのだが、
如何せん読みこなす気力も能力もない*7
自分のことながら、嘆かわしい限りである・・・。

*1:前後に仕事はたまるし、週の真ん中休み、という癒しはなくなる割にはメリットが乏しい。多くの教育機関で月曜日の授業が縮小を余儀なくされるなど弊害の大きいこの制度。直ちに廃止を検討すべきであろう(笑)。

*2:H17(行ウ)第609号・裁決取消訴訟請求事件

*3:当時の法律によれば審査請求期間は「出願の日から7年以内」とされていたのは説明するまでもあるまい。

*4:特許法3条2項は、手続についての期間の末日が行政機関の休日に当たるときは、その日の翌日をもってその期間の末日とする旨規定している。

*5:しかも午後6時40分という早い時間にもかかわらず、原告の特許管理人の事務所は、「勤務を終了して」いたことが認定されている。

*6:特に「適切な特許管理人に委任・・・」のくだりは、原告の代理人となっていた特許管理人サイドにとっては、屈辱的な中身というべきだろう。

*7:時期が時期だけに、時間がないと言えば嘘になりそうなのでやめておく。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html