最近の職務発明事例から(その2)

スペシャルメニューなので、どんどん進めよう(笑)。

東京地判平成18年5月29日(エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ)*1

本件は「カセット型タイプホイール印字装置」に関する発明を巡る
争いである。


原告は昭和24年3月、電気通信省職員となり、電電公社を経て、
昭和52年被告入社、平成11年退職。
被告会社は、NTTの保有技術の技術移転を目的として設立された会社で、
本件発明は、原告がリコーとのプリンタ共同開発プロジェクトに
派遣されていた際になされた、という点でやや特殊な事案といえる*2


また、認定事実による限り、原告に対する待遇は決して悪いとはいえず、
60歳でいったん退職した後に、
「多額の特許料収入を被告にもたらしたという原告の実績にかんがみ」
特別契約社員として再雇用され、69歳まで職を与えられている、
というのも一つのポイントだろうか。


ここでの第一の争点は、
相当対価請求権が時効消滅したか否か(②)、ということであるが、
この点につき裁判所は、

「本件のように、勤務規則等において、相当の対価につき、特許権の存続期間中、一定の期間ごとに特許発明の実施の実績に応じた額を使用者等から従業者等に支払う旨の定めがされている場合には、相当の対価のうち、各期間における特許発明の実施に対応する分については、それぞれ当該期間の特許発明の実施の実績に応じた額の支払時期が到来するまでその支払を求めることができないのであるから、各期間の特許発明の実施の実績に応じた額の支払時期が、相当の対価の支払を受ける権利のうち、当該期間における特許発明の実施に対応する分の消滅時効の起算点となると解するのが相当である」(48頁)

として、東芝事件等で既に用いられた規範を用いて充てはめを行っている*3


原告はオリンパス事件最高裁判決を引いて、
上記のような考え方はそれと抵触する旨の主張もしているが、
ここでは、オリンパス事件の事案が
「対価の支払は1回限りとされていた」ものに過ぎない、として、
原告の主張は退けられているし、
被告による実績補償金の支払が時効中断事由としての「承認」に
あたるとする原告の主張についても、

「被告が、実施補償金の支払をした際に、原告が、特許法35条3項に基づいて、本件各発明に係る特許を受ける権利の相当の対価の支払を求める権利を有すること、すなわち、被告規程による上記補償金額が同条4項の規定に従って定められる額に満たないことを知っていたとは認められないから、被告による実施補償金の支払は、民法147条3項所定の「承認」に当たるということはできない。」(53頁)

と退けている*4


続いて「相当の対価」の額の算定について(④)。


本件では、先述したように、
部外のメーカーとの共同プロジェクトにおいて発明がなされた*5
という特殊性ゆえに、発明者の貢献度が30%も認められており、
結果として認容額は1222万0428円、という高い金額となっている。


また、被告側は、
原告の発明が電電公社(被告自身ではない)が有していた技術を
活用したものであることを捉え、
被告と公社は実質的同一体であり、
公社が発明に与えた影響も貢献度等の算定に当たって考慮すべき、
と主張したが、

「公社は、事業への投資について旧公社法3条の4に基づく制限を受けており、被告の株式を全く有していなかったのであるから、被告が公社と実質的同一体であるということは到底できない」(57頁)

と退けられている。


被告によって原告に与えられていた好待遇*6
資本関係こそないとはいえ、
明に暗に公社が原告の業務に与えていた影響をかんがみると、
上記のような判断は形式的に過ぎるようにも思えるのだが、
果たしてどうだろうか?


筆者の目から見れば、本件は、
高裁まで持ち上がれば、減額されてもおかしくない事例であるように
思えるのであるが・・・。

*1:H16(ワ)第23041号、第29部・清水節裁判長。

*2:「技術協力契約」といいつつ、事実上メーカーの費用丸抱えで成果を自らのものにしてしまう、といった感のあるスキーム。あなおそろしや旧公社・・・。

*3:この点の指摘につき、寺田弁理士知財管理56巻10号所収論文も参照のこと。

*4:一般的な時効中断の認定に比して、このような“甘い”判断が妥当かどうかは疑問もあるところだろうが。

*5:発明にあたって被告の設備や人員が使用されていない。

*6:客観的にそう見えるだけで、本人はそうは思っていないから訴訟になったのだろうけど・・・。

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