「ローマの休日」事件評釈

著作権の保護期間をめぐり、一大センセーション(笑)を引き起こした「ローマの休日」事件東京地裁決定。本ブログでは、当時、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060712/1152641137#tbなど一連のエントリーで論じていたのであるが、ここに来て、速報版の評釈もいろいろと出てきているようである。


筆者が確認した中で一番早かったのが、LEXIS判例速報9月号(No.11)の小倉秀夫弁護士によるコメント。


この雑誌の性質上、評釈者の方のオリジナルな見解はほんの少ししか覗くことができないのであるが、小倉弁護士は、

「新規立法や改正法の解釈を行うに当たって、とかく所管官庁が作成したコンメンタールに引き摺られがちな実務に警鐘を鳴らす意味でも実務上参考になる」(LEXIS判例速報No.11・128頁)

という短いコメントを残されている。


続いて本格的な評釈として出されたのが、NBL2006年11月1日号に掲載された学習院大学・横山久芳助教授の論説*1である。


横山助教授は、昭和28年作品に期間延長の効果を認めるか否か具体的な審議が一切行われていない本件においては、

文化庁の公式見解を前提とした実務が存在することを理由に、立法者意思も尾これに従うものであったと認定することは、解釈の恣意性を免れないように思われる」(36頁)

と述べているし、


文化庁の見解に反する解釈を行うことは法解釈の安定性を阻害する」という債権者の主張に対しては、

「裁判所が法案を作成した行政当局と異なる法律解釈を採用するという事態は当然生じ得るのであるから、裁判所が文化庁の見解に従った実務に反する解釈を採ること自体を不合理だということはできない。」
「そもそも著作権法は業法ではなく広く国民一般の権利義務にかかわる法律なのであるから、著作権に精通した実務家のレベルで文化庁の公式見解が知られていたとしても、一般国民の常識的な解釈から乖離した解釈を採用してよいということにはならないであろう」(以上、37頁)

と裁判所の決定を支持している。


そして、

著作権の保護期間に関する規律は、本来的に立法による画一的な処理が望ましい事項であり、かつ法技術的にもそれが可能なものである。・・・そうだとすれば、保護期間に関する準則については、裁判所は、立法者が明確な立法を行っていることを前提として、その文理解釈を行うというのが本則となるであろう。」(37頁)

という前提の下、

「本決定の説くところはきわめて単純明快であり、解釈論としてもごく穏当なものであることがわかる。本決定は、従前から実務を支配してきた不透明な解釈論を排斥し、本来の著作権法の解釈のあり方を明確に指し示したという点において重要な意義を有するものであろう。」(37頁)

と述べ、ほぼ全面的に本決定を支持する立場をとることを明らかにしているのである。


横山助教授ご自身は、著作権保護期間の安易な延長に対して以前から懐疑的な姿勢をとられており*2、本稿においても、「さいごに」の章で、本決定が「権利の保護と公正な利用とのバランス」の重要性を強調していることに触れ、

著作権の保護期間の準則が明確でありさえすればよいというものではない。著作権の保護期間の長さが適切なものであってはじめて、本決定のいう権利の保護と文化的所産の公正な利用とのバランスの実現が可能となるのである。」(38-39頁)
「デジタル化、ネットワーク化が進み、誰もが気軽に既存作品にアクセスし、それらを素材とした新たな表現活動を行うことができる環境が整った今日においては、長期間の権利保護を認めるよりも、一定期間を経過した作品は早期にパブリックドメイン化し、自由利用とすることが文化の発展に資するともいい得るのであって、著作権者の保護のみを強調した安易な期間延長は厳に慎むべきであろう。」(39頁)

と自説を展開されているほどだから、本決定に対して好意的な評価を下されることは何となく予想が付いたのであるが、それにしてもこの評価の高さは特筆すべきであろう・・・。


底意地の悪い筆者としては、ここまで全面的な支持のオンパレードが続くと、かえって落ち着かない気分になるので(苦笑)、できれば批判的見地からの評釈も見てみたい気もするのであるが、あの決定にしても、シェーンの判決にしても、法律論としてはごもっとも、というほかない内容だけに、法学者の評釈にその期待をかけるのは無謀かもしれない(笑)*3

*1:横山久芳「著作権の保護期間に関する考察−「ローマの休日東京地裁仮処分決定に接して」NBL844号32頁(2006年)

*2:2003年5月のジュリスト誌で米国のミッキーマウス延命訴訟(笑)を取り上げるなど、かなり早い時期から見解を示されていた。横山久芳「ミッキーマウス訴訟がもたらしたもの―著作権保護期間延長立法の合憲性―」ジュリスト1344号。

*3:文化庁の甲野課長などは、あちこちで裁判所の決定、判決への不満を漏らしておられるのだから、一度本格的に論陣を張られてはいかがか、と期待しているのであるが・・・。