昨年末、松下電器によるビクター売却のニュースが新聞紙面を賑わせていたが、そのニュースを聞いて、どうしても読みたくなった一冊。
- 作者: 佐藤正明
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 1999/10/29
- メディア: 単行本
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本書は、家庭用ビデオの市場において、「VHS」による規格統一が果たされるまでの家電メーカー同士の激しい争いをナマナマしく描いたノンフィクションであり、特に、ビクターの元・VTR事業部長・高野鎭雄氏と同社の開発・営業部隊にスポットライトを当てた『プロジェクトX』的ストーリーに多くの紙幅が割かれている。
元々は、ちょうど自分が就職した直後に日経ビジネス誌に掲載されていた連載記事だったこともあって、当時毎回興味深く読んでいたのが思い出されるのだが、当時「VHSを世界規格に育てた」偉大な企業として紹介されていた同社が、あれから10年も経たないうちに、「デジタル化の波に乗り遅れた」斜陽企業としてリストラ対象になってしまうというのは*1、何と皮肉なことか・・・。
著者の佐藤正明氏は、本書のあとがきで、
「「映像メディアの世紀」と謳いながら、次世代ビデオにさほどスペースを割かなかったのは、オックスフォード流に言えば「まだVHSに代わる本命商品が現れず、結果が出ていない」ためだ。それ以前に、高野さんのように信念を持って規格を作り、それを世界市場に定着させようという情熱を持った魅力的な人がいなかったことも一因である。」(625頁)
と記されているが(1999年10月当時)、
事実、現在においてもDVDの規格統一は成し遂げられていないわけで、電機業界に限らず、このあたりにもバブル−失われた10年の間に、技術と人材を浪費したツケが廻ってきているような気がしないではない*2。
なお、本書はあくまでビクター、松下電器、ソニーといった企業間の経営戦略に焦点を当てて描かれたものであるが、技術開発や特許のクロスライセンス等の知財戦略なども所々で紹介されており、このあたりもなかなか興味深いものがある。