プライバシー権と住基ネット

住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)が憲法が保障するプライバシー権の侵害にあたるかが争われた訴訟で、大阪高裁の竹中省吾裁判長は30日、「制度自体に欠陥があり、情報が目的外に利用される危険がある」などとして、違憲性を指摘、原告住民の請求を全面的に退けた一審・大阪地裁判決を変更、居住地の自治体に個人情報を削除するよう命じた」(2006年12月1日付夕刊・第1面)

この分野においては、
金沢地判平成17年5月30日が初の違憲判断を示したことで
注目されたが、その後合憲判断が相次いだこともあって*1
金沢の判決は一種浮いたものになっていたから、
ここで高裁段階にきて違憲判断が出されたというのは、
意外といわざるを得ない。


判決文そのものにあたっていないので何とも言えないが、
記事によれば、判決はシステム上の問題*2を指摘した上で、

①利用制限の要件を行政機関が自ら判断するため、実効性ある歯止めにならない
②本人が情報の利用状況などを確認できない
③中立的立場から運用を監視する外部機関がない

として、強い危惧を表している、ということである。


個人的には、「プライバシー」、
それも自己情報コントロール権なるものを
過度に重視する動きには辟易しているし、
住基ネットの導入によって飛躍的に向上する利便性、という観点は、
決して看過されるべきではないと思っているから*3
住基ネットそのものを違憲と唱える論者には
到底賛同できないのであるが*4
本判決を契機に、一時沈静化したかに見えたこの争点に関する議論が
再び盛り上がるのは間違いないところなので、
それはそれで面白いのではないかと思っている。

*1:名古屋地判平成17年5月31日、福岡地判平成17年10月14日など

*2:「データマッチング」や「名寄せ」を行うことで多くのプライバシー情報が本人が予期しないときに集積され、利用される危険があること。

*3:システムのセキュリティ上の問題からか、現在我々が受けることのできる“恩恵”はその一部にとどまっているのが残念なところであるが・・・。

*4:まぁ、確かに個人情報をお上に管理されたくない、という思想を持った方を無理やり管理するのもどうかと思うので、そういった方々の削除要請を受け入れるくらいの寛容さはあっても良いと思うし(本判決もあくまで「住民の離脱を認めないのは違憲」というスタンスで書かれているようである)、本人の思想を問わず、登録されていた情報が誤っていたときの訂正請求権や、情報が流出した時の補償請求権については充実させるべきだと思うが、プライバシーよりも利便性を重視したいという住民も多い中で、一律に住基ネット接続を拒み、住民に不便を強いるような一部自治体のやり方(杉並区や国立市など)には、やはり問題があると思う。

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