著作権「死後70年」の罠。

以前取り上げたことのある著作権保護期間延長の話が、
ついに公式な形で世に出てきたようである。
(過去記事はhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060723/1153664227#tb

日本文芸家協会日本音楽著作権協会JASRAC)など著作権管理16団体による協議会が22日、音楽や絵画などの著作権保護期間を、現状の「著作者の死後50年」から欧米並みの「死後70年」に延長するよう求める声明を発表した」(日経新聞2006年9月23日付朝刊・第11面)

これに対する筆者の感想は、
以前にも述べたとおりで、

①保護期間が50年か70年か、という年数にこだわること自体には、たいした意味はない(権利制限規定の設定次第で、ユーザーにとっての使いやすさはいかようにも変わる)。
②ただし、「国際競争力強化」とか「知的財産立国の観点」から保護期間を延長する、というのであれば、その理由付けにそもそも疑念があり、妥当ではない(保護期間の延長によって保護されるのは我が国の著作物だけではない。)。

といったところである。


相変わらず、識者のコメントとして、

「国際条約上、日本の著作権法が死後50年しか保護しないと、海外でも日本の著作物は50年しか保護されず不利になる(政策研究大学院大学の岡本薫教授)」(同上)

といったものが紹介されているが、
著作者の死後50年経っても海外でもてはやされる日本の著作物と、
著作者の死後50年経っても国内でもてはやされる外国の著作物を比べると、
明らかに後者の方が物量ともに多いのであって、
それは、これからも変わることはないと思う*1


ゆえに、欧米からの圧力で国際摩擦に発展してやむなく、
というのであればともかく、
自ら積極的に保護期間延長への道を開くのは、
戦前の金解禁政策に匹敵する愚策というほかはないだろう*2


いずれにせよ、
そういった“国際競争”的観点を差し引いても
この保護期間延長構想に問題があることは否めない。


権利者の側としては、
とにもかくにも、自分達の著作物に対するコントロール権だけは
確保しておきたい、という心情があるのだろうし、
「強固な著作権がネット上の流通を阻害している」という
意見への反論として、記事の中で紹介されている
三田誠広氏(創作者団体協議会議長)のコメントもそれを物語る。

著作権が存続しても、権利者から許諾を得れば流通は可能。文芸分野では、作品の利用を一括で許諾できる文芸版JASRACのような仕組みを作りたい」(同上)

だが、そもそも、面倒な手続きを経て(しかも、お金を払って)
許諾を得るのが厄介だからこそ、流通が阻害されるのであって、
上のような意見は、実のところ何の解決策にもなっていない。


また、今後権利者サイドの肩に力が入れば入るほど、
流通どころか、その作品に触れることさえ憚られるような時代が
到来する恐れさえある*3


著作権法第1条を引くまでもなく、
「著作者等の権利の保護」の先にあるのは「文化の発展への寄与」であり、
人々が共有しうる「文化的所産」だからこそ、
「著作物」は保護を受けることができるのである。


だとすれば、そうでなくても
“墓場を越えて”「文化的所産」をコントロールする権利を与えられている
著作者を、さらに利するような試みを行うことについて、
権利者サイドはもっと謙抑的であるべきだと思うのであるが、
いかがなものだろうか・・・。


なお、上記記事の中では、まもなく保護期間が満了し、
パブリック・ドメインとなる作品(その著作者)が
いくつか取り上げられているが、
坂口安吾(2006年)や徳富蘇峰(2008年)、徳永直(2009年)
といった作家の作品に日常的に触れる機会のある人が、
今の世の中でどれほどいるというのか。
ましてや20年後ともなれば、もっと減っているだろう。


それならばいっそのこと、
現代版へのアレンジや、ダイジェスト版の作成、
といった二次的利用を自由に解禁して、
原作品の存在に人々が気付く機会を増やしたほうが、
亡くなった著作者自身の意思にも叶うのではないか。


今聞きたいのは、権利者団体の声ではなく、
正にその作品を世に残した権利者自身の声だ。
それが叶わぬのは承知の上で、
あえて、問いかけてみたい・・・。

*1:日本という国が古から受け継がれてきた文化・言語・精神風土を守り続けていく限り、日本の芸術作品が世界標準になることは考えにくい。

*2:その意味で、同じ記事の中で紹介されている「国益の観点から見ても欧米に足並みを揃える意味はない」という「著作権法の専門家」のコメントの方がより説得力がある。

*3:今だって、地元出身の作家や芸術家を町おこしに活用しようとする動きが、「著作権」によって阻まれるなんて事例は多数あるのだから。