最近の職務発明事例から(その4)

というわけで、
ラストは外国特許に関する権利承継対価請求を否定した事件。

東京地判平成18年9月8日*1

本件の原告は、
化合物のスクリーニングを担当していた生物系研究者であり、
測定等における貢献が
医薬成分に関する特許の発明への寄与として認められるか、
というのも面白い争点となっているのであるが、
ここでは、外国特許に関する論点のみを取り上げる(③)。


結論から言ってしまえば、
本判決は特許法35条適用否定説をとっており、
日立製作所事件の高裁判決以降、
適用肯定説が支配的になっていた状況に一石を投じた判決として、
本来注目されてしかるべきものであった。


1ヶ月後に日立製作所事件の最高裁判決が出さえしなければ・・・。


ただ、結論を違えているとはいえ、
本判決は「35条類推適用説」を採用した最高裁判決の
理論的基礎になっている、といっても過言ではないような
論旨になっている。


すなわち、本判決は、
特許権の移転や担保権設定等を定める33条、34条が、
日本の特許を受ける権利のみを対象とすることが明らか、
であることに着目し、
35条1項にいう「特許を受ける権利」及び「特許権」も、
「日本の特許を受ける権利及び日本の特許権のみを意味する」と解する。


そして、1項と3項、1項と4項の関係などを検討した上で、
外国特許に対して特許法35条3項の規律を及ぼした場合の
法解釈上の不都合性を説くのである。


そう、確かに、特許法35条の文言とにらめっこしながら
解釈を進める限り、このような解釈に行き着くことは否めないのであり、
これはこれで一本スジの通った解釈であることは間違いない。


先に取り上げた民事46部判決(三菱電機事件)が、
実質的妥当性を追及する見地から、法の趣旨に立ち返り
文言解釈を超えた論理を展開しているのに対し
こちらは“形式美”を追求した判決、とでも位置付けられようか。


結局、最高裁は、文言解釈上の整合性を重視しつつ、
具体的妥当性にも思いを馳せて、
結局「類推適用」という決着を導いたのであるが、
その是非について、
いまだ確固たる見解が示されていない現在においては、
最高裁判決の「原型」としての本判決の意義も、
まだ失われてはいないように思われるのである。


・・・・・・・・・・


以上、筆不精ゆえ、最後の方はかなり割愛したが、
職務発明判例回顧」シリーズはこれにてひと段落、
ということにしたい。

*1:H17(ワ)第14399号、第29部・清水節裁判長。

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