最高裁法廷意見の分析(第11回)〜変わるもの、変われないもの。

毎度お馴染み、選挙が一つ終わるたびに提訴され、大法廷での審理が繰り返される選挙無効請求事件。


小選挙区制が導入され、かつてに比べると一票の格差が縮減傾向にある衆議院はともかく、参議院に関しては一県最低2人の大原則ゆえ一向に格差が改善されないこともあって、年々裁判所の判断は厳しいものになっており、特に平成13年7月29日施行の参議院選挙における定数配分規定が問題になった最大判平成16年1月14日(H15(行ツ)第24号)*1では、多数意見9、反対意見6という僅差で辛うじて合憲判断が下される、という有様であった。


そんな中行われた平成16年7月11日施行の参議院選挙における定数配分規定の違憲性が争点となったのが、以下の判決である。

最大判平成18年10月4日(H17(行ツ)第247号・選挙無効請求事件)*2

選挙が行われた当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.13。平成13年7月当時の5.06よりもさらに較差が広がっていた。


しかしこれまで一度たりとも違憲判断がなされたことのない参議院選挙のこと、判決前の予想どおり、合憲判断は維持されている。


多数意見は、

「投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねており、投票価値の平等は、参議院の独自性など、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものとしていると解さなければならない。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって投票価値の平等が損なわれることになっても、憲法に違反するとはいえない。」(4頁)

とし、「憲法が二院制を採用した趣旨」等から、

公職選挙法が定めた参議院議員選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるということはできない」(5頁)

公職選挙法の定める参院選選挙制度そのものを是認する。


そして、その制度に基づく議員定数の配分については、

「社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって、その決定は、種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量に委ねられている。したがって、議員定数配分規定の制定又は改正の結果、上記のような選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせたこと、あるいは、その後の人口の変動が上記のような不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても、その許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。」(5-6頁)

とした上で、参議院が行った定数較差是正についての議論、そして、平成18年6月1日に公職選挙法の一部の改正がなされたこと等を評価し、

「本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものと断ずることはできず、したがって、本件選挙当時において、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない」(9頁)

としたのである。


このような多数意見に組した裁判官は10名。現に定数較差が拡大しており、公職選挙法改正後も依然として「4.84」という大きな較差が存在するにもかかわらず、反対意見を述べた裁判官は6名から5名に減少した。


そこで、以下では、前回の大法廷判決の法廷意見と対比しつつ、この2年9ヶ月の間に何が変わり、何が変わらなかったのか、分析してみることにしたい。

多数意見側の動き

平成16年判決で多数意見を構成したのが、裁判官出身の町田顕、上田豊三、島田仁郎、金谷利廣、北川弘治の5裁判官と、検察官出身の甲斐中辰夫、亀山継夫の2裁判官、さらに横尾和子(行政官出身)、藤田宙靖(研究者出身)の両裁判官という面々であった。


本判決では、町田顕、上田豊三、島田仁郎の3裁判官と、甲斐中辰夫、藤田宙靖の2裁判官が引き続き多数意見(合憲判断)を維持するとともに、平成16年判決後に合議体に加わった、堀籠幸男今井功の2裁判官(いずれも裁判官出身)、古田佑紀裁判官(検察官出身)、津野修裁判官(行政官出身)、那須弘平裁判官(弁護士出身)が多数意見に賛同しており、平成16年判決で全員反対に回った弁護士出身裁判官の一人が、多数意見側に“転向”したことによって、「1名増」という結果を導いている。


平成16年判決の場合、多数意見といいつつ、共通していたのは結論だけで、裁判官出身の5裁判官で構成される【補足意見1】*3と、その他の裁判官で構成される【補足意見2】*4とは同じ多数意見でも大いに様相を異にしていたから、実質的には「5対4対6」というほうが適切なほどの状況だったのだが、本判決では上記の多数意見の理が多数意見を構成する裁判官全てに一応ある程度共通していることもあって、「1名増」以上に合憲とする流れが強まった、と言ってよいように思う。


