第三の“刺客”

2日にわたり取り上げてきたエーザイ医薬品カプセル等をめぐる
不正競争行為差止等請求事件の控訴審
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061113/1163441505#tb
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061114/1163441724#tb


だが、重大な見落としがあったことを発見してしまった。
待望の(笑)第4部の判決が最近ひっそりと出されていたのである。


知財高判平成18年11月8日(第4部・塚原朋一裁判長)*1


不競法に関する論点の結論はほぼ見えているので、
ここでの関心は当然に「不法行為の成否」の一点だったのだが、
この点につき、第4部はいともあっさりと控訴人の主張を切り捨てた。

「被控訴人が、控訴人の主張に係るような不正な意図を有していることを認めるに足りる的確な証拠はなく、そもそも、医師及び薬剤師の処方、調剤に係る医薬品の選択、識別に当たって、カプセルやPTPシートの配色が果たす役割はかなり小さいことは上記のとおりであるから、被控訴人商品のカプセルやPTPシートの配色を控訴人商品のそれに類似させたところで、需要者である医師や薬剤師に誤認混同を生じせしめることが期待し得るとも認められない」(23頁)

本件の背後にある事情*2をかんがみれば、
結論として控訴人側を勝たせることは妥当でない、
という発想が出てくるのはある意味当然のこと。


これまでの“塚原コート”は、知財法が保護する範囲の周縁領域で
不法行為が成立しうる旨論旨を展開してきたゆえに
注目を集めていたのであるが、
それはあくまでも「行為は悪質だが知的財産諸法は冒していない」被告と
原告との利害調整を図るための解釈手法に過ぎないのであるから、
本件のように“特段原告を救済する必要が感じられない”訴訟の場面では、
あえて不法行為を成立させる必要もないということだろう。


前日までのエントリーで触れた第2部判決に比べると、
あっさりし過ぎている感もある論旨ではあるが、
事案の解決としては妥当だと思う。


なお、知財高裁で概ね結論は一致したかと思われた
「本件における患者が不競法上の「需要者」にあたるか」という論点だが、
本判決は以下のように述べてこれを否定している。

「患者が購入する具体的な医療用医薬品は、医師の処方によって(医師が、医薬品の一般名をもって処方した場合には、薬剤師の調剤によって)決定されるものであり、これらの処方や調剤は、ともに極めて専門的な知識、経験に基づき、かつ、業務上の責任を伴って行われる選択行為である。確かに、患者が医師や薬剤師に対し、特定の医療用医薬品を処方、調剤することを要望することもあり得るところではあるが、そのような要望が容れられるのは、上記のような医師や薬剤師の専門的知識、経験に基づく選択の範囲内であって、相当と認められた場合に限られ、もとより、患者の要望に従っ宝といって、処方、調剤をした医師や薬剤師の業務上の責任が解除されるわけではないから、たとえ、結果的に患者の要望のとおりとなったとしても、医療用医薬品の選択の主体が医師や薬剤師であることにいささかの変わりもない。いわゆる患者の自己決定権が尊重されるべきことは、そのとおりであるとしても、医療用医薬品の選択が、医療行為の一環をなすものである以上、それは、医師や薬剤師の判断と責任とにおいて行われるものであり、このことは、医療の新旧によって左右される性質のものではない。そうすると、患者の要望は医師や薬剤師の選択の参考と位置付けられるにすぎず、患者について、医療用医薬品の需要者という程度にまで、その選択に係る主体性を認めることはできない」(15-16頁)

他にも、「商品等表示」性を肯定するための要件として、

「需要者において、当該配色のカプセルが、特定の事業者の出所を表示するものとして周知となっている」(15頁)

ことを要求するなど*3
他の合議体の判決とは異なる論旨が展開されているところも
いくつか見受けられる。


結論としては、いずれにしても同じなのだから良いではないか、
という考え方も一つあるだろうが、
ほとんど同一の事実関係の下で、
これだけ多種多様な見解が示されるというケースも
知財の世界ではそんなに見かける話ではないので、
面白いというか、モヤモヤしてくる、というか・・・(笑)。


上訴審での判断統一が期待できるような事案ではないのは、
百も承知なのだが(苦笑)、すっきりした“答え”を
誰かが出してくれないものか(あくまで他力本願・・・)と
思ったりもする。

*1:平成18年(ネ)第10024号。

*2:特許切れにより独占利益を奪われるおそれのあった製薬メーカーが、後発医薬品メーカーをけん制するための手段として不競法というツールを使った、ということが推察される。

*3:他の合議体では「特別顕著性」要件に「周知性」要件が吸収される形になっていたというのは既述のとおりである。

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