「まねきTV」事件決定

遅まきながら、東京地判平成18年8月4日(高部眞規子裁判長)*1
「まねきTV事件」についての若干のコメント。


率直に言えば、この決定についてコメントをするのは荷が重い。
決定文に付された簡単な図面を見たくらいでは、
システムの全体像を理解できるはずもなく*2
詳しい人がいろいろ書いてくれているからもういいや・・・
っていうのが正直なところ。


本決定の事実認定に従ってこの事案を見ていくならば、
本件サービスにおける債務者の役割は、

「①ベースステーション等とアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステーションが稼動可能な状態に設定作業を施すこと、②ベースステーションを債務者の事務所に設置保管して、放送を受信できるようにすること」(35頁)

に留まる、ということであるし、
本件サービスでは、

「特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとは、全く無関係に稼動し、それぞれ独立している。」(34頁)
「特定の利用者が所有する一台のベースステーションからは、当該利用者の選択した放送のみが、当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず、この点に債務者の関与はない。」(34頁、36頁)

ということであって、
要は、利用者自身が、
「利用者各自が所有するベースステーション」で受信した放送波を
「自己の専用モニター又はパソコン」に送信する、
そして、債務者はそれが可能になるための環境を整える、
というだけの話のようである。


だとすれば、送受信の主体でもなく、
かといって、機器の提供者でもない債務者が、
著作隣接権侵害の責任を問われる所以はないといえるだろう。


放送局にしてみれば、
債務者(株式会社永野商店)の側が
自分達の放送を「再送信」することをウリにして、
不特定多数の人々に加入を募っている、というのは、
許しがたい行為だろうから、
“とっちめてやりたい!”と思ったのも無理はないところなのだが、
蓋を開けてみたら、“(債務者は)何もしてませんでした〜、残念っ!”
という結末に終わってしまった、というところだろうか*3


「高部判事の書いた決定だから知財高裁でひっくり返る」、
的な論調も一部では見られるが(苦笑)、
こと本件に関しては、
何とかして、本件サービスにおける債務者側の
実質的な送受信行為主体としての性格を認めさせるか*4
あるいは、「ロケーションフリーテレビ」自体が“侵害機器”である、
という主張を展開して、間接侵害者としての責任を認めさせるか*5
しない限り、結論が覆る可能性は乏しいように思われる。


それにしても、

ロケーションフリーテレビ自体は、本件サービスとは無関係に、外出先や海外等においてもテレビ放送の視聴を可能にする社会的に見ても有用な装置」(33頁)

とまで認定されて、
本決定で内心ほくそえんでいるのは、
ソニーの担当者ではないか、と思ったりもするのであるが・・・(笑)*6

*1:H18(ヨ)第22022号・著作隣接権仮処分命令申立事件。

*2:そもそも「ロケーションフリー」って何?ってレベルだから・・・orz

*3:民放はともかく、NHKに関しては受信料契約の問題があるからこの結論はおかしい、という論考も散見されるが、そういった問題は少なくとも著作隣接権侵害の成否を議論する上では何ら結論を左右しない、というべきだろう。

*4:そのためには本決定における事実認定を全面的にひっくり返す必要がある。

*5:もっとも、大口クライアントであり、かつ放送機材の納入においても密接な取引があるソニーを放送局が積極的に攻撃するとは思えないし、仮にそれをやったとしても、更に進んで債務者の間接侵害を成立させるためには、少なくとも債務者が機器の設置者・提供者にあたる、といった程度のことまでは認めさせる必要があるだろう。

*6:高部判事は、間接侵害の成否を検討するにあたって機器の性質をひとつの判断材料とされており(「侵害にのみ用いられる専用品」「侵害を惹起するのに不可欠な機器」「例外的に侵害を惹起する機器」を用いた場合につき、それぞれ論じているものとして、高部眞規子「著作権侵害の主体について」ジュリ1306号114頁以下(2006年)。本論文についてはhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060221/1140459900で触れた)、本件でもその延長線上での説示、ということなのであろうが、何も「社会的に見て有用」とまでいう必要があったのかどうか(債務者側の主張を引用したものとはいえ)、疑問の残るところではある。