もちろん、多数意見に付く側の裁判官にしても、補足意見として展開している独自の説示を見ると、決して一枚岩の論理ではないことが容易に想像が付く。


例えば、藤田宙靖裁判官は、

「平成16年大法廷判決以後本件選挙までの間に、立法府が、定数配分をめぐる立法裁量に際し、諸考慮要素の中でも重きを与えられるべき投票価値の平等を十分に尊重した上で、それが損なわれる程度を可能な限り小さくするよう、問題の根本的解決を目指した作業の中でぎりぎりの判断をすべく、真摯な努力をしたものと認められるか否かであるといわなければならない」(11頁)

と「国会の裁量」をかなり限定的に解した上で、“渋々”「立法府による真摯な努力」を認めた印象だし、甲斐中辰夫裁判官は「平成16年度大法廷判決以降、本件選挙まで約6ヶ月の期間しかなかった」ことを根拠に、津野修裁判官、那須弘平裁判官は、「選挙区選挙だけではなく、比例代表選挙の部分をも取り込んで一体として検討した」ことを根拠に、結果を導いている。


だが、「同床異夢」現象のせいで、多数意見においてさえ統一した見解を打ち出せなかった前回の大法廷判決に照らすと、本判決は、定数配分規定の決定に際して、国会の裁量権を強調するのではなく、むしろ「定数較差是正の途上であった」という本件の特殊事情を強調することで、一応一本の多数意見にまとめ挙げた、という点において、意義深いものといえるだろう。


現在の選挙制度を維持する限り、どんなに「是正」を繰り返しても、5倍近い較差が一挙に縮まるとは考えにくいから、津野、那須裁判官のような大胆な“発想の転換”を行わない限り、「較差是正の途上」という論理はいつか破綻するような気もするのであるが、平成16年判決における「明日にでも違憲判決を!」というムードが少し和らいだことで、ホッと胸をなでおろした面々も少なからずいるのではないかと思う。

反対意見側の動き

一方、平成16年判決で反対意見を述べていたのは、弁護士出身の滝井繁男、梶谷玄、深澤武久、濱田邦夫の4裁判官に、泉徳治裁判官(裁判官出身)、福田博裁判官(行政官出身)という6名であったのだが、本判決においては、先述したとおり、濱田裁判官の後継にあたる那須弘平裁判官と、福田博裁判官の後継にあたる津野修裁判官が多数意見側に回ることになり、結果として反対意見を書いた裁判官の数を減らすことになった。


もっとも、前回辛うじて多数意見に組していた(【補足意見2】)横尾和子裁判官(行政官出身)が、今回反対意見に回り、弁護士出身の3裁判官(滝井繁男、才口千晴、中川了滋)、泉徳治裁判官と並んで、より存在感を発揮しているのが注目に値する。


横尾裁判官の反対意見は明確で、平成16年判決で示した、

憲法47条の規定を受けて参議院議員選挙法及びそれを受け継いだ公職選挙法が定める参議院選挙制度の仕組みである都道府県を単位とする選挙区の設定,各選挙区への偶数の定数配分,配当基数(各選挙区の人口を基準人口(総人口を選挙区選出議員の総定数で除したもの)で除したもの)が2未満の選挙区へも定数2を配分し配当基数が2以上の選挙区への定数配分は人口比例を考慮することは,憲法の定める二院制の趣旨及び参議院の性格並びに都道府県の意義に照らして立法府にゆだねられた立法裁量権の合理的行使として是認できるものと解する。」
「そうすると,人口のいかんを問わ
ずに定数2を配分された配当基数2未満の選挙区相互の間及びそれらの選挙区と配当基数2以上の選挙区との間については,議員1人当たりの人口に不均衡があっても違憲の問題は生じない。」
「私は,人口比例を考慮して定数配分がされた配当基数2以上の各選挙区間の議員1人当たりの人口の較差については,偶数配分とすることから生ずる制約を考慮すると,較差が1対2以上となれば直ちに違憲となるものではなく,1対3未満までは許容されると解する。」

という規範に照らして、

「配当基数が2以上の選挙区間の上記最大較差は、栃木県選挙区(略)と東京都選挙区(略)との間の1対3.01であることが計算上明らかであるから、本件定数配分規定は、憲法14条の規定に違反する」(28頁)

とするものである*5


前回の補足意見に対しては、配当基数2以上の選挙区間において、なぜに「3倍」までは許容されるのか、という批判もあったところだが、較差が開いた今、このように適切な当てはめで「違憲」の判断を導けるのであれば、また評価も変わってくるところだろう、と思う。


