契約は万能兵器か?

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会より、
「私的複製・共有関係及び各ワーキングチームにおける検討結果」の
報告書(案)が出されたようで、
パブリックコメントの意見募集も始まっている*1


この報告書は、4つのWGの報告をまとめたもの。


このうち、
①「私的使用目的の複製の見直しについて」に関しては、

「私的録音・録画に関する私的録音録画小委員会における検討の状況を見守り、その結論を踏まえ、必要に応じて、私的複製の在り方全般について検討を行うことが適当である」(報告書・6頁)

と、結論を出すのを避けているが、
その他のテーマについては一応の方向性が出されているといってよい。


第一線の研究者、実務家が議論して作成したものだけに、
理論的には妥当な線に収まっているように思われるし、
司法救済WGのように、資料価値の高い報告を出しているものもあって*2
いろいろと参考になるのだが、
気になったことを一つあげるとすれば、
「契約」の“効用”が
過度に強調されているように思えるところだろうか。


例えば「共有著作権に係る制度の整備について」の章で、
問題提起された共有著作権の行使について、
報告書では、

「共有に係る権利の取扱いについては、共有者間における契約で定めることができる場合が多い。今回、ヒアリングを行ったソフトウェアの共同開発等や製作委員会方式においても、権利関係についてあらかじめ契約で定める場合が多く、また、権利関係の明確化の観点からも個々のケースに応じて契約で処理することが望ましいと考えられる。」(報告書・11頁)

「以上の立法趣旨及び実務における取扱いにかんがみた場合、契約によって対応できないような問題が生じているとまでは言えず、また、任意規定である現行著作権法の規定が実務の妨げになるものではなく、課題が生じているとしても、それらは契約実務上の課題として位置づけられるものである。したがって、共有の扱いに関しては、民法の規定に基づく分割請求の活用も含め、現行法の枠組みや契約で対応することが適切であり、現時点において緊急に著作権法上の措置を行う必要性は生じていないと考えられる。」(報告書・12頁)

と述べられているし、
「契約・利用ワーキングチーム」の章では、
検討の対象としたソフトウェアや音楽配信、楽譜レンタルに関する契約
等について、

著作権法の権利制限規定に定められた行為であるという理由のみをもって、これらの行為を制限する契約は一切無効であると主張することはできず、いわゆる強行規定ではないと考えられる。これらをオーバーライドする契約については、契約自由の原則に基づき、原則としては有効であると考えられるものの、実際には、権利制限規定の趣旨やビジネス上の合理性、不正競争又は不当な競争制限を防止する観点等を総合的にみて個別に判断することが必要であると考えられる。」(報告書・14頁)

と、あくまで契約自由の原則を優先する結論が示されている*3


後者に関しては、
合意により締結された契約の効力を優先しよう、
という話だから、当事者の予測可能性という点からは、
上記のような結論の方が適している、というべきだし、
それでも、リバースエンジニアリングやデータベースについては
契約の有効性について厳しく判断する、という意見も
盛り込まれているから、
本報告書の結論にもさほど違和感は感じない*4


だが、前者についてはどうか。


確かに共有著作権に関する規定は任意規定だから、
契約をきちんと結んでおけば、不都合は回避できるのは間違いない。


しかし、ここで問題とされているものの中には、
そもそも契約を結ぶという誘引がない場合、
すなわち、著作物の創作である、という自覚がないまま
気が付いたら共有権者になっていた、
といったようなものも含むのではないか。


そして、そのような場合であっても、
「権利の行使に全員の合意が必要」という、
民法的視点からも、他の知的財産法の視点からも、
違和感のある規定を杓子定規にあてはめて良いものなのだろうか?


事実上、社内のすべての契約書に
著作権の専門家が目を通すことは不可能である以上、
「全部契約でやってよ」と言われても・・・以下略)、
というのが現実である。
それゆえ、実務の側としては、
なるべくコストのかからないデフォルト・ルールにしてほしい、
と主張するのは当然のことだと思うのであるが、
残念ながらその主張は認められていない。


そのあたり、いささか残念に思えてならないのであるが・・・。

*1:http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=185000220&OBJCD=&GROUP

*2:文化審議会著作権分科会法制問題小委員会・司法救済ワーキングチーム検討結果報告」(平成18年7月)。間接侵害に関するフランス法からのアプローチなどは、これまであまりお見かけしたことはなかった。

*3:個別の権利制限規定についても、「具体的な検討はしなかったものの・・・これらをオーバーライドするあらゆる契約が一切無効であるとまでは言えず、この意味で強行規定ではないと考えられる。」(同・14頁)として、一部については契約を有効とする余地を認めている(ただし、限定的であるとするが)。

*4:文化審議会著作権分科会法制問題小委員会契約・利用ワーキングチーム検討結果報告」(平成18年7月)も参照のこと。

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