一方、滝井繁男裁判官の反対意見は、参議院選挙において、当初職能代表的要素を有していた「全国選出議員」の選出方法の合理性の相当部分が、「比例代表制を採用したこと」によって失われ、それに伴って、当初は人口比例の原則がある程度後退することを正当化していた地方選出議員の選出方法についても、合理性を再検討しなければならない、とするものである。


そして、滝井裁判官は、

「代表民主制の下における投票価値の平等の重要性に照らせば、平等は形式的に理解されるべきであって、そこに政策目的ないし理由をその内実を明らかにしないまま国会が正当に考慮することができるものとすることは、その裁量の幅を際限なく広げることになりかねないと危惧する」(32頁)

と多数意見の理を批判し、多数意見が好意的に評価する「定数較差是正の取り組み」にしても、そもそも現在の選出方法の合理性に対して何ら検討しないまま、最小限の作業が行われたものに過ぎない、として

「国会がどのような政策的目的ないし理由があって、その検討の結果として今日の異常ともいうべき投票価値の較差を正当化し得ると考えたのかについての議論の跡が、国民の前に提示されたとはいえない」(33-34頁)

とした上で、

「ある法規が合憲であるかどうかは、本来その内容によって決まるものであって、是正のために許される合理的期間の存否によって変わるものではない」(34頁)

という原則の下、違憲という判断を導く。


前回の反対意見のように「1対2」というルールを明確に述べてはいないものの、そもそも選挙方法自体が当初とは大きく変わっているにもかかわらず・・・といったくだりは、着眼点としては非常に興味深いものがあるといえるだろう。


このように、そもそも定数配分以前の選出方法の問題を指摘したものとしては、他に

「不平等状態の大幅な改善には今や従来の選挙制度の在り方自体の変更が必要とされるものと思われる」(44頁)

という中川了滋裁判官の反対意見や、

「定数配分の在り方に関して根本的解決を目指した真摯な努力を重ねる必要があった」(41頁)

とした、才口千晴裁判官の反対意見もある。


平成16年判決のように、「1対2以内という較差でなければならない」という規範が強く前面に打ち出される意見構成にはなっていないし、「直ちに選挙を無効にせよ!(前回は深澤武久裁判官がこのことを主張していた)」ものの、そもそも参議院選挙自体が一種の制度疲労を起こしている、ということを指摘している点において、反対意見の鋭さは変わらないように思う。


なお、いつもであればかなり過激な反対意見を書かれる泉徳治裁判官が、平成16年判決と同様に、「各選挙区の選挙すべき議員数の最小限を2人とし、人口に比例して残りの146人を選挙区に配分する」という方法を提案した上で、

「47の選挙区の全体、すなわち日本全体を視野に入れれば、当初の立法趣旨に従った定数配分を行うだけでも、上記に指摘したように、較差の程度は相当に改善されるのであるから、せめて、当初の立法趣旨に従った定数配分に改正すべきであり、この改正を怠っていることをもって合理的な裁量権の行使と評することはできない」(38頁)

と、あくまで「定数配分」の次元での是正を求める穏健な意見に留まっているのは、同裁判官の裁判官出身というバックグラウンドを鑑みると、これまた興味深いもの、というべきだろうか*6

*1:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/ED343800883230A649256EDE0026A796.pdf

*2:町田顕裁判長・http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061004190608.pdf

*3:都道府県単位の選挙区制が合理的なものであること、公選法改正により逆転現象が解消されていたことなどを重視して違憲とはいえない、と述べたものである。

*4:立法府が,憲法によって与えられたその裁量権限を法の趣旨に適って十分適正に行使して来たものとは評価し得ず,その結果,立法当初の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差からはあまりにもかけ離れた較差を生じている現行の定数配分は,合憲とはいえないのではないかとの疑いが強い、と述べ、「仮に次回選挙においてもなお,無為の裡に漫然と現在の状況が維持されたままであったとしたならば,立法府の義務に適った裁量権の行使がなされなかったものとして,違憲判断がなさるべき余地は,十分に存在するものといわなければならない」と述べたものである。

*5:平成16年判決の際は、未だ1対2.97であった。

*6:そもそも裁判官出身の最高裁裁判官が反対意見を書くこと自体に、歴史的に見れば大きな意義があるのも事実であるが・・